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薄氷上のダンス
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彼はゆっくりと歩き、門の扉の前で開けてくれと騎士に頼んでいる。
此方へ確認の視線が来て、私は遠目だけど見える彼がどこかいつもとは違った様に見える。
それにいつも声が若干張りがない?
疲れているのだろうか。
いや、なにか誰かがユリウスの声真似をしている様に若干別の声にも聞こえた。
……そう、違和感がする。
私は少し一歩踏み出そうとしたが、逆に怖さを覚えて後ろへ下がろうとして、背後にいつの間かに近寄っていたリーンハルトが肩を掴んだ。
「……(ここで待ってくれ)」
微かに聞こえた彼の声に頷こうしたがそれすらもやめておいた方がいいかと思い、了承として、彼の背中へ手を回し、一回軽くコツと叩いた。
なめされた革の軽鎧の硬い感覚に、安心感を感じながら、リーンハルトが前に出て周りにいる騎士となにかをユリウス?に見えないように手信号をしていた。
「シアこっちに来てくれないか?長い事会えなくてとても……切なくてね。」
扉を開けられて入ってきた彼は、手を差し出してきて、私はやはりなにか違っていて、とても会いたかったのに、その胸へ飛び込めない。
ユリウスにモヤモヤとした。
「……殿下お待ちしておりました。呼鳥で知らされた時刻より、かなり早い帰還ですが……」
リーンハルトはいつもとは違う呼びかけに、さすがにおかしいと思いなんでと思いつつ、私はユリウスが一歩そして一歩近寄る度に強い違和感がした。
ピカッと一際遠くで光った稲光に、私はその時ようやく違和感の正体に気がついた。
そう、無臭だ。
……こんなに長い期間離れていたのに、全くしない。
いくら外だと言っても風に乗って少しは匂うはずなのに。
そして、わかった。
逆鱗の鱗の輝きが違った。
瞳もまるで違う。
彼の青さと光の当たった際の虹彩の模様は美しいのだけど、目の前にいる男性は普通のやや薄い青い瞳。
……ニセモノだ。
ゴロゴロと腹底まで低く唸る様な遠雷の雷鳴の音がして、ユリウス?が薄く微笑みを浮かべているのを背筋に一筋の冷や汗が流れていく。
わなわなとその違和感に気がついてから、怖くて仕方ない。
彼であって彼ではない。
嫌な予感がふと込み上げる。
頭でも打って記憶をなくした?
いや、それでは番の香りがしないのは理屈に合わない。
偽物がこんなにも、似るのだろうか?
「あぁ、急遽早めに終わってね……」
「……」
その時、一斉に騎士達が剣の持ち手を握り、剣を鞘から出し始めた。
リーンハルトは私を庇う様に、少々後方に下がり、私の前へと立ち塞がった。
「おかしいですね……私が殿下と呼ぶと嫌がるのですよ……だからいつも違う呼び方にしていたのですが……さてかなり精巧な変幻ではありますが、王家の縁のある御姿をして語り、不法滞在している貴方を拘束します。」
「……そうか、調べ不足だったか。ならば話しは早い。其処の女を俺は所望する。」
ヘラっと笑いユリウス似た顔立ちで、こっちを見て来ているのは気味が悪い。
騎士の1人が即座に駆け寄り、剣を振り上げると、偽ユリウスは地面に何かを叩きつけるとバフっと煙が勢いよく立ち上がり、それが広がった。
雨が降り始め、冷たいと感じながらも、毒かもしれないと家の方へ私は移動しようと走った。
一際キラっと稲光で光り、私はぞわりとする違う声で少々離れた位置から聞こえた。
「今度お迎えにくるから……良い子にしててくれよ?」
「っ………」
振り返ると其処には誰も居なくてぞわぞわとした。
「キャロル令嬢、申し訳ないが先程の出かけるという話だが……」
「それでも行くわ……お願い。」
「だが、危険だ。先程の襲撃といい……」
リーンハルトは顔を顰めて辞める方向へと話している。
「だから……危険だとお伝えしたではないですか……」
「いえ、でもお約束しましたし……私も行かないといけない気がします。」
「普通の平民ですよ?相手は。」
