歴史酒場謎語りーー合掌造りの里五箇山と硝石

藍染 迅

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五杯目 落人伝説。

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「五箇山は人里離れた山の奥でさ。平家の落人が住み着いた里だなんていう伝説もある」
「何故か平家は日本中どこにでもいるね」
「うちの先祖は元を質せば……なんてことを、みんな言ってみたいんじゃないの?」
「お前んちなんか神様スサノヲだもんな」
「うちのことは置いといてさ。嘘から出たまことってこともあるじゃない?」
「本当に落人だった可能性か?」
「そう。ただし、平家じゃなくて土師氏のね」
「ふうん。随分と都から遠いが……」
「山口にだって土師氏はいるんだから、富山くらいはイケるでしょう?」
「イケルはイケるだろうが、そう考える根拠は?」
「操作は現場百遍ひゃっぺんってね。現地に足跡が残ってるのさ」
 そう言って、須佐はポケットから小さく折りたたんだ地図を取り出した。

 まずこれが一五四〇年代頃の勢力地図ね。こっちが現代の都道府県地図。五箇山の場所は大体能登半島の真下辺り、富山県がちょっとへこんだエリアだ。白川郷はその真南で岐阜県側ね。
 戦国時代の地図で見ると、ここら一帯は本願寺の支配地になっている。一向宗って呼ばれてね。当然本願寺領では一向宗、つまり浄土真宗の信者が圧倒的に多かった訳さ。
 だけど、五箇山エリアは本願寺領の端も端。朝倉や畠山、三木に囲まれた狭い地域になっている。支配帰属もあやふやだったり、境界紛争が起きたりしたんじゃないか。
 というか、「五箇山は本願寺領」という答えを持った上で現代の人間が線引きをしたのがこの地図でさ。こんな山奥、誰の支配地でもなかったんじゃないのかねえ。
 そんな場所に菅原氏の末裔か、所縁ある一族が住み着いたって可能性はあるんじゃない。もともと土師氏は山の民なんだからさ。
 そうそう。足跡の話ね。しっかり残っていますって。
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