愛が重いなんて聞いてない

音羽 藍

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駆け巡る普天率土の章

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「で……君がシアだと?」
「そうよ、少し遊びたくてここに来ていたけど……」

目の前にいる阿婆擦れは、微笑んで俺を見上げていた。
胸の前で手を組み、媚びた声をして目を潤ませて宿へいきましょ?と声をかけて、手を差し出してきた。
それを見て、ため息しか出てこない。

なにもかもが違う。
嫌悪感しかない。
シアに似せてはいるが、シアとは言えない程に低クオリティの偽具合。

あぁ、そうか。

能力限界かと気がついた。
こいつは元々男だから真逆の性質にある女になるのは能力限界が低目なのだろう。
さすがに性別の壁を越えるのは難しかったのだろうか。


「シアの髪はもっと美しい。光に溶けてしまう様に……新雪の輝きの様に涼やかだ。日の当たらない所では青みが増している。切り取って持ち歩きたいぐらいだ。瞳は紫色で虹彩の端がわずかに銀色に光って見える。光が当たると宝石の様に美しい。表情も俺を見上げてくる時は恥ずかしそうで、でもな……若干期待しながら見上げてくる時の表情は筆舌しがたい喜びがある。良い足りないぐらいだが、お前には一生理解しなくていい。さて、それとも今直ぐ剣に貫かれて死ぬか?それとも……助命するか?」
「なんで!?わからないの?」

胸の膨らみも違う。
シアの美しい女神像の様に蠱惑的な膨らみは、とても触ると柔らかくお椀型のハリのある魅惑的な胸。
シアの峡谷は俺を魅了する。
ついつい夜中や朝など、彼女が起きていない時に顔を埋めたり、触っている事は気がついてないだろうが。

たゆんと下着なしでいると、動く度に揺れて俺の目はそこから離せない。

彼女は重いし、邪魔よ?と少し煩わしそうに顔を歪めていたのは仕方ないとは思う。

胸を目立ちたくないと、時折胸を隠したい気持ちからだろう、猫背になる時がある。

講師からも猫背を直しなさいと指導があった彼女の祖母から聞いた。

一目の無い所で猫背でのんびりと本を選ぶ、背中も愛おしい。

見られたと俺が来た事で治そうと背筋を伸ばす彼女に俺は構わないと告げて愛したあのひと時もまた……


それに彼女は、こんなにもスタイルを強調するわかりやすい格好はしない。
仮にしてもそれは、俺が頼んだ時ぐらいだ。

谷間を大きく見せている青いドレスは見かけは遠くからは美しいが、近くで良く見れば劣化物だ。

宝石、それともガラスか、じっくりとは見ていないがゴテゴテした装飾品は彼女は好かない。

こっそりと彼女が俺と似た挿絵の男の配色の絵本や小説を持っているのは知っているし、かかさず彼女が買った物は隙間の時間などに読んでいる。

シアはバレていないと思っているが知っている。
俺が居る時に読んでくれと言ったのに、こっそり読んでいるのは昨日たっぷり愛したので帳消しにしたが……

あぁ、俺の事が好きで、鍛錬を覗くのも好きらしく、それを知られるのが恥ずかしいのかこっそりと窓から俺を見ている健気な所もある。
振り向くとわたわたと隠れて、じっくりと側で見て良いのにと伝えると顔を赤くして恥ずかしがる所も初心で良い。
もう何度も……愛し合って彼女の知らない身体の部位はないというのに。

時折ジャンクフードが美味しいと、下町へこっそり友人と出かけて、若干太るのを気にしているか、それは俺と……夜に運動すれば良い。
太ると言っているが、俺からしたらシアの美しさに変わりはないのだが、女性ならば気になるところだろうか。


目の前の劣化品を見れば見る程に明らかに違う。
彼女は恥ずかしがり屋で、ややそれにツンデレ混じりだ。
自身から連れ込み宿に行こうなど、絶対に言わない。

「ぐっ、仕方ねぇ」
「ようやく本性を表したか、ユアルラータ」
「その名前まで知られているならば、俺の事など調べは済んでるみてぇだな?それに……神々の落とし物を手に入れようとしたが、そこにあるじゃねぇか。」

俺の剣を見た事で、それはそうだが、上げるつもりもない。
目の前でシアの偽物の姿で、ユアルラータは下卑た表情で笑った。

シアが気にする程ではない。

しかしながら、俺の姿の偽装して一瞬シアを期待させたのは罪が大きい。
……王族の姿を祭事でもなく真似たのならば、本来ならば公的に裁くのが良いのだろうが。

早めに滅ぼしておいた方が身の為だ。

それにこの剣は、この世界に現存している中で、唯一無二の剣。

「俺は神の娘とか伝説とか、信じていねーかったが、本当の様だな。」
「この剣は渡さん……」

珍しいスキル《鑑定》を持っているらしく、これを見ただけでシアの素材と判断するのではなく、《クラウディア》の方を指しているので、やはり侮れない。

短剣を隠し持っていたのか、それを片手に持ち構えたユアルラータは笑いながら、俺の方へと素早い走りで近寄ってくる。

彼は諦める気配はないと判断し、剣を構えた。

「だったらッ!……このシアって女は、あの神の娘に似ているんだろう?シアの竜化した姿から剥ぎ取れば……」

ユアルラータは短剣を振り翳し、斬り込みながら俺を嘲笑した。
俺の愛するシアを痛めつけると言ったユアルラータの発言に、俺はぶちっとなにか俺の中で理性が吹き飛んでいった。












