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薄氷上のダンス

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 夜であり、ランプの光が部屋を照らしており、ベッドから薄く香る彼の匂いが懐かしさと此処には居ないという事実が物語っていた。

 なるべく2人きりにならない様にとユリウスに伝えれば大丈夫だろうか。

 それに彼が私に伝えてなかったのは……

ユリウスの帰宅いつ頃になりそう?という質問に対してユリウスの返答は
『もうすぐ』
とだけであり、短い文章だった。


 ……私がいつも勝手に行動するから、信頼していないのかもしれない。

 そう思うと、少し彼から壁を感じたのだ。

 いつも……私に内緒にしているのも。

 そう思うと私は……

「なんで……ユリウス……私に教えてくれなかったの?」

 そう声に出していた。


 彼は優しくて、私を此処においてくれるけれど、教えてくれない事は多い。

 もちろん、仕事上機密事項で教えられないものは仕方ないと理解しているが、彼の個人的な事を聞いても、教えてくれない事もある。

 私は……本当にこのままで良いのだろうか?

彼の事が知りたいが、彼の肉親はほとんどが他界しており、聞くのは難しく、唯一親戚である祖父の竜王やその王妃のみだろう。

だが、そんな些細な事で会いにいくのは相手の身分が高過ぎるし、今は世代交代の為で忙しくしているだろう。

仮に良くても、彼が何の様で行く?と聞かれそうな予感がする。

私は今となっては、ユリウスに会いたい様な会いたく無い様な微妙な気持ちになっていた。

そんな些細な事で悩んでしまっているのも可笑しいと思いながらも頭の片隅でそれが残っていた。

……それが小さな疑心となり、その小さな棘が、いつの間にか心の奥底で大きな傷となっていった。

 そんな事はない、たぶん忙しかっただけで、文の途中で送ってくれたのかもしれない。

ユリウスは私をたっぷりと愛してくれている。

 私を守る為に、此処に居てくれと言っているのだと頭は理解しているのに、悪い方向へしか考えが向かない。

 寝ればまともな思考になると思いベッドに横になり、毛布を被るがしばらくユリウスと会いたく無いという心が強まってしまった。

 ……これはたぶん彼から離れているから不安になっているのだと、そう思い、私は疑心の種を心の奥底に蓋をして押し込んだ。

ちょうど彼が居なくて良かった、変に当たってしまうかもしれない。

少し……寝て気持ちを落ち着かせれば元通りになると自分の心を落ち着かせていた。

「忘れよう……みず……」

 喉が渇き、起き上がりピッチャーの方へ視線を向けると、もう一杯も注げられないくらい少ない水量だった。

「くむの忘れたわ……」

 上に軽く羽織り、ピッチャーを持ち部屋を出た。

「そうよ……忙しかったのかも……だめね……はぁ……ユリウスがまだ帰って来てなくて良かったわ。」

 リビングから廊下へ行こうとすると、ガタンと音がした。

 バルコニーに、何か降ってきた事がわかり、ヒッと驚いて声をあげた。

 私は不審者かと思い、廊下の方へ逃げようとしたら、がチャリと開いた瞬間流れてきた匂いに安堵と共に戦慄した。

「……ユリウス?」
「あぁ、ただいま……なんとか間に合ったか。シア何処へ行こうとしているんだ?」
「ふ、不審者かと思ったからっ……それに水を……」
「あぁ、あいつらに助けを求めようとしたのは理解しているが……」


「……戻ったか、良かったな。上空から来たからそうだと思ったが一応来たが……竜化して此処に降り立つのは上から咎められるだろう。ユリウス、無理をしたな?」
「……火急の用で急いできたが、それに嵐になりそうだったからな。あらかじめ降りるのは伝えてある。」

 逃げたい。

 私はその事しか頭になく、扉を開けてゆらりとまるで幽霊の様に立っている彼はいつもよりピリッとした魔力が漏れている。

外はゴロゴロと雷が聞こえて、天候は悪い。

最近は天候不順であり、収穫期は終わっているが下手したら吹雪になるかもしれない。


 ガチャリと薄く開いた扉の向こう側には、リーンハルトがいて廊下からリーンハルトの声がして、気を取られていると、背後から抱きしめられて驚いた。

「あぁ、任務は終了で良い。」
「だったら帰って良いな?小隊の部下もその方が休まるだろう。」
「それで良いが、嵐になる。また頼む時もあるだろうが……雷に気をつけろ」
「あぁ、急いで城に戻る。穏便にしてやれよ……程々にな。」
「それは……加減は理解している。」
「友からの助言だ、またな」

 彼は何事もないというように去っていき、廊下側からは見えない位置に私はいるが、その間も部分的にユリウスは竜化しているらしく、彼の尻尾が私の足先まで絡まり、彼の竜化した左爪が服をビリビリと少しずつ破っていく。

