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恋心を自覚する。
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せっかくなら早起きを習慣にしてしまえばいいのに、小宅が卒業してしまったら元通りになるかのように匂わせている。ある意味潔い愛の考え方に呆れつつも尊敬の念を抱くという、複雑な感情が芽生えた。
「仲良しみたいで良かったな」
とはいえ、二人の交流が順調なのは素直に喜ばしい。さっきまで心がささくれだっていたこともあって、友人の幸福に癒してもらったようだった。単純だが、気分が良くなる。
「うーん。いいような悪いような。もうコタケ先輩ウブすぎてさあ。手ぇ繋いだだけで真っ赤になっちゃうんだもん。エッチなんかしたら卒倒しちゃうんじゃないかなと思うと、さすがに怖くて襲えもしないよねぇ」
「……お前は、本当に朝っぱらから」
あくまでも純粋なお付き合いについて触れたはずが、朝とは思えないほどの猥談で返され、聖は辟易した。
「でもさぁ、絶対コタケ先輩もメグに恋しちゃってる節あるとおもうんだよねぇ。なにしろメグをモデルにしたキャラクターのゲーム作っちゃうくらいなんだからさ」
聞くところによると、魔法少年らぶねすとかいうシューティングゲームの主人公、らぶねすのモデルが愛らしい。聖が拾ったあのらばすとに描かれていたキャラクターだ。結局、たまたま似ていたのではないかという聖の推測は外れていた。
小宅は一年次、同じ趣味を持つ同級生たちとゲーム制作同好会を発足し、夏と冬に発表する作品を開発、製作しているのだとか。どうして夏と冬なのかはわからないが、それだけ一つのゲームを作り上げるには時間がかかるという事なのだろう。
「いっぺん部室に遊びに行ったらアイドルみたいな扱い受けちゃった。それでさあ、今度お裁縫も得意なイラスト担当の子がメグのためにらぶねすの衣装作ってくれるんだって。……はっ、その格好で誘惑しちゃえばワンチャンあるのでは?」
「本当に襲ったら通報してやるからな」
純情な小宅の為に一応釘を刺しておく。「はーい」と元気に答えているが、聞き入れてもらえたかどうかは正直微妙なところだ。
「ま。メグの話はこのくらいにしてさ。なんで血相変えて入って来たの?」
「……う、それは」
このままうやむやになって欲しかったが、そう上手くは事が運ばないらしい。
聖自身もまだ自分がどうしてあんなにも取り乱してしまったのか、その原因が分からないので、どのように打ち明ければよいのか分からない。
自分の醜い部分をさらけだすのは、なかなか勇気がいることだったが、それでもたどたどしく下駄箱での出来事を語る。
「ふむふむ。つまりひーくんは、とーじくんに言い寄る謎のわんこくんを敵視してしまったと」
「敵視……ってほどじゃねえけど」
敵とみなすほど聖は彼の事を知らない。よくよく考えると、名前も知らない相手に悪感情を抱いてしまったのだ。
今こうして愛に伝えながら、初対面の彼に対してもずいぶん失礼な態度をとってしまったと、深く反省した。
「何でこんな苛々しちゃったんだろうな……」
後悔と罪悪感でどんよりと気持ちが落ち込む。
「何でって、ひーくん。本気でわかんないの? 十中八九ヤキモチじゃん。とーじくんを子犬系オメガくんに横取りされちゃうんじゃないかってやきもきしたんでしょ?」
「……やきもち?」
「ジェラシー、嫉妬とも言うね」
瞬間、顔が急激に熱くなった。急に体温が上がった所為でのぼせたようになり、上手く思考が働かなくなる。
「そ、そんなわけ……」
冬治の人気など昔からで、聖はそれをすぐ近くでいつも見てきた。だけどこれまでは自慢の幼馴染が注目を集めていることを誇らしくすら感じていた。こんなにも陰湿な気持ちになったことはない。
なぜ急に感情に変化が生まれたのか。
その理由に心当たりがないわけじゃなかった。昨日、冬治に告白されたからだ。聖は冬治に想いを告げられて、聖の中にも変化が生まれた。
「……えっと、ちょっと待ってくれ、それって……」
冬治へ抱く気持ちが変わって、冬治と他の誰かが一緒にいることに対して不快感を抱いてしまう。それを愛は嫉妬だと言い切った。つまり聖は今、嫉妬心を抱いている。
「……俺って、冬治の事が好きだったのか?」
聖としては、論理立てて答えを導いたはずだった。だが愛は怪訝な顔で聖を見つめる。
「どしたの、ひーくん。どっかに頭ぶつけて一時的に記憶飛んじゃった? ひーくんがとーじくんの事好きなんて、今更すぎない? ていうか婚約者じゃん」
「そ、それは親同士が勝手に決めたことであって、俺はずっと大事な幼馴染だと思ってて。確かに理想的なアルファで憧れてはいたけど、恋愛感情とは思わなくて……」
聖にとってはまごうことなき真実をつらつらと並べ立てながら、違和感を覚えた。
いままで憧れでは片付けない出来事が、何度か起こった気がする。真っ先に思い浮かぶものでいえば、観覧車でのキス未遂とか。
あの時、もしも偶然が起こらなければ、聖は間違いなく冬治とキスをしていた。今となっては、あの日がファーストキスならばよかったのにとすら思ってしまう。
