上 下
157 / 243
薄氷上のダンス

157

しおりを挟む
ユリウスに会いたい……

そんな事を考えたいたからか、まだ今日も帰ってきていないのに……

彼が扉から入ってきたりするのをなぜか期待したり、窓の外を眺めて居ないかなとついついみてしまった。  

「……これは重症ね。」
「どうしたの?」

私は振り返るとミレディさんが手を優しく握り、背中を優しく撫でてくれた。


「まだ、帰って来てないから寂しいのよね。」
「そ、そんな事ないからっ……」
「はいはい……一体ため息何度聴いたか。まだ3日よ?」
「えっ、まだ3日しか!?」

私はもう一週間経っていると錯覚していたのだが、まだ3日だったらしい。
ミレディさんにジト目で見られた後、心配そうな表情をさせてしまった。

「シアちゃん、辛かったらお家に居ても良いのよ。無理して学園にきても集中できてないのでしょ?」
「……いえ、家にいると更に……だから学園に居たの方が楽ですから。」
「わかりました、なら勉強しましょ。今日もグループ用が予約できましたし……」

ふと、ユリウスがいつもいる執務室の方の扉を少し耳をつけて居ないかなとしたり、庭の方まで歩いて玄関口を覗いたり、中庭の魔法陣に帰ってきてないかな?と時折見ている事は認める。

あれ?
それから、1人の夕食が寂しくて……
黙々と食べて終わらしていたり。
今日あった事を話したいと声を上げかけたりして………


確かにこれは……

ずるずると彼が隣に居ない事を初日は満喫して居た事はあるけれど、それは次の日には飽きた。

そして今だと、思い浮かんだ。

意識の範囲外で勝手にため息をついた。

「シアちゃん、ほら行きましょ。またため息ついているわよ?」
「えぇ……」


私はのんびりと過ごせているけれど、シーンとしていて、護衛が歩く音のする家はどこかクラウディアの時を彷彿とさせて……

無性に早く会いたいと思ってしまった。








「それで此処がこの公式ね。」
「そうそう……あら、ここ間違っているわよ。」
「もう2回目よ……なんでおぼられなーいいーーの!」
「声が大きいわよ、事務員さん達来るわよ?」



勉強会には同じ教室の人で集まっていたが、その内妹だったり、姉だったりを連れてきてその友達がと、いつの間にか色々な学科の生徒がこの勉強会にいた。

真ん中の教科書を開き、頭を抱え込んでいる赤髪の竜人族の女子生徒がムムムと悩ましげな声を上げて、ミレディさんに教えて貰っているが、どうしても同じ似た様な問題で躓いているらしい。

私は順調であるが、休んでいた所でわからない所を時々後でミレディさんに聞こうと思いながら、彼女達の様子を見ながら微笑んだ。

意外と混沌としそうなのだが、これもまた他の学科もテストが近いと言う事で、不思議とまとまっている。

片隅では休憩と評して、恋バナが始まってヒソヒソと桃色の甘い気配があってチラチラと番のいないお姉様方や、まだ幼少科の生徒がキラキラとした視線を向けている事でほんわかとした空気とピリッとした空気に半分に分かれている。

「シア様のお話も聞きたいですわ。」

私は専門書を閉じると横からイェリンさんがいつまにか隣の席に座って、ジッと見てきて声をかけられた。

「私もイェリンの事が知りたいわ。私の事は余り……ないわよ?幼少期は他国にいたし……」

女性があの汚物(堕天使)に攫われかけて、それを彼と共に倒しましたとは公表は出来ないからだ。

長く空白期間があるし、そもそも私の出生が穏便なものではない。

エナのストーリーは設定集で知ったあらまししか知らないけれど、父はエルフ側のご落胤か、その子孫のなにかなのだろう。
だから、エナ側でゲームをすると、学園でシア側で起こったやっかみやいざこざ、いじめなどはない。
同じ親から産まれているのに、ゲームの親代わりとなった親戚宅では天と地の様に扱いが違うのは、彼女が外に出て旅をしたいと思う理由なのだろう。

余りエナ側のストーリーは詳しくはしてないので、知らないが。
……やろうとは考えた事は、あるにはあるが、あの妹の声や言動や冒険モードも無く、かなり制限された内容に手を止めた事はまだ思い出せる。

うーん……

「私なんて特にはありませんけれど……"少し先"の事はわかりますよ。殿下の事とかね?」

ハッとしてイェリンの方を見ると、彼女はフッと微笑んだ。

彼女が言った小声で話した内容に私は興味をひかれた。

「ふふッ……知りたいのですか?顔にありありと出ていますよ?知りたかったら、今度の休日に……教えてあげますわ。学園の中だと私の事を敵だと思う人や爵位の違いに止めてくる人も監視しているから……難しいですけれど、王都の東地区の『ハイドアウェイ』のお店で昼過ぎ辺りでお待ちしてますね。ブルーデイジーのお客様と会いたいと店の人に伝えてくれれば会えると思えますわ……シア様」
「イェリン、ちょっと目を離した隙に、誑かさないでくださる?」
「ミレディ様……言い方が……悪意がありますわ。ですよね?シア様」

ミレディさんは大丈夫?と心配そうに見てくれたが、イェリンからは悪意は無さそうに見えた。

彼女が見せた表情は……心配だろうか?

