愛が重いなんて聞いてない

音羽 藍

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駆け巡る普天率土の章

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「ふん、今頃この女は血祭りになっているだろうな。」

似ていない鈍い銀の髪と……ほんのりどこかややシア似た顔立ちで、男の声で話しているユアルラータは、腹に矢を受けて、倒れ込んでいた。

足元は血溜まりとなりながらも、彼はナイフで己の胸を刺したらしく、目を虚になりながらも喋っていた。

「……どう言う事だ?」
「俺には心の底から服従している"御方"がいるのさ。今はその方が向かっているだろう。この女の所へな。」
「それは無理だ、学園内は第三者が入り込めない。」
「ふ、だから……ごほっ……俺達は手を出せなかったいや、
「は?」
「見張らせていたネズミから通達があってな。女がノコノコと聖地の麓にある街へと現れたそうだ。あはっ……ごほっごほっ、今頃女は喰われて……ぐほっ」
「くそっ、もう1人いたのかっ」

あの時彼女に何人いるか?はそういえば、聞かなかった。

シアも何人居るかは把握していないと思ったからだ。

なにかを気にして、俺の体調をなぜか異様に……



「あの御方は懐古病だ……もっと強く慣れればと……人の道を外れた……ぐふっ口が止まらない……やはり薬を塗ったのか……」
「この剣にはないな。矢の方にだな。自白剤と麻痺毒だ。」
「ぐっ……王族が……毒を使うとは」
「なんだ、そんな妄言を吐くとは。俺は昔から……ジークフリートの頃から何でも使うぞ……望みの為ならばな。」
「ぅ……ならば貴方は……」
「そうだ、前世はそうだったけどな。今世は王にはならない。死にゆくお前には関係ないがな。」

毒を塗られたと気がついた瞬間に、胸に隠し持っていた小ナイフをそのまま自らの心臓を刺して奴は自殺したのだろう。

トラップと数人の追ってがいた為、それを潰して対応していたら、ここに来るのに時間がかかり、間に合わなかった。

ポーションで血を止めようとは一瞬思ったが、自ら死にゆくならばちょうど良いかと嗤った。

既にガクンと事切れたのか、動かない死体となっていた。

「シア……今まさか外にいるのか?」

あいつ、ほんと俺との約束を破ったのか……
そう思えば、心の奥底から湯水の様に溢れ出してくるタールの様にドロッとした止まらぬ執着、狂気と思える程の満たされぬ愛の飢えに身を焦がす。

何故にシアは俺と"約束"した事を無視して出て行ってしまったのか。


……彼女を俺しか行けない地下室へ誘いたい。

ぎゅっと手を握りしめて奥歯を噛み締める。
自ら危険な場所へ出掛けた事に少し怒りが込み上げる。

気が鋭敏になり、"約束"を破った事への怒り、彼女がまた失われるのではないかと、ジークフリートの時に味わったとても筆舌にし難い二度と味わいたくない番の突然死があるのではという不安。

"儀式"という名目で、体液と魔力の接触をする事で番同士は無意識下で契約をして、番は魂と魔力で繋がっている。
その繋がりを失うのは、精神がいとも簡単に狂い、穴の空いたザルに水を注ぎ続け入れる様な虚無と何処にも番の魂がないという事実を再確認し続ける孤独に包まれる。

天を仰ぎあの悲しみを思い出しそうになり、嘆きに呼応して無意識の内に魔力が解放され、グルルルルと腹底に響く竜声が漏れ出る。

心は愛と不安に引き裂かれ、竜化中の何でも出来そうな気がする強い万能感が込み上げてきて、ミシミシと地面がヒビ割れていき、狂った様に高笑いした。

冬だというのに気温が上がった気がした。

……結婚する頃には彼女はずっと家にいる。時折、聖域にあるあの図書室に学園経由で行くかもしれないが。

後少しの辛抱で、長い竜人生は彼女とずっと一緒に居られるのだと思えば、奮い立つ様な魔力の上昇していたのが少しずつ意識が戻り、理性が戻る。

「だから家に戻ってくれと言ったのに……シアどうか無事で」

握りしめた手のひらをそっと開き、腕輪の方へ視線を向けた。 
戦闘中で一時的に切っていた報告を再開しておかなくてはと、グルルルと喉がなり、腕輪の光は一定の方向へ指している。


