愛が重いなんて聞いてない

音羽 藍

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凱歌と嘗ての栄光の章

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あの後ローベルト君は予想していたのか普通に頷いていた。
ヒルデガルトさんと別れて屋敷に戻りながらユリウスと話す。

「ローベルトはそもそも若い。金竜でもなく、将来的には王位を継ぐかもしれんが。ローベルトは番もまだ見つかってないのもある。学園は様々な階級や周辺諸国の国々から来ている。だからチャンスはあると言うと事だ。俺の場合は元々の立場と金竜という事で行けばそれだけ、周りがうるさくなる。幼少期に既にシアと会っていたから学園に通うメリットがなかった。今回はシアの警護も含んでの学園行きだ。」
「なんか、ごめんね?巻き込んでしまって。」

ユリウスの手をきゅっと握る。
私は目線を下の方に向け、歩きながらとりあえず家に戻ったら、ホームに行き、楽器を元の位置に戻した後、古城探索しなければと考えた。

「シアは気にしすぎだ。俺にもっと頼れば良い。俺の番なんだから。それに……学園に行けば総譜の事もあるが、この国出身ではない他国の者と会うこともあるかもしれん。番の事は大抵は入学前に説明されて聞いているはずだが、たまに……いや時々……それでも関係なく突っ込んでくる奴がいる。シアも気をつけてくれ。」
「まさか……」

ありえないでしょとそう言おうとした所、ユリウスにぐいっと引っ張られて熱烈に唇を奪われた。

ぬちゅぬちゅ

私の舌とユリウスの舌が絡み合い、舌を経由して軽く魔力を流し込まれて、私はぴくんと身体が揺れた。

ようやく口が離されて私は荒い息を吐いた。少し足元がもじもじしてしまうのが恥ずかしい。
スカートで隠れているのが幸いだけど。

「シア……その先は言うな。シアはこんなに美しいし、銀竜だ。ずっと言っているだろ?だから気をつけて。俺も一応は王族だから気をつけるけどな。」

おでこをくっつけて、吐く息すらかかる至近距離で彼は私に言い聞かせるように言った。

「……わかったわ、でもどんなに言い寄られても私がそばに居て欲しくて……愛しているのはユリウスだけだから。嫉妬はしないでね?」
「考慮はする……」

行きましょう?
私はそう言って家路につこうとユリウスに囁く。

城内を巡回する騎士に生暖かい目線で見られて恥ずかしい。

ユリウスに赤くなった顔を愛おしそうに撫でられて恥ずかしいけど、歩きながら幸せだなと思いながら笑った。

騎士の茶色の髪を見て思い出した。

「そういえば、あの時の竜って誰だったのかしら?」

うーん?と悩んでいると、ユリウスにあの時?と言われて、最初に竜化した時に割り込んできたあの竜よと返した。

「あ、あれか。ほら、腕輪の店のブルーノだよ。番だと途中で知ったのかもな。婚約者の装飾品や番の腕輪はしてなかったからな。」
「あ、そうだったのね。どこかで見た事ある気がして。」
「シアはブルーノが気になるか?」

ふと隣からピリついた気配がして、ハッとして否定する。

「ち、違うから。ふと思い出しただけよ。さっきも言ったでしょ?愛しているのはユリウスだけって。もう忘れたの?」

ツンツンとユリウスのむくれた頬を突いた。

「覚えているけど……」

少し顔を赤らめて拗ねたユリウスが可愛いなと私は笑った。

そういえば、あの二人は仲良くなってくれていればいいけどな、番なら。


―――――――――――


「で…私のデビュタントが今度ねぇ」

女性の仕立て屋のミーティアさんにサイズを測られながら、目の前でにっこりと微笑んでるユリウスを睨む。

「君の白いドレス姿楽しみだよ。」
「こういう時ぐらい、席外してくれると助かるのだけど。」
「それは無理な事を言うね。番がこうして裸に近い姿を見せてるのに、それを番である俺がいないのはだめだよ。」
「……同性なのに?」

チラリと仕事を勤しむ彼女は目がもう合わせない。まるで私は人形ですと言っている様な無機質な感じがする。

「だめなものはダメさ。わかってるだろ?」

ユリウスは胸をコンコンと叩く。

その合図でぁあ、例の謎……番優先ルールか。

外国育ちの私はわからないけど、そういうものなのか。

この合図は一応マナーなど講師から教えてもらっているが、竜人族での常識が抜け落ちている可能性がある私が、一般的でない事をしそうになったら止める為にお願いしたものだ。