彼の爪が私の身体に傷をつけるのではと冷や冷やとしながらも、彼になら殺されても良いかもしれないと薄っすらと思いながらも番の匂いに酔い思考は散漫とした。

だけど、この服と下着はユリウスに貰ったものだから少し破壊されて残念だ。
思い出の品なんだけど、だからそれを思えば、少し怒りもある。


 彼等が去っていったのか、廊下へ続く扉から聞こえる音は静かになった。

「………ぁっ………ぃ」
「さて、シアはこんな……震えてどうした?」
「なんでっ、破ったの!?」
「すまないな……気が昂っている。君を少し長く抱いてないから冬も近いから止まれない。これでも少し理性が……残っている方だ……」

 私はぶんぶんと首を振り、そして逃げようとするが、震える事しか出来ずにいた。
まだ、ザクザクと彼の爪が服をやぶり、私の服は無惨な形と成り果てた。

「シア……俺の方を見てくれ。性急に求めて破ってしまった……のはすまないが……」
「……なにかしら?」

私は少し険のある声で、振り返るとユリウスの表情は薄暗い室内の中、時折光る稲光に照らされた彼は端正なその顔を赤く染めた艶めく表情で何かを堪えた様にだった。
熱の籠るしっとりとした青の瞳から目が離せない。

外の雷は極端には怖くはないが、生物的に少し肝を冷やす。

「……まだ昼間は護衛付けていたから……少しは許してあげようと思っていたが……何を昼間に会っていた者に吹き込まれた?」
「ち、違うわ、ユリウスが心配する様な事、特にないわ……ただお喋りしただけっ、それに今は水を……取りに行こうとしただけっ……ひっ」

 私の上の下着は破かれてただの布切れとなり、彼の手が入り込んできた彼の手が、胸を揉んで爪を立てられる。
ようやく魔法が解けた様に目から離して、少し離れていたからか、彼から番の香る匂いに私は、高揚として、ぁぁ、んっと艶めかしい声を上げて、挙動不審になっていた。

再び見てしまったら、止まれない気がして、ユリウスの瞳を見れなくて下を向いていたら、顎を掴まれた。

「ピッチャーは空っぽだな……明日でも良いと思うが……しょうがないな。だが、他に何処かへ行こうとしているんだ?」
「えっ、そこはっやだっ……なんでっ」
「……知っている、君が黙って何処かへ行こうしてるのは。なぁ……嘘はだめだろう?……シア次嘘ついたら……昼間に中庭で愛してあげる。ふっ、それとも地下室へ行こうか。そうだな……明日は休日だったろうし、明後日学園のテスト受けたら当分は選択授業は終わりだよな?その後は各自の自由だと聞いている。テスト終わった後逃げようとするなよ。俺はとても……"約束"を破ろうとするシアに怒っているのだから。」
「ひっ」

 私はユリウスから離れたいと心の底から思ったのかもしれない。

 顔が近づき唇を舐められ、彼の舌先がこじ開けようと唇を舐めている。
 私は嫌だと逃れようとして、背後へ下がると壁に当たり、彼の手が壁へ押し当て、足を彼に挟まれて接触している事でこれではホームへは逃れられない。

 少しの間離れた事で口を開けた瞬間に、口腔へと入ってきたそれにちゅっと吸われる。

 待ち望んでいた彼に与えられたこのキスは嬉しいけれど、舌が離さないという様に引っ込めようとした舌を引っ張り絡められた。

 んっんっと私の甘い息継ぎの度に漏れ出る声は熱を帯びてきてしまった。

 彼がもぞもぞとなにかしている。

早く離れなくては。

 かちゃりと首にかけられる冷たいなにかが付けられて、魔力や神力が操れ無い事に気がついた。

 さぁぁっと血の気が引き、ようやく離れてくれた彼の冷たい視線と澱んだ青い瞳は低く笑い、私の顎や頬の端のフェイスラインをゆっくりとまるでくすぐるように撫でた。

「さて、俺の可愛い……とても可愛いくて愚かなシア。俺から逃げられると思ったか?ベッドに行こうか。」
「ぃやっ……ぁあっ」

 彼は自身の着ていたローブを煩わしいという様に、脱ぎ捨てた。
持っていたピッチャーは、彼に取られてテーブルの上へと置かれて、背中と太ももを抱えられ運ばれる。

彼が手を振ると、自動的に扉や鍵が閉まり始めていき、私がぷるぷると震えながらも、逃げようとジタバタと暴れた。

「……もう屋敷内部には居ないか。」

 彼の声は、どこか遠くを探っているのか、違う方を見て言っていた。

寝室へと入り、彼が乱雑に足で扉を締めると、逃げ場などどこにもないだろう?と言う様に強く抱きしめられる。

 ベッドの上へ下ろされて、私は少しでも逃げようと這いずりながら、ベッドの上を移動したが彼に抱えられてしまい、手から逃げようとしたが足を掴まれてしまった。

「シア逃げないで……」
「やめてっ……今日のユリウスは怖いわっ」
「シアこそ、若干冷たく無いか?」
「私は眠たかったし……ユリウスに貰ったお気に入りの服を破かれて嫌だったの。」

