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逃れられない刺客

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「……ここの湖思ったより澄んで綺麗ね。」
「あぁ、だからたくさんの鳥や魔鳥などたくさんの生物がここに到来したり住んでたりする。」
「ユリウス、染料の青い花はどこ?」

染料になっていると言われた花を水辺や水中をじっとみたがそれらしき花は無い。
桜の花弁がひらひらと風に運ばれて飛んでくるくらいだ。

「ほら水辺に葉は先端が尖っていて、縁も鋭いギザギザがある葉がある植物あるだろ?」
「あ、あれね。でも花は無さそう。」

水辺を見ると、ギザギザの葉っぱがある。
それを嫌がって鳥達はそこにはなぜか近寄らず、回り道して岸辺に歩いていったり、わざわさ飛んで回避している。

「あれが染料になる植物だ。花期は秋で秋近くなると縁に金になるんだ。魔力が種の時期から蓄えられていてそう変化するとされているらしい。魔力が沢山蓄えた物ほど花や葉の色味が鮮やかになると言われてもいるよ。青い花は星形の花で、スターティアーブルーと呼ばれている。真ん中が少し窪んでいる所が少し涙ぽく 見えるだろ?通称星の涙とも呼ばれていたりする。」
「名前と花は可愛いらしいのね。でもなんで鳥は避けているのかしら。」
「葉が見ての通り触ると痛いからね。少し硬めで、魔力を含んでいるから魔鳥も嫌厭する程だ。だから、スターティアーブルーの葉がついた花を乾かしてドライフラワーにして玄関に飾って魔除けにしている民家も多い。」
「買えるの?」
「もちろん、王立学園環境研究所が提供している公式の花屋で人気のある花で、しかも少し希少価値がある花だから他の花より少し高めだけどな。」

少し風が吹き、私はフードをおさえながら、あの青い花は見れなかったけれど、温室がそういえば植物実験区にあると聞いていたので見れたら良いな。
今は春なので、本来ならばかなり待つけれど、放課後に少し足を伸ばして行ってみるのも楽しみかもしれない。
学園の中ならば、彼も心配しないだろうし。

握っているユリウスの手が温かく、ふわふわとした思考の中、湖面に優雅に浮かんでいる美しい青い鳥が視界の端にあり、目が止まる。

「あの青い鳥は綺麗……あれ?どこかで見た様な気がする。どこだっけ。」
「あの鳥が湖面に浮かんでいるのなら、もう戻ろうか。一雨くるかもしれない。」

ユリウスに抱っこされ、私はびっくりしているとスタスタと彼に運ばれて来た道を引き戻る。
展望台には人が結構居たので抱っこされた私をギョッとしてチラチラと見られている。

「ユリウス、恥ずかしいからおろして。何事?って見られてるし。別に歩けるから。」
「シア……さっきからずっと俺達を監視している人がいる……」

そっと耳元で真剣な声色の小声で囁かれて、私はユリウスの服を掴んだ。
ふとあのエルフ族の男性の顔を思い出して、ピリッと肌が鳥肌が立つ様だった。

やがて進み、ユリウスがベンチにおろしてくれた。

「シア……必ずここで待ってて。ここなら人通りあるし、なにかしようともすぐに来れるから。」
「さっき、竜化を見られていたのじゃない?それで王族だって見てるだけとか?」

私は少しの希望を込めて、ユリウスの耳元に顔を近づけて言ったが、ユリウスは微笑を浮かべて、首を振った。

「違うね、明らかにそういう類の視線じゃ無い。どちらかというと……変なんだよ。今も見られているのは熱狂的でなにかズレている様な。しかも、俺では無く、君だけを見ている。だから……気をつけて。席空いてるか確認してくるよ、君がいたら夫人は話が長くなるからさ。もし、満員だったらすぐに帰りたいから。」
「うん、ありがとう、行ってらっしゃい。」

だったら私もついて行くのにと思いながら、いつのまにか確かに一雨来そうな曇天になって来ている。
ユリウスが名残惜しげにスッと、フードの上から頭を撫でられて、唇に触れるだけのキスをしてから歩いていった。

人々はぞろぞろと帰宅に向けて帰る者や、カフェに入ろうとして向かう者に分けられて動いている。

「暁の神子様……どうか我等と共に……」

ゾワッとする様な声がして振り向くとフードを深く被った人が私の方に来たが、隣にいた同じフードを被った人に止められてて、なにかを話している様だ。
私はえ?と見ていると、彼等は去って行ってしまい、結局なにがしたかったのはわからない。

