サイボーグ召喚――時空を超えた戦士

藍染 迅

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第19話 空の王者は誰だ?

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「勇者様、鳥のような魔物が暴れております!」

 魔犬を倒した翌日、早くも別の魔物が近隣を荒らし回っていると連絡が入った。

「やれやれ、忙しいことだな」
「ぼやくなよ、まともなヒーローのお仕事じゃないか?」
「違いない。職人仕事よりは気が晴れるか?」

「ランドー将軍、魔物が出現した場所を教えて下さい」
「ただいま軍の馬車を用意しております」

 ランドーは2人を同盟軍扱いで軍に同行させるつもりであった。

「いいえ、ご無用です。場所さえ分かれば、いや、方向と距離さえ分かれば我々2人が急行しますので」
「は? 騎馬をお持ちで?」
「いや、走った方が速いので」

「ご冗談を」
「いや、本当に」

 WO-9の押し問答を横目で見ていたブラストは、後ろに立つランドーの副官に囁いて出没先の情報を聞き出した。

「行くぜ、ブラザー!」
「場所を知ってるのか、ブラスト?」
「風が教えてくれたのさ……」

 WO-9を煙に巻いてブラストは軽々と走り始めた。こう見えて室内では気を使って安全走行に努めている。
 床の埃が舞い上がるくらいの微速発進だ。

「すみません。それじゃ、ちょっと行ってきます・・・・・・・・・・
「おい! ちょっと……」

 ランドーの呼びかけは風の音にかき消された。

 ◆◆◆

 魔犬に破られた城門を走り抜け広々とした野原に出ると、サイボーグたちは本気で走り出した。巡航速度は時速200キロである。

<くそー! 燃料ジュースさえあればひとっ飛びなのによ>
<無いものは仕方がないよ、ブラスト。この世界でロケット燃料を精製するなんて無理だし>
<戦いのことを考えると、今高速機動装置オーバードライブを使うわけにもいかねえしな>

 ODには使用制限がある。いかに強靭なサイボーグ体といえども、長時間使用すれば負荷に耐えきれず破壊されてしまうのだ。ODとはその名の通りサイボーグ器官を耐用限度を超えて駆動する奥の手なのであった。

<ブラスト、目的地までこの速度で走ったとしてどれくらいかかる?>
<現場までは直線距離で500キロだ>
<うーん、2時間半か。結構かかるね>

 往復で5時間。現地での捜索や戦闘、人命救助などを考慮すると1日仕事になってしまう。下手をすると泊り掛けになる。

<スバル、あれをやるか?>
<えー? 気が進まないなあ>

 ブラストがほのめかしたのは、いわば「裏技」であった。それを使えば、到着時刻を大幅に早められる。

<背に腹は代えられないだろう? なに、街道を避けて行けば大丈夫さ>
<そう言って、人の家をつぶしちゃったことがあっただろう?>
<あれは不幸な偶然さ。この世界は田舎ばっかりだからな。あんなことは起こらないさ>
<う~ん……。仕方ないか>

 WO-9は渋々「裏技」行使に同意した。

<よーし。ほんじゃ行きますか。バッタ・モードグラスホッパー!>
<何だか嬉しそうだね……。オーケー。レッツ・ゴー!>

 2人は猛烈な勢いで空中に飛び出した。

<ちくしょー! 燃料があればバッタごっこなんかしねえのによー!>

 ブラストは地上10メートルに達しながら愚痴をこぼした。2人は着地~ジャンプの瞬間だけODのスイッチを入れる。猛烈な踏切により時速は500キロに達し、最高到達点10メートルと地上とを行き来する間に約400メートル進んで行く。

<仕方がないよ。この方法ならODは2.5秒に1回スイッチを入れるだけで済むからね。ほとんど負担を掛けなくて済む>

 疲労というものを知らないサイボーグならではの移動方法であった。この方法なら目的地まで1時間でたどり着ける。

 問題は……。

<おっと、前方に森だ。迂回しよう>
<くそっ、たかが森を避けなきゃならねえとはよ>

<今度は池がある。あれは飛び越えよう>

 着地点に障害物があると、迂回しなければならない。
 運悪く人家を見落としたりすると、踏みつぶすこともあるのだ。

 ブラストが言う通り、飛行能力さえ万全であれば使う必要のない移動手段であった。

 ◆◆◆

<うん? 前方上空に何か見えるぜ。どうだ、スバル?>
<確認した。確かに鳥型だ>

 超音速飛行という極限の能力を実現するため、WO-2のサイバネティック器官は可能な限り小型軽量化されている。そのため一部の性能においてWO-9に及ばない部分がある。
 望遠性能もその1つであった。

