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別離と後日談
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胡蝶女学館では、何事もなく日常がやってきた。
まさか前日にこの学校の地下から平安時代の呪術師が現れてひと暴れしたとか、人が鬼と化したのをなんとかしたとか、ひとりの少女の婚約者が陰陽寮に取り調べのために連行されたとか、そんなことをここに通う女学生たちは微塵も知らない。
ちなみに普通に家に帰った十和子は、当然ながら怒られた。
「なにやってんだ馬鹿!? これ、母さんに見つかったらどうなると思ってんだよ!?」
「なにをやったらそうなるんだよ。あーあー……」
兄ふたりにこっぴどく叱られた十和子は、着崩れた着物と少しばかり切れた手足と腕で大騒ぎした。もし父が退院して母も帰ってきていたら、これだけでは済まなかっただろうから、兄ふたりに感謝するしかあるまい。
いつもの通り二本の三つ編みをぶら下げてセーラー服に袖を通し、校舎に通う十和子は、なんとなく不思議な気分で校庭を眺めていた。
「おはよう、十和子ちゃん」
「おはよう、誠ちゃん……大丈夫?」
今回の一件の元凶であった霧彦は陰陽寮に連れて行かれた。藤堂曰く「きちんと話をしてくれたら手荒な真似はしないし、陰陽寮に籍を置くこともできる」と言ってくれているが、頑なになっている彼が陰陽寮に心を開くかどうかは、誠すらわからない話であった。
いつもよりも誠はしょんぼりと肩を落としていたものの、彼女はうっすらと笑みを浮かべる。
「……ずっと文通を続けてたんですもの。藤堂さんがね、検閲して術がかかってないか確認するって条件だけど、霧彦さんとの文通を許してくれたのよ。お父様とお母様が、この婚約を許してくれたらいいのだけど……」
どうも藤堂曰く、呪術師が活動するのに都合いい戸籍を霧彦にあてがい、それを使って誠に近付いたらしかった。その戸籍が嘘で、形の上では行方不明となったら、没落寸前の貴族としてはなんとしてでも、金を持っている商家に娘を嫁にやりたいだろうが。
それに十和子は首を振った。
「駄目よ、誠ちゃん。そこはきちんと戦わないと」
「十和子ちゃん……でも……どうやって?」
「本当にどうしようもなくなったら、うちに逃げてきてもいいから! 霧彦さんだって、誠ちゃんには優しかったんだから、なんとかなるわよ」
「でも……そんなことしたら十和子ちゃんに迷惑がかからない?」
「うち、未だに兄様たちふたりとも、来てくれるお嫁さんいないのよ。便宜上あのごついふたりのどちらかを婚約者という形にしておけば、誰も文句が言えないでしょ。ちなみに兄様ふたりとも、好みは肉感的な人だから、誠ちゃんに対してはなんにも思わないと思う」
「ぷっ……」
十和子の中途半端な励ましに、ようやく誠は心からの笑顔になった。口元に手を当てて笑う。
「そう……ね。ええ。本当にどうしようもなくなったら、お兄様たちのどちらかを婚約者という形にしておきましょう」
「それがいいわよ。あのふたり、体格だけはごついから、あれに文句を付けようとする人はそういやしないと思うわ」
そうふたりで言い合いつつ、「ちょっと要さんに会ってくる!」と十和子は出かけていった。
いつもの通り、予備室に手をかけようとしたとき。昨晩はバチンと拒否反応を示した戸はすぐに開いた。
「あ、あれ……?」
あれだけ陰陽師の道具だらけで雑然とし、墨汁の匂いを漂わせていた部屋からは、なんの匂いもしなくなっていた。奥の刀置きも、そこに立てかけられていた薄緑も、なにもなかった。
「昨日……なにも言ってなかったのに」
普通に考えれば、当然だろう。
