サイボーグ召喚――時空を超えた戦士

藍染 迅

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第34話 魔王との最終決戦

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 WO-9の神聖魔法は胸に潜ませた魔核から魔力を引き出してのことであった。動力源とするにはサイバネティック器官に接続する必要があったが、魔法発動だけであれば「接触してさえいれば」魔力を引き出すことができた。

 魔王はエネルギー探知能力で魔核の存在を感知し、それを封じたのであった。

 魔核を奪われたWO-9は神聖魔法を放つことができない。胸を貫いた触手を左手に握り締めて、ぐいと引き寄せる。魔王の体勢が前に傾くのに合わせて自ら踏み込み、レイガンを魔王の口に突き込むようにして引き金を引いた。

 ぶつり。

 魔王は自ら触手を噛み切って上体の自由を取り戻すと、大きくのけ反ってレーザーを避けた。
 その隙にWO-9は胸から垂れ下がった触手を両手で引き抜こうとした。ずるずると胸から触手を引き出す。

 その時魔王はもう1本の触手を口から吐き出し、WO-9を襲った。胸から抜いた触手を地面に捨てたWO-9は新たな触手を避けてOD2を発動する。

 賢者の石の力により、WO-9の傷跡はみるみる修復されて行った。
 
<下がれ! スバル!>

 WO-9が跳び下がると、WO-2の魔法攻撃が上空から魔人に襲い掛かった。
 魔人は被弾しつつも両肩から新たな触手を生やして防戦する。

<ブラスト、こっちは回復した!>

 メッセージを送りながらWO-9はOD2で魔王に迫る。
 鞭のように横から襲って来る触手は、WO-2が火炎弾で撃ち落とす。

 一気に魔王の懐深く踏み込んだWO-9は、神聖魔法で決めに掛かった。

「ホーリー・ライト! えっ?」

 魔法は発動しなかった。魔力の源である魔核は魔王の一撃で砕かれていた。

 にやりと笑った魔王が口を大きく開け、口中に魔力を集め始めた。みるみる白い光と極大の熱が溜まっていく。

<WO-9、魔核ならそこにあるわ!>

(何? そうか!)

「オーバードライブ!」

 WO-9は渾身の力で右の貫手を魔王の胸に叩き込んだ。エネルギー・センサーが指し示す「魔核」の位置へ。

「Gwooaff!」

 ずぶりと胸に突きこまれた右手は、魔王の体内でそこにある「魔核」に触れた。

「ホーリー・ライト!」

 魔核のエネルギーを吸い上げて、神聖魔法が魔王の体内で発動した。

「GaaaaaaaAAAAAA!」

 集めていた魔力は霧散し、代わりに緑色の光が魔王の体内から湧き出した。

 魔王は魔力をかき集めて火炎弾を吐き出そうとするが、ホーリー・ライトに阻まれて魔力は形にならないまま消えて行った。

 魔王は……熾火おきびが燃え落ちるように、凹み始めた胸からぼろぼろと崩れて行く。
 WO-9は崩れかかった魔王の胸から、握り締めた魔核ををむしり取った。

「OoaaaaaaaAAAAGH!」

 苦しむ魔王がWO-9に伸ばした手が途中から崩れて散って行く。

 そしてすべてが灰に帰った。

「やったな、スバル!」

 上空からWO-2が地面に降り立った。

「ブラスト、こいつで最後だと思うんだが……」
「そういうのをフラグって言うんじゃないのか?」

<次元の裂け目を塞ぐことね>

「裂け目って、さっきこいつが通って来た黒い円陣か?」

<そうよ。アナタたちが通って来たのもそんな裂け目の1つだわ>

「どうやって塞ぐんだ?」

<もちろん魔法でよ。魔王たちが使っていた「疑似瞬間移動」は魔法の一種よ。あれだけ見せ付けられれば、術式を覚えたわ>

「じゃあ、ボク達も疑似瞬間移動ができるようになるの?」

<それだけじゃないわ。ベースになっている「次元魔法」を応用すれば時空の裂け目を塞ぐことができる>

「そうか。だったら、やり方を教えてくれ」

<既に2人の人工頭脳ABに記録したわ。ただ、何しろ現象が大規模なので大きな魔力が必要なの。2人の協力が要るわ>

「もちろん協力するさ。良いな、ブラスト?」
「もちろんだ! 害虫の通り道なんか、残しておけるもんか!」

<では、一緒に唱えて。「グラビティ・フィールド」>

「グラビティ・フィールド!」

 宣言と共に、魔王が現れた位置に黒い円陣が現れた。円陣は浮いたまま内部に渦巻きを生み、渦巻きはプロペラが煙を巻き込むように黒い円陣を巻き込んで行った。

 やがて黒い影はどこにも残らず、姿を消してしまった。

「ふー。これでいかついお客さんが訪ねてくることは無くなったんだね」
「これでオレ達の勇者稼業も打ち切りってことだな」

 時刻は既に深夜に近付いていた。

 それにしてもわずか1日の間に、時空Aでは100億の人類が命を失い、時空Bでは世界を滅ぼす魔物が撃退された。「勇者」などと胸を張れる成果でとはとても言えないと、サイボーグ戦士たちの心は痛んだ。