「測り終えました。それでは、幾つかのデザイン画をお持ちしました。お客様のご要望に合わせて変更点などありましたらおっしゃって下さい。一応、急ぎでお作りしますので余り手の込んだ細工はし難いですが、今回はデビュタントの事なのでシンプルで助かりました。」

テーブルとソファーの所へ行き、座ろうとするとユリウスはぴったりと腰のすぐ側に下ろしたので、もうと思いながらも膝上よりマシかと思いながらデザイン画を見た。

「なるべく、シンプルなのが良いわ。後……胸をその隠すというか目立たない感じのがいいわ。」
「立派過ぎるのも大変だな。俺は好みだけど。」 

つんつん

横胸を突かないでと私はユリウスを睨む。

「それでしたらこちらですね。デビュタントは余りデザインに手を加え過ぎると目立ちますし、高年齢層の方々からは歴史を軽視していると目の敵にされる可能性も少しあるので。」

着る内側に色々細工があるらしく、良さげである。

「それで良いだろう、伝えておいた物は用意できたか?」
「はい、しかし何点か今回で最後になりそうな物がありますね。品物が制御され、私達一般市民には手に入りにくい状況です。このことは非常に残念であります。」
「……帝国か。」
「はい、そうです。表向きには知らされていませんが私達の情報ルートで帝国国内の内乱が発生しかけてると噂がきてますね。ある程度物流が少し低迷してます。物資や製品の供給不足が発生してますね。竜化して入国する事は今は許されていますが、もう少し現状が悪化した場合は私共でも不可になる可能性もありますね。私達がいた時は帝都はまだ普通の状態でしたけど。」
「もし必要になった時のために、取引先を教えてくれるか?無理は言わんが。」
「ええ、ユリウス殿にはご贔屓にしていただけるだけ名誉な事ですし、今回のシア様の衣装を任せて頂い事も、かなり私達《青き竜衣》の工房にとって名誉であり、宣伝にもなるでしょうし、構いません。」

なんで名誉?

不思議そうな顔をしていたからか、彼女は教えてくれた。

「…御本人様がご自身の価値を知らないとは。」

彼女はあの無機質な目をポカンとしており、ようやく感情が見えたなと思っていた。

「シアが銀竜だからだよ。俺は金竜だし……揃うのは本当に稀なんだ。金竜はいる事もあるが大抵は別の竜だったりするし、銀竜はそもそも個体数が少ない。番は血が近いのが嫌がるのもあるが。だから番となった金竜と銀竜のペアは本当に珍しいから絶対に注目される。」
「あの物語にもなっている初代竜王夫妻と同じで、憧憬と羨望ですよ。それにお二人は本当に似ていて竜の血に眠る追憶で、郷愁を感じます。」

だから絶対にお二人にご贔屓にしていただけるのは本当に名誉な事ですと力説され私はう、うんと生返事をしてしまった。

ミーティアさんはユリウスに紙を渡しており、これは実際に向かった方が早いかと言っている。

「それで代金の方は」

私は払おうと思ったが、ユリウスに首を振られた。

「今回は初孫の祝宴だとキャロル公爵が負担してくれると寧ろもっと強請ってくれと言われてるくらいだ。」

ミーティアさんが差し出した箱をユリウスは受け取った。

「装飾品もこれで良いし、後は靴か。」
「私とりあえず着替えてくるね。」

薄着になっていたので立ち上がる。

「あぁ、着替えたら戻ってきてくれ、靴のデザインも合わせないと。」
「うん、じゃ」

私は扉を開け外へ出て閉めた。

廊下を歩き階段を昇る。

ユリウスは金竜故に、王族から身分を離なれられる事をできないといっていたな。

なのに、そこに私がきて更に離れる事がほぼ難しくなった。

がちゃり

自室に入り、クローゼットから服を取り出して、着替える。
……私が番で申し訳ないなと思う。

でも……あなたを簡単に諦めれないからごめんユリウス。

私は、服を着替えてチラッとバッグの方を見た。

ユリウスの居ない時にチクチクと少しずつ塗ってきて、この前ようやく何点かできた……

いつ渡そうかな。

デビュタント前には渡したいな。

でも恥ずかしいし、ついついユリウスに流されちゃって…

渡せずにいる。

いらないとは言わないと思うけど…

ゴミに捨てられてるのを見つけたら…
ちょっと悲しいかもしれない。

その時らそしたら今度からは気をつければいいか。

私は悩みつつ外へ出て、下の階に向かう。

「シア…待ってたよ、この人が専属靴職人の人だよ。」

私はこれからの事を期待しつつ、微笑んだ。
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