サイボーグ召喚――時空を超えた戦士

藍染 迅

文字の大きさ
上 下
23 / 35

第23話 限界を越えろ!

しおりを挟む
<そうかよ……。糞ったれめ>

 ブロンクスのストリート・チルドレンを仕切っていたブラストは、そんな子供を腐るほど見た。

<こんなことだったら、最初から「魔核」ってやつを入れてもらえば良かったぜ……>
<「魔核」って何だい? もしかしてそいつがロケット燃料ジュースの代わりかい?>

 暗い想い出から頭を切り替えたWO-9は、疑問に思っていたことをWO-2に尋ねた。

<まあ、そんなもんだ。二日酔いに気をつけなくちゃいけねえがな>

 WO-2はアンジェリカから受けた説明と、魔物から取り出した器官を自分の体内に移植したという話をWO-9にした。

<何だって? そんな無茶な!>
<無茶と言えば、異世界に渡るなんてことがそもそも無茶だからな。どうせ命を張ったんだ。ハイリスク・ハイリターンがオレの生き様ってもんだぜ>

 だから自分から目を離すなとWO-2は言った。

<オレがおかしくなっちまったら、何をするかわからない。アンジェリカにはそうなったら機能停止・・・・してくれと頼んである>

 機能停止とはサイボーグとしての命を奪うことに等しい。サイバネティック器官をすべて停止すれば、ブラストの存在そのものである彼の脳も死ぬ。

<何てことをしたんだ、君は……>
<そう暗い「声」を出すな、スバル。所詮オレたちは消耗品じゃないか>

 人間を超える「武器」として開発された生体兵器。それがサイバー・スクワッドの実態であった。

<早いか、遅いか。それだけの差さ。だったら俺は「空」で死にたい>

 そう言ってWO-2は髪をなびかせる風に手をかざした。

<ブラスト……>

<どれ、ちょっくら前方を偵察してくるぜ。悪いが荷物を預かっててくれ>

 そう言うとWO-2はWO-9というよりはその背中にいるリリーから十分な距離を取ってから、空に飛び立った。
 
 走りながら、WO-9は渡された背嚢の中を覗いてみる。クッキーやキャンディーの甘い臭いが袋の口から漂っていた。

<甘い物ばかりじゃ虫歯になっちゃうよ。ブラストは小さい子に甘いんだから……>

 妹には甘いお菓子など食べさせてやれなかった。かびたパンや腐りかけの野菜でも、口に入るものがあれば喜んでいた。

 背嚢の口を閉めると、WO-9はそれを脇に抱えて走り続ける。できるだけリリーを揺らさないように。

<僕たちにできることは戦うことだけなんだね、ブラスト……>

 同じ立場に立てば、自分も躊躇なく胸に魔核を埋め込むだろう。スバルにはそれがわかっていた。

<いや、違う! 僕たちには――「守る」ことができる!>

 サイボーグが背負うにしては軽すぎる荷物。それでいて自分一人では背負いきれない重み、それが人の命であった。
 その重みを守るために、スバルはサイボーグとなったのだ。

 顔を上げたWO-9の視線の先に、空から着陸するWO-2の姿があった。

<待たせたな。隣町まで異常は無かったぜ>
<そうか。後どれくらいだい?>
<このペースなら1時間てところだな。男2人で昔話は暗すぎるから、アンジェリカに状況のアップデートでもやってもらおうぜ>
<そうだね。アンジェリカ、最新のニュースを教えてくれるかい?>
 
 WO-9の呼びかけに応えてアンジェリカは状況報告を行った。

<ナノマシンの活躍でお姫様は健康を取り戻したわ>
<ほう。そいつは良いニュースだ>
<うん。切り札を使った甲斐があったよ>
 
 サイボーグたちが活動する上でも、「王女を救った功労者」として認められた方が何かと好都合であろう。
 もちろん、WO-9はそんなこと・・・・・のために王女を救ったわけでは無かったが。

<もう1つは悪いニュースよ>
<聞こう>
<魔物が現れた洞窟の封印が破られたわ>
<何だって?>

 今いる魔物以外にも、侵入者が増えたということになる。

<過去の傾向を見る限り、侵入が後になるほど魔物のランクが上がっているわ>
<つまり、より手強い魔物がやって来たってことだな?>
<その通りよ>

 だとしたら、何度穴を塞いでも同じことではないか? より強力な魔物が封印を破るだろう。

<こりゃ鼬ごっこだぜ>
<うん。僕もそう思う。穴から外へ広がる前に水際作戦で魔物を倒すべきだ>
<その通りね。でも、既に外にいる魔物も放っておけないわ>
<手分けするしかないか……>

 ブラストの作戦はこうだ。機動力の高い自分が飛び回って、外の敵を叩く。
 スバルは洞窟に入って、新たな魔物の侵入を阻止する。

<戦力分散はしたくないけど、この場合は仕方がないね>
<なるべく早く掃討作戦を終わらせて、お前と合流するぜ>
<ロジャー! アンジェリカは王女の口を通じて、このことをこの国の人に伝えて>
<オーケー。必要な協力を得られるようにしておくわ>

