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第1章 少年立志編
第21話 一人一流。
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「力でも技でもない。ましてや才能などではない」
「心を支配するんですね――」
そんな境地があるのか。
ステファノは思った。それは武の世界だけのことなのであろうかと。魔術の世界でも通じることではないのか?
「エバさんの暗器術もその一種かもしれない」
「うむ。敵の油断を突くという点で根は同じだな」
エバは初級しか使えない魔術を生かすために暗器術と組み合わせた。結果、どちらかと言えば魔術よりも暗器が戦い方の中心になっている。否定はしないが、それは自分が目指す境地ではないとステファノは思った。
「同じ目指すなら、俺は魔術そのものの可能性を突き詰めてみたいと思います」
「そうだな。初めから小さく纏まる必要はない。お前だけの魔術を作り上げれば良かろう」
「俺だけの魔術……」
「我が師の剣は師一人だけのものであった。俺は俺の剣を目指す。お前の魔術はお前だけのものの筈だ」
クリードの言葉はステファノに深く染みた。胸の奥に小さな明かりを灯されたようであった。これから先ステファノはこの小さな灯を大切に育て続けることになる。
小さな炎を胸に灯しながら、ステファノはその日の夜を迎えた。
「出発しやあーす!」
その後の旅路では事件が起こることもなく、今日は呪タウンに到着するという朝を迎えていた。
「急げば昼過ぎには街に入れるんで、昼飯抜きで突っ走りやす」
ダールはそう言って馬達を急がせた。脳裏には盗賊のことがあっただろう。襲われる前に街に入ってしまいたいと。
ダールの思いとは裏腹に、馬車は2度目の襲撃に遭遇した。
「いけねえや。見えてる賊は7、8人だが、隠れてる奴が、何人もいますぜ!」
街道を馬で塞いだ集団の他に、木陰に隠れた弓持ちがちらほら見える。この分だと前回の倍程も人数がいるのではないか。
「こちらの情報が伝わっているらしい。挟み撃ちにも気を配るべきだな」
緊張の気配を漂わせつつもクリードは冷静に敵の勢力を測っていた。
「ならば、後から出てくる奴等が本隊かの? そっちの相手はこの老人が務めてやろう」
前回出番が無かったガル老師はこの機会を待っていたらしい。
「いい雷日和じゃわい」
ニヤリと笑って空を仰ぎ見る。確かにこの日は黒雲が浮かんでいた。
「では、敢えて挟ませておいて老師が本隊を叩くのに合わせ、俺も前方に斬り込みます」
踊りの手の相談でもするように、魔術師と剣士は段取りを決めた。
「逃げ道はないぞ! 馬車から全員降りろ!」
正面の賊が声を張り上げた。
その時ステファノは髪の毛の付け根が疼くような、蜘蛛の巣に顔を突っ込んだような、妙な心持がした。
「何じゃ、全部で二十人かい。儂も見くびられたもんじゃ」
馬車から降りたのはガル師であった。杖で肩を叩いて、欠伸でもしそうな風情である。
「爺、妙な真似はするなよ。杖を捨ててじっとしてろ!」
ガル師の怖さを知っているのか、盗賊はその動きを警戒した。
「あー、よしよし。杖は捨てたぞ? これで良いじゃろ? 怖がらずに全員出てきたらどうじゃ」
「そこの岩陰の2人、木の上の女、そっちの草むらに4人。穴を掘って隠れている1人は余程辛抱強い奴じゃの?」
後方の物陰を指さして、伏兵の所在を明かしていく。
「気配察知の魔術を使ったからの。隠れても無駄じゃ」
先程の不思議な感覚は探知の魔術であったのかと、ステファノは驚きを覚えた。魔術行使に付き物という呪文の詠唱も、術名の宣言もない。音もなく、光もなく、ただ結果だけがあった。
「心を支配するんですね――」
そんな境地があるのか。
ステファノは思った。それは武の世界だけのことなのであろうかと。魔術の世界でも通じることではないのか?
「エバさんの暗器術もその一種かもしれない」
「うむ。敵の油断を突くという点で根は同じだな」
エバは初級しか使えない魔術を生かすために暗器術と組み合わせた。結果、どちらかと言えば魔術よりも暗器が戦い方の中心になっている。否定はしないが、それは自分が目指す境地ではないとステファノは思った。
「同じ目指すなら、俺は魔術そのものの可能性を突き詰めてみたいと思います」
「そうだな。初めから小さく纏まる必要はない。お前だけの魔術を作り上げれば良かろう」
「俺だけの魔術……」
「我が師の剣は師一人だけのものであった。俺は俺の剣を目指す。お前の魔術はお前だけのものの筈だ」
クリードの言葉はステファノに深く染みた。胸の奥に小さな明かりを灯されたようであった。これから先ステファノはこの小さな灯を大切に育て続けることになる。
小さな炎を胸に灯しながら、ステファノはその日の夜を迎えた。
「出発しやあーす!」
その後の旅路では事件が起こることもなく、今日は呪タウンに到着するという朝を迎えていた。
「急げば昼過ぎには街に入れるんで、昼飯抜きで突っ走りやす」
ダールはそう言って馬達を急がせた。脳裏には盗賊のことがあっただろう。襲われる前に街に入ってしまいたいと。
ダールの思いとは裏腹に、馬車は2度目の襲撃に遭遇した。
「いけねえや。見えてる賊は7、8人だが、隠れてる奴が、何人もいますぜ!」
街道を馬で塞いだ集団の他に、木陰に隠れた弓持ちがちらほら見える。この分だと前回の倍程も人数がいるのではないか。
「こちらの情報が伝わっているらしい。挟み撃ちにも気を配るべきだな」
緊張の気配を漂わせつつもクリードは冷静に敵の勢力を測っていた。
「ならば、後から出てくる奴等が本隊かの? そっちの相手はこの老人が務めてやろう」
前回出番が無かったガル老師はこの機会を待っていたらしい。
「いい雷日和じゃわい」
ニヤリと笑って空を仰ぎ見る。確かにこの日は黒雲が浮かんでいた。
「では、敢えて挟ませておいて老師が本隊を叩くのに合わせ、俺も前方に斬り込みます」
踊りの手の相談でもするように、魔術師と剣士は段取りを決めた。
「逃げ道はないぞ! 馬車から全員降りろ!」
正面の賊が声を張り上げた。
その時ステファノは髪の毛の付け根が疼くような、蜘蛛の巣に顔を突っ込んだような、妙な心持がした。
「何じゃ、全部で二十人かい。儂も見くびられたもんじゃ」
馬車から降りたのはガル師であった。杖で肩を叩いて、欠伸でもしそうな風情である。
「爺、妙な真似はするなよ。杖を捨ててじっとしてろ!」
ガル師の怖さを知っているのか、盗賊はその動きを警戒した。
「あー、よしよし。杖は捨てたぞ? これで良いじゃろ? 怖がらずに全員出てきたらどうじゃ」
「そこの岩陰の2人、木の上の女、そっちの草むらに4人。穴を掘って隠れている1人は余程辛抱強い奴じゃの?」
後方の物陰を指さして、伏兵の所在を明かしていく。
「気配察知の魔術を使ったからの。隠れても無駄じゃ」
先程の不思議な感覚は探知の魔術であったのかと、ステファノは驚きを覚えた。魔術行使に付き物という呪文の詠唱も、術名の宣言もない。音もなく、光もなく、ただ結果だけがあった。
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