43 / 640
第2章 魔術都市陰謀編
第43話 草には薬とも毒とも書いてねぇ。
しおりを挟む
今までの話を一旦整理したいと、ステファノはマルチェルの許しを得てノートを広げた。時々天井を見詰めて考えながら、ペンを走らせて行く。
「料理のレシピにしか見えんな」
気になって覗き込んだマルチェルには、スープの作り方を書き留めているようにしか見えない。所々レシピにしては辻褄の合わない記述があるのだが、別の意味に読み取れる物でもなかった。
「鍵と錠の組み合わせは、わたしの頭の中にしかありませんからね」
ノートを取り終わると、ステファノは「1」「2」「3」とそれぞれ書かれた解毒剤の小瓶を、いつも腰につけているポーチに仕舞った。
「解毒剤は王子ご本人、メイド長、護衛騎士2名、主治医が同じものを身につけます。それ以外の者には触らせないで下さい」
「心得ました」
解毒剤を仕舞いこむ際、ステファノは小さな紙片で蓋を封印し、己のサインを付した。
「開封されたらすぐわかるようにしておきます」
「ふむ。それは良い工夫ですね。旦那様に申し上げて、皆が同じことをするようにしましょう」
毒の正体が知れなければ、正しい解毒剤を飲ませることはできない。それでも3分の1の確率で王子を助けることができるなら、1つを選んで飲ませるようにと、ステファノは指示を受けた。
「ところで、わたしが表向き就くことになる仕事なんですが……」
ステファノはポーチの蓋が閉まっていることを確かめてから、マルチェルに話し掛けた。
「何か希望がありますか?」
「はい。掃除を含む雑用を与えてもらえると助かります」
「掃除ですか? 王子の側にいられない時間が多くなりますが、良いのですか?」
「大丈夫だと思います。そもそも暗殺者をそこまで入り込ませるようではこちらの負けです。力で攻めてくるなら護衛の方が退けるでしょうし」
そうなっては自分にできることは無い。
「指を咥えて見ているより、暗殺を未然に防止することに注力したいんです」
「わかりました。それも旦那様を通じてソフィア様にお伝えしましょう」
「ありがとうございます。わたしの準備はそれで充分です。残りの時間、できれば店と薬種の見学をさせてもらえますか?」
「いいでしょう。それなら店の案内はプリシラに、薬種の紹介はサルコにさせましょう」
それからの時間、午前中は店内の地理、部署の配置、働く人々などをプリシラの案内で見て回った。午後はサルコに薬種の在庫を見せてもらう。
ステファノにとっては午後の勉強は非常に興味深かった。サルコは特別深い知識を持っている訳ではなかったが、目録と薬効一覧を手にステファノの好奇心につき合ってくれた。ステファノの教育係として、日頃のきつい仕事を離れることができて喜んでいるらしい。
この薬種はこういう客が買ってくれるという商売上の知識に、サルコは詳しかった。
それを聞けばどの素材がどんな目的で使われるのかが想像できた。その知識を薬効の情報と突き合わせるのは極めて興味深い作業であるが、時間が限られていた。ステファノは魔術師が使用する薬種について、その効能と使用目的をできるだけ知ることに努めた。
「うちは薬屋だけどよ」
時折重い口を開いて、サルコは先輩としての注意を与えてくれた。
「そのままだと毒になる薬種も置いてるだよ。そういうもんは誰にでも売っていい訳でねぇ。売り先をよくよく気にしねぇとなんねぇ」
毒も使い方によって薬となり、薬も用法用量を間違えば毒になる。薬種問屋は人の命を扱う商売と心得よ。店に入った奉公人が最初に教えられることはそれであった。
「草には薬とも毒とも書いてねぇ。使い道さ決めんのは人間だ」
「料理のレシピにしか見えんな」
気になって覗き込んだマルチェルには、スープの作り方を書き留めているようにしか見えない。所々レシピにしては辻褄の合わない記述があるのだが、別の意味に読み取れる物でもなかった。
「鍵と錠の組み合わせは、わたしの頭の中にしかありませんからね」
ノートを取り終わると、ステファノは「1」「2」「3」とそれぞれ書かれた解毒剤の小瓶を、いつも腰につけているポーチに仕舞った。
「解毒剤は王子ご本人、メイド長、護衛騎士2名、主治医が同じものを身につけます。それ以外の者には触らせないで下さい」
「心得ました」
解毒剤を仕舞いこむ際、ステファノは小さな紙片で蓋を封印し、己のサインを付した。
「開封されたらすぐわかるようにしておきます」
「ふむ。それは良い工夫ですね。旦那様に申し上げて、皆が同じことをするようにしましょう」
毒の正体が知れなければ、正しい解毒剤を飲ませることはできない。それでも3分の1の確率で王子を助けることができるなら、1つを選んで飲ませるようにと、ステファノは指示を受けた。
「ところで、わたしが表向き就くことになる仕事なんですが……」
ステファノはポーチの蓋が閉まっていることを確かめてから、マルチェルに話し掛けた。
「何か希望がありますか?」
「はい。掃除を含む雑用を与えてもらえると助かります」
「掃除ですか? 王子の側にいられない時間が多くなりますが、良いのですか?」
「大丈夫だと思います。そもそも暗殺者をそこまで入り込ませるようではこちらの負けです。力で攻めてくるなら護衛の方が退けるでしょうし」
そうなっては自分にできることは無い。
「指を咥えて見ているより、暗殺を未然に防止することに注力したいんです」
「わかりました。それも旦那様を通じてソフィア様にお伝えしましょう」
「ありがとうございます。わたしの準備はそれで充分です。残りの時間、できれば店と薬種の見学をさせてもらえますか?」
「いいでしょう。それなら店の案内はプリシラに、薬種の紹介はサルコにさせましょう」
それからの時間、午前中は店内の地理、部署の配置、働く人々などをプリシラの案内で見て回った。午後はサルコに薬種の在庫を見せてもらう。
ステファノにとっては午後の勉強は非常に興味深かった。サルコは特別深い知識を持っている訳ではなかったが、目録と薬効一覧を手にステファノの好奇心につき合ってくれた。ステファノの教育係として、日頃のきつい仕事を離れることができて喜んでいるらしい。
この薬種はこういう客が買ってくれるという商売上の知識に、サルコは詳しかった。
それを聞けばどの素材がどんな目的で使われるのかが想像できた。その知識を薬効の情報と突き合わせるのは極めて興味深い作業であるが、時間が限られていた。ステファノは魔術師が使用する薬種について、その効能と使用目的をできるだけ知ることに努めた。
