上 下
35 / 640
第1章 少年立志編

第35話 口下手のサルコ。

しおりを挟む
「『飯綱いづな使い』と『100人殺し』が居合わせたんです」
「飯綱使いだと? やべぇな、マジか? 黒い髪で、黒い目だったか? 俺と同じで」

 ダニエルもまた東方の血を引いているのか、黒髪、黒目の容貌であった。

同じ・・でした。クリードという人です」
「知ってるよ! 両手剣のクリード。歳は幾つくらいだった?」

 目を輝かせてダニエルが尋ねて来た。どうもクリードに思い入れがあるようだ。

「20代半ばだと思います」
「そんなに若いのか? 40くらいかと思ってたぜ。強そうだったか、やっぱり?」

 ダニエルは両手を握り締めて、身震いした。

「背は180センチくらいありましたが、どちらかというと細身で、一見強そうには見えないタイプでした」
「そうなのか? 冷酷非情の剣士って話だったが」

 世間の噂ではそうなっているらしい。あれだけ人を斬ればそう言われるのも仕方ないが……。

「クリードさん本人は、優しい人ですよ?」
「『クリードさん・・・・・・』って、お前……。もしかして、喋ったのか?」

 ステファノが答えようとした時、ドアをノックする音がした。

「はい!」

 ドアに近いステファノが立って引き開けると、男の使用人が立っていた。

「旦那様がステファノを呼ぶようにと」

 落ち着いた頃合いを見てステファノを呼び付ける手筈だったのであろう。

「もうそんな時間か……。ステファノ! ちょっと来い」

 手招きしたダニエルに近付くと、自分より背の高いステファノの肩を抱きかかえて来た。

「お前、今の話誰かにしたか?」

 なぜかひそひそ声である。

「旦那様と、マルチェルさんだけです」

 ステファノも合わせて声を落とした。

「いいか。誰にも話すんじゃねえぞ。旦那様の用事が終わったら、今晩俺に詳しく教えろ。いいな?」
「いいですよ。ああ、紙を用意してくれたら、クリードさんの似顔絵が描けますけど……」

 ふと思いついて、ステファノは水を向けてみた。

「マジか? それはあれか? 役者とかの絵姿みたいなもんか? そうか、わかった!」

 ではまた後でと、ステファノは廊下に出ようとした。

「ちょっと待て、ステファノ!」

 ダニエルが声を上げて呼び止める。

 何事かとステファノが振り返ると、
「誰か店のもんに文句を言われたら、俺に言え。てめえのけつは俺が持ってやる」

 とんと胸を叩いて、ダニエルは言い切った。

「ありがとうございます、先輩」

 今度こそ本気で、ステファノは頭を下げた。

 廊下に出ると、呼びに来た若者が不思議そうな顔をしている。

「おめぇ、ダニエルさんとは初対面だよな?」
「はい、今日が初めてです」
「もう馴染んだてか?」

 ダニエルがステファノを弟分扱いしたことが、不思議でならないらしい。

「あの人、おっかね・・・・べ?」

 田舎出の若者もダニエルの後輩に当たり、入りたて・・・・の頃はひと月ばかり怒鳴り回された覚えがある。

「ちょっとせっかちかもしれないですが、面倒見は良さそうですよ」

 びんたを食らうくらい、何ということは無い。懐に入ってしまえば見捨てられないタイプなのだ。

「おめぇ、肝太きもふてぇな」

 案内役の若者が感心して言った。

「俺はサルコだ。おめぇ17だべ? 歳は一緒だっけ、俺に敬語は要らねぇ」
「うん。よろしく、サルコ」
「俺は口下手だっけたくさんは喋らんども、よろしくな」

 十分口数は多いと感じたが、ステファノは黙って頷いた。
 サルコの案内で母屋に渡り、再びネルソンの執務室へ入ったのは夕方5時に迫る頃だった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

落ちこぼれの貴族、現地の人達を味方に付けて頑張ります!

ユーリ
ファンタジー
気が付くと見知らぬ部屋にいた。 最初は、何が起こっているのか、状況を把握する事が出来なかった。 でも、鏡に映った自分の姿を見た時、この世界で生きてきた、リュカとしての記憶を思い出した。 記憶を思い出したはいいが、状況はよくなかった。なぜなら、貴族では失敗した人がいない、召喚の儀を失敗してしまった後だったからだ! 貴族としては、落ちこぼれの烙印を押されても、5歳の子供をいきなり屋敷の外に追い出したりしないだろう。しかも、両親共に、過保護だからそこは大丈夫だと思う……。 でも、両親を独占して甘やかされて、勉強もさぼる事が多かったため、兄様との関係はいいとは言えない!! このままでは、兄様が家督を継いだ後、屋敷から追い出されるかもしれない! 何とか兄様との関係を改善して、追い出されないよう、追い出されてもいいように勉強して力を付けるしかない! だけど、勉強さぼっていたせいで、一般常識さえも知らない事が多かった……。 それに、勉強と兄様との関係修復を目指して頑張っても、兄様との距離がなかなか縮まらない!! それでも、今日も関係修復頑張ります!! 5/9から小説になろうでも掲載中

裏切られ追放という名の処刑宣告を受けた俺が、人族を助けるために勇者になるはずないだろ

井藤 美樹
ファンタジー
 初代勇者が建国したエルヴァン聖王国で双子の王子が生まれた。  一人には勇者の証が。  もう片方には証がなかった。  人々は勇者の誕生を心から喜ぶ。人と魔族との争いが漸く終結すると――。  しかし、勇者の証を持つ王子は魔力がなかった。それに比べ、持たない王子は莫大な魔力を有していた。  それが判明したのは五歳の誕生日。  証を奪って生まれてきた大罪人として、王子は右手を斬り落とされ魔獣が棲む森へと捨てられた。  これは、俺と仲間の復讐の物語だ――

二人分働いてたのに、「聖女はもう時代遅れ。これからはヒーラーの時代」と言われてクビにされました。でも、ヒーラーは防御魔法を使えませんよ?

小平ニコ
ファンタジー
「ディーナ。お前には今日で、俺たちのパーティーを抜けてもらう。異論は受け付けない」  勇者ラジアスはそう言い、私をパーティーから追放した。……異論がないわけではなかったが、もうずっと前に僧侶と戦士がパーティーを離脱し、必死になって彼らの抜けた穴を埋めていた私としては、自分から頭を下げてまでパーティーに残りたいとは思わなかった。  ほとんど喧嘩別れのような形で勇者パーティーを脱退した私は、故郷には帰らず、戦闘もこなせる武闘派聖女としての力を活かし、賞金首狩りをして生活費を稼いでいた。  そんなある日のこと。  何気なく見た新聞の一面に、驚くべき記事が載っていた。 『勇者パーティー、またも敗走! 魔王軍四天王の前に、なすすべなし!』  どうやら、私がいなくなった後の勇者パーティーは、うまく機能していないらしい。最新の回復職である『ヒーラー』を仲間に加えるって言ってたから、心配ないと思ってたのに。  ……あれ、もしかして『ヒーラー』って、完全に回復に特化した職業で、聖女みたいに、防御の結界を張ることはできないのかしら?  私がその可能性に思い至った頃。  勇者ラジアスもまた、自分の判断が間違っていたことに気がついた。  そして勇者ラジアスは、再び私の前に姿を現したのだった……

女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません

青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。 だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。 女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。 途方に暮れる主人公たち。 だが、たった一つの救いがあった。 三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。 右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。 圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。 双方の利害が一致した。 ※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

処理中です...