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第2章 魔術都市陰謀編
第81話 エバとの遭遇。
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「直接の依頼人と手配師はわかった。まず押さえるべきは依頼人の方だな」
ジェドーの身柄を押さえて尋問する。それがマルチェルの考えだった。
さらに手前のつながりを探って、アインスベル公国まで依頼元を遡れるか? 時間との戦いになりそうだった。
ネルソンとギルモア家が逆襲に動いていると感づけば、「トカゲの尻尾切り」が行われるであろう。
それより先に、可能な限り遡らなければならない。
口入屋への対応はいつでも良い。情報を吐かせる必要も無くなったので、手が空いた時に潰せばよい。
マルチェルはそう判断していた。
紅茶と焼き菓子のセットを楽しみながら、マルチェルはステファノに「お使い」を頼んだ。
「この手紙を先程見張りに使った本屋に届けてくれ」
店は「鴉の巣」だ。手紙を届ければギルモア家の密偵につなぎをつけられる。
マルチェルはジェドーに関する情報集めを頼もうとしていた。
「もちろん本人には歌ってもらうが、周りからの情報というのも馬鹿にできんのでな」
脅迫や拷問などの問題点は、尋問されている対象者が「思い出さなければしゃべれない」ことだと言う。
「あまり脅かし過ぎると、何も考えられなくなってしまう」
「鴉」には尋問の専門家がいて、会話だけで相手から情報を引き出す技術を持っていた。特別に弁舌が巧みなわけでも、こわもてな訳ではない。ごく普通に世間話をしているだけで、相手が本音を話してしまうのだ。
「あれは人柄なんだろう。俺には真似できん。ジェドーがどんな動きをしていたか、金回りはどうか、最近のお得意さんは誰か。人を使って、裏を取るつもりだ」
「わかりました。手紙を届けた後はどうしましょう?」
「お前はそのまま店に帰れ。俺は屋敷の方に戻ってアランたちと打ち合わせる」
今夜どちらか1人を連れて、ジェドーの屋敷に忍び込むつもりらしい。1人は念のため王子警護に残さなければならない。
死んだことになっている王子が襲われることは無かろうが、万一の用心を欠かすわけにはいかない。
「店に戻ったら、ダニエルの指示に従いなさい。ご苦労でした」
最後は「番頭の顔」に戻って、マルチェルはステファノを送り出した。
◆◆◆
「これを預かりました」
本屋に戻ると、ステファノは無口な主人にマルチェルからの結び文を手渡した。
主人は文を解いて内容を読むと、細かく引き裂いて小鉢のような器に入れ、火種の魔術で燃やした。
「じゃあ、これで失礼します」
そう言うと、ステファノは外していたスカーフを畳んで仕舞い、戸口に向かった。これで今日の仕事はおしまいだ。
ドアを開けて通りに出ると、人混みを通して口入屋の門口に視線が通った。ちょうど女が1人出て来るところだった。
(あれは……!)
ドアの隙間から姿を現したのは、王子暗殺を企てたエバだった。
彼女は軽く左右に目を配った後、人通りの流れに乗った。
ネルソン商会とは反対の方角に向かっているようだった。一瞬迷ったが、ステファノはエバの後を追うことにした。
(ねぐらがわかっていれば、後々便利だろう)
そう考えたのだ。
エバは後ろを気にする様子もなく、すたすたと歩いていく。これなら素人の自分でも後をつけられそうだ。
それでも目立たぬよう、ステファノは人の流れに沿って歩くよう気をつけた。幸い、自分は背が大きくない。普通に歩いている分にはそうそう目につくことは無いだろう。
十分に用心しているつもりのステファノだったが、自分の後ろには注意が及ばなかった。エバが角を曲がった路地に続いて入ろうと近づいた時、後ろから来た男が肩に手を回してきた。
「騒ぐなよ。騒げば腹を刺す」
男はベルトに挿したナイフをステファノに見せた。
「は、はい」
ステファノは頷くよりほかはなかった。
男は楽し気な笑みを顔に浮かべながら、ステファノを押してエバが入って行った路地とは反対の方向に連れていく。
「てめえ、ネルソン商会のガキだな?」
裏路地に入り込むと、男はステファノを突き放した。
――――――――――
今回はここまで。
読んでいただいてありがとうございます。
「ステファノたちの活躍をもっと読みたい」と思われた方は、ぜひ「お気に入り追加」「感想記入」をお願いいたします。
皆さんの声を励みに執筆しております。
思わぬ遭遇で追い詰められたステファノ。
何とか隙を見つけようとしますが――。
◆次回「第82話 ステファノ囚わる」
「な、何のことですか……? 金目のものはこれだけです」
ステファノはポケットを探って、財布を放り出した。
「動くんじゃねえ! 騒げば刺すぞ!」
