愛が重いなんて聞いてない

音羽 藍

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忍び寄る闇の章

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「あのね…」

言おうとした瞬間、ノックの音が鳴り、ドアが開いた。

店員が頼んだお茶を届けてくれたようで失礼しますと言い去っていった。


「ユリウス教えて、ユリウス事もっと知りたい。」

私はお茶を置いて、ユリウスの青い瞳を見る。

「わかった、ここは貴族向けで防音でもあるし話そうか。」

少し特殊な家系だと。

「俺の正式な名前はユリウス・アウラー。」

竜王国の王家の血筋であり、その中でも珍しい金竜であると。

現国王のヨハンの王兄である父ダニエルは病弱であり、現国王のヨハンが継いだ。

父の幼馴染で番であるクリームヒルデが母であり、幼少の頃にダニエルは亡くなり、クリームヒルデもまた悲しみの余り追う様に亡くなった。

その時は無謀にも魔力を覚醒し、2人の元へと行こうとして魔法を失敗した。
彷徨う内にそこで私…シアと出会った。
まぁ無意識かの私と出会い、番だとわかったらしい。

その後クリームヒルデの母、ユリウスの祖母カサンドラが実質的に母親がわりに育ててくれた。

王国の祖であり、珍しい金竜の為、婚約者を希望する者が多くいたが、2人とも亡くなった時に魔法失敗時に出会った番がいるという事をカサンドラに話しており、婚約者騒動はなくなった。
だが狙ってる者は多い。
王兄ダニエルの血筋の為担ぎ上げようとする者も前はいたが、ユリウスはヨハンの息子王太子ヴィーラントが継ぐべきと話した為その話はない。

金竜であり、始祖である初代竜王のジークフリートにそっくりの顔立ちをしているので、国民からの人気も高い故に、政治的にも絶妙な立ち位置だった。

「俺は王にはなりたくない。王になる為の勉学もしてないし、派閥もない。社交界もそれ故に余り出てなくてな。シアを探してたよ。居ないと報が届く度に、心折れそうで幻かと思った事もあるが、赤月で君に再び会えてからは確信して探していた。」
「えっと……じゃあ、ユリウスは王族って事?」
「まぁ式典などや書類仕事しか出ない端くれの様な者だ。冒険者ギルドで名前は普通のユリウスとして普通に平民や下位貴族に混じって狩りしたり、働いたりもしてるけどな。払っている資金もそこから出してるから安心していい。」
「……私と本当に結婚しても大丈夫なの?」

二度と?
王になった事があるのか?
彼の話しでは一回もないはずなのに、どういう事だろう。
ユリウスの二度とと言った瞬間の昏く澱んだ瞳は不安になる。

どくんどくんと高鳴る心臓。

ユリウスは王族。

キャロル家。

どこぞの馬の骨。

色々なキーワードが頭の中で渦巻く。



膝の上で握りしめた手をユリウスはそっと手に取り優しくキスを落とした。

「大丈夫だ。この前話した通り抜け道はあるし、もし反対されたら俺は元々王族から除名されて平民でもいいし、そしたら2人でどこかの村で暮らすのも良いな。」
「珍しい金竜なんでしょ?…絶対許されないよ。」

私は震えてきた。

どうしたらいいのか。

目の前が真っ暗になる。

抜け道を使って本当に許されるのか。


「シア、だから悲しまないで。大丈夫だから。」

抱き締められて、私は少しユリウスのあの匂いがして安心してきた。

「…ごめん、混乱してた。少し安心してきた。」
「良かった、すまないでも……は君を手放す事はできないから。」

私はユリウスの背中に手を伸ばして掴む。キャロル家の事を話そうした瞬間にユリウスにキスをされてすっかり色欲に溺れた。

もう一つ不安材料には、未だ話せなかった。



ようやく落ち着いた私とユリウスは店を出て、腕輪の店へと向かう。

大通りを抜けて、噴水のある広場にきた竜が掲げる腕輪のマークの店へと入る。

店内はたくさんの人が棚を見ており、黄色い声を上げた熱々なカップルや小さな子供連れの親子が多い。

ユリウスは私の腰引きよせて、密着しつつ歩み、店員へ封筒を見せると店員は驚いて少々お待ちくださいと告げ奥へと駆けて行った。

「人気のお店なのね?」
「あぁ、他にも腕輪の店はあるがここが品揃えが良いし、職人の腕前が高い。」

こっそりと耳元へ囁いてくれた。

「お待たせしました、ご案内します。」

初老の男性と初老の女性がにこやかに接客してくれた。

奥へと進み、ドアを開けて、テーブルとソファーのある応接室に入った。

ユリウスがソファーに座り、その隣りに私も座ると向かい側に店員の2人は座る。

テーブルの上には革の箱があった。

「私の新しい腕輪とこちらのシアの腕輪を用意して欲しい。番設定もつけてくれ。」
「…ッ会えたのですね。それはようございました。」
「あぁ、長かった。シアこちらの2人はオーナー夫妻のロホスとヘレナだ。」
「シアと申します。よろしくお願いします。」

探してた事を知っていたのか。
色々ご縁があって私を探していた事を話していたらしい。

「既存の商品はこちらからです。」 

二つ大小ある箱の内、大きい箱が開くとたくさん一対の腕輪があった。

「なんでユリウスのも変えちゃうの?」

私はユリウスの耳にそっと小さな声聞くと、ユリウスは笑って耳元で小さな声で教えてくれた。

「…それは番がいれば新しく機能を追加するから今使っているのより新規の物を加工した方が上手くいくし、安上がりなんだ。元々あるのは魔力を抜いて廃棄…金属は溶かして新しい物へ代わり、魔石は外すと割れてしまう。魔法で手入れはしているが、経年劣化は戻せないからな。」
「なるほどね」