陰陽師たちが驚異と考えていた、あの地下湖の邪気が全て祓われたのだから、鬼門もそこまで脅威にはならない。あちこちの寺社が壊された関係で、まずい鬼門は他にもいくつもあるのだから、陰陽師である要がそちらに派遣されるのは必然だろう。
そして、十和子になにも言わなかったのだって、十和子はただの協力者であって、恋人でも、ましてや婚約者でもない。陰陽師ですらない一般人なのだから。
あの亜麻色の長い髪を思い出した。セーラー服を揺らして優雅に笑っていた姿を思い出した。夜に狩衣姿で手が真っ白になるまで血を流し、人形を使役して鬼と戦っていた姿を思い出した。
「要さん……」
十和子はポロリと涙を溢した。
好きだと思っていても、大切だと思っていても、口にはしなかった。迷惑がかかるだろうと思ったから。
それでも十和子は後悔した。
(ちゃんと好きだと言えばよかった……)
どれだけ剣術に優れていても、彼女は少女だった。
瞳までは強く鍛えることはできない。
****
それ以降、本当に子鬼すら出なくなってしまい、十和子はわざわざ逢魔が時に校庭に行く理由もなくなってしまった。
暇を持て余した十和子は、やっと退院した父から剣術指南を、帰ってきた母からは料理の稽古を受けた。
あれだけ兄たちに文句を言われていた彼女の料理の腕も、魚を焼いて味噌汁をつくるくらいまでだったら、そこまで文句を言われなくなった。
本当なら洋食にも挑戦したいものの、男たちは皆して洋食の味がわからないようで、練習したいと言うと嫌そうな顔をするために、未だに挑戦したことがない。
「せめてもうちょっと、野菜料理ができるようになったほうがいいわね。季節のおいしい野菜まで、全部味噌汁にしてたんじゃもったいないから」
「うん……」
そうやって日々を過ごしていたところ。
母から唐突に言われたのだ。
「ところで、十和子あてに釣書が来たのだけれど」
「はいぃぃぃぃ?」
「胡蝶女学館に通っているせいかしらねえ。あんたみたいな跳ねっ返りをもらってくれるなんて言う人、もういないと思うわよ?」
「こ、困るよ! 誰!?」
いなくなってしまったとは言えど、そう簡単に十和子は要のことを忘れることなんてできるはずもなく、母の言い出した話に、必死になって首を振った。
しかし母は続ける。
「話が来たとき、私も驚いたのよ。剣道場の娘だし、剣術好きの跳ねっ返りなのに本当に大丈夫なのかと。むしろ相手はそれがいいって言い張っててねえ……そんな理解のある先方なんて、もうないんじゃないかしら。受けてみなさいな」
「待って! たしかにそんな人珍しいと思うけど、趣味が悪いんじゃないかな……」
たしかに母が何度も嘆いていた、剣術以外に取り柄のない跳ねっ返りがいいなんて物好き、そうはいないだろうが。むしろ母の断りを兼ねた娘の動向を聞いて乗り気の言うのは、いったい十和子のなにを知っているというのか。
それに母は首を捻っていた。
「どうも十和子に会ったことがあるらしくって、向こうがひと目惚れだからと。本当に駄目そうなら断ればいいから、一度は会ってみたら?」
「本当に、一度会ってから断ってもいい?」
「別にいいわよ。私もそんな物好きの人滅多にいないから席を設けてみたいだけで。もし本当に駄目だったからって、お見合い相手を怪我させちゃ駄目よ?」
「う……わかってるから」
本当に駄目だった場合、暴れ回ってこんな狂暴な娘は駄目だと先方から断らせようと思っていた魂胆は、母にはバレバレだった。
見合いの席のとき、十和子は母に一番いい友禅。桜に蝶の飛び交う模様のものを、金色の帯で結んで用意され、髪はひさし髪にまとめ上げられた。それを着て、十和子は緊張の面持ちで父に連れられて会席場に向かったが。
そこで座っていた人を見て、彼女の目が点になった。
「……要さん?」
長い髪をひとつにまとめ、黒いスーツを着ているのは、紛れもなく要であった。
「こちら、市長のご子息の天道要くんだけれど……もしかして十和子は既に知っていたかな?」
