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逃れられない刺客

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ドシンッ……


竜化を解くと端の方にいた親子連れの一段が歓声を上げた。
隣に降り立ったユリウスが竜化を同じく解いた事でワラワラと竜化を見ていなかった人々はなんだと振り返り走ってきたが、フードを被っていた私達を見て首を傾げている。

「ねぇねぇかあしゃま……アレがおうじしゃま?」

とてとてと私達の方へ1人で走ってきている危なかしい足取りの小さな幼児が指を私達に向けている。

後方から声に気がついた母親らしき妊婦の女性が焦りながら近寄った。

「すみません、うちの子絵本で何度も読み聞かせを願うくらい好きみたいで……」
「いえ、大丈夫ですよ。」

私はしゃがんで、近寄ってきた幼児を見ると、オレンジ色の髪はふわふわとしていて、風に靡なびき揺れている。
青の瞳はキラキラとしており、私の目を見て更に笑った。

「おひめしゃま、絵本とおなじー」

わーいと私とユリウスの周りを駆け回り、何度も私とユリウスの目を見上げては喜び、そしてコケそうになった時に母親に抱き上げられた。

「ほら、危ないでしょ?下をみながら歩きなさい。」
「かあしゃま……絵本とおなじーでも……」

幼児を抱え上げ、女性はアレは昔話なのよと話しており、父親らしき、竜人族の男性が他の人と話していたらしく振り返りハッと驚いた表情をして彼女達の方へ近寄った。

「可愛いかったね。」

私は立ち上がり、ユリウスの方をみると腰に手を回して引き寄せられる。

「あぁ、癒されたな。俺達の間に子供が欲しいな。」
「……それは気長に待っていて。」

端に寄ろうとして歩きながら、彼の手が優しく横腹を撫でており、私はユリウスの方へ視線を向けるとフッと優しく微笑んでおりたったそれだけなのに、私は少し恥ずかしさと嬉しさで顔に少し熱が上がる。
思わず口の端が上がってにやにやしちゃうので、私はユリウスの肩に頭をつけて顔を見ない様にした。

「照れているのか?」

わかっているのにわざと色っぽい声を出して、私の耳元だろうフードの上から囁かないで欲しい。

「それは言わないで……嬉しいのと幸せなだけよ」

私のまんざらでも無い回答にユリウスはクスクスと笑い、私はユリウスの服を掴んだ。

前を見ると、森の間の小道には歩きやすい様に木の板が貼られた木道がある。

天候は少し分厚い雲があるが青空はまだ見えている。

木道を上を歩くとさっきまで少しぬかるんでいたからか、靴にまとわりついていた泥はやがて少しずつ元通りになり、歩きやすい。

所々に桜が咲いており、少し前に雨が降ったからか、桜の花弁は色濃くなり、ひらひらと舞い降りて散っており、葉桜になりかけている。
そのせいか、客層も少し落ち着いているのか、さほど歩くのに苦労はしない程の人数で、少し遅くて良かったかもしれないと私は思った。

「あっ湖見えてきたな」
「お、もう少しかぁ」

私はえ、どこ?と前を見たが人の頭しか見えず、少しまだ見えない。顔の位置を移動するとようやく光を浴び輝く青い湖面が見えて気分が上がる。

「あの白い花は魔法薬にも使われる、フールイゲの花だな。」
「どれ?」
「ほらそこの草原の所。ギザギザに裂けた葉がわかりやすいだろ?」
「あ、そういえば授業で習ったね。」

すっかりと言われるまで気が付かなかったが、魔法薬には花弁ではなく葉っぱのみを使う為に言われるまで忘れていた。

採取したいなと少しうずうずとしたが、所々に木の板の看板に自然の草木には触らないで下さい、罰金が加算されますと書かれており、管理している王立学園環境研究所の紋章が書かれている。

言われて始めて地面を眺めると、背の高い鮮やかな黄色の花をつけている魔法薬にも使うセーヌハギなど春の花が咲いていた。

「綺麗ね……習っていたのがほんとあるから持ち帰りたくなるぐらい沢山あるね。」
「あぁ、だから春になると数人木道からそれて採取しようとして罰金を加算される民が噂で聞くよ。今年はまだないって聞いたけどな。木道ができた理由は幾つかあって、迷って入ったとか、わざとそう言って踏み荒らしたり採取する人がいたから起きない様にとか、植生を踏み荒らす事を避ける為に設置したとかな。」

彼にこっそりと聞かされた事で、私は確かに目測するだけで皮袋がたんまりと貯まるぐらい珍しい薬草や染色用の植物がたくさんあるので確かに気持ちはわかると微笑んだ。

「……レアな植物がたくさんあるから気持ちはわかるわ。」
「それは同感だ、ここが王立学園環境研究所の地主になる前は冒険者が金稼ぎで結構荒らしまわってしまって、当時バカンスに来た当時の王妃が王に保護を頼んだらしいのが始まりで、ついでになぜこんなにも珍しい薬草が多いのかと研究もされる様になったのもある。研究の結果あの学園の植物実験区で栽培されて今は少し値が下がったのもあるんだ。人がすぐに手に入るぐらいの値段にね。」
「あ、それであの広い地区はそれで使っていたのね。」
「温室もあるから、気温を維持しやすいからな。」

私はユリウスにあそこは広いからと笑いながら言われているうちにふと前を見ると湖畔が広がっていた。小さな古い一軒家があり、ここが有名な絶対に立ち退かないカフェ・オレストだとわかった。

かなり前からずっと住んでいるらしくて、研究所が管理する時に立ち退きを迫ったらしいが、小人族の店主はガンとして頷かず、王妃と小人族の店主の妻と意気投合してそのまま研究所の一員として管理人となったらしい。

「帰りに寄りましょうね!美味しいって書いてあったし。」
「……それは珍しいですねぇ。最近書物に載ってないですのに。」

ユリウスに話していたが、下の方からのんびりとした声がしてふと下の方を見ると小人族の青いエプロンドレスをきていた。

その青さに私はよく目にする事が多く、そして今も同じ色のワンピースを着ている事にハッとした。

「同じ色?」
「あぁ、この色はここが元々原産でその青さに当時の王妃が気に入って持ち帰り、今は大規模に学園で栽培されているよ。お久しぶりです、ブーギルズさん。」
「おや?これはユリウス殿下ではありませんか……もうかなり経ちますねぇ、まだ私と同じ身長の頃にお会いしたというのに、こんなに大きくなって。」
「ええ、隣にいるのが婚約者のシア・キャロルです。」
「おお、これは失礼しました。私はそこの店主の妻でローベニア・ブーギルズと申します。」
「よろしくお願いします。」

私はまさか店に入る前に出会うとは思ってもみなかったので、少し驚いた。

持ってきていたはずと鞄の中から一冊の本を取り出して見せた。

「ここに載っていたんです。それで楽しみにしてて。」
「おや?これは中々古い物を。」
「え、これ古かったのですか?」
「そうですよ、私の義父である先代のから譲られてその後少し後に記念に取材されていたのですからねぇ。」

私は思わず、綺麗な装丁だったので、そんなに時が経っている様には見えなかったので気が付かなかった。

「そうだったのですね……」
「少しまだ展望台の方はまだ見てないので、後程伺いますね。」
「えぇ、私も腕を振るってみせますよ。」
「楽しみにしてます。」

鞄に本をしまい、ユリウスの手が差し出されて私はそれを握り、奥の湖畔の方へ続く木道を歩いた。

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