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五杯目
「土師氏」を肴にする。
しおりを挟む土師氏の流れを汲むことになったので、安倍氏は天文や占いに精通して行った。
陰陽道とは、この世の万物を司る仕組みを知ろうという学問だからね。つまりは、自然科学さ。
さて、信太妻はなぜ狐という設定になり、姿を借りる人間の名が「葛の葉姫」だったのか?
狐というのは、「人ではない」ということだろうねえ。古代では、寧ろ畏敬の念で見られていた部族だった。犬神とか、狐憑きというのは、元々そういう特殊能力を持った人々を指していたのだろうさ。
で、「葛の葉」さ。葛っていうのは紡織材料として古くから利用されていた。産業革命は紡績事業から始まっているくらいで、紡織というのは人間生活を支える基盤だよね。古来からの重要産業さ。
「葛」を自分たちのアイデンティティとする一族がいたんだろうよ。
その一つが葛城氏さ。その辺が信太妻の出自じゃないかね。
大分キーワードが片付いてきたね。泉。葛の葉。狐。機織り。もう少し、やってみようか?
信太の森ね。「しのだ」って何か?
こりゃあ、「くしなだ」だろうね。八岐大蛇伝説に出てくる「櫛名田姫」あるいは「奇稲田姫」。読みでは、どちらも「くしなだひめ」だけどね。「不思議な田んぼ」ってことだ。そういうお姫さま。
何が不思議なのか?
古代には砂鉄を取る方法に「鉄穴流し」という手法があった。山の斜面に水路を設け、上から土砂を含んだ水を流すと比重の差により、下流で砂鉄が採れる。
これをやると、段を成した水路が最後に段々畑になるんだよ。不思議だろ?
瀬戸内に段々畑が多いのは偶然じゃなくて、この「鉄穴流し」を散々やった結果なんだからね。出雲の鑪製鉄とも繋がるだろう?
「も〇〇け姫」の世界ね。先生、そういうの好きだろう?
「しのだ」つまり「くしなだ」っていうのは、鉱山・製鉄の民と紡織の民が結びついたことを象徴しているのさ。神話は本当の話なんだ。
泉は鉄と草の故郷なんだよ。そしてそれは、古代において富と栄光を築く礎だった。
そもそも「泉」とは、「出雲」に繋がる名なんだろうさ。「八雲起つ出雲」と言われるのは、製鉄業で盛んに炭を焼いたからだしね。現代でも刃物産業で有名な堺なんて、「和泉の国の『境』」にあるから「堺」なんだからね。
地名には意味があり、産業が起きるには理由があるのさ。
話が逸れちゃったね。これで大方のキーワードは片付けた格好なんだけど、もう一つ厄介なのがあるんだよね。
信太妻伝説で幼児として描かれている晴明の名は、「童子丸」とされているんだ。
これが、何故かって話。
子供だから童子ってのは安直すぎるよね。平安時代ならさ、子供じゃない「童子」が一杯いたじゃない。
それこそ晴明が退治に一役買った「酒呑童子」とか、「茨木童子」とかね。
童子と言ったって、やさぐれた若者が非行に走ったって話じゃないと思うのよ。そんな奴に、都の役人が手を焼くかっての。
これはさ、「童子のような格好の奴」ってことじゃないかと思う訳よ。そりゃ何だと言われると、「おかっぱ」じゃないか。昔で言うなら、「禿頭」ね。
そう、ザビエルみたいな奴。
ざんばら髪で暮らしている集団がいたんじゃないのかねえ。そいつ等がやたらと強くてさ。
「人とは思えない」訳さ。大陸から流れてきた異人種の血を引いていたかもしれないねえ。
そもそも「河童」とか「天狗」って、そういう連中がモデルになったんじゃないの? ああ、又、話が逸れちまった。
人間離れした技術力を持つ土師氏の一族に、はみ出し者がいたんだろう。そういう連中が「〇〇童子」と呼ばれて恐れられた。西部開拓時代の「〇〇キッド」と似てるね。
そんな奴らを退治するには、同じ異能を持つ晴明にでも頼らなければ、どうにもならない訳だね。でも、晴明も同族を自ら殺すのは心苦しいだろう。
だから、最後に討ち取るのは源頼光って源氏の人間が表に立つ。
面白いのは、頼光の子分に坂田金時がいたっていう伝説だ。即ち、「金太郎」さ。
ね? 金太郎こそ「子供の見た目なのに滅茶苦茶強い」っていう設定じゃない?
同じでしょ? 童子なのよ。
これは頼光が土師氏の一族を手下にしていたっていうことでしょう。
頼光は摂津源氏と呼ばれる系譜を作ることになるくらいで、摂津を本拠としていた血筋。つまりは大阪出身さ。
阿倍野だといわれる晴明の出自と重なるじゃない。摂津源氏と安倍氏が、タッグを組んでいたってことさ。
どう? 安倍晴明の生まれに纏わるお話。
こんな感じで如何でしょう?
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