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第17話 魔犬 vs. サイボーグ
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「ねえ、技の名前って大声で叫ぶ必要があるのかなあ?」
「当たり前だろ? 俺はお前の国のカトゥーンで勉強したんだぜ?」
WO-2の口元から真っ白な歯がのぞいた。
「クールだろ?」
2人が壊れかかったエントランスを出ると、蹴り飛ばされた魔犬が頭を振りながら立ち上がるところだった。
「お座りと待てができるなら、ケージに入れて飼ってやれるんだがね」
WO-2はつかつかと魔犬に近付いた。
「Gwrrrrrrgh」
牙を剥いた魔犬は、前足を振るって目障りな人間を踏みつぶそうとした。路傍の草のように汁を流して潰れてしまえ!
湿った手応えを期待して振り下ろした前足は、なぜか地上で止まっていた。
小枝のような人間が、片手で下から持ち上げている。
「よう、お手はまだ教えてなかったろう? 俺が教えたのは……」
WO-2は魔犬の前足を片手ではね上げると、一瞬で顎の下まで踏み込んだ。
「『待て』だって言っただろうがっ!」
垂直に跳び上がって、魔犬の顎を拳で真下からぶち抜いた。
腕が簡単に突き刺さらないように、骨の部分を狙って殴っている。
かこんと良い音を立てて魔犬の口が閉じ、鼻先が垂直に宙を向いた。
「『待て』って言ってなかったよ、今」
後ろからWO-9がのんびりした声を掛ける。
「そういうところだぞ、スバル」
振り向いたWO-2は、一瞬後、魔犬の頭上に浮かんでいた。
「細かい男はモテねえぞ!」
体を捻りながら、魔犬の額中央を拳で殴りつけた。
音速を越えたパンチが轟音を発して衝撃波を周囲に散らす。
魔犬の首はぶちぶち音を立てて伸び切りながら石畳に激突した。
雷が直撃したような衝撃と轟音が辺りを揺らした。
魔犬の頭蓋骨は完全に崩壊し、眼球が眼窩から飛び出していた。
「良く観るとブサイクだから、やっぱり飼えないぜ。この犬はよ」
「残念だったね、ブラスト」
「何がだよ?」
魔犬が死体に変わったことを確認して、WO-2はスバルのもとに戻って来た。
「犬好きは女の子にモテるって言ってたじゃないか?」
「ちっちっちっ、わかってねえな。スバル」
「女の子が可愛がるのは小型犬だぜ。こいつのどこが小型なんだよ?」
「うーん……。確かに日本のマンションじゃ飼えないかな?」
WO-9は目の前に指をかざして、魔犬のサイズを測るジェスチャーをした。その目にはレーザー測量器が組み込まれていたが。
「お前の国では何でコンドーをマンションって呼ぶんだ? 恥ずかしくないか?」
「知らないよ。土地が狭いんだから仕方ないんじゃない?」
「大体、人が多すぎるぜ。主に男が……」
魔犬の死骸を前に2人が雑談を始めたところで、王国軍の幹部が部下を連れて走って来た。
「こ、これは……? 一体、何があった?」
まさか剣も持たぬ2人の異国人が倒したとは考えられず、魔犬の死骸を見詰めては世間話をする若者2人と見比べる。
「お、おい! そなたたちは、何者だ?」
「ボクたちは……」
「愛と平和の戦士『ワールド・オーダー』だ!」
待ってましたとばかりに、WO-2が決め台詞を吐いた。白い歯を光らせることも忘れない。
ソニー・フラッシュは自分の信念に忠実な男であった。
「愛と……平和だと?」
ランドー将軍は呆気に取られて、二の句が継げなかった。
「ごめんなさい。ボクたちは奥にいるお姫様に呼ばれて異世界からやって来た戦士です」
申し訳なさそうに、WO-9が説明した。多分この言い方であっているだろうと。
「何だと? 勇者召喚の儀式を行ったのか? では、王女は? ミレイユ王女はどうなされた?」
顔面蒼白になった将軍が、WO-9の両肩を掴んで揺さぶった。本人はそのつもりだったが、WO-9の体はピクリとも動かなかった。
「そうそう。そういう名前だった。そうだよね、ブラスト?」
「間違いねえ。ミレイユと呼ばれていたぜ。紫髪のミッド・ティーンだ」
「王女様は、ミレイユ様はご無事か?」
将軍は焦って尋ねた。勇者召喚とは一命を捧げて行う生贄の儀式であったからだ。