 アンジェリカは外の情報を総合して再現した魔物の分布図を2人に伝送した。
 これを元にWO-2が掃討作戦を展開することになる。その数、約90匹。

<やっぱり噴射装置ブーツを新調しておいてよかったぜ。こんなにお出かけ先が多いとはな>
<素直に喜べないよ。その「魔核」って奴、僕にも移植した方が良いんだろうか?>
<あなたの場合は効果が見込めないわ、WO-9。出力を上げたところで結局ボディーの方が付いていけないのよ>

 現状のオーバードライブODでさえサイバネティック器官の許容範囲を超えているのだ。これ以上の出力を得ても、使い道がないとアンジェリカは判断した。

<ブラストだけ危険な目に合わせて済まないね>
<よせやい。危険なんて今更だぜ、ブラザー>

 確かに戦士である以上、命の危険とは常に背中合わせの2人であった。

<本当だね。それならブラスト、この子のお守りは僕一人で務めるよ>
<そうか。その間に掃討作戦を始めれば、時間の節約になるな>
<うん。この先町までの間には魔物がいないって言うしね>
<ロジャー・ザット。アンジェリカ、俺は今から害虫退治を始めるぜ。キル・カウントの記録をよろしくな>

 WO-2は再びWO-9に背嚢を渡して走り出し、離れたところから離陸した。

<やっぱり噴射装置ブーツは便利だよね。せめてODをフルに使えるようにならないかな>
<それは難しい注文ね。サイバネティック器官を一新しなければODの負担に耐えられないわ>

 運動エネルギーは速度の2乗に比例する。

 つまり、ODで通常速度の2倍でボディーを動かせば、普段の4倍の力がサイバネティック器官に加わるということだ。
 10倍の速度で動くには100倍の負担に耐えなければならない。

<この世界にはポーションとか回復魔法があるそうじゃないか? あれで回復することはできないのか?>
<それは無理よ。アナタのボディーは生体ではない。あくまでも人工物なんだから>

 人工物に生命はない。生命がない以上「回復」はできない。それが「この世界の法則」であった。

<うーん。たとえばナノマシンで修復するってのはどうだろう? それなら多少無理をしても元に戻せるんじゃない?>
<理屈の上ではね。でも、ナノマシンは工作機械ではないの。本来は人間の生体器官を健康に保つために開発されたものよ>
<やっぱり無理かい?>
<スピード的に間に合わないわ。ODの過負荷によるサイバネティック器官の破壊は一瞬だけど、修復には何日もかかる>

 アンジェリカの言葉に打ちひしがれながら、それでもWO-9は思った。最後の最後、他に選択肢が無ければ自分はODを使うだろう、限界を超えて。

<それでもナノマシンが貴重な「保険」であることに変りは無いわ。何とかお姫様の体内から取り出すことを考えないと>

 魔物退治の傍ら、王女ミレイユからのナノマシン摘出方法も考えなければならないWO-9たちであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-

ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。 困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。 はい、ご注文は? 調味料、それとも武器ですか? カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。 村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。 いずれは世界へ通じる道を繋げるために。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

エンシェントソルジャー ~古の守護者と無属性の少女~

ロクマルJ
SF
百万年の時を越え 地球最強のサイボーグ兵士が目覚めた時 人類の文明は衰退し 地上は、魔法と古代文明が入り混じる ファンタジー世界へと変容していた。 新たなる世界で、兵士は 冒険者を目指す一人の少女と出会い 再び人類の守り手として歩き出す。 そして世界の真実が解き明かされる時 人類の運命の歯車は 再び大きく動き始める... ※書き物初挑戦となります、拙い文章でお見苦しい所も多々あるとは思いますが  もし気に入って頂ける方が良ければ幸しく思います  週1話のペースを目標に更新して参ります  よろしくお願いします ▼表紙絵、挿絵プロジェクト進行中▼ イラストレーター:東雲飛鶴様協力の元、表紙・挿絵を制作中です! 表紙の原案候補その1(2019/2/25)アップしました 後にまた完成版をアップ致します!

異世界転移したら、神の力と無敵の天使軍団を授かったんだが。

猫正宗
ファンタジー
白羽明星は気付けば異世界転移しており、背に純白の六翼を生やした熾天使となっていた。 もともと現世に未練などなかった明星は、大喜びで異世界の大空を飛び回る。 すると遥か空の彼方、誰も到達できないほどの高度に存在する、巨大な空獣に守られた天空城にたどり着く。 主人不在らしきその城に入ると頭の中にダイレクトに声が流れてきた。 ――霊子力パターン、熾天使《セラフ》と認識。天界の座マスター登録します。……ああ、お帰りなさいルシフェル様。お戻りをお待ち申し上げておりました―― 風景が目まぐるしく移り変わる。 天空城に封じられていた七つの天国が解放されていく。 移り変わる景色こそは、 第一天 ヴィロン。 第二天 ラキア。 第三天 シャハクィム。 第四天 ゼブル。 第五天 マオン。 第六天 マコン。 それらはかつて天界を構成していた七つの天国を再現したものだ。 気付けば明星は、玉座に座っていた。 そこは天の最高位。 第七天 アラボト。 そして玉座の前には、明星に絶対の忠誠を誓う超常なる存在《七元徳の守護天使たち》が膝をついていたのだった。 ――これは異世界で神なる権能と無敵の天使軍団を手にした明星が、調子に乗ったエセ強者を相手に無双したり、のんびりスローライフを満喫したりする物語。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

処理中です...