歴史酒場謎語りーー合掌造りの里五箇山と硝石

藍染 迅

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七杯目 証拠は指し示す。

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「あと残り少しだ。また東にちょっと進むと『籠渡白山社かごどはくさんしゃ』がある」
「白山社とは聞かないな」
「祭神は推定で「菊理姫神くくりひめのかみ」。伊邪那岐と伊耶那美が喧嘩をしたときに仲を取り持った神様だそうだ」
「まとめたから『括り』なのかな?」
「神様のエピソードとしては弱いよね。これは俺の妄想なんだが、イザナギってのは男神で武力を押し出した出雲族のイメージ、イザナミってのは女神で温厚な農耕民である大和族のイメージを背負っているんじゃないのかね?」
「夫婦喧嘩は、出雲対大和の抗争だという?」
「そう。それを平和に収めたという出来事があって、菊理姫はその象徴じゃないのかな。そう考えると、これもまた土師氏が大和朝廷への帰順を形に表していると」
「土師氏を示す決定的な証拠はないが、山岳系の民が朝廷への帰順を必死に表明していた感じは漂うね」
「そして最後。白山社の北に『少彦名社すくなひこなしゃ』がある。これまた有名な『少彦名命すくなひこなのみこと」の登場だ」
「常世の国からやってきた小さいけれど知恵のある神様だね」
「どこかの名探偵みたいだけどさ。大国主の義兄弟として常に行動を共にし、国造りを補佐するという役回りだ」
「属性が多いよね。医薬や温泉やまじない、穀物や知識や酒造の神だと来た」
「も一つオマケに、石の神ってのもある」
「これは文句なしに土師氏にピッタリだ」
「なあ先生。状況証拠ばっかりで決め手はないんだが、これだけ揃えば土師氏の存在を認めても良いんじゃない?」
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