「先日の懇親会でお会いしました。まさかこうして席を設けていただけるとは思いもしませんでした」
にこやかに要がそう話す中、十和子は疑問でいっぱいになる頭で、父と要、そして市長が話をしているのを、全て聞き流していた。料理も、なにを食べたのか思い出せない。
やがて「若いふたりで話し合いを」と庭に出たとき、ようやく口を開いた。
「ど、どうして要さん! 市長の息子ってことになってるんですか!?」
「なっているもなにも、養子縁組しているが」
「いつから!?」
「というよりも、陰陽寮は表立っては廃止しているから、存続するためにあちこちの富裕層と養子縁組して活動して活動資金を得ているんだよ」
「そうだったんですか……だとしたら、わたしとお見合いっていうのは……」
「俺が頼んだんだよ。義父様と陰陽寮、両方に頭を下げて。見かねたのか、藤堂が手伝ってくれたけれど」
それにわからないでいたら「十和子くん」と手を取られた。
「君を相棒として傍に置きたい」
「ええっと……そうですね、薄緑振るえる人って、そうたくさんいませんし……」
「君、どうしてそう取る? もちろんそれもあるが。君の才能を腐らせるのはもったいないから傍に置いておきたいと言ったら、君は困るか?」
「えっと……わたし、結婚してからも、剣術を続けても……」
「そのほうが有意義だ」
「でも、もしかしたら怪我して、薄緑を振るえなくなるかもしれませんし……」
「というより……妻として傍に置きたいだったら、君がしょぼくれてしまうと思ったから言わなかったが、もしかしたらそちらのほうがよかったか?」
「え……」
十和子は要を見た。要はじぃーっと十和子を見つめている。
「嬉しいです」
鬼と戦うときも、そこまで勇気は必要なかったのに、たったひと言伝えるだけで、十和子は何度も自分の意気地のなさを叱咤した。
「わたし、要さんが好きです」
それに要が一瞬真顔になったあと、白百合が咲いたように綻んだ。
「そうか」
<了>
まさか前日にこの学校の地下から平安時代の呪術師が現れてひと暴れしたとか、人が鬼と化したのをなんとかしたとか、ひとりの少女の婚約者が陰陽寮に取り調べのために連行されたとか、そんなことをここに通う女学生たちは微塵も知らない。
ちなみに普通に家に帰った十和子は、当然ながら怒られた。
「なにやってんだ馬鹿!? これ、母さんに見つかったらどうなると思ってんだよ!?」
「なにをやったらそうなるんだよ。あーあー……」
兄ふたりにこっぴどく叱られた十和子は、着崩れた着物と少しばかり切れた手足と腕で大騒ぎした。もし父が退院して母も帰ってきていたら、これだけでは済まなかっただろうから、兄ふたりに感謝するしかあるまい。
いつもの通り二本の三つ編みをぶら下げてセーラー服に袖を通し、校舎に通う十和子は、なんとなく不思議な気分で校庭を眺めていた。
「おはよう、十和子ちゃん」
「おはよう、誠ちゃん……大丈夫?」
今回の一件の元凶であった霧彦は陰陽寮に連れて行かれた。藤堂曰く「きちんと話をしてくれたら手荒な真似はしないし、陰陽寮に籍を置くこともできる」と言ってくれているが、頑なになっている彼が陰陽寮に心を開くかどうかは、誠すらわからない話であった。
いつもよりも誠はしょんぼりと肩を落としていたものの、彼女はうっすらと笑みを浮かべる。
「……ずっと文通を続けてたんですもの。藤堂さんがね、検閲して術がかかってないか確認するって条件だけど、霧彦さんとの文通を許してくれたのよ。お父様とお母様が、この婚約を許してくれたらいいのだけど……」
どうも藤堂曰く、呪術師が活動するのに都合いい戸籍を霧彦にあてがい、それを使って誠に近付いたらしかった。その戸籍が嘘で、形の上では行方不明となったら、没落寸前の貴族としてはなんとしてでも、金を持っている商家に娘を嫁にやりたいだろうが。