シアの居る方へ……















「ねぇ…竜姫様、どうして此処にいるのかしら?」
「なんでここに居ては行けないの?私はに戻ってきただけよ。」


私は彼女に問いかけられた事に、トリガーである答えを言い伝えた。


目の前にいるピンクの髪で、キリッと凛とした美人な女性の髪が魔力の風を纏い、目の前の彼女は周りの付き人の静止を振り切り腕輪から取り出したソードブレイカーを引き抜き、私へと向ける。

これはフラグを建てたが、やはり彼女はゲーム通り引っかかってくれた。

周りで叫び逃げ惑う人々に、申し訳ないけれど、これで私の正当防衛は確立されたのだ。

衛兵を呼びに行ったのか、助けてと何かを叫ぶ声や逃げろと人族の耳が遠い老婦人を諭す青年の声が聞こえる。

目線の後少し先に、聖地へと続く門とその先には通称表と呼ばれるの祭壇があるはずだ。

惹かれるけれど、其方へは行けない。
血で汚してはいけない。

見てみたいとは思う。
きっと……ユリウスと共に、行くかも知れない。


……彼が許してくれれば。


早く彼が気がつく前に……片付けなければ。

彼がきたら、私の誘導へは引っかかかってくれなくなる。


「やだ、怖いわ。」

私は棒読みになってしまうが、逃げる様に軽やかに人気の無い方の外へと向かう。

「《浮遊》、《追い風》」
「まちなっ、さいっ!」

足に風の魔法をつけて、周りで心配そうに付き纏う精霊の力を借りて、浮き上がり家の屋根へと舞い上がる。

風と炎は彼女の領分だ。
正面からぶつかれば、剣術も鍛えても居ない私より彼女に有利だろう。

だがしかし、魔法や精霊に関しては竜姫としての私は少しばかり……利がある。

私は優雅にふわりふわりと追い風に煽られながら外へと向かい、屋根の上を走った。

ハイヒールでなくて良かった。

足が死ぬ。

高さを考えればゾッとするが、そこは精霊が守ってくれるし、竜化しても良い。

あぁ、なるべく街には被害を出したく無い。

金銭的にも彼や実家(公爵家)には申し訳ない。
それに私の下敷きにでもなったら、その番や家族達に顔向けできない。


直ぐ後ろを並走する彼女の荒れ狂う気配を感じながら、時折風の刃の魔法を軽く避けながら、ようやく見えた壁に安堵して其処にいた見張りの兵士にウィンクした。

「ごめんなさい、少し追われててっ」
「へ?……んでっ」


彼は屋根の上を走る令嬢に困惑していたのを横目に、私は地面に降り立ち丘の上へと走る。

畑は薄い雪に積もっており、今暴れても問題はなさそうだ。


足をなるべくぬかるみに取られない様に急いだが、そろそろ追いつかれそうだ。

「……やっと…….足掻くが良いわ、私の望みの全てを奪った貴女はっ!血の一片も喰らって糧にしてやるっ……お父様見てて、私は喰らって更に強くなるわ!」

彼女の目は赤く燃え上がる様に爛爛としており、不吉な赤い光を発している。

これは同竜族喰らい慣れの果て……懐古病のその果て。

私は竜化すると、私の身体は大きな体躯へと変わり、クリスタルの様な美しい銀色の甲殻となり、後方に向けて複数の細く鋭い角は捻ねじり葉冠の様に伸びるクリスタルの様な複雑な角は濃いまるで海の底の様な深い蒼角は先は輝く銀の煌めきを放つ。

背に戴く翼を大きく風を掴む様にゆらりと動かして、目の前で竜狩りだと笑う彼女にむけて、羽ばたけば、一際常人が立てぬ程の強い烈風と吹雪が巻き上がる。

ぱりぱりとまるで凍土の煉獄の様に凍りついていく。
深々とした気温が巻き上がり、彼女は風の魔法で自身の周りを保護しようとしたが、既に足や服はまるで凍土でいる様に凍りつき始める。