<けっ! WO-3がいれば野郎のケツの穴の形まで見極めてくれるのによ!>
<こっちを向いているからお尻は見えないよ。大体セシルは女の子なんだから、お尻の穴とか見せないでよ>
<スバル、お前の言い方の方がよっぽどいやらしいぞ……>
<えっ?>

 敵影を視認した2人は「バッタ・モードグラスホッパー」を終了して、地上走行に切り替えた。

<距離はあと2キロ。計算によると翼長は15メートルもあるよ>
<でかいな。フライドチキンなら何人前だよ?>
<やだなあ、ブラスト。チキンは飛ばないよ?>
<お前、絶対わざとやってるだろう?>

 30秒でサイボーグたちは、魔物の勢力圏に走り込んだ。

「これは……ひどいな」

 WO-9は辺りの惨状を見て絶句した。山間の小さな町が、「怪鳥」に蹂躙されていた。
 木造であろうとレンガ造りであろうと、建物は壊され、あちこちから火の手が上がっていた。

 道には人が行き倒れ、体を引き裂かれた死体も散乱している。

「アイツ1匹の仕業にしちゃあ、随分とご丁寧だぜ」

 言葉とは裏腹にブラストの声が怒りに震えていた。その傍らには引き裂かれた子供の遺体が打ち捨てられていた。

「GyaAAAHssss!」

 怪鳥は町一番の建物である教会の尖塔に止まって、不気味な雄たけびを上げていた。

「耳障りな野郎だ。スバル、本来なら空の仕事は俺の物なんだが、ただいま地上勤務中なんでな。悪いが手伝ってくれ」
「ロジャー・ザット。僕もこいつは許せない。僕が知っている『空の王者』は、こんな奴じゃない!」

 尖塔から動かない怪鳥の様子を見て、2人は奇襲作戦を捨て、正面から戦いを挑む作戦に出た。

 教会に向かう大通りを、身を隠しもせず堂々と歩く。

「丁度良いじゃねえか。時刻はもうすぐ『真昼の決闘ハイヌーン』だぜ」
「ゲイリー・クーパーだっけ? キミはどっちかというとジョン・ウエインタイプじゃないかな?」
「お前はミフネか? 無精ひげくらい生やして来いよ」

「GyaAAAHssss!」

 2人の姿を見つけて、怪鳥が威嚇の声を上げた。

「飛んで逃げられると追い掛けるのが面倒だね」
「あいつが時速500キロで飛べるならな」
「いや、高度の話さ」

「Gyadtt-Gyadtt-Gyadtt!」

 短い鳴き声を連続して上げた怪鳥は、尖塔を蹴って宙に身を投じた。

「さて、おいでなすった!」
「ボクが正面を受け持つから、横から攻めてくれる?」
「へいへい。お前サンの方が力持ちだからな」

「ひがまないでよ。ヒールは奇襲するものってお約束だろ?」
「けっ! 言ってくれるね、ベビー・フェイスさんよ」

 地表すれすれまで翼を畳んで急降下してきた怪鳥が、翼を広げてブレーキングしながら道の中央に残ったWO-9に襲い掛かった。嘴でくわえて上空に連れ去ろうというつもりだ。

「ふんっ!」

 WO-9は自分を挟みつけようとする怪鳥の嘴を、真横からフックで殴りつけた。電光石火のパンチは対格差を物ともせず、怪鳥の首を真横に向けさせる。その隙に、WO-9は怪鳥の首根っこに飛び乗った。

 一方、WO-2は怪鳥の横から空中に飛び出した。ジャンプの頂点で腰からレイ・ガンを抜き、翼の付け根を連射する。

「GyaAAAAAGHHH!」

 翼を撃ち抜かれた苦痛に怪鳥が首をのけぞらせる。

「Go ahead.  Make my day!」

 首の付け根に立ったWO-9がレイ・ガンを怪鳥の後頭部に向けて発射した。
 肉を焼いて貫通する紫の光線。

 怪鳥は死体に変り、地面に崩れ落ちた。広げたままの翼が大通り両側の街並みをなぎ倒す。

「死に際まで迷惑な奴だ」

 レイ・ガンをホルスターに納めながら、WO-9が呟いた。

「決め台詞にダーティ・ハリーは場違いだろう?」

 問い掛けたWO-2の目の前で、何者かの影がWO-9をさらっていった。

「スバル!」
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