フードで表情は見えないが、リーンハルトは私が予定を変更しない事を咎めていた。
先程あった事を彼はユリウスに伝えた後、しばらく後に帰還すると聞いた。
「あいつは……それにここに居て欲しいと言っていました。それでもですか?」
「ぅ………でも……」
ユリウスの情報とユリウスの意思に、私の考えは揺らめいた。
正しいのは待つのが正しいのは百も承知ではあるけれど、きっと……
ユリウスが帰ってきたら、家から出して貰えないかもしれない。
それに、彼女はユリウス自身がいたら口を割らない気がする。
誰かに見られていると気にしていたのもある。
もちろん護衛は連れていくが……
「行くわ……明日の予定はその通りでお願い。ユリウスには、話さないで。聞かれたら伝えてくれる?」
「……正気です?」
「……心配してすぐに来そうだもの。」
「わかっているならよして下さい。私は伝えましたからね?」
彼の上半分の顔は見えないが、かなり面倒という事がわかる。
「あいつが怒ると街が……破壊されないか不安です。それに貴女も……」
「……それはそうね、理解の上よ。」
ぞわりとあの澱んだ瞳を向けられてねちねちと快楽攻めに合うと考えると冷や汗ものだけど……今の状況がわかるならば良い。
「あいつは異常ですよ……王族の家系は執着が酷いのは有名というか噂ですが……それを軽々しく上回る程に貴女に執着している。原初に近いからかもしれませんが……気をつけて下さい。私はこれは"仕事"として受けているので嘘はつけません。だから聞かれたら答えてます。それに……貴女に……いえませんが……ほぼ確実に知られると覚悟しておいた方がいいと思います。」
彼はあぁ、コレも絶対言った事をねちねち言われると嫌そうに言った。
……なんでだ。
何を伝えようとしていたのだろう。
彼は立ち上がり、明日の予定について話し合うと他の騎士の元へ歩いて行った。
今日合った事は、ユリウスが直ぐに戻ってこない事を見るに、あっちもかなり忙しいのかもしれない。
此方へ確認の視線が来て、私は遠目だけど見える彼がどこかいつもとは違った様に見える。
それにいつも声が若干張りがない?
疲れているのだろうか。
いや、なにか誰かがユリウスの声真似をしている様に若干別の声にも聞こえた。
……そう、違和感がする。
私は少し一歩踏み出そうとしたが、逆に怖さを覚えて後ろへ下がろうとして、背後にいつの間かに近寄っていたリーンハルトが肩を掴んだ。
「……(ここで待ってくれ)」
微かに聞こえた彼の声に頷こうしたがそれすらもやめておいた方がいいかと思い、了承として、彼の背中へ手を回し、一回軽くコツと叩いた。
なめされた革の軽鎧の硬い感覚に、安心感を感じながら、リーンハルトが前に出て周りにいる騎士となにかをユリウス?に見えないように手信号をしていた。
「シアこっちに来てくれないか?長い事会えなくてとても……切なくてね。」
扉を開けられて入ってきた彼は、手を差し出してきて、私はやはりなにか違っていて、とても会いたかったのに、その胸へ飛び込めない。
ユリウスにモヤモヤとした。
「……殿下お待ちしておりました。呼鳥で知らされた時刻より、かなり早い帰還ですが……」
リーンハルトはいつもとは違う呼びかけに、さすがにおかしいと思いなんでと思いつつ、私はユリウスが一歩そして一歩近寄る度に強い違和感がした。
ピカッと一際遠くで光った稲光に、私はその時ようやく違和感の正体に気がついた。
そう、無臭だ。
……こんなに長い期間離れていたのに、全くしない。
いくら外だと言っても風に乗って少しは匂うはずなのに。
そして、わかった。
逆鱗の鱗の輝きが違った。
瞳もまるで違う。
彼の青さと光の当たった際の虹彩の模様は美しいのだけど、目の前にいる男性は普通のやや薄い青い瞳。
……ニセモノだ。
ゴロゴロと腹底まで低く唸る様な遠雷の雷鳴の音がして、ユリウス?が薄く微笑みを浮かべているのを背筋に一筋の冷や汗が流れていく。
わなわなとその違和感に気がついてから、怖くて仕方ない。
彼であって彼ではない。
嫌な予感がふと込み上げる。
頭でも打って記憶をなくした?
