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第2章 魔術都市陰謀編
第59話 百戦百勝は善の善なる者に非ず。
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「マルチェルさんが護衛騎士。二つ名持ちとは……」
「驚いたか? 親父に聞いた話では、『鉄壁のマルチェル』と言えば知る人ぞ知る使い手であったらしい」
王家に音無しの剣あり、ギルモアに鉄壁の盾ありと、ヨハン国王の守護ジョバンニ卿と並び称される程の腕前だったらしい。
さすがにアラン達は時代が異なるため、マルチェルの戦う姿を見たことは無い。
「俺達も剣の道を志す身。一度はお手合わせを願いたいものだ」
「うーん……」
ステファノは腕組みをして唸った。
「どうした?」
「どうにもマルチェルさんが全身鎧で盾と剣を構えている絵面が思い浮かばないんです」
「ははは。そんなことか。案外今日は全身鎧姿で現れるかもしれんぞ」
「鉄壁として来い」とソフィアに指示されたのだ。それなりの支度をして来るのではなかろうか。
「剣士にしては……いえ、何でもありません」
それからアランによる剣術談議が始まり、エリスもステファノも暫し事件のことを忘れて寛ぐことができた。
アランは頼りなく見えることもあったが、周りの雰囲気を明るくするという長所があった。
そうこうしている内に、ジョナサンがネルソンとマルチェルの到着を告げに来た。
雑談はこれまでと、護衛騎士2人とエリスはソファを空けた。騎士たちはソフィアと入れ替わりに王子の護衛に戻る。エリスは勿論ソフィアの陰に控える役目だ。
全員揃っての打ち合わせができないが、非常時のことであり、やむを得ない仕儀だった。
「何度も足を運ばせて済みません。急ぎ知恵を借りたいのです」
ネルソンが席に着くや否や、ソフィアは真剣な目で相談を始めた。
ステファノはまたもや暗殺の手口とその動機について説明することになったが、大事なことなので否も応もない。
ネルソンは腕を組み、途中から瞑目してステファノの言葉を聞いていた。
「そうか。腑に落ちた。よくぞ気づいてくれたな、ステファノ」
静かに目を開くと、ネルソンはステファノの労をねぎらった。からくりを暴いたことを言っているのか、それとも動機を言い当てたことか?
「犯人は月曜の朝、また食肉貯蔵庫を狙うだろうとステファノが」
「うむ」
ネルソンはソフィアに向き直った。
「私の意見が聞きたいのだな?」
「はい」
それは兄と妹の会話であった。ネルソンは束の間柔らかな笑みを浮かべたかと思うと、真顔に戻り腕を解いた。
「放っておきましょう」
「はい?」
「えっ?」
ソフィアと、その後ろに控えるエリスまでもが驚きの声を上げた。
「放っておくって……。何もしないのですか?」
信じられない面持ちで、ソフィアは兄に尋ねた。
「暗殺者は金で雇われた手先にすぎません。捕えた所で首謀者である敵には痛手にもならない。取り調べても、大本まで辿ることはできぬでしょう」
王族を殺そうという陰謀である。依頼ルートは幾重にも隠蔽されているに違いない。
「それよりもやるべきことがあります」
「犯人を捕まえることよりも重要なことですか?」
ソフィアは兄の顔を食い入るように見詰めた。
「ステファノ。お前ならわかるかね?」
ソフィアの気を逸らせるように、ネルソンはステファノに問い掛けた。
「ジュリアーノ殿下のご婚姻ですか?」
「何ですって?」
そういうこともあろうかとステファノは頭の一方で予想していた。ソフィアにとっては青天の霹靂であった。
「この状況で縁組を進めるですって?」
「ふふ。奇策には違いありませんが、それこそ敵が最も嫌がることではありませんか?」
ネルソンはテーブルの紅茶を取り上げると、ゆっくりと一口飲み込んだ。
