上 下
159 / 243
薄氷上のダンス

159

しおりを挟む
彼はゆっくりと歩き、門の扉の前で開けてくれと騎士に頼んでいる。

此方へ確認の視線が来て、私は遠目だけど見える彼がどこかいつもとは違った様に見える。

それにいつも声が若干張りがない?

疲れているのだろうか。

いや、なにか誰かがユリウスの声真似をしている様に若干別の声にも聞こえた。

……そう、違和感がする。


私は少し一歩踏み出そうとしたが、逆に怖さを覚えて後ろへ下がろうとして、背後にいつの間かに近寄っていたリーンハルトが肩を掴んだ。

「……(ここで待ってくれ)」

微かに聞こえた彼の声に頷こうしたがそれすらもやめておいた方がいいかと思い、了承として、彼の背中へ手を回し、一回軽くコツと叩いた。

なめされた革の軽鎧の硬い感覚に、安心感を感じながら、リーンハルトが前に出て周りにいる騎士となにかをユリウス?に見えないように手信号をしていた。

「シアこっちに来てくれないか?長い事会えなくてとても……切なくてね。」

扉を開けられて入ってきた彼は、手を差し出してきて、私はやはりなにか違っていて、とても会いたかったのに、その胸へ飛び込めない。

ユリウスにモヤモヤとした。

「……殿お待ちしておりました。呼鳥で知らされた時刻より、かなり早い帰還ですが……」

リーンハルトはいつもとは違う呼びかけに、さすがにおかしいと思いなんでと思いつつ、私はユリウスが一歩そして一歩近寄る度に強い違和感がした。

ピカッと一際遠くで光った稲光に、私はその時ようやく違和感の正体に気がついた。

そう、無臭だ。

……こんなに長い期間離れていたのに、全くしない。

いくら外だと言っても風に乗って少しは匂うはずなのに。

そして、わかった。
逆鱗の鱗の輝きが違った。
瞳もまるで違う。
彼の青さと光の当たった際の虹彩の模様は美しいのだけど、目の前にいる男性は普通のやや薄い青い瞳。

……ニセモノだ。


ゴロゴロと腹底まで低く唸る様な遠雷の雷鳴の音がして、ユリウス?が薄く微笑みを浮かべているのを背筋に一筋の冷や汗が流れていく。

わなわなとその違和感に気がついてから、怖くて仕方ない。

彼であって彼ではない。

嫌な予感がふと込み上げる。
頭でも打って記憶をなくした?
いや、それでは番の香りがしないのは理屈に合わない。

偽物がこんなにも、似るのだろうか?

「あぁ、急遽早めに終わってね……」
「……」

その時、一斉に騎士達が剣の持ち手を握り、剣を鞘から出し始めた。

リーンハルトは私を庇う様に、少々後方に下がり、私の前へと立ち塞がった。

「おかしいですね……私が殿下と呼ぶと嫌がるのですよ……だからいつも違う呼び方にしていたのですが……さてかなり精巧な変幻ではありますが、王家の縁のある御姿をして語り、不法滞在している貴方を拘束します。」
「……そうか、調べ不足だったか。ならば話しは早い。其処の女を俺は所望する。」