私の意識は、早く目の前の女を倒さねば、彼がきてしまうという焦りから、凍傷で死なせるよりも、裂傷や氷のブレスの方で葬る方が良いと判断する。

精霊達が周りで自分たちの力を使ってくれとさわさわと動いてきて、私の力の底上げをしてくれる。

「くっそっ、やはり原初に近いとこうも……ヒッ」

彼女は唇も凍りかけてきたのか、喋る度に血を垂らして、そのまま凍りつきながらも自身に炎の魔法で中和しているが、苦戦している様だ。

精霊達の大半は私に味方しているし、力は貸さないだろう。

精霊が力を底上げした結果、その槍のように鋭く尖り氷槍となり伸びた尻尾は地面にすれすれを駆け抜けて、駆け寄ろうとする女へ向けて薙ぎ払う。

凍りついた地面を駆けていた女は、ソードブレイカーを持ち、尻尾を避けようと周りを見渡しているがここは丘でであり、何も周りに遮蔽物がない事に気がついたらしく、顔を歪めた。

私は精霊と自身の魔力で練り上げた氷の雨を降らせる為に集中しつつ、もう少しで当たるといった所でエスタレーラが風の魔法で自身を高い位置まで浮遊させて尻尾をさけた。

「これでっっ」

近寄ろうとするエスタレーラに向けて広範囲の氷の雨を降らせた。

ドシャバリバリバリと先の尖った氷は落ちていき、逃げ場所を失ったエスタレーラは魔法を使い避けようとしたが避けられないと判断して竜化を始めた。

「おのれ、奥の手を」

彼女の瞳は血の様に赤く光り、桃色の甲殻が黄昏の光に当たりながらも、上から降り注ぐ氷の雨を弾いていたが皮膜を突き刺さったのか、途中で耳を塞ぎたいと思う様な甲高い竜声を上げた。

私はソレを待っていたと、尻尾を地面に叩きつけて氷塊を降らせる。

突如として、現れた氷塊に対処を迫られたエスタレーラは爪で弾いて、尻尾を振り上げ、駆け寄ろうとこっちへ向かう。

それならばと思いながら、ブレスの準備にしようとして視界の片隅に、街を守ろうとして城壁を上に立ち騎士団の団長だろうか?精悍な顔立ちにグリーンの髪が印象的な青年が立ちコチラを見ていたのと目が合う。

彼が剣を掲げ、テノールの美しい歌声が、遠く離れた私にまで響いて聞こえた。

これは《拡声》の魔法を使っているだろうが、美しい声だと思っていると、城壁の周りや上空へと魔法城壁が張られていくのを見て私はぐるるると、安堵の声を上げる。


一応方向的にもしエスタレーラが避けた場合街へ到達する可能性もあり、私は遠距離ブレスを止めようとは考えた。

近距離の広範囲へと散らすブレスをしようと思ったがエスタレーラの竜体が近寄り、私へと爪を振り上げていた。

かかったな……


私は好奇に上空に忍ばしていた氷塊の槍を落として、更に避けられぬ様に近距離の広範囲へと散らすブレスを吐いた。

精霊達がブレスを強化し、エスタレーラの足元を氷漬けにしていき、ぎょぁぁっと情けない竜声を上げてブレスをもろ被りしながら槍が貫いた。

背中から腹部へと大ダメージを受けた彼女はしおしおと竜体を維持できなくなったのか、ソードブレイカーを持ちながら地面に伏していた。

凍傷になりかけているのか、彼女は動こうとして身体を動かそうとして自身に炎の魔法を纏い、私をまだその瞳に赤い光を纏い見上げていた。

私は彼女に最後の鉄槌を下そうとして、尻尾を構えた。

ぎゅぁぁぁっ

まるでそれは泣き叫ぶ様な悲痛な咆哮を上げて、どしんと音がして首を向けるとそこには金竜が私を見ていた。

ユリウスが来てしまった。

私は早く始末しなければと、思って尻尾を彼女へと伸ばした。


















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