箱の中の腕輪を再びみているがなんかどれもこれも同じ様な気がしてくる。

ピンと来ない。

「良いなと思った物はなかったか?これは直感で選んで方が良い。魔力を固定するから合わない物を使うと力は大幅に悪くなる。相性の良い物を選べば、腕輪は最高の働きをすると言われてる。」
「ない…申し訳ないわ。」
「いえ、これは相性ですもの。お気になさらず、新規の物を作るとなると少々お時間をいただくことになります。」
「そっちの箱はなんだ?」
「…これは一応私達の息子が作った一対の腕輪なのですが…魔石は通常のを使わず、かなり純度の高い物を使用した為ずっと売れ残っているものです。本当は持って来なかったのですが、いつのまにか置いてあったので大方息子が棚に置いていたのを他の従業員が間違えて持ってきたのでしょう。申し訳ありません。」
「見てもいいかしら?」

ごくりと唾を飲み込み、開かれた箱の中にはまるであの竪琴を腕輪にした様な装飾を見て、不思議な気持ちで、思わず手を伸ばし腕輪を触る。

共鳴した様な感覚があった。

「この石はどこで見つけたのですか?」

私は見た事がある石を見つめた。

「少しお待ちください、息子を呼んで参ります。」

ガタンとドアを開きぱたぱたとかけていった音がした。

これは。

ゲームの時もよく見かけた。

そして、今世でも。

《天幻の間》

そう、あそこにあった魔晶石にそっくりなのだ。

同じだろう。

なぜここにある。


「失礼します、作成者の息子ブルーノです。」

2人はソファーに座り、私を見た。

ブルーノさんは茶色の髪に藍色の瞳が印象的だ。

その瞳は冷たく、表情も固い。

「コレの事に聞きたいと聞いた。なんだ?」
「ブルーノ!お客様にその言葉遣いは」
「あぁ、すまな…すみません。ずっとさっきまで作業してまして、失念しておりました。」

なぜだがわからないが、ブルーノさんからは嫌われてる気がする。

まぁ、ユリウス以外はどうでもいいけど。

「この石をどこで採取しましたか?」
「……それは企業秘密です。」
「言いなさい、ブルーノ。これは大事なお客様なのです。」
「わかったよ……エリューシラ鉱山の最奥で偶然手に入ったんだ。」
「ん?エリューシラ鉱山は確か古い遺跡が発見されたから封鎖されたはずだ。」

ユリウスはあごに手を置き、思い出そうとしている。

「あぁ、鉱山で発見した後、途中壁が崩れて遺跡が現れました。封鎖される前ですよ、見つけたからこそ封鎖する事になりました。発見者が私です。」
「あ、それでか聞き覚えある名前だったのは。」
「はい?まぁよく知ってますね、情報誌には載ってないとは思うのですが。」
「良かったわ、聖地ではないのね。」

「「「「聖地?」」」

ハッとして口を抑えた。

ユリウスは耳元へ近寄り囁いた。

「聖地での採掘は表向きには禁止されてる。古い遺跡があるし、下手に掘り進めると崩落や土砂崩れの危険があるし、あそこは地に満ちる魔力量が高いから酔いやすいからな。麓ならまだマシだけど、あの場所かと思ったのか?君のアレ。」
「…たぶん聖地なら魔晶石がたくさん取れるから…」
「なんでだ?」
「それは…長くなるわよ?魔晶石の出来方は二つあるの。片方は自然にできる方と二つ目は……」

「もう用がないなら帰る。」

彼は夫妻に抑えられながら夫妻と口論している。

「えぇ、ありがとうございました。先程の事が聞きたかったので。それにこの装飾が懐かしくて、嬉しかったです。」
「なんで、懐かしいんだ?」

ブルーノは怪訝な表情を浮かべている。

私はおかしい事を言ったのだろうか。

「この装飾はその時の古い遺跡に描かれてた石碑をモチーフにしたのだが。」
「さぁ…なんでしょうね…」


私はとぼけて、私の持つ竪琴が古い時代にも遺跡にも描かれていた喜びと、今はもう忘れ去られたせつなさが相まって微笑んだ。

私の表情は相反する二つの想いで、意味深な謎の微笑になっているだろうな。

それに、言えないたぶんうちにある竪琴ですなんて。

「あぁ、あの竪琴か。」

こっそり耳元で囁いてきたユリウスはウィンクした。

私は苦笑いしながら頷いた。

ジロっとブルーノはうさんくさそうな表情を浮かべている。


「コレにするわ。ユリウスもこれで大丈夫?」
「あぁ、それで良い。」

ユリウスは腕輪を触った後頷いてから、眺めながら思考しているのか斜め向こうをぼんやりとしており、ブルーノは不思議そうに表情をしてから思考に入っているようだ。

「では、調整してきますね。機能は全ておつけますか?」
「あぁ、全てを。代金はいくらだ?」
「いえ、そんなおおそれ」
「良いんだ、品には対価を払うべきだからだ。」
「ふふ、それではこちらになります。調整には少々お待ちください。」
「あぁ、待っている。これは廃棄で良い。」

ユリウスは腕輪を外して、懐から革袋を取り出し、数えた後腕輪と共に貨幣を渡した。


ブルーノはぶつぶつ良いながら夫妻に押されて部屋を出て行った。
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