「ブラスト、キミの言う通りだった。ボク達は戦士だ。勇者なんかじゃない。戦いに苦しむ人がいる限り、1人でも多くの命を救うために戦う。それがボク達ワールド・オーダーだ」
「ああ。オレ達にできるのは目の前の敵を倒すことだけだ。世界を変えることなんかできやしないさ」

<王城に帰りましょう。ワタシ達にできることはすべて終わったわ>
 
「ブラスト、壊れた部品はないかい? 錬金術で直そうか?」
「うん? いや、何もないぜ。今回は遠距離攻撃がメインだったからな」
「ほら、精神波攻撃を受けたじゃないか? 頭のネジが飛んだんじゃないかと思ってね」
「よせやい! お前サンに直されたら、カッチカチの真面目人間にされちまうぜ!」
「ははは。真面目なブラストを見てみたい気がするけど……やっぱり、気持ち悪いから良いや」

<冗談はそれくらいにして。さっさと帰るわよ。お姫様に徹夜させるつもり?>

「おっと、そいつはいけないな」
「まったくだ。ヒーローは絶対に遅れない!」

 その言葉を合言葉に、サイボーグ戦士は王城に向けて走り出した。あっという間に洞窟を飛び出すと、WO-2は一筋の光となって空を、WO-9は真白き矢となって地を駆ける。

 その姿は、「祈りの星」そのものであった。

 ◆◆◆

 ミレイユ王女は聖廟で女神イルミナに祈りを捧げていた。勇者たちの帰還と魔物の退散を願って。

 既に多くの人々が命を、家族を失い、生活の基盤を奪われている。これ以上犠牲者を出すことなく、被災した民に救いの手を差し伸べることが為政者たる王家の使命であった。

 そのためには一刻も早く魔物の侵入を止め、人々の安全を確保する必要があった。王家の力及ばず、召喚した勇者に頼らざるを得なかったことにミレイユは心を痛めた。

 それ故に彼女は祈る。勇者の無事を。自分たちの都合で勇気ある戦士を死なせることのないように。

「ミレイユ様! 勇者様がお戻りなされました!」
「おお! お2人ともご無事ですか?」
 
「もちろんだぜ。害虫駆除はオレ達の専門だって言っただろう?」
「ブラスト様! スバル様も! よくぞご無事で」

 メリーアンの案内に続いて聖廟に戻った2人を見て、ミレイユは安堵の涙を流した。

「王女様に頂いた『賢者の石』のお陰です。この通り怪我もなく魔王を倒すことができました」

 WO-9は手に持った魔核を見せて言った。

「それが魔王の魔核ですか? 何と強い魔力の輝きでしょう」
「ああ、他の魔人とは強さが違ったが、アンジェリカ……に授かった回復魔法と神聖魔法のお陰で何とか倒しきることができたぜ」

 ブラストは精神波攻撃に苦しめられたことには触れず、魔王討伐の結果のみを告げた。
 ブラスト一流の強がりでもあり、王女に余計な心配をさせない気遣いでもあった。

「それと、魔物が通って来た時空の裂け目はボク達の魔法でふさぎました。これ以上魔物が侵入して来ることは無いでしょう」
「それはでかした! いや、失敬。国防を預かる者としてお礼を申し上げる」

 思わず声を上げたのはランドー将軍であった。王城を始めとする各地での攻防戦で、ロマーニ王国軍は大きく戦力を削られた。これ以上国が乱れることがあっては、他国からの侵略を招く恐れがあった。

 魔物の次は「人」を恐れねばならない。「人」ほど怖い生き物は他にいなかった。

<スバル、もうワタシがお姫様に直接話しかけることはできない。アナタから私の代わりにお願いして頂戴>
<お願いするって、一体何をだい?>
<もう一度祭壇を使わせて頂く許可よ>

 アンジェリカは祭壇を何に使おうというのか? 魔物がいなくなった今、急がなければならない仕事などないはずであった。

<わかった。お願いしてみるよ>

 疑問を覚えたWO-9であったが、これまで何度もアンジェリカに助けられてきた。彼女・・を信用しようと心を決めた。

「ミレイユ様、恐縮ですがもう一度聖廟の間とこの祭壇を貸していただけませんか?」
「祭壇をですか? ……わかりました。聖廟を預かる巫女として勇者様のご使用を認めます」

 疑問を覚えたものの口には出さず、一例をしてミレイユは聖廟の間を去った。
 一同の者もそれに続く。

 聖廟の扉が閉ざされたのを見届けて、WO-9はアンジェリカに問い掛けた。

<一体何をするつもりだい?>

<あなたの改造手術よ>
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