半分はそうだ。
半分は違うけどね。

あの夜着と下着はお気に入りだったから、残念である。

「わかった……少し頭を冷やしてくるから、シアはなんで俺との"約束"を裏切ってその後、嘘をつくのか、真実を伝えてくれ……後は破ってしまってすまない。本当は……いやなんでもない。」

 ユリウスの顔が見れない。
 私はベッドに倒れ込んだまま、彼に裂かれた服の欠片が床に落ちて、それはまるで私の心の破片の様に見えた。

ただ彼が離れていき、バスルームへと行った音が聞こえた。

 このままでは、いつぞやの二の前では。
 私はどうにかして脱出したい。
 首元へ手をかけると首輪は力では外せず、魔力は操れないので竜化出来ない。

 ちゃりちゃりと軽やかな音が聞こえるだけだった。
番の匂いでぐったりと私は酔っ払いの様にベッドに突っ伏して、理性は少しあるが身体は言うことを聞かずに貧血の時の様に感じる重い身体だった。

少し経ち、のろのろとようやく彼から離れた事で、思考が纏まり身体を動かした。

 なにかないかとサイドテーブルの上を見ると、ペンがあり首輪の微かな間へ入れて破壊しようとした瞬間、ぞわりとまるで背筋を舐められる様な感触に身を震えた。

「シア……だめだろう?危ない事をしては……これは没収だ。」

 首輪の間に入れていたペンをとられてしまい、彼と触れる身体からはピリピリとした静電気の様に彼の魔力は怒りを示していた。


肌に落ちてきた水分の感覚から彼が急いできたのは明白だ。

「ほんと君からは目が離せない。まだ持っているか?」
「……っ」

 触られた事で震え、逃げようとしたが、彼は私を押し倒して、手を取られてしまいジッと視線を感じる。

「ぅっ……」
「シア、止められそうにないんだ。」

 ユリウスはなにか小声で言うと魔法で乾かしたのか、水分が消えていき、サラサラとしていた。

 そして、相変わらず番から香る匂いに私は引き寄せられ、意識は微睡む。

 耐性がつく気配もない。

 原初に近いと番の効果は高いと言われた事を頭の片隅で思い出しながら、私は逃げられないと観念するしかなかった。

 早くユリウスが来た瞬間に逃げるべきだったのだ。
 ずしりとベッドの上に乗り、私の足先で座った彼は薄いバスローブのみの格好なのだが、それも似合っていたと私はこんな状況下なのだが思ってしまった。

「それで……シアはなんで破ろうとして、何処へ行こうとした?」
「許してとは言わないから……ただ少し外に出たかった……ぃたっ」
「嘘は駄目だと言っただろう?それとも性急に俺に犯して欲しいか、嫌だろ?君を傷つけたくない。俺はこれでも今すぐにシアを押し倒したい欲と戦っているんだ。それにシアに嘘を吐かれて……それとも俺は……そんなに頼れないか?利用しろと言ったはずだろ?あの時も。」
「………申し訳ないわ。私は……」
「離れるとか言うなよ。そんな事言うなら、シアを抱き潰す……起きても直ぐに抱くからな?嫌がってもする。寝ても起きても……」

 ユリウスに手を取られ、下を向いていた私は彼に私が考えていた事を先に言われてしまい、驚いた。

それに彼が知っているのは、私が彼と話したから、リーンハルトに聞いてしまったのだろうか。
それなら、彼が私が何処へ行こうとしたのか知らないのだ。

彼は、時折変化しかけているのか、ゾッとする様な竜の唸る様な低い声と熱のある視線を向けられて私は足をモジモジとしながらも、番のむせる様な誘う匂いを吸い込み、はぁっと荒い息になる。

「……前にも言ったのを聞いて理解してないのか?俺は許さないからな。」

 彼の手は微かに震えており、小声でリディアと同じ目には逢わせないと呟いていた。
ユリウスはリディアの時の様に手の届かない場所へと行ってしまうと思っているのか、心配している様だ。

「ユリウス、違うわ。私は嫌ってはいないし、まだ死にたく無いからそれはないわ。」
「なら、ちゃんと目を見て話してくれ。ずっと俺を見ていない。それとも離れていた間に……」

 ゾワッとする様な彼の魔力の気配に、視線を上げて彼の背中や頭から角や尻尾が現れしまい嫉妬にかられているのがわかり、私は目を見張った。

「ちが、ちがうの!私はユリウスが……愛しているからっ……行こうとして……はっ」
「ん……?」

 失言をしたとわかって、彼に取られた手を引き抜こうとしたが逆に引き寄せられ、彼の尻尾が足に巻きつく。

「シア……どう言う事だ?」
「なんのことかなぁ……」
「本当は使いたくないが、君が変な所で頑固だと言う事はわかっているから、買っておいて正解だったな。」
「……へ?」

 私は目の前で笑う半竜化した彼が行おうとしている事に背筋に冷や汗が止まらなかった。





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