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守護獣騎士団

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「王都の地形は把握してるか? いわゆる円錐えんすい型になっていて、中央に行くほど高地になる」

「ああ。そして高い場所には高い御身分の方のお住まいがあるんだったな」

 そして平地へ下る程、身分が下がっていく。貴族の邸宅が並ぶ区域と、平民たちの住居が建ち並ぶ区域の間に、上は貴族御用達の高級店、下は平民向けの商店なんかが軒を連ねている。外角の正門から王都へと延びる大通りはあるものの、途中で何度も直角に下り曲がって大群での突入を阻んでいた。
 中には貧しい者もいるが救貧院による施しもあり、貧民窟と呼ばれるような区画は存在せず、全体的に見れば治安は良い方だ。

「今俺達が居る守護獣騎士団しゅごじゅうきしだんの兵営は、いわゆる高級商店と大衆向けの商店が並ぶ区画の間に挟まれてる」

「この国じゃ近衛以外の騎士団は、貴族階級と宮城の間に士官学校を併設した兵舎を構えてんじゃなかったか?」

「さすがに詳しいな。たしかにここも最初はその区画に増設される予定だったが、獣に見下ろされるのは気分が悪いと、貴族サマ方から猛反発を受けてな。結果的に今の位置に建てられることになったわけだ」

「なるほど、いかにも身分にこだわる貴族どもの考えそうなこった」

 アブニールは嫌味たっぷりに冷笑する。対するフラムは馬鹿にされた張本人だというのに悠然と笑っている。

「ところが悪い事ばかりじゃないぜ。増設でなく新築だからどこもかしこも新しいし、敷地は当初の予定の二倍になった。それにただでさえ獣使いは数が少ないからな。お高く留まった奴らの目を気にせず、広々とした敷地を悠々と使うことが出来る。広い風呂もあるんだぜ。あとで一緒にどうだい?」

「使わせてもらえるってんなら有難く借りさせてもらうが、入浴中くらい身の危険とは無縁でいたいもんだな」

「残念。まあ、お楽しみはあとにとっておきますか」

 芝居じみた動作で肩を竦めたあとで、フラムは話を戻す。

「守護獣騎士団兵営には兵の寝泊まりする寮舎の他、訓練場や武器倉庫……まあ、ここらへんは普通の騎士団と変わらねえ設備だな。珍しい建物だと、獣使いに関する研究を行う研究棟、幼くして能力に目覚めてしまった獣使いを保護し、育てる保育所なんかがある」

「獣使いに関わる施設をひとまとめにしたのか」

「そういうコト。だから、逐一長距離の移動が必要ない。俺達は任務の関係で王都を出る機会も多いから、正門に近いこの立地も移動距離が縮まってむしろ便利なんだ。ほら、疲れて帰って来たのに延々と階段や坂道を上らなきゃいけねえなんて気が滅入るだろ?」

 実際に体験してきたというわけでもないのに、想像だけでげんなりしている。アブニールは思わず笑んでしまった。

「確かにそうだな」

 同意を示しながら、内心でフラムの前向きな姿勢に感心する。卑屈になったり不平等を嘆いたりするよりも、建設的に考えるほうが有意義だ。そのあたり、アブニールもフラムを見習うべきだと思った。
 口頭での説明が終わるころには、二人とも食事を終えていた。使った食器を返却しがてら、フラムの案内でまずは食堂へ向かうことになる。
 寮舎は全体的に木造で建てられ、自然の暖かみを感じられる落ち着きのある内装になっている。
 食堂もまたしかりで、吹き抜けになっている二階部分にも卓を設けることで広々とした空間を演出し、その分天井が高いため、開放感があった。等間隔に並ぶ壁掛けランプ、それに天井に見える巨大なシャンデリアが広い室内を明るく照らしている。
 すでに大半が食事を済ませたらしく、食堂内の人影はまばらだ。アブニールはフラムに倣ってカウンターに食器を返却する。さらにフラムの後を追って、真ん中のテーブルで黙々と食事をしている青年のもとに向かった。

「やあ。あ、立たなくていいからな」

 気さくに片手をあげて近づくフラムが慌てた様子で止める。すでに腰を浮かせかけていた青年は、「わかりました」と椅子に座りなおした。背筋がすっと伸びていて、ものすごく姿勢が良い。食べ始めたばかりなのか、食事はまだほとんど残っている。

「お前が情報を集めてくれた野良のセンチネルが目を覚ましたんでな、紹介しようと思って。ニール、こいつはレーツェル。うちの頼れる諜報員だ」

「座ったままで失礼しますが、レーツェルと申します。アブニール・グルダン。勝手に身辺を探った無礼も重ねてお許しいただきたい。申し訳ございませんでした」

 フラムはニールと愛称で呼んだにも関わらず、レーツェルは知るはずのないフルネームを口にした。
 言葉遣いも丁寧で礼儀正しく、すっきりとした目鼻立ちが清楚な、一見はかなげな美人だが、只者ではなさそうな気配をアブニールは確かに感じ取った。

「フラムから詳しい話を聞いて、あの状況じゃあしょうがねえと分かってる。だからあんたを責めるつもりはねえよ」

「寛大なお心に感謝します。そうだ。あなた宛ての手紙を預かっています。どうぞ」

 どうぞと言いながら、レーツェルは姿勢正しく座ったままだ。かわりにどこからともなく小鳥が現れた。自分の体長とほぼおなじサイズの封筒をくわえ、長机の上をホッピングしながら近づいてくる。ちょうどアブニールの手の届く位置まで来ると、手紙を落としてレーツェルの肩に飛び乗った。

「そいつは、あんたのスピリットアニマルか?」

「はい。相棒のアルプです。今は御覧の通り小鳥の姿ですが、小動物に限り自在に姿を変えることが出来ます」

「元は生気を喰らう夢魔の一種らしい」

 レーツェルの答えに、フラムが補足する。

「ですが、この子に夢に忍び込む能力はありません」

 本来在るはずの能力を持たなかった相棒を気の毒がって落ち込んだのかと思いきや、

「いっそ夢の中に入って洗脳でも出来たら、今よりもっと情報収集が楽になるのですが……」

 などと恐ろしい事を言い出した。やはり先ほど感じた強者の気配は勘違いではなかったようだ。
 寝ている間はどれほど精神を鍛えているものでも無防備になる。そこに付け込まれたら対策のしようもない。
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