「ん……これユリウス読んだのかしら?」

ユリウスが出かける為なのだからか、少し早めの起床だったので、家を出発する前の僅かなひと時、私は本の間に挟まっていた彼の抜け毛を手に取り、摘んで笑いながらサイドテーブルの方へ置いた。

私好みの官能恋愛小説なのだが、彼の毛がある通り読んだのだろう。

「……隠しておいたのに……バレていたのね……」 

彼の前で読むのは流石に控えて隠していたのだが、バレていたらしい。

でも聞いたら読んでいたのわかってしまうし、ハッ同じ本のを読んでたと説か?と思った。

……いや、しおりとして挟んでいた物は同じだ。

「一緒に置いておいたアレもソレもバレているって事じゃない。」

少し挿絵の青年が若干ユリウスに似ている本や、冒険小説だった本も。
それを持ってきているという事は………

読んでいるのは、わかっている。

そう言っていそうなのを、改めて理解させられている気がする。

ゾワゾワと背筋がしてきた。

……なんで知っているの。

叫び出したい。
私は本を膝に置いて、頭を抱えた。

ため息をついて、彼が好きなお茶をサイドテーブルにおいてあるのを横見に見て、手に取る。

あれは番いる友人同士で、読みたい本があるのに、恥ずかしいからと番に内緒で結託して買いに行ったのに。

例え家に呼んだり、他人に買いに行かせるという貴族らしい事もできるが、それはつまり、婚約者、または夫たる番にも伝わるからと、番抜きで買いに行ったのに。



なんで知っているのか。

情報の筒抜けに本屋が漏らしたのだろうか?

いや、顧客の情報を簡単に渡すか?

それとも、友人達?
それは無いと信じたい。

彼女達もそれはバレてしまうからしないと思う。
ユリウスが居ない時間帯で、帰ってくる時間帯の前に余裕持っていつも隠したけど。

ぁぁと私の口からは言葉にならない声が漏れた。
あぁ、隠れて読んでいたのを……責められそうな予感も少しするけれど。

そんなこんな色々筒抜けな事をドキドキと胸が高鳴り、背筋がヒヤッとする。


「そろそろ、行かなくちゃね……」

テストが私を待っているのだ。
バレているならば、適当に自分のサイドテーブルの引き出しに本をしまった。












紙に書く音が教室に響き、私はようやく最後の問いを書き終えた。
一安心して、残りの時間を再度間違ってないか確認しながら、見直していると先生の終了という声が聞こえ、紙を先生が周り回収終えると、教室から先生は去っていく。

ざわざわと教室の中喧騒が戻った。


「ふーっ、終わったわ」
「シアちゃん、なにか艶々している気がするわ。新しい化粧品でも試したのかしら?」
「えっ、いつもと変わらないわよ。」
 
私はふふと微笑んでいるとジト目でミラディさんから見られた。

「殿下と会ったのね?」
「……なんでわかったの。」
「今日の所はスカーフをした方が良いだろう?だよな……ミラディ。」
「そうよ、殿下もわざと其処につけたのね。一緒に居られないからって。」
「ぇ……?」

私は首を触るがいつもの婚約者の証や逆鱗がそこにあるだけで変わらない。

「お手洗いに行ってきて確認した方が良いわ……竜の嫉妬って本当に厄介って事ね。」
「そういう君も……あんなに乱れていたのに、俺がつけようとすると暴れるから。」
「それはっ!もう、ここで言わないでよ……人に見られたくないの!……見えない所なら良いですけどね。」
「ん?そうか、なら許しもでたし、今夜沢山愛そうか。」

私は立ち上がり、惚気て乳繰り合う2人をそっと置いて、お手洗いへと向かった。



「嘘でしょ……ユリウスたらっ」

首元の微かに見える所に、鬱血痕や歯形が少しあり、情事の証はくっきりとあった。

急いで支度したし、隠れる所にあったと思ったからなにもしなかったが、ギリギリ見える所だったとは。

私は腕輪の収納からスカーフを取り出して首元へ巻き、逆鱗と証は見えにくくなるがさすがにこれは隠さないといけない。

ふと、腕輪を眺めて中にあるあの紙の存在を思い出した。
彼に聞かれなかったから、この紙ともう1人の存在は隠せた。

彼女の事は……私自身が囮となり、引き寄せるつもりだ。

彼女は表向きは高位貴族であるし、正当防衛となればユリウスにも迷惑にはならない。
彼女は私が囮として出てきても無視はできない。
彼女自身の病というか衝動によって。

彼には悪いけれど……私も戦う。

その後少し彼に会うのは怖いが。

私が危ない目に遭うのは耐え難いという彼には申し訳ない。

「会うのが少し……憂鬱になるかも……ね」

きっと彼は怒って……地下室から出してくれないかもしれない。
あの焦燥の表情を浮かべていたユリウスの顔をふと思い出しながら、それでもやらないと大変な事になるのだからと決意した。
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