ヘラっと笑いユリウス似た顔立ちで、こっちを見て来ているのは気味が悪い。

騎士の1人が即座に駆け寄り、剣を振り上げると、偽ユリウスは地面に何かを叩きつけるとバフっと煙が勢いよく立ち上がり、それが広がった。

雨が降り始め、冷たいと感じながらも、毒かもしれないと家の方へ私は移動しようと走った。

一際キラっと稲光で光り、私はぞわりとする違う声で少々離れた位置から聞こえた。

「今度お迎えにくるから……良い子にしててくれよ?」
「っ………」

振り返ると其処には誰も居なくてぞわぞわとした。









「キャロル令嬢、申し訳ないが先程の出かけるという話だが……」
「それでも行くわ……お願い。」
「だが、危険だ。先程の襲撃といい……」

リーンハルトは顔を顰めて辞める方向へと話している。

「だから……危険だとお伝えしたではないですか……」
「いえ、でもお約束しましたし……私も行かないといけない気がします。」
「普通の平民ですよ?相手は。」


フードで表情は見えないが、リーンハルトは私が予定を変更しない事を咎めていた。

先程あった事を彼はユリウスに伝えた後、しばらく後に帰還すると聞いた。

「あいつは……それにここに居て欲しいと言っていました。それでもですか?」
「ぅ………でも……」

ユリウスの情報とユリウスの意思に、私の考えは揺らめいた。

正しいのは待つのが正しいのは百も承知ではあるけれど、きっと……

ユリウスが帰ってきたら、家から出して貰えないかもしれない。


それに、彼女はユリウス自身がいたら口を割らない気がする。
誰かに見られていると気にしていたのもある。

もちろん護衛は連れていくが……


「行くわ……明日の予定はその通りでお願い。ユリウスには、話さないで。聞かれたら伝えてくれる?」
「……正気です?」
「……心配してすぐに来そうだもの。」
「わかっているならよして下さい。私は伝えましたからね?」

彼の上半分の顔は見えないが、かなり面倒という事がわかる。

「あいつが怒ると街が……破壊されないか不安です。それに貴女も……」
「……それはそうね、理解の上よ。」

ぞわりとあの澱んだ瞳を向けられてねちねちと快楽攻めに合うと考えると冷や汗ものだけど……今の状況がわかるならば良い。

「あいつは異常ですよ……王族の家系は執着が酷いのは有名というか噂ですが……それを軽々しく上回る程に貴女に執着している。原初に近いからかもしれませんが……気をつけて下さい。私はこれは"仕事"として受けているので嘘はつけません。だから聞かれたら答えてます。それに……貴女に……いえませんが……ほぼ確実に知られると覚悟しておいた方がいいと思います。」

彼はあぁ、コレも絶対言った事をねちねち言われると嫌そうに言った。

……なんでだ。
何を伝えようとしていたのだろう。
彼は立ち上がり、明日の予定について話し合うと他の騎士の元へ歩いて行った。

今日合った事は、ユリウスが直ぐに戻ってこない事を見るに、あっちもかなり忙しいのかもしれない。







しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

愛すべきマリア

志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。 学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。 家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。 早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。 頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。 その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。 体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。 しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。 他サイトでも掲載しています。 表紙は写真ACより転載しました。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

【完結】帰れると聞いたのに……

ウミ
恋愛
 聖女の役割が終わり、いざ帰ろうとしていた主人公がまさかの聖獣にパクリと食べられて帰り損ねたお話し。 ※登場人物※ ・ゆかり:黒目黒髪の和風美人 ・ラグ:聖獣。ヒト化すると銀髪金眼の細マッチョ

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

婚約破棄目当てで行きずりの人と一晩過ごしたら、何故か隣で婚約者が眠ってた……

木野ダック
恋愛
メティシアは婚約者ーー第二王子・ユリウスの女たらし振りに頭を悩ませていた。舞踏会では自分を差し置いて他の令嬢とばかり踊っているし、彼の隣に女性がいなかったことがない。メティシアが話し掛けようとしたって、ユリウスは平等にとメティシアを後回しにするのである。メティシアは暫くの間、耐えていた。例え、他の男と関わるなと理不尽な言い付けをされたとしても我慢をしていた。けれど、ユリウスが楽しそうに踊り狂う中飛ばしてきたウインクにより、メティシアの堪忍袋の緒が切れた。もう無理!そうだ、婚約破棄しよう!とはいえ相手は王族だ。そう簡単には婚約破棄できまい。ならばーー貞操を捨ててやろう!そんなわけで、メティシアはユリウスとの婚約破棄目当てに仮面舞踏会へ、行きずりの相手と一晩を共にするのであった。けど、あれ?なんで貴方が隣にいるの⁉︎

【完結】令嬢が壁穴にハマったら、見習い騎士達に見つかっていいようにされてしまいました

雑煮
恋愛
おマヌケご令嬢が壁穴にハマったら、騎士たちにパンパンされました

処理中です...