それに十和子は首を振った。
「駄目よ、誠ちゃん。そこはきちんと戦わないと」
「十和子ちゃん……でも……どうやって?」
「本当にどうしようもなくなったら、うちに逃げてきてもいいから! 霧彦さんだって、誠ちゃんには優しかったんだから、なんとかなるわよ」
「でも……そんなことしたら十和子ちゃんに迷惑がかからない?」
「うち、未だに兄様たちふたりとも、来てくれるお嫁さんいないのよ。便宜上あのごついふたりのどちらかを婚約者という形にしておけば、誰も文句が言えないでしょ。ちなみに兄様ふたりとも、好みは肉感的な人だから、誠ちゃんに対してはなんにも思わないと思う」
「ぷっ……」
十和子の中途半端な励ましに、ようやく誠は心からの笑顔になった。口元に手を当てて笑う。
「そう……ね。ええ。本当にどうしようもなくなったら、お兄様たちのどちらかを婚約者という形にしておきましょう」
「それがいいわよ。あのふたり、体格だけはごついから、あれに文句を付けようとする人はそういやしないと思うわ」
そうふたりで言い合いつつ、「ちょっと要さんに会ってくる!」と十和子は出かけていった。
いつもの通り、予備室に手をかけようとしたとき。昨晩はバチンと拒否反応を示した戸はすぐに開いた。
「あ、あれ……?」
あれだけ陰陽師の道具だらけで雑然とし、墨汁の匂いを漂わせていた部屋からは、なんの匂いもしなくなっていた。奥の刀置きも、そこに立てかけられていた薄緑も、なにもなかった。
「昨日……なにも言ってなかったのに」
普通に考えれば、当然だろう。
陰陽師たちが驚異と考えていた、あの地下湖の邪気が全て祓われたのだから、鬼門もそこまで脅威にはならない。あちこちの寺社が壊された関係で、まずい鬼門は他にもいくつもあるのだから、陰陽師である要がそちらに派遣されるのは必然だろう。
そして、十和子になにも言わなかったのだって、十和子はただの協力者であって、恋人でも、ましてや婚約者でもない。陰陽師ですらない一般人なのだから。
あの亜麻色の長い髪を思い出した。セーラー服を揺らして優雅に笑っていた姿を思い出した。夜に狩衣姿で手が真っ白になるまで血を流し、人形を使役して鬼と戦っていた姿を思い出した。
「要さん……」
十和子はポロリと涙を溢した。
好きだと思っていても、大切だと思っていても、口にはしなかった。迷惑がかかるだろうと思ったから。
それでも十和子は後悔した。
(ちゃんと好きだと言えばよかった……)
どれだけ剣術に優れていても、彼女は少女だった。
瞳までは強く鍛えることはできない。
****
それ以降、本当に子鬼すら出なくなってしまい、十和子はわざわざ逢魔が時に校庭に行く理由もなくなってしまった。
暇を持て余した十和子は、やっと退院した父から剣術指南を、帰ってきた母からは料理の稽古を受けた。
あれだけ兄たちに文句を言われていた彼女の料理の腕も、魚を焼いて味噌汁をつくるくらいまでだったら、そこまで文句を言われなくなった。
本当なら洋食にも挑戦したいものの、男たちは皆して洋食の味がわからないようで、練習したいと言うと嫌そうな顔をするために、未だに挑戦したことがない。
「せめてもうちょっと、野菜料理ができるようになったほうがいいわね。季節のおいしい野菜まで、全部味噌汁にしてたんじゃもったいないから」
「うん……」
そうやって日々を過ごしていたところ。
母から唐突に言われたのだ。
「ところで、十和子あてに釣書が来たのだけれど」
「はいぃぃぃぃ?」
「胡蝶女学館に通っているせいかしらねえ。あんたみたいな跳ねっ返りをもらってくれるなんて言う人、もういないと思うわよ?」
「こ、困るよ! 誰!?」
いなくなってしまったとは言えど、そう簡単に十和子は要のことを忘れることなんてできるはずもなく、母の言い出した話に、必死になって首を振った。