「うちは薬屋だけどよ」
時折重い口を開いて、サルコは先輩としての注意を与えてくれた。
「そのままだと毒になる薬種も置いてるだよ。そういうもんは誰にでも売っていい訳でねぇ。売り先をよくよく気にしねぇとなんねぇ」
毒も使い方によって薬となり、薬も用法用量を間違えば毒になる。薬種問屋は人の命を扱う商売と心得よ。店に入った奉公人が最初に教えられることはそれであった。
「草には薬とも毒とも書いてねぇ。使い道さ決めんのは人間だ」
0
お気に入りに追加
102
あなたにおすすめの小説
悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが……
アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。
そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。
実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。
剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。
アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
二人分働いてたのに、「聖女はもう時代遅れ。これからはヒーラーの時代」と言われてクビにされました。でも、ヒーラーは防御魔法を使えませんよ?
小平ニコ
ファンタジー
「ディーナ。お前には今日で、俺たちのパーティーを抜けてもらう。異論は受け付けない」
勇者ラジアスはそう言い、私をパーティーから追放した。……異論がないわけではなかったが、もうずっと前に僧侶と戦士がパーティーを離脱し、必死になって彼らの抜けた穴を埋めていた私としては、自分から頭を下げてまでパーティーに残りたいとは思わなかった。
ほとんど喧嘩別れのような形で勇者パーティーを脱退した私は、故郷には帰らず、戦闘もこなせる武闘派聖女としての力を活かし、賞金首狩りをして生活費を稼いでいた。
そんなある日のこと。
何気なく見た新聞の一面に、驚くべき記事が載っていた。
『勇者パーティー、またも敗走! 魔王軍四天王の前に、なすすべなし!』
どうやら、私がいなくなった後の勇者パーティーは、うまく機能していないらしい。最新の回復職である『ヒーラー』を仲間に加えるって言ってたから、心配ないと思ってたのに。
……あれ、もしかして『ヒーラー』って、完全に回復に特化した職業で、聖女みたいに、防御の結界を張ることはできないのかしら?
私がその可能性に思い至った頃。
勇者ラジアスもまた、自分の判断が間違っていたことに気がついた。
そして勇者ラジアスは、再び私の前に姿を現したのだった……
裏切られ追放という名の処刑宣告を受けた俺が、人族を助けるために勇者になるはずないだろ
井藤 美樹
ファンタジー
初代勇者が建国したエルヴァン聖王国で双子の王子が生まれた。
一人には勇者の証が。
もう片方には証がなかった。
人々は勇者の誕生を心から喜ぶ。人と魔族との争いが漸く終結すると――。
しかし、勇者の証を持つ王子は魔力がなかった。それに比べ、持たない王子は莫大な魔力を有していた。
それが判明したのは五歳の誕生日。
証を奪って生まれてきた大罪人として、王子は右手を斬り落とされ魔獣が棲む森へと捨てられた。
これは、俺と仲間の復讐の物語だ――
異世界で穴掘ってます!
KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語
女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません
青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。
だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。
女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。
途方に暮れる主人公たち。
だが、たった一つの救いがあった。
三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。
右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。
圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。
双方の利害が一致した。
※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております
【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】
最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。
戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。
目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。
ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!
彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中
(完結)足手まといだと言われパーティーをクビになった補助魔法師だけど、足手まといになった覚えは無い!
ちゃむふー
ファンタジー
今までこのパーティーで上手くやってきたと思っていた。
なのに突然のパーティークビ宣言!!
確かに俺は直接の攻撃タイプでは無い。
補助魔法師だ。
俺のお陰で皆の攻撃力防御力回復力は約3倍にはなっていた筈だ。
足手まといだから今日でパーティーはクビ??
そんな理由認められない!!!
俺がいなくなったら攻撃力も防御力も回復力も3分の1になるからな??
分かってるのか?
俺を追い出した事、絶対後悔するからな!!!
ファンタジー初心者です。
温かい目で見てください(*'▽'*)
一万文字以下の短編の予定です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる