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逃れられない刺客

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春か。

温かい気温と少し風が吹くと少し気温が下がった様に感じる。
上空から降って来る桜の花弁に懐かしくなりながら、ユリウスと共に学園に入る。

「見てっあれが噂の!?」

同じ新入生だろう人が私達を指差し、きゃあきゃあとされるのは少し恥ずかしい。

学園の制服はある。
白と青の制服で剣帯がついている。

剣を扱わない生徒は剣帯を少し加工して、瓶を取り付けたりポーチを取り付けたりと人それぞれになっている。

既婚者や婚約者、または番がいる者は制服のローブに加工した方なければならない。相手の髪色を一部取り入れ、端を染めたりとかリボンをつけるなどが必要になる。
そして、制服の寮の下に相手の髪色のリボンをつける。
寮に入らない通学予定生徒は校章が入るのみだ。
学園にワープできる特殊な許可証を入学式後に、申請した者は貰えるそうなので通学にした。
寮に住むのも魅力的だったが、番がいる生徒は……セックスができないのでおすすめしないとユリウスにジロっと選ばないよな?と見られ言われたので諦めた。

この区別し、番がいる生徒に対して、双方共に気をつけるという暗黙の了解の為である。
そうする事で、番関係の問題を避ける者は避けるし、先生側も気をつけられる。

という事でもちろん私達はリボンをつけている。
ローブの端に刺繍をつけている。

糸は互いの竜化した時のたてがみから。
ちょっとした防御力や魔防力の向上など少し私が刺繍した。
ユリウスにこの工程を聞いた時に、それを早めに言ってよとペシペシと軽く叩いたのはまだ記憶に新しい。
なぜかにんまりとユリウスに笑われてしまって、私はポカンとぼーとしていたな。
彼が嬉しそうで、優しく頭を撫でてくれたので、私は照れて何も言えなかった。

「入学式は全てのコースの生徒が同じ講堂らしいな。混むだろうから早めに行こうか。」

ユリウスの手首に私は手を置いてついていく。
生徒が二度見される事にもう段々と私も慣れてきているが、時折女性の生徒から睨まれるのは居心地悪い。
少し早足だったのがお行儀悪かっただろうか。 
ユリウスは少し振り返り、なにか機嫌が悪いのだろうか少しいつもより表情が冷たく感じる。

「シア……少し待ってこっちに。」
「え?講堂はあっちでしょ?」

たくさんの生徒が目指して歩いている通りではなくユリウスが行こうとしているのは横道だ。

ユリウスに引っ張られて横道に入り、小道を少し進み、建物と木陰の間にグイッと引っ張られて止まった。

「……少しこのままでいて。」
「え?」
「シア俺を見て……そうだ良い子だ。」

私はユリウスのなにか背後を気にしていた。
降り向こうとしたが、ユリウスに顎を取られ、ユリウスの言葉に従って、青い瞳を見上げていると、顔が近寄り唇を重ねた。
彼の舌が私の唇を舐めた事で、慣らされた行為ですっかり私は自然と口を開けて、私の口腔内に彼の舌が入り、内側を舌で入念に舐められる。
ユリウスの舌と私の舌を絡み合ってぬちゅぬちゅとする事にすっかり私はキスが気持ち良かった。時間も場所も忘れて恍惚になりながらもキスに耽ふけった。

ようやく終わって離れていくユリウスが少し寂しくて、ハッとこの場所が学園だと思い出して私は顔に熱が集まる。

「ちょっと……急ごうって言ってたでしょ?」
「ッ……シアもしてて気持ち良かっただろ。そんな寂しそうな顔をして。帰ったら沢山愛するから。」
「もう……」
「ははっ……ごめん、少し……厄介な奴に後をつけられてて近づこうとしていたから。俺達が愛し合っていたらメインストリートに戻って行ったけどな……」
「厄介?」
「あぁ、ケッセルリング侯爵家の男……確かエーリヒか。貴族派だから俺達には関わらないか、少し対立してくるかと思っていて警戒はしていたが……初日で来るとはな。」
「ケッセルリング……どこかで聞いたことのある様な……」

私は物語の中でその苗字に聞き覚えがあり、うーんと悩んでいると、頭をゆっくり撫でられてユリウスの優しい声に顔を上げた。

「ケッセルリングは名門貴族だから先生に教えて貰ったかもしれないな。騎士や衛兵を多く排出し貢献している北のフリューア伯爵家と南のケッセルリング侯爵家と謳われる。」
「南………あ、思いだした。」

力に纏わる特殊な指輪を授かったケッセルリングの娘と共に祭壇のある泉へと行くサブクエストだ。

彼がきたのはそれでなのかなと思ったが、クエストでは兄がいるとは不明で書かれていなかったのでいたら普通は知らん人より兄を頼るよね。
うーんと悩んでいるとリーンゴーンと鐘が鳴り、ハッとしてユリウスの手を握る。

「遅刻しちゃうよ、急がないと。」
「アレは予鈴だけどな……そうか、混みそうだったっけ。」

ユリウスは少し私を心配そうに見ていたが、私達は小走りで元の大通りへと戻った。




受付を済ませて講堂に入り、コース事に並んでいるのか、コースの名前が書かれた看板のある列の椅子に座り、一呼吸ついた。

「間に合って良かった……」
「……ギリギリだったな。」

私達はコソコソと話していると、ガチャンと後ろからバタバタと足音がして隣に女生徒が一人座った。

「セーフかなぁ……まさか道に迷うなんて。」

汗をハンカチで拭いている茶髪の女性はおっとりとした感じのする女性の様で、葉っぱが肩についている。

「葉っぱがついているわ。」
「あら!どこに?やだっ飼い犬が逃げちゃって追いかけて捕まえた時にくっついたのね。」
「肩の上に2枚くらい。」

ぱんぱんと軽く彼女は払って私を見て少し驚いた後、もごもごとしていたけど、壇上で先生方が移動しており開始するなと思っていると彼女は話すのを諦めたようだ。

「すーみません!」

ガチャーンと大きく扉を開け放つ音がして振り返るとネオンピンク色の髪をした人族だろうか女子生徒が走りながら大声で謝り着席した。

ざわざわとした声が響き、なにあの子と非難する声が聞こえてきたが、ゴンゴンと静まれと先生が話した瞬間静かになった。

………まるで乙女ゲームの主人公の様な王道ぶりにエナとは違う顔だし、名前も違うはずだと少し内心はざわざわとしていた。

「………シア大丈夫?」

こっそり手を握ってきたユリウスは微かに聞こえる小さな声で耳に囁いてきた。

少し手が震えていた様で、私は大丈夫だと頷きながら微笑んだ。
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