聖は好きでもない相手と軽々しく接吻するほど節操のない人間ではないと自負している。だが、あの時聖は受け入れようとしていた。つまるところ聖はそのころから、冬治を憎からず思っていたのではないだろうか。
「仲良しみたいで良かったな」
とはいえ、二人の交流が順調なのは素直に喜ばしい。さっきまで心がささくれだっていたこともあって、友人の幸福に癒してもらったようだった。単純だが、気分が良くなる。
「うーん。いいような悪いような。もうコタケ先輩ウブすぎてさあ。手ぇ繋いだだけで真っ赤になっちゃうんだもん。エッチなんかしたら卒倒しちゃうんじゃないかなと思うと、さすがに怖くて襲えもしないよねぇ」
「……お前は、本当に朝っぱらから」
あくまでも純粋なお付き合いについて触れたはずが、朝とは思えないほどの猥談で返され、聖は辟易した。
「でもさぁ、絶対コタケ先輩もメグに恋しちゃってる節あるとおもうんだよねぇ。なにしろメグをモデルにしたキャラクターのゲーム作っちゃうくらいなんだからさ」
聞くところによると、魔法少年らぶねすとかいうシューティングゲームの主人公、らぶねすのモデルが愛らしい。聖が拾ったあのらばすとに描かれていたキャラクターだ。結局、たまたま似ていたのではないかという聖の推測は外れていた。
小宅は一年次、同じ趣味を持つ同級生たちとゲーム制作同好会を発足し、夏と冬に発表する作品を開発、製作しているのだとか。どうして夏と冬なのかはわからないが、それだけ一つのゲームを作り上げるには時間がかかるという事なのだろう。
「いっぺん部室に遊びに行ったらアイドルみたいな扱い受けちゃった。それでさあ、今度お裁縫も得意なイラスト担当の子がメグのためにらぶねすの衣装作ってくれるんだって。……はっ、その格好で誘惑しちゃえばワンチャンあるのでは?」
「本当に襲ったら通報してやるからな」
純情な小宅の為に一応釘を刺しておく。「はーい」と元気に答えているが、聞き入れてもらえたかどうかは正直微妙なところだ。
「ま。メグの話はこのくらいにしてさ。なんで血相変えて入って来たの?」
「……う、それは」
このままうやむやになって欲しかったが、そう上手くは事が運ばないらしい。
聖自身もまだ自分がどうしてあんなにも取り乱してしまったのか、その原因が分からないので、どのように打ち明ければよいのか分からない。
自分の醜い部分をさらけだすのは、なかなか勇気がいることだったが、それでもたどたどしく下駄箱での出来事を語る。
「ふむふむ。つまりひーくんは、とーじくんに言い寄る謎のわんこくんを敵視してしまったと」
「敵視……ってほどじゃねえけど」
敵とみなすほど聖は彼の事を知らない。よくよく考えると、名前も知らない相手に悪感情を抱いてしまったのだ。
今こうして愛に伝えながら、初対面の彼に対してもずいぶん失礼な態度をとってしまったと、深く反省した。
「何でこんな苛々しちゃったんだろうな……」
後悔と罪悪感でどんよりと気持ちが落ち込む。
「何でって、ひーくん。本気でわかんないの? 十中八九ヤキモチじゃん。とーじくんを子犬系オメガくんに横取りされちゃうんじゃないかってやきもきしたんでしょ?」
「……やきもち?」
「ジェラシー、嫉妬とも言うね」
瞬間、顔が急激に熱くなった。急に体温が上がった所為でのぼせたようになり、上手く思考が働かなくなる。
「そ、そんなわけ……」
冬治の人気など昔からで、聖はそれをすぐ近くでいつも見てきた。だけどこれまでは自慢の幼馴染が注目を集めていることを誇らしくすら感じていた。こんなにも陰湿な気持ちになったことはない。
なぜ急に感情に変化が生まれたのか。
その理由に心当たりがないわけじゃなかった。昨日、冬治に告白されたからだ。聖は冬治に想いを告げられて、聖の中にも変化が生まれた。
「……えっと、ちょっと待ってくれ、それって……」
冬治へ抱く気持ちが変わって、冬治と他の誰かが一緒にいることに対して不快感を抱いてしまう。それを愛は嫉妬だと言い切った。つまり聖は今、嫉妬心を抱いている。
「……俺って、冬治の事が好きだったのか?」
聖としては、論理立てて答えを導いたはずだった。だが愛は怪訝な顔で聖を見つめる。
「どしたの、ひーくん。どっかに頭ぶつけて一時的に記憶飛んじゃった? ひーくんがとーじくんの事好きなんて、今更すぎない? ていうか婚約者じゃん」
「そ、それは親同士が勝手に決めたことであって、俺はずっと大事な幼馴染だと思ってて。確かに理想的なアルファで憧れてはいたけど、恋愛感情とは思わなくて……」
聖にとってはまごうことなき真実をつらつらと並べ立てながら、違和感を覚えた。
いままで憧れでは片付けない出来事が、何度か起こった気がする。真っ先に思い浮かぶものでいえば、観覧車でのキス未遂とか。
あの時、もしも偶然が起こらなければ、聖は間違いなく冬治とキスをしていた。今となっては、あの日がファーストキスならばよかったのにとすら思ってしまう。
聖は好きでもない相手と軽々しく接吻するほど節操のない人間ではないと自負している。だが、あの時聖は受け入れようとしていた。つまるところ聖はそのころから、冬治を憎からず思っていたのではないだろうか。
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