16 / 24
狐の嫁入り
三
しおりを挟む デーアは結婚し、デーア・アルメヒティヒとなった。ヴァイスハイトが侯爵家を継いだので、アルメヒティヒ侯爵夫人になる。アンジュはゲニーがオラーケル家の婿養子になりゲニー・オラーケルとなったので、名前は変わらずオラーケル侯爵夫人になった。
ヴァイスハイトは文官になり、新人らしく事務仕事から始め、デーアも外務関連の部署の文官になった。だがある日定期的に行われる討論会で発言する機会があり、ヴァイスハイトはその場で宰相であるブライ侯爵に気に入られ、文官になって一ヶ月で宰相補佐に抜擢される。一方ゲニーは魔法の研究がしたいということで魔法団の第五部署、研究職の部署に就きたかったのだが、師匠である魔法団総帥のレーラー・ムスケルに第三部署の副団長の座が例の王子とその右腕を陥れるための事件で空白になったからなれと言われ、しぶしぶその座に就いた。第三部署は所謂戦いの時の皮切りの部署で、怪我も絶えなく、最悪命も落とす。なので治癒魔法が得意な者を集めた魔法治癒士もその部署に配属される。アンジュは治癒魔法が得意だったので、必然と第三部署に配属され、実質ゲニーの部下になった。
忙しい毎日だったが毎晩のように愛し合っていた二組の夫婦の蜜月は想像よりも甘く、両家の使用人が見てられないと恥ずかしがるほどだった。それは隠居し田舎へ引っ込んだ両親たちにも届いていて、孫が見られるのも早いと期待も必然と高くなっていた。
元々仲の良い四人は、週末各屋敷に交代で集まり食事を共にし、ついでにその日は泊まることになっている。
いつものように食事も終えて、四人だけでリビングルームでお茶を飲んでると、ヴァイスハイトが口を開く。
「これは極秘情報だが、隣国のクリーク帝国が我がエーデルシュタイン王国に攻め入る計画を立ててるらしい」
「それでか。師匠も最近眉間にしわ寄せて各団長たちと会議を重ねてるのは」
納得といったようにゲニーが頷く。
「ってか、極秘情報言っていいの?! ヴィーは仮にも宰相補佐でしょ?!」
アンジュがヴァイスハイトに突っ込み、デーアは心配そうにヴァイスハイトを見つめた。
「ちゃんと許可は取ってある。明日にはデーアの部署にも、ゲニーたちの部署にも通達される予定だ」
何事にも抜かりないヴァイスハイトが失態を犯すわけはなく、デーアは安心し胸を撫でおろす。
とうとう新生活になり三ヶ月が過ぎようとした頃、隣国のクリーク帝国がエーデルシュタイン王国に攻め入ってきた。事前に情報が入っていたエーデルシュタイン王国の応戦の支度は万全だった。魔力が少なく銃や剣など武力に優れているクリーク帝国と、魔力が多く魔法に優れているエーデルシュタイン王国の戦いの勢力は明白で、エーデルシュタイン王国が優勢である。ヴァイスハイトは宰相と共に戦略にあたり、ゲニーは魔法団総帥からの命令で戦いの最前線に出て、軍の指揮をとることになった。
ゲニーの帰りを待つアンジュは心細くなり、デーアのいるアルメヒティヒ家に住まわせてもらうようになった。
「ゲニーが最前線で指揮をとってから怪我人はいるもの、死者は出てないそうよ」
デーアは朝食の席で浮かない顔をしていたアンジュを励ました。愛する夫がいつ命を落とすか分からない状況の妹の心境は手に取るようにわかる。
「うん。ヴィーも被害が少ないような戦略を立ててるって聞いたよ。大丈夫、ゲニーが死ぬわけないよね」
そう言った可愛い妹が何とも辛そうにしていて、デーアは思わずアンジュを抱きしめる。
「そうよ。ゲニーなら大丈夫だわ。それに死んだらアンジュが未亡人になって、もしかしたら家のために再婚するかもしれないわ。ゲニーがそれを許すとは思えないもの。何がなんでも生き延びると思うわ。アンジュに対する執着心は底知れないもの」
「そこは執着より愛情と言って欲しいけど。ふふ、そうね。ゲニーなら死んでも自分に魔法をかけて生き返ってきそう。あと執着心はデーアの愛しの旦那様も底知れないよ? だって戦場から毎日朝晩と手紙が来るんでしょ?」
アンジュはやっと頬を緩まし、姉を揶揄った。
「あら、それはアンジュの愛しの旦那様もじゃなかったかしら? ゲニーの場合小さな花束も手紙につけて送ってくるみたいじゃない。アンジュもその花を毎回押し花にして大切にとってあるんでしょ? 羨ましいわ。ヴィーに見習って欲しいと言おうかしら?」
アンジュに揶揄われ、姉も負けじと目の前の妹を揶揄い返す。
そして二人はふふっと笑い合った。
