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第2章 魔術都市陰謀編
第51話 春花の術。
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「自分も聞きかじりで詳しくは説明できませんが、およそ物には固相、液相、気相という3つの相があるそうです。相とは物の状態を言います」
「もう少しわかりやすく説明できませんか?」
ソフィアはステファノの言葉に真実を語る者の揺るぎなさを感じた。わからないなりにきちんと説明を聞こうと、姿勢を改めた。
「はい。水を例に取りましょう。水は同じものでありながら、氷、水、蒸気という3つの形を持っています。これが水の3相です」
「ああ。それを相と言うのですか? それが毒とどう関わりますか?」
「毒も3相を持ちます」
「水だけではないのですね。だとしたらどうなります?」
「固相、液相では難しいことが、気相であれば可能になるのです」
「毒を蒸気のようにする?」
ソフィアはステファノの目指す場所の一端を捉えたようだ。
「はい。気相であれば、毒を魔術で運ぶことが可能になります」
「そのような術があるのですか?」
「春花の術という暗殺術があるそうです」
「春花?」
「風上から眠り薬の粉を撒き、敵を眠らせる術だそうです」
「まさか、そのような術が……」
「良くできた作り話だそうです」
「えっ? 作り話?」
あると言っては無いと言う。ステファノはふざけているのか?
「余程近くに寄らなければ薬の効き目は無い上に、自分も薬を吸う危険が大きすぎるそうです」
そもそもそんなに近づけるならば、刃物で刺せば良い。石をぶつけてやっても良い。
「ですが、魔術が絡めば話が変わって来ます」
わかり掛けたと思ったステファノの狙いを、ソフィアはまた見失っていた。
「どうなるのですか?」
「粉は固体を細かくしたものですが、それでも遠くまで運ぶのは難しい。風に載せても途中で落ちてしまいます。気相であればほとんど重さを気にする必要がありません。空気より軽いこともあるそうです」
「空気よりも軽い……」
ステファノが次々と持ち出す概念は、ソフィアの世界には無かった物であった。ソフィアは新しい考えに必死に食らいつく。
「気相にした毒を風魔術で食肉倉庫まで飛ばしたのだと思います」
「そんなの無理よ! 蒸気のような物なら余計に散ってしまうじゃない! あっ?」
思わず口を挟んでしまったエリスは、慌てて自分の口を押えた。
「構いませんよ。私の疑問も同じです。あなたも探索に同行したのですから、思うことがあったら仰いなさい」
ソフィアはエリスの無作法を咎めなかった。
「風魔術は普通『空気』に掛けるものです」
ステファノもエリスの異論を気にせず、話を続けた。
「空気に魔術を掛ける……?」
「風を起こすとは空気を動かすことなのです」
ソフィアの疑問に根気よくステファノは答える。ここを大切にしないと、ゴールには辿りつけないのだ。
「風魔術で粉を飛ばすのは、息を吹き掛けるのと同じことです」
粉自体を直接動かすことはできないのだ。
「2メートル半先の的に当てることは至難の業でしょう」
見て来たようにステファノは言う。実際に見て来たのだ、想像の目で。
「気相にしたら何が変わるのですか?」
大切な質問をソフィアがする。しっかりした人だなと、ステファノはこんな際であっても感心した。
「気相になった毒薬は、それ自体が風魔術の対象になるんです」
「そんなことが……」
ソフィアは脳天を殴られたような衝撃を受けた。実際に少しよろけたので、エリスが心配して手を差し伸べようとしたくらいだ。
大丈夫ですと、ソフィアはエリスを身振りで押し止めた。
熱を加えて蒸発した毒薬を、風魔術で飛ばすだと? できるのか? できるかもしれない。
「でも、2メートル半先の的に当てられるの?」
ステファノの言葉をそのまま掴まえて、エリスは問い糺した。
「もう少しわかりやすく説明できませんか?」
ソフィアはステファノの言葉に真実を語る者の揺るぎなさを感じた。わからないなりにきちんと説明を聞こうと、姿勢を改めた。
「はい。水を例に取りましょう。水は同じものでありながら、氷、水、蒸気という3つの形を持っています。これが水の3相です」
「ああ。それを相と言うのですか? それが毒とどう関わりますか?」
「毒も3相を持ちます」
「水だけではないのですね。だとしたらどうなります?」
「固相、液相では難しいことが、気相であれば可能になるのです」
「毒を蒸気のようにする?」
ソフィアはステファノの目指す場所の一端を捉えたようだ。
「はい。気相であれば、毒を魔術で運ぶことが可能になります」
「そのような術があるのですか?」
「春花の術という暗殺術があるそうです」
「春花?」
「風上から眠り薬の粉を撒き、敵を眠らせる術だそうです」
「まさか、そのような術が……」
「良くできた作り話だそうです」
「えっ? 作り話?」
あると言っては無いと言う。ステファノはふざけているのか?
「余程近くに寄らなければ薬の効き目は無い上に、自分も薬を吸う危険が大きすぎるそうです」
そもそもそんなに近づけるならば、刃物で刺せば良い。石をぶつけてやっても良い。
「ですが、魔術が絡めば話が変わって来ます」
わかり掛けたと思ったステファノの狙いを、ソフィアはまた見失っていた。
「どうなるのですか?」
「粉は固体を細かくしたものですが、それでも遠くまで運ぶのは難しい。風に載せても途中で落ちてしまいます。気相であればほとんど重さを気にする必要がありません。空気より軽いこともあるそうです」
「空気よりも軽い……」
ステファノが次々と持ち出す概念は、ソフィアの世界には無かった物であった。ソフィアは新しい考えに必死に食らいつく。
「気相にした毒を風魔術で食肉倉庫まで飛ばしたのだと思います」
「そんなの無理よ! 蒸気のような物なら余計に散ってしまうじゃない! あっ?」
思わず口を挟んでしまったエリスは、慌てて自分の口を押えた。
「構いませんよ。私の疑問も同じです。あなたも探索に同行したのですから、思うことがあったら仰いなさい」
ソフィアはエリスの無作法を咎めなかった。
「風魔術は普通『空気』に掛けるものです」
ステファノもエリスの異論を気にせず、話を続けた。
「空気に魔術を掛ける……?」
「風を起こすとは空気を動かすことなのです」
ソフィアの疑問に根気よくステファノは答える。ここを大切にしないと、ゴールには辿りつけないのだ。
「風魔術で粉を飛ばすのは、息を吹き掛けるのと同じことです」
粉自体を直接動かすことはできないのだ。
「2メートル半先の的に当てることは至難の業でしょう」
見て来たようにステファノは言う。実際に見て来たのだ、想像の目で。
「気相にしたら何が変わるのですか?」
大切な質問をソフィアがする。しっかりした人だなと、ステファノはこんな際であっても感心した。
「気相になった毒薬は、それ自体が風魔術の対象になるんです」
「そんなことが……」
ソフィアは脳天を殴られたような衝撃を受けた。実際に少しよろけたので、エリスが心配して手を差し伸べようとしたくらいだ。
大丈夫ですと、ソフィアはエリスを身振りで押し止めた。
熱を加えて蒸発した毒薬を、風魔術で飛ばすだと? できるのか? できるかもしれない。
「でも、2メートル半先の的に当てられるの?」
ステファノの言葉をそのまま掴まえて、エリスは問い糺した。
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