「貴族の家に生まれていたならお前は一軍の将となれたかもしれんな、ステファノ」
「お兄様……」
「百戦百勝は善の善なる者に非ず」
ネルソンは商人の皮を脱ぎ捨て、戦う者の顔で太々しい笑みを浮かべていた。
「驚いたか? 親父に聞いた話では、『鉄壁のマルチェル』と言えば知る人ぞ知る使い手であったらしい」
王家に音無しの剣あり、ギルモアに鉄壁の盾ありと、ヨハン国王の守護ジョバンニ卿と並び称される程の腕前だったらしい。
さすがにアラン達は時代が異なるため、マルチェルの戦う姿を見たことは無い。
「俺達も剣の道を志す身。一度はお手合わせを願いたいものだ」
「うーん……」
ステファノは腕組みをして唸った。
「どうした?」
「どうにもマルチェルさんが全身鎧で盾と剣を構えている絵面が思い浮かばないんです」
「ははは。そんなことか。案外今日は全身鎧姿で現れるかもしれんぞ」
「鉄壁として来い」とソフィアに指示されたのだ。それなりの支度をして来るのではなかろうか。
「剣士にしては……いえ、何でもありません」
それからアランによる剣術談議が始まり、エリスもステファノも暫し事件のことを忘れて寛ぐことができた。
アランは頼りなく見えることもあったが、周りの雰囲気を明るくするという長所があった。
そうこうしている内に、ジョナサンがネルソンとマルチェルの到着を告げに来た。
雑談はこれまでと、護衛騎士2人とエリスはソファを空けた。騎士たちはソフィアと入れ替わりに王子の護衛に戻る。エリスは勿論ソフィアの陰に控える役目だ。
全員揃っての打ち合わせができないが、非常時のことであり、やむを得ない仕儀だった。
「何度も足を運ばせて済みません。急ぎ知恵を借りたいのです」
ネルソンが席に着くや否や、ソフィアは真剣な目で相談を始めた。
ステファノはまたもや暗殺の手口とその動機について説明することになったが、大事なことなので否も応もない。
ネルソンは腕を組み、途中から瞑目してステファノの言葉を聞いていた。
「そうか。腑に落ちた。よくぞ気づいてくれたな、ステファノ」
静かに目を開くと、ネルソンはステファノの労をねぎらった。からくりを暴いたことを言っているのか、それとも動機を言い当てたことか?
「犯人は月曜の朝、また食肉貯蔵庫を狙うだろうとステファノが」
「うむ」
ネルソンはソフィアに向き直った。
「私の意見が聞きたいのだな?」
「はい」
それは兄と妹の会話であった。ネルソンは束の間柔らかな笑みを浮かべたかと思うと、真顔に戻り腕を解いた。
「放っておきましょう」
「はい?」
「えっ?」
ソフィアと、その後ろに控えるエリスまでもが驚きの声を上げた。
「放っておくって……。何もしないのですか?」
信じられない面持ちで、ソフィアは兄に尋ねた。
「暗殺者は金で雇われた手先にすぎません。捕えた所で首謀者である敵には痛手にもならない。取り調べても、大本まで辿ることはできぬでしょう」
王族を殺そうという陰謀である。依頼ルートは幾重にも隠蔽されているに違いない。
「それよりもやるべきことがあります」
「犯人を捕まえることよりも重要なことですか?」
ソフィアは兄の顔を食い入るように見詰めた。
「ステファノ。お前ならわかるかね?」
ソフィアの気を逸らせるように、ネルソンはステファノに問い掛けた。
「ジュリアーノ殿下のご婚姻ですか?」
「何ですって?」
そういうこともあろうかとステファノは頭の一方で予想していた。ソフィアにとっては青天の霹靂であった。
「この状況で縁組を進めるですって?」
「ふふ。奇策には違いありませんが、それこそ敵が最も嫌がることではありませんか?」
ネルソンはテーブルの紅茶を取り上げると、ゆっくりと一口飲み込んだ。
「貴族の家に生まれていたならお前は一軍の将となれたかもしれんな、ステファノ」
「お兄様……」
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