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逃れられない刺客

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私はただぐらぐらとする視界の中、なにかを叫ぶアルマさんの声や近くでなにかを言われたがぼそぼそと言っていて聞き取れない。

誰かに抱き上げられて私はふとユリウスかと思った。

「……ウス?」

しかしながら、匂いが違うとわかり、私は身を捩ろうとしたが止められる。

「このままで居てください。下に魔物がいます。今はあの庶民が避けながら動いて引き付けています。安全な位置まで下がりましょう。」
「ちょっと!あんただちだけで逃げないでよ!」
「自業自得だろうが」

声からしてそれがエーリヒだとわかり私は、うっと頭の痛みに手を当てようとすると少し血が付着していた。

「……ここで下ろして。」
「しかし、ここでは安全ではありません。通路の奥へいかないと。」

私はあの雪の塊の破片が当たり、怪我をしているようで気を失っているあいだに坂を転げ落ちたようだ。
私を抱えている為か、少し走るよりは少し遅い速度で坂を上がっているようで、じゃりじゃりと歩く音がしている。

「アルマさんは人族だから……2人が下がったのを確認したら私も戻るわ。残る様だったら見捨てるけど、戻りたそうにしてるから。」
「しかし!キャロル様は怪我を……」

私を抱えている手がギュッと強まり、嫌だと思っているのだろうか。

最初思っていたより、実力があるのは言うのは道中襲ってきた魔物を処理している事から理解していたが、いがいと真面目で助けてくれた事は驚いている。
しかも、今は様呼びで、かなり動揺しているのは理解できた。

たぶんユリウスは怒るのだろうとわかるから、私は苦笑いして彼に言う。

「この事は内緒にして。怪我は治せるから……あの人は嫉妬深いから……それに少ししたらあの人も来るだろうし……私が竜化している間に2人が安全な位置に行ったら、先生にあの魔物の事を伝えて。私もその内通路に戻るから。」

アルマさんの事は好きじゃないし、ユリウスとっては害悪なのも理解しているが元同郷としてのよしみだ。

「それは!?……わかりました。絶対に戻ってきてくださいね。」

地面に降ろされて下ではギャァと魔物の鳴き声とキャアキャアと叫ぶ声がしている。

私は神力を整えて回復をしているといつのまにか戻ってきていた2人は駆け上がってきている。

後ろでは氷壁に突き刺さり止まっている魔物がグォルルルと鳴き声を出してガツガツと堀りながら動こうとしている。

彼等が上がりきり、私の後ろへと行った後、私は竜化する。

腕輪に通知がきているのは見えていたが、私は返信できなかった。

ユリウスが心配しているだろうといるのはわかっている。
そして心配性なのに、またこんな事になってしまったから更に心配してしまうだろうと思うのも。

視点が高くなり、腕を伸ばしながら尻尾や翼があるのを確認しつつ動かして天井ギリギリだと思いながら尻尾で突進してきた魔物の白い水晶の牙を牽制する。

ドシンと揺れ、弾け飛ぶ魔物を見て、ブレスは氷穴にいる魔物だろうし、相性は同系統だろうから悪いだろうと控える事にする。

グニっと弾け飛んで氷壁で当たり、がりがりと地面をかいて、私はチラリと背後に視線を向けるとようやく通路奥に入ったようだ。

前を見るとぶおぉぉと鳴き声を上げている。

ドシンと揺れたがなぜかはわからない。

再びさっきの倍の早さで突進してきた白く輝く牙をもつ魔物が襲いかかり、私は目の前に迫る魔物を爪で横腹方向から弾き飛ばす。

その瞬間に私は竜化を解きながら飛ぶ。

方向は通路の方だ。

空中を進む中着地はどうしようと決めて無かったので足でつきながら転がる様に通路に入る。

「……あたたっ」
「ば、ばけもの!」
「はぁ、今更か?お前がいる国はそういう国なんだ。自覚してなかったのか?」
「それは………しらな」
「どんだけ知らないんだよ。普通教わるだろ?」
「それは………私は望まれなかった子だから」

ドシンドシンと背後から壁に突き刺しながら迫り来る魔物が見える。

「あのさ……早く戻ろうか。」
「そうですね、いつ」

そう言っているとピキピキと音がしていて、一同は苦笑いする。

走りながら元に戻ると地面に突き刺さるツララの塊や岩などで塞がれており、端のほうが1人ほどの隙間がある。

アルマさんは走ってぐいぐいと進んでいて、その後を彼は私に譲ってくれて私は頷き入る。

なんとか進みながら、そこに他の人は居なくアルマさんだけだった。

「他の人達は?」
「入り口に向かうように言いました。」
「先に進みましょう」

歩きながら私はハッとして腕輪を見ると通知がきて心配しているユリウスからの連絡がきていた。

こっちへ向かうとの事で、オリエンテーリングは棄権したのかなと考えながら、走った。
返信して今氷穴の入り口へ戻ると打ち込み、私は少し遅れていた足取りを早めた。

こっちに向かってくる足音に先生かと思ったが、それが見慣れた金髪に私は安堵した。

「ユリウス!」
「シアッ!怪我を!?」
「もう治したから」

抱きしめられてギュッと強くされながら、ユリウスの首に顔を埋めるといつもの匂いがして安堵した。

「……他の男の匂いがする。」

あ……

私はバレてしまい気まずくなりながら、ジロリと視線を受けて離れようとしたが、がっしりと抱っこされてしまい、運ばれた。

「怪我をしていたので、私が安全な位置まで運びました。」
「……ケッセルリング侯爵の子息か。我が婚約者世話になったな。礼を言う。」

ユリウスの冷たい声は、いつも私に向ける熱を孕んだ声とは違い新鮮だった。
私達は帰りながら、来た道を戻っていた。

私はユリウスの胸に額をくっつけて耐えていたが、ずっとこうで恥ずかしさに耐え切らなくて声をかけた。

「ユリウスずっと持っていて重く無い?」
「重たく無い。それより、帰ったら当分は家にいてくれ。出かけないで。」
「うん……それは安静にしているわ。」

少しの間、おやすみだなと考えていると、頭に優しくキスを落とされる。

「ユリウスは棄権してここにきたの?」
「いや、終わって待っていた時に……」
「え、もう?早く過ぎない?」
「一緒の班なのが商業科の生徒が元冒険者だったらしくてな。だから偶然体力自慢が揃っていて早く回る事が可能だったからな。」
「それは……すごいわね。」
「シア……本当に心配したんだ。君のいる位置は地面の下だからほんと……」

ギュッと強まった支えてくれているユリウスの手が震えている。
私はごめんと小声になりながらも、ユリウスの頬へと手を伸ばした。
最初は冷たかったけど、触っているうちに温かくなってきた肌の感触に私は撫でた後にユリウスの胸に額をつけた。

「来てくれてありがとう……すっごく嬉しかった。安心したの。ごめんね、心配かけて。」

私は疲れからかだんだんと意識がゆらゆらとしてきていて、なにかをユリウスへ言う声やなにかを言っている声がしたがぼんやりとした意識は暗闇の中へと溶けた。
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