「少し……わからなかった場所を教えてくれただけよ。」
「そう……なら良いのですけれど……」

ミレディさんはユリウスが帰ってきて居ない事からかなり私の事を心配しているらしく、イェリンに過剰に辛辣になっている気がする。

「あ、もうこんな時間ね……そろそろ終了しましょうか。」

テーブルに突っ伏して寝ている妹だろうか幼少科の生徒を抱っこして抱えながら、運んでいる女子生徒は半笑いしながら終わりを告げた。





「行くべきか……」


家に帰宅して、お風呂に入りながら私は、今日の事を考えた。

『ハイドアウェイ』のお店は隠れているが誰もが知っている名店として有名だ。

女子生徒で知らない者がいたら、かなりの流行遅れか他国の回し者だろう。

スイーツやお酒が食べたり飲んだりできるお店で、貴族ならば屋敷に呼ぶのが一般的であるが、だが自身の窯と道具や理念があの店にあるというお店の店主の意向で例え王侯貴族だろうが作れと言う呼び出しには応じないと言われているらしい。

中の室内は小部屋に別れており、1人で暮らすのが好きな店主の意向でまるで物語の中の様に、合言葉を通じてしか中で客同士の合流も難しいくらい徹底している。

その分……秘密結社の密会やら、代々対立していた家同士の番の密会などもあるらしい。


「ユリウスが知ったら……」

あのジト目で責められ、イっても止まらない責めに合いそうだと思いながらも、ちゃぷんと浴槽の中で足を伸ばした。

でも、知りたい。
ユリウスの事なら知りたい。
私は2をやる前に死んだし、もしかしたら3が発売されていたかもしれない。

護衛から離れるなとユリウスが言っていたのもあるから、護衛には伝えなければならないだろうと考えた。

それに……

彼が居たら私を危険な外へ出て行こうとするのは止められる気がするし、ユリウスが隣に居れば、イェリン自身が語るのをやめてしまうかもしれない。

見た目は可愛らしい顔立ちで、人を誑かす人に見えたかもしれないけれど、あの心配そうに私を見ていたお人好しな彼女。




ユリウス……
足先まで………身体は知っているけれど、彼についてまだ知らない事は沢山ある。

教えて?と伝えると上手くかわされて、いつ間にか私の事になっていたり……そっちの方向へ向けられてしまいそれどころじゃなくなる。

彼の方が王族なだけあって、経験もあるし、話術が上手いし、話に惹かれるのもある。


「会いたいな……今どこにいるの?」

隣に居ないからか、更に寂しく思ってしまった。

もっと……
愛したいし、愛されたいと願ってしまう。
隣に居てくれれば逆にもう良いって言いたくなるぐらいなのだけど。

今私の根底にあるのは……愛され続けて欲しいだからかもしれない。

結婚も……
クラウディアの時は散々な目になってしまったし、リディアの時はそれどころじゃなかった。


だからユリウスが番だと知った時は嬉しさもあるが今回もダメだなと……身分の差を感じて諦め半分もあったのだ。

全部なにかと逢ってしまい、道半端で終わってしまうから……

「それに後はないって……」

もしまた失敗したのなら……

……転生さえも出来なくなるかもしれない。

濡れて緩く、束ねていた髪から溢れていた銀髪のひと束を、指でくるくるとしながら弄んだ。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

【完結】帰れると聞いたのに……

ウミ
恋愛
 聖女の役割が終わり、いざ帰ろうとしていた主人公がまさかの聖獣にパクリと食べられて帰り損ねたお話し。 ※登場人物※ ・ゆかり:黒目黒髪の和風美人 ・ラグ:聖獣。ヒト化すると銀髪金眼の細マッチョ

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

婚約破棄目当てで行きずりの人と一晩過ごしたら、何故か隣で婚約者が眠ってた……

木野ダック
恋愛
メティシアは婚約者ーー第二王子・ユリウスの女たらし振りに頭を悩ませていた。舞踏会では自分を差し置いて他の令嬢とばかり踊っているし、彼の隣に女性がいなかったことがない。メティシアが話し掛けようとしたって、ユリウスは平等にとメティシアを後回しにするのである。メティシアは暫くの間、耐えていた。例え、他の男と関わるなと理不尽な言い付けをされたとしても我慢をしていた。けれど、ユリウスが楽しそうに踊り狂う中飛ばしてきたウインクにより、メティシアの堪忍袋の緒が切れた。もう無理!そうだ、婚約破棄しよう!とはいえ相手は王族だ。そう簡単には婚約破棄できまい。ならばーー貞操を捨ててやろう!そんなわけで、メティシアはユリウスとの婚約破棄目当てに仮面舞踏会へ、行きずりの相手と一晩を共にするのであった。けど、あれ?なんで貴方が隣にいるの⁉︎

【完結】令嬢が壁穴にハマったら、見習い騎士達に見つかっていいようにされてしまいました

雑煮
恋愛
おマヌケご令嬢が壁穴にハマったら、騎士たちにパンパンされました

【R18】ヤンデレに囚われたお姫様

京佳
恋愛
攫われたヒロインが何処かおかしいイケメンのヤンデレにめちゃくちゃ可愛がられます。狂おしい程の彼の愛をヒロインはその身体に刻みつけられるのです。 一方的な愛あり 甘ラブ ゆるゆる設定 ※手直し修整しました

処理中です...