「シア大丈夫だった?」

はっはぁとかなり走って戻ってきたのか荒い息を吐いていて、振り返るとユリウスは私を抱き締めてくれたが、私は彼等が暁の神子様と言っていた内容が意味わからなくて首を傾げるだけだった。

「うん……なにか別の人と勘違いしてたっぽいよ。同行者の人に止められてた。」
「………ほんと?」

私はうんと生返事しながら私自身でさえ、本当にアレはなんだったのだろうと考えながらユリウスから香る番の匂いに安心していく。

昨日沢山したからか、余り咽せたり微睡んだりするほどではなく微かに香る匂いはまたそれも良くて、離れたく無い。

「……わかった、そういう事にしておく……カフェは夫人が席を確保してくれてたから行こうか。雨が降るかもしれないから長居はできないけど……」

先程の事を考えると少し不安になるが、今はまだユリウスと一緒に居たいし、楽しみな事が待っていると考えるとすっかり頭の中から、消えて行った。

ユリウスが離れていくのに合わして私も掴んでいた手を離して、手を繋いでカフェへと歩いた。

コツコツと歩くと靴の音がして、それを聴きながら、隣を歩いているユリウスの方をソッと見ると焦躁と不安とに虐まれている表情を浮かべていた。

「やはり1人にしたのは判断をミスったか……」

彼がなにかぶつぶつと小声で言っていたが、聞き取れたのはそれだけで、あとは聞こえない。

扉を開けるとカランコロンとベルが鳴り、夫人が手を振っていた。

中は少しお客さんが結構満席で、雨が近いからか帰りの客と新たに入りたそうにしている客で混雑していた。

空いてある席に移動する私達を見て数人はなにか言いたそうにしていたが、他の客に止められてて不思議そうにしていた。

端の窓際の席に座るとテーブルの上のメニューを広げた。
聖地盛り湖畔ホットケーキも良いが、酸味のある具沢山紅スープも美味しそうではある。

「どれにする?」
「シア好きなの頼んで良いよ。俺はまだ迷っている。」

私は視線をユリウスに向けるとジッと微笑んでいてさっきまでユリウスが表情に出てた焦燥は完全に無くなり、今は微笑を浮かべている。

「……聖地盛り湖畔ホットケーキにするわ。」
「あぁ、申し訳ないね、あと一つしか出せないのよ。人気過ぎてホイップが品切れてしまってね……ホイップは友人の農場から直送なのだけどね……」

声に驚いて視線を向けると、のそりといつまにかやってきていた青いエプロンドレスを着たブーギルズ夫人はすまないねぇと言っている。

「……だったらユリウスと半分こするから気にしないでください。」
「あらまぁ……若いって良いわぁ……私も若い頃は……」
「俺はだったらこの森の恵みスープにする。」
「あ、それはおすすめよ。」
「少し待ってくださいね、今主人に頼んできますから」

のそりとまた音がしない足音に驚きながらすいすいと混雑する店内を軽々と進み、奥へと去って行った。

「ふふっ……夫人は昔の事を話すと長くなるからな。早めに言うのが良いんだ。」
「……そうかもね。」

テーブルの上のメニューを端に置き、テーブルの上にあった私の手をユリウスは指一本を絡めてきて、私は少し顔が熱くなっていくのがわかる。

たったこれだけの事なのに、私の手とは違うゴツゴツとした男性の手だと思いながら、ユリウスの片方の手がフードの間から覗いている首筋へと伸ばして触るのがくすぐったい。

「んっ……余り触らないで」

私は身を捩よじり言って動いたが、目線をユリウスの顔の方へ向けるとユリウスの表情は口の端を少し上げて、完全に楽しんでいると言う事がわかる。

「シア……いつも言っているけれど、なるべく独り行動は避けてくれ。学園内でもだ。」
「……学園でも?」
「少しさっきの事が気になる。シアは後は学園と古城ぐらいしか独りで行動する場所だろ?なにか仕掛けてくるならそこしか無い。」
「う、うん。だったら……あのね。」

私は行きたい場所があるのと言おうとしたが、近寄ってきた甘い匂いと共にブーギルズ夫人が持って来たのが見えて私はまた今度と良い口を閉じた。
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