「ボクたちが来た時には短剣で胸を刺していたんで、急いで治療しました」
「何だと? こうしてはいられん! ミレイユ様! ミレイユ様!」
ランドーは慌てて聖廟に向かって走り出した。部下たちもその後を追う。
「ねえ、ブラスト。ボクたちも行った方が良いんじゃないか?」
「そんな気もするな……。とりあえず、差し迫った危機はこの犬っコロだけだったみたいだな」
「アンジェリカの件は説明しにくいなあ。さっきもうまく伝わってなかった気がする……」
走り出しながら、2人は困惑して目を見合わせた。
「まあ、あれだ。いざとなったら、俺に考えがあるから任せておけって」
「うん……。キミがそう言うなら」
◆◆◆
聖廟に戻ってみると、ミレイユの姿はなく、ランドー将軍一団が立ち竦んでいるばかりであった。
「あれ、お姫様いませんか?」
「何だと? 貴様、口の利き方に気を付けよ!」
「ああ、すみません。ダメだよ、ブラスト。敬語を使わなくちゃ」
「厄介だな。えへん、お国の言葉に慣れていないため失礼いたしました」
<これで良いだろ、スバル?>
<グッジョブだよ、ブラスト!>
「あ? ああ、そなたらは異世界からの召喚者だったな。今回は大目に見よう。以後気を付けるように」
「はい。そうします」
「それにしても、王女はどこに行かれたものか?」
「ランドー将軍! 王女のご様子がわかりました!」
「良し! 報告せよ!」
情報収集に出掛けていたらしい士官が戻って来て将軍に報告した。
「はっ! ミレイユ王女は勇者召喚の儀式にて自傷し重体に陥るも、勇者殿の治療により一命を取り留め、ただいま自室に移動し安静にされているとのことであります」
「何、命に別状はないのだな?」
「はっ! 危機は脱し、お話もできるそうですが、明日までは寝台で休ませるようにと」
「誰の診断だ? 御典医か?」
「いえ、王女ご自身であります!」
「何を馬鹿な!」
<ありゃあー、ややこしい感じになってるぜ>
<ブラスト、上手く説明できるって本当だろうね?>
<大丈夫さ、こういうのは説明さえつけば落ち着くもんだからよ>
「将軍閣下、王女様より勇者が戻られたらお部屋までご案内せよとのご指示であります!」
「そ、そうか! わかった。勇者殿、ご案内いたす」
「当たり前だろ? 俺はお前の国のカトゥーンで勉強したんだぜ?」
WO-2の口元から真っ白な歯がのぞいた。
「クールだろ?」
2人が壊れかかったエントランスを出ると、蹴り飛ばされた魔犬が頭を振りながら立ち上がるところだった。
「お座りと待てができるなら、ケージに入れて飼ってやれるんだがね」
WO-2はつかつかと魔犬に近付いた。
「Gwrrrrrrgh」
牙を剥いた魔犬は、前足を振るって目障りな人間を踏みつぶそうとした。路傍の草のように汁を流して潰れてしまえ!
湿った手応えを期待して振り下ろした前足は、なぜか地上で止まっていた。
小枝のような人間が、片手で下から持ち上げている。
「よう、お手はまだ教えてなかったろう? 俺が教えたのは……」
WO-2は魔犬の前足を片手ではね上げると、一瞬で顎の下まで踏み込んだ。
「『待て』だって言っただろうがっ!」
垂直に跳び上がって、魔犬の顎を拳で真下からぶち抜いた。
腕が簡単に突き刺さらないように、骨の部分を狙って殴っている。
かこんと良い音を立てて魔犬の口が閉じ、鼻先が垂直に宙を向いた。
「『待て』って言ってなかったよ、今」
後ろからWO-9がのんびりした声を掛ける。
「そういうところだぞ、スバル」
振り向いたWO-2は、一瞬後、魔犬の頭上に浮かんでいた。
「細かい男はモテねえぞ!」
体を捻りながら、魔犬の額中央を拳で殴りつけた。
音速を越えたパンチが轟音を発して衝撃波を周囲に散らす。
魔犬の首はぶちぶち音を立てて伸び切りながら石畳に激突した。
雷が直撃したような衝撃と轟音が辺りを揺らした。
魔犬の頭蓋骨は完全に崩壊し、眼球が眼窩から飛び出していた。
「良く観るとブサイクだから、やっぱり飼えないぜ。この犬はよ」
「残念だったね、ブラスト」
「何がだよ?」
魔犬が死体に変わったことを確認して、WO-2はスバルのもとに戻って来た。