じりじりと後ずさりするステファノに飛びつくように近寄ると、男はナイフを抜いてステファノに突きつけた。
……
ジェドーの身柄を押さえて尋問する。それがマルチェルの考えだった。
さらに手前のつながりを探って、アインスベル公国まで依頼元を遡れるか? 時間との戦いになりそうだった。
ネルソンとギルモア家が逆襲に動いていると感づけば、「トカゲの尻尾切り」が行われるであろう。
それより先に、可能な限り遡らなければならない。
口入屋への対応はいつでも良い。情報を吐かせる必要も無くなったので、手が空いた時に潰せばよい。
マルチェルはそう判断していた。
紅茶と焼き菓子のセットを楽しみながら、マルチェルはステファノに「お使い」を頼んだ。
「この手紙を先程見張りに使った本屋に届けてくれ」
店は「鴉の巣」だ。手紙を届ければギルモア家の密偵につなぎをつけられる。
マルチェルはジェドーに関する情報集めを頼もうとしていた。
「もちろん本人には歌ってもらうが、周りからの情報というのも馬鹿にできんのでな」
脅迫や拷問などの問題点は、尋問されている対象者が「思い出さなければしゃべれない」ことだと言う。
「あまり脅かし過ぎると、何も考えられなくなってしまう」
「鴉」には尋問の専門家がいて、会話だけで相手から情報を引き出す技術を持っていた。特別に弁舌が巧みなわけでも、こわもてな訳ではない。ごく普通に世間話をしているだけで、相手が本音を話してしまうのだ。
「あれは人柄なんだろう。俺には真似できん。ジェドーがどんな動きをしていたか、金回りはどうか、最近のお得意さんは誰か。人を使って、裏を取るつもりだ」
「わかりました。手紙を届けた後はどうしましょう?」
「お前はそのまま店に帰れ。俺は屋敷の方に戻ってアランたちと打ち合わせる」
今夜どちらか1人を連れて、ジェドーの屋敷に忍び込むつもりらしい。1人は念のため王子警護に残さなければならない。
死んだことになっている王子が襲われることは無かろうが、万一の用心を欠かすわけにはいかない。
「店に戻ったら、ダニエルの指示に従いなさい。ご苦労でした」
最後は「番頭の顔」に戻って、マルチェルはステファノを送り出した。
◆◆◆
「これを預かりました」
本屋に戻ると、ステファノは無口な主人にマルチェルからの結び文を手渡した。
主人は文を解いて内容を読むと、細かく引き裂いて小鉢のような器に入れ、火種の魔術で燃やした。
「じゃあ、これで失礼します」
そう言うと、ステファノは外していたスカーフを畳んで仕舞い、戸口に向かった。これで今日の仕事はおしまいだ。
ドアを開けて通りに出ると、人混みを通して口入屋の門口に視線が通った。ちょうど女が1人出て来るところだった。
(あれは……!)
ドアの隙間から姿を現したのは、王子暗殺を企てたエバだった。
彼女は軽く左右に目を配った後、人通りの流れに乗った。
ネルソン商会とは反対の方角に向かっているようだった。一瞬迷ったが、ステファノはエバの後を追うことにした。
(ねぐらがわかっていれば、後々便利だろう)
そう考えたのだ。
エバは後ろを気にする様子もなく、すたすたと歩いていく。これなら素人の自分でも後をつけられそうだ。
それでも目立たぬよう、ステファノは人の流れに沿って歩くよう気をつけた。幸い、自分は背が大きくない。普通に歩いている分にはそうそう目につくことは無いだろう。
十分に用心しているつもりのステファノだったが、自分の後ろには注意が及ばなかった。エバが角を曲がった路地に続いて入ろうと近づいた時、後ろから来た男が肩に手を回してきた。
「騒ぐなよ。騒げば腹を刺す」
男はベルトに挿したナイフをステファノに見せた。
「は、はい」
ステファノは頷くよりほかはなかった。
男は楽し気な笑みを顔に浮かべながら、ステファノを押してエバが入って行った路地とは反対の方向に連れていく。
「てめえ、ネルソン商会のガキだな?」
裏路地に入り込むと、男はステファノを突き放した。
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今回はここまで。
読んでいただいてありがとうございます。
「ステファノたちの活躍をもっと読みたい」と思われた方は、ぜひ「お気に入り追加」「感想記入」をお願いいたします。
皆さんの声を励みに執筆しております。
思わぬ遭遇で追い詰められたステファノ。
何とか隙を見つけようとしますが――。
◆次回「第82話 ステファノ囚わる」
「な、何のことですか……? 金目のものはこれだけです」
ステファノはポケットを探って、財布を放り出した。
「動くんじゃねえ! 騒げば刺すぞ!」
じりじりと後ずさりするステファノに飛びつくように近寄ると、男はナイフを抜いてステファノに突きつけた。
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