いや、それでは番の香りがしないのは理屈に合わない。
偽物がこんなにも、似るのだろうか?
「あぁ、急遽早めに終わってね……」
「……」
その時、一斉に騎士達が剣の持ち手を握り、剣を鞘から出し始めた。
リーンハルトは私を庇う様に、少々後方に下がり、私の前へと立ち塞がった。
「おかしいですね……私が殿下と呼ぶと嫌がるのですよ……だからいつも違う呼び方にしていたのですが……さてかなり精巧な変幻ではありますが、王家の縁のある御姿をして語り、不法滞在している貴方を拘束します。」
「……そうか、調べ不足だったか。ならば話しは早い。其処の女を俺は所望する。」
ヘラっと笑いユリウス似た顔立ちで、こっちを見て来ているのは気味が悪い。
騎士の1人が即座に駆け寄り、剣を振り上げると、偽ユリウスは地面に何かを叩きつけるとバフっと煙が勢いよく立ち上がり、それが広がった。
雨が降り始め、冷たいと感じながらも、毒かもしれないと家の方へ私は移動しようと走った。
一際キラっと稲光で光り、私はぞわりとする違う声で少々離れた位置から聞こえた。
「今度お迎えにくるから……良い子にしててくれよ?」
「っ………」
振り返ると其処には誰も居なくてぞわぞわとした。
「キャロル令嬢、申し訳ないが先程の出かけるという話だが……」
「それでも行くわ……お願い。」
「だが、危険だ。先程の襲撃といい……」
リーンハルトは顔を顰めて辞める方向へと話している。
「だから……危険だとお伝えしたではないですか……」
「いえ、でもお約束しましたし……私も行かないといけない気がします。」
「普通の平民ですよ?相手は。」
フードで表情は見えないが、リーンハルトは私が予定を変更しない事を咎めていた。
先程あった事を彼はユリウスに伝えた後、しばらく後に帰還すると聞いた。
「あいつは……それにここに居て欲しいと言っていました。それでもですか?」
「ぅ………でも……」
ユリウスの情報とユリウスの意思に、私の考えは揺らめいた。
正しいのは待つのが正しいのは百も承知ではあるけれど、きっと……
ユリウスが帰ってきたら、家から出して貰えないかもしれない。
それに、彼女はユリウス自身がいたら口を割らない気がする。
誰かに見られていると気にしていたのもある。
もちろん護衛は連れていくが……
「行くわ……明日の予定はその通りでお願い。ユリウスには、話さないで。聞かれたら伝えてくれる?」
「……正気です?」
「……心配してすぐに来そうだもの。」
「わかっているならよして下さい。私は伝えましたからね?」
彼の上半分の顔は見えないが、かなり面倒という事がわかる。
「あいつが怒ると街が……破壊されないか不安です。それに貴女も……」
「……それはそうね、理解の上よ。」
ぞわりとあの澱んだ瞳を向けられてねちねちと快楽攻めに合うと考えると冷や汗ものだけど……今の状況がわかるならば良い。
「あいつは異常ですよ……王族の家系は執着が酷いのは有名というか噂ですが……それを軽々しく上回る程に貴女に執着している。原初に近いからかもしれませんが……気をつけて下さい。私はこれは"仕事"として受けているので嘘はつけません。だから聞かれたら答えてます。それに……貴女に……いえませんが……ほぼ確実に知られると覚悟しておいた方がいいと思います。」
彼はあぁ、コレも絶対言った事をねちねち言われると嫌そうに言った。
……なんでだ。
何を伝えようとしていたのだろう。
彼は立ち上がり、明日の予定について話し合うと他の騎士の元へ歩いて行った。
今日合った事は、ユリウスが直ぐに戻ってこない事を見るに、あっちもかなり忙しいのかもしれない。
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