「犬好きは女の子にモテるって言ってたじゃないか?」
「ちっちっちっ、わかってねえな。スバル」
「女の子が可愛がるのは小型犬だぜ。こいつのどこが小型なんだよ?」
「うーん……。確かに日本のマンションじゃ飼えないかな?」
WO-9は目の前に指をかざして、魔犬のサイズを測るジェスチャーをした。その目にはレーザー測量器が組み込まれていたが。
「お前の国では何でコンドーをマンションって呼ぶんだ? 恥ずかしくないか?」
「知らないよ。土地が狭いんだから仕方ないんじゃない?」
「大体、人が多すぎるぜ。主に男が……」
魔犬の死骸を前に2人が雑談を始めたところで、王国軍の幹部が部下を連れて走って来た。
「こ、これは……? 一体、何があった?」
まさか剣も持たぬ2人の異国人が倒したとは考えられず、魔犬の死骸を見詰めては世間話をする若者2人と見比べる。
「お、おい! そなたたちは、何者だ?」
「ボクたちは……」
「愛と平和の戦士『ワールド・オーダー』だ!」
待ってましたとばかりに、WO-2が決め台詞を吐いた。白い歯を光らせることも忘れない。
ソニー・フラッシュは自分の信念に忠実な男であった。
「愛と……平和だと?」
ランドー将軍は呆気に取られて、二の句が継げなかった。
「ごめんなさい。ボクたちは奥にいるお姫様に呼ばれて異世界からやって来た戦士です」
申し訳なさそうに、WO-9が説明した。多分この言い方であっているだろうと。
「何だと? 勇者召喚の儀式を行ったのか? では、王女は? ミレイユ王女はどうなされた?」
顔面蒼白になった将軍が、WO-9の両肩を掴んで揺さぶった。本人はそのつもりだったが、WO-9の体はピクリとも動かなかった。
「そうそう。そういう名前だった。そうだよね、ブラスト?」
「間違いねえ。ミレイユと呼ばれていたぜ。紫髪のミッド・ティーンだ」
「王女様は、ミレイユ様はご無事か?」
将軍は焦って尋ねた。勇者召喚とは一命を捧げて行う生贄の儀式であったからだ。
「ボクたちが来た時には短剣で胸を刺していたんで、急いで治療しました」
「何だと? こうしてはいられん! ミレイユ様! ミレイユ様!」
ランドーは慌てて聖廟に向かって走り出した。部下たちもその後を追う。
「ねえ、ブラスト。ボクたちも行った方が良いんじゃないか?」
「そんな気もするな……。とりあえず、差し迫った危機はこの犬っコロだけだったみたいだな」
「アンジェリカの件は説明しにくいなあ。さっきもうまく伝わってなかった気がする……」
走り出しながら、2人は困惑して目を見合わせた。
「まあ、あれだ。いざとなったら、俺に考えがあるから任せておけって」
「うん……。キミがそう言うなら」
◆◆◆
聖廟に戻ってみると、ミレイユの姿はなく、ランドー将軍一団が立ち竦んでいるばかりであった。
「あれ、お姫様いませんか?」
「何だと? 貴様、口の利き方に気を付けよ!」
「ああ、すみません。ダメだよ、ブラスト。敬語を使わなくちゃ」
「厄介だな。えへん、お国の言葉に慣れていないため失礼いたしました」
<これで良いだろ、スバル?>
<グッジョブだよ、ブラスト!>
「あ? ああ、そなたらは異世界からの召喚者だったな。今回は大目に見よう。以後気を付けるように」
「はい。そうします」
「それにしても、王女はどこに行かれたものか?」
「ランドー将軍! 王女のご様子がわかりました!」
「良し! 報告せよ!」
情報収集に出掛けていたらしい士官が戻って来て将軍に報告した。
「はっ! ミレイユ王女は勇者召喚の儀式にて自傷し重体に陥るも、勇者殿の治療により一命を取り留め、ただいま自室に移動し安静にされているとのことであります」
「何、命に別状はないのだな?」
「はっ! 危機は脱し、お話もできるそうですが、明日までは寝台で休ませるようにと」
「誰の診断だ? 御典医か?」
「いえ、王女ご自身であります!」
「何を馬鹿な!」
<ありゃあー、ややこしい感じになってるぜ>
<ブラスト、上手く説明できるって本当だろうね?>
<大丈夫さ、こういうのは説明さえつけば落ち着くもんだからよ>
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