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恋愛シミュレーションゲーム

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 教室に戻った聖は早速、自席で突っ伏してだらけている愛に声をかけた。のっそりと顔を上げた愛は、聖の手にあるものを見てにやりとする。

「ああ、ひーくん、もらったの? いやー、コタケ先輩って律儀って言うか義理堅いっていうか、ほんと変わってて面白いよねぇ」

 変わっているという面に関してはお前が言うなと内心ツッコミを入れておいて、早速聖は愛の真意を問うことにする。

「何でこれなんだ? 俺別に、ゲームとかやらないんだけど」

 厚意を無にするのも気が引けるから、ちゃんと遊んでみるつもりでいるが、心の底から楽しめるかどうかについては正直自信がなかった。
 困惑している聖に、愛は大きな目をぱちくりさせて、ちょいちょいと手招きした。そして、ゲームのパッケージを指し示す。正確には、三人のうちの一人、柔和な微笑を浮かべてこちらに手を伸ばしている男子を指さしていた。

「……えっと、なんだ?」

「だからぁ、この子。誰かさんに似てない?」

「誰かって……」

 改めてパッケージイラストを凝視してみてはっとした。
 童話に登場する王子様のように華やかかつ気品のある顔立ち。髪色は明るめのゴールドブラウンだが、髪型は襟足が長めのショートカットで、柔和な微笑が良く似合う。

「しかも、幼馴染キャラなんだよ。すごくない? さすがに名前は違うけど。こういう偶然ってあるんだねえ」

 愛情報によると発売日は三年前だそうなので、本当に全くの偶然だ。いや、奇跡と呼ぶべきだろうか。そう呼んでも遜色ない程、うり二つだ。聖が憧れる理想のアルファ。嘉瀬 冬治にそっくりなのだ。

「攻略対象が少ない分ボリュームたっぷりらしいよ。良かったね」

 ビジュアルが冬治に似ていると分かった途端、俄然興味が湧いてきてしまった。
 そうは言っても、聖は言動が荒っぽいわりに割と生真面目な性質なので、やるべきことをすべて済ませて後は寝るだけという万全の体制を整えてからパソコンを立ち上げる。
 たった数ページの説明書の指示に従って無事ゲームをダウンロードを開始したのだが、これが結構時間がかかる。
 こんなことならスキンケアをする前にはじめておくのだったと後悔したが、どうにかゲームが起動した。

「おお。すげえな、アニメがついてる」

 オープニングアニメーションの後でタイトル画面が現れる。主人公はオメガの男の子と女の子、どちらも選択可能らしい。
 とりあえずより親近感を覚えるだろう男の子の方を選択して、生年月日は奇をてらわず素直に入力した。なんだか会員登録をする時みたいな作業だ。
 最初の準備が終わると早速、ゲームが始まる。聖は緑茶をすすりながらひたすらマウスをクリックしてテキストをすすめた。
 ひとまず攻略対象キャラクターそれぞれと出会ってから本格的に恋愛に発展していくようなのだが、何しろシナリオがボリュームたっぷりなので、まだまだ序盤というところで寝る時間がきてしまった。
 夜更かしは美容の大敵であり不健康のもとなので、時間が来たら中断してベッドに入る。
 その日から聖は、少しずつ少しずつシナリオをすすめていった。
 せっかく親しくなれたのだし全員とまんべんなく友情を育みたいところだが、聖のこの思考はゲームの趣旨に反しているらしく、最初はノーマルエンドとやらで誰とも結ばれることなく終わってしまった。
 確かに振り返ってみると、後半は三人に思わせぶりな態度を取り続けて、その小悪魔っぷりにプレイヤーである聖をハラハラさせた。
 一週目の反省点を生かし、二週目は幼馴染キャラクターのみに狙いをつけて、積極的にかかわりを持つよう心掛けてみた。
 するとずいぶん早い段階で、特別なイベントが解放された。

(なるほど。八方美人は駄目ってことだな)

 今度は順調に二人の仲が進展していくのだが、なんだかだんだん雲行きが怪しくなってきた。
 幼馴染の執心が病的になっていったのだ。
 四六時中行動を監視され、スマートフォンにはどれほどスクロールしても終わりが来ない連投のメッセージが入るようになり、そして最終的には監禁されてしまって終わった。
 法的に大丈夫なのだろうかと、いろんな意味で不安になるエンディングに到達し、これが人気のゲームなのかともやもやした気持ちでいたが、翌日愛を通じて小宅に確認したところ、どうやら一人のキャラクターの中でも幸せなエンディングと、やや不幸なエンディングの二種類が用意されているらしい。
 攻略サイトを見ると良いというアドバイスをもとに、聖は今度こそハッピーエンドに到達できるように頑張った。
 やがて聖は気付いた。
 恋愛シミュレーションゲームとはつまり、主人公を幸せにするゲームなのだ。
 感情移入するために自分の情報を入力したが、結局、自分ではなく主人公の恋模様を応援する立場になっていた。だからだろう。三度目の正直でハッピーエンドが見られた時には、親のような気持ちで「よかったな」と主人公を祝福していた。
 一人を攻略出来たら自信がつき、せっかくもらったからには余すことなく楽しみたいという気持ちになっていた。そういうわけで、他二人のルートも一応見てみることにした。
 聖は一週間ほどかけて、すべてのエンディングを回収した。画像が見られるページをすべて埋めた時の達成感は心地よく、自分にはコレクター魂があるのだと新たな気付きもあったのだった。
 そうこうしている間に期末試験が迫っていた。
 聖は休日を利用して冬治を自宅に呼び、試験範囲の理解度を照らし合わせる。ちんぷんかんぷんではなかったが、若干不安が残るようなところは冬治に教えてもらって理解を深めていった。
 ある程度勉強してから休憩を挟むことになり、聖はさっそく小宅からもらったゲームについて冬治に話すことにした。
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