飯屋のせがれ、魔術師になる。

藍染 迅

文字の大きさ
上 下
14 / 671
第1章 少年立志編

第14話 頂点の三人。

しおりを挟む
「本当のことなんじゃ。せいぜい、特定の魔術を何回行使できるかといったことで見当をつけるしかない」
「左様ですか」
「だが、ややこしい話でな。同じ魔術でもたやすく使える者もいれば、必死に集中せねば使えぬ術者もいる。向き不向きなのか、魔力量の多寡なのか判別がつかんのじゃ」

 なるほどそれでは公平な比較はできないであろう。

「せめてもの判別が、上級、中級、初級という魔術のレベル分けという訳だ」

 今日は機嫌が良いらしく、老師は素人にもわかりやすく説明してくれた。

「いかに魔術行使の技巧に長けようとも、一定量以上の魔力が無ければ中級魔術以上は使えん。自ずから、上級、中級という線引きが、術と術者の両方にされるようになった」
「上級魔術師と呼ばれる術者は、極めて稀だと伺いました」

 ネルソンはその1人であるガル師への尊敬を込めて言った。

「そうじゃの。初級にせよ魔術と名のつくものを使えるのが、100人に1人。その中で中級魔術を使える者が、さらに100人に1人」

 中級魔術師は1万人に1人ということになる。

「上級魔術師は、その内100人に1人ということでしょうか?」
「いや。上級となると話が違ってくるの」
「それはどのように?」
「上級魔術師という存在は、変種みたいなもんじゃ。この国では儂を入れて3人だからの」
「たった3人ですか?」
「驚くじゃろ? 中級なら1000人もおるというのに」

「白熱」サレルモ、「土竜もぐら」ハンニバル、そして「雷神」ガル。名前だけならステファノも知っていた。

「ワシの二つ名は雷魔術からじゃが、『白熱』は火魔術、ハンニバルは『土魔術』からじゃ」

 上級魔術師といえども、使用できる上級魔術は得意属性の物だけである。それほどに上級魔術、上級魔術師とは稀有な存在であった。

「師の広域魔術『万雷ばんらい』は一撃で100人を倒したとか?」
「100人倒したのはまことじゃがの。さすがに1発では無理じゃわい。3、4発は撃ったかの」

 一撃で2、30人を倒す。この国ではガル師だけに可能な超絶技能であった。

「雷魔術は攻撃範囲の広さが特長だからの」

 全盛期には4発続けて行使できた万雷であったが、今では2発の行使がやっとという状況であった。そこは国の軍事力に関わる内容なので、ガル師としても軽々しく話せることではなかった。

「上級魔術者の認定というのは、どのようにするものですかな?」

 ネルソンもあえて深入りすることなく、飽くまでも世間話の範囲で質問を投げていた。上手いもんだと、ステファノは感心して聞いていた。

「そこはほれ。毎年年末に魔術競技会があるじゃろ? そこで新進気鋭の魔術師たちに技を競わせるのよ」
「ははあ。やはりあの競技会にはスカウトの意義もあるんですな?」
「無論のこと。主催者は国王陛下になっておるが、スポンサーは軍じゃでな」
「賞金と名誉だけがゴールという訳ではありませんな」

 魔術競技会で決勝まで進めれば、一流魔術師への道が開けるとはステファノの知識にもあった。軍の子飼いなり嘱託になるということであろうか。

 ステファノも魔術をマスターし、いずれは競技会という表舞台に立つ自分を夢見ている。その前に、まず魔術を学ぶ算段が必要であるが。

「多くの若者が優勝を目指して研鑽している訳ですな。ところで、先ほどお聞きした魔力の総量が生まれつきのものだとしたら、努力をしても意味はないのでしょうか?」
「良い質問だの。表向きの答えは簡単じゃ。無駄ではないが、多くは期待できん」
「多くと言いますと?」
「後天的に魔力量が増えるのは、およそ10人に1人と言われておる。残りの9人にとって、努力はほぼ無駄になる」
「ほぼですか」
「ふむ。魔力量が伸びずとも技巧は上がるでな」

 術発動の滑らかさとか、威力の増大など、術者としての向上は期待できるが、根本的なレベルアップにはつながらない。

「では、技巧に長けた初級魔術師が中級魔術師に勝つということも……」

 ネルソンが言いかけると、ガル師はぴしゃりと答えた。

「それはない。最高の初級魔術師であろうと、最低の中級魔術師に勝つことはできぬ。魔術のクラス差とは、それほどに大きい」
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

裏切られ追放という名の処刑宣告を受けた俺が、人族を助けるために勇者になるはずないだろ

井藤 美樹
ファンタジー
 初代勇者が建国したエルヴァン聖王国で双子の王子が生まれた。  一人には勇者の証が。  もう片方には証がなかった。  人々は勇者の誕生を心から喜ぶ。人と魔族との争いが漸く終結すると――。  しかし、勇者の証を持つ王子は魔力がなかった。それに比べ、持たない王子は莫大な魔力を有していた。  それが判明したのは五歳の誕生日。  証を奪って生まれてきた大罪人として、王子は右手を斬り落とされ魔獣が棲む森へと捨てられた。  これは、俺と仲間の復讐の物語だ――

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

魔境へ追放された公爵令息のチート領地開拓 〜動く屋敷でもふもふ達とスローライフ!〜

西園寺おとば🌱
ファンタジー
公爵家に生まれたエリクは転生者である。 4歳の頃、前世の記憶が戻って以降、知識無双していた彼は気づいたら不自由極まりない生活を送るようになっていた。 そんな彼はある日、追放される。 「よっし。やっと追放だ。」 自由を手に入れたぶっ飛んび少年エリクが、ドラゴンやフェンリルたちと気ままに旅先を決めるという物語。 - この話はフィクションです。 - カクヨム様でも連載しています。

処理中です...