しかし母は続ける。
「話が来たとき、私も驚いたのよ。剣道場の娘だし、剣術好きの跳ねっ返りなのに本当に大丈夫なのかと。むしろ相手はそれがいいって言い張っててねえ……そんな理解のある先方なんて、もうないんじゃないかしら。受けてみなさいな」
「待って! たしかにそんな人珍しいと思うけど、趣味が悪いんじゃないかな……」
たしかに母が何度も嘆いていた、剣術以外に取り柄のない跳ねっ返りがいいなんて物好き、そうはいないだろうが。むしろ母の断りを兼ねた娘の動向を聞いて乗り気の言うのは、いったい十和子のなにを知っているというのか。
それに母は首を捻っていた。
「どうも十和子に会ったことがあるらしくって、向こうがひと目惚れだからと。本当に駄目そうなら断ればいいから、一度は会ってみたら?」
「本当に、一度会ってから断ってもいい?」
「別にいいわよ。私もそんな物好きの人滅多にいないから席を設けてみたいだけで。もし本当に駄目だったからって、お見合い相手を怪我させちゃ駄目よ?」
「う……わかってるから」
本当に駄目だった場合、暴れ回ってこんな狂暴な娘は駄目だと先方から断らせようと思っていた魂胆は、母にはバレバレだった。
見合いの席のとき、十和子は母に一番いい友禅。桜に蝶の飛び交う模様のものを、金色の帯で結んで用意され、髪はひさし髪にまとめ上げられた。それを着て、十和子は緊張の面持ちで父に連れられて会席場に向かったが。
そこで座っていた人を見て、彼女の目が点になった。
「……要さん?」
長い髪をひとつにまとめ、黒いスーツを着ているのは、紛れもなく要であった。
「こちら、市長のご子息の天道要くんだけれど……もしかして十和子は既に知っていたかな?」
「先日の懇親会でお会いしました。まさかこうして席を設けていただけるとは思いもしませんでした」
にこやかに要がそう話す中、十和子は疑問でいっぱいになる頭で、父と要、そして市長が話をしているのを、全て聞き流していた。料理も、なにを食べたのか思い出せない。
やがて「若いふたりで話し合いを」と庭に出たとき、ようやく口を開いた。
「ど、どうして要さん! 市長の息子ってことになってるんですか!?」
「なっているもなにも、養子縁組しているが」
「いつから!?」
「というよりも、陰陽寮は表立っては廃止しているから、存続するためにあちこちの富裕層と養子縁組して活動して活動資金を得ているんだよ」
「そうだったんですか……だとしたら、わたしとお見合いっていうのは……」
「俺が頼んだんだよ。義父様と陰陽寮、両方に頭を下げて。見かねたのか、藤堂が手伝ってくれたけれど」
それにわからないでいたら「十和子くん」と手を取られた。
「君を相棒として傍に置きたい」
「ええっと……そうですね、薄緑振るえる人って、そうたくさんいませんし……」
「君、どうしてそう取る? もちろんそれもあるが。君の才能を腐らせるのはもったいないから傍に置いておきたいと言ったら、君は困るか?」
「えっと……わたし、結婚してからも、剣術を続けても……」
「そのほうが有意義だ」
「でも、もしかしたら怪我して、薄緑を振るえなくなるかもしれませんし……」
「というより……妻として傍に置きたいだったら、君がしょぼくれてしまうと思ったから言わなかったが、もしかしたらそちらのほうがよかったか?」
「え……」
十和子は要を見た。要はじぃーっと十和子を見つめている。
「嬉しいです」
鬼と戦うときも、そこまで勇気は必要なかったのに、たったひと言伝えるだけで、十和子は何度も自分の意気地のなさを叱咤した。
「わたし、要さんが好きです」
それに要が一瞬真顔になったあと、白百合が咲いたように綻んだ。
「そうか」
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