ヴァイスハイトは文官になり、新人らしく事務仕事から始め、デーアも外務関連の部署の文官になった。だがある日定期的に行われる討論会で発言する機会があり、ヴァイスハイトはその場で宰相であるブライ侯爵に気に入られ、文官になって一ヶ月で宰相補佐に抜擢される。一方ゲニーは魔法の研究がしたいということで魔法団の第五部署、研究職の部署に就きたかったのだが、師匠である魔法団総帥のレーラー・ムスケルに第三部署の副団長の座が例の王子とその右腕を陥れるための事件で空白になったからなれと言われ、しぶしぶその座に就いた。第三部署は所謂戦いの時の皮切りの部署で、怪我も絶えなく、最悪命も落とす。なので治癒魔法が得意な者を集めた魔法治癒士もその部署に配属される。アンジュは治癒魔法が得意だったので、必然と第三部署に配属され、実質ゲニーの部下になった。
忙しい毎日だったが毎晩のように愛し合っていた二組の夫婦の蜜月は想像よりも甘く、両家の使用人が見てられないと恥ずかしがるほどだった。それは隠居し田舎へ引っ込んだ両親たちにも届いていて、孫が見られるのも早いと期待も必然と高くなっていた。
元々仲の良い四人は、週末各屋敷に交代で集まり食事を共にし、ついでにその日は泊まることになっている。
いつものように食事も終えて、四人だけでリビングルームでお茶を飲んでると、ヴァイスハイトが口を開く。
「これは極秘情報だが、隣国のクリーク帝国が我がエーデルシュタイン王国に攻め入る計画を立ててるらしい」
「それでか。師匠も最近眉間にしわ寄せて各団長たちと会議を重ねてるのは」
納得といったようにゲニーが頷く。
「ってか、極秘情報言っていいの?! ヴィーは仮にも宰相補佐でしょ?!」
アンジュがヴァイスハイトに突っ込み、デーアは心配そうにヴァイスハイトを見つめた。
「ちゃんと許可は取ってある。明日にはデーアの部署にも、ゲニーたちの部署にも通達される予定だ」
何事にも抜かりないヴァイスハイトが失態を犯すわけはなく、デーアは安心し胸を撫でおろす。
とうとう新生活になり三ヶ月が過ぎようとした頃、隣国のクリーク帝国がエーデルシュタイン王国に攻め入ってきた。事前に情報が入っていたエーデルシュタイン王国の応戦の支度は万全だった。魔力が少なく銃や剣など武力に優れているクリーク帝国と、魔力が多く魔法に優れているエーデルシュタイン王国の戦いの勢力は明白で、エーデルシュタイン王国が優勢である。ヴァイスハイトは宰相と共に戦略にあたり、ゲニーは魔法団総帥からの命令で戦いの最前線に出て、軍の指揮をとることになった。
ゲニーの帰りを待つアンジュは心細くなり、デーアのいるアルメヒティヒ家に住まわせてもらうようになった。
「ゲニーが最前線で指揮をとってから怪我人はいるもの、死者は出てないそうよ」
デーアは朝食の席で浮かない顔をしていたアンジュを励ました。愛する夫がいつ命を落とすか分からない状況の妹の心境は手に取るようにわかる。
「うん。ヴィーも被害が少ないような戦略を立ててるって聞いたよ。大丈夫、ゲニーが死ぬわけないよね」
そう言った可愛い妹が何とも辛そうにしていて、デーアは思わずアンジュを抱きしめる。
「そうよ。ゲニーなら大丈夫だわ。それに死んだらアンジュが未亡人になって、もしかしたら家のために再婚するかもしれないわ。ゲニーがそれを許すとは思えないもの。何がなんでも生き延びると思うわ。アンジュに対する執着心は底知れないもの」
「そこは執着より愛情と言って欲しいけど。ふふ、そうね。ゲニーなら死んでも自分に魔法をかけて生き返ってきそう。あと執着心はデーアの愛しの旦那様も底知れないよ? だって戦場から毎日朝晩と手紙が来るんでしょ?」
アンジュはやっと頬を緩まし、姉を揶揄った。
「あら、それはアンジュの愛しの旦那様もじゃなかったかしら? ゲニーの場合小さな花束も手紙につけて送ってくるみたいじゃない。アンジュもその花を毎回押し花にして大切にとってあるんでしょ? 羨ましいわ。ヴィーに見習って欲しいと言おうかしら?」
アンジュに揶揄われ、姉も負けじと目の前の妹を揶揄い返す。
そして二人はふふっと笑い合った。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
荷車尼僧の回顧録
石田空
大衆娯楽
戦国時代。
密偵と疑われて牢屋に閉じ込められた尼僧を気の毒に思った百合姫。
座敷牢に食事を持っていったら、尼僧に体を入れ替えられた挙句、尼僧になってしまった百合姫は処刑されてしまう。
しかし。
尼僧になった百合姫は何故か生きていた。
生きていることがばれたらまた処刑されてしまうかもしれないと逃げるしかなかった百合姫は、尼寺に辿り着き、僧に泣きつく。
「あなたはおそらく、八百比丘尼に体を奪われてしまったのでしょう。不死の体を持っていては、いずれ心も人からかけ離れていきます。人に戻るには人魚を探しなさい」
僧の連れてきてくれた人形職人に義体をつくってもらい、日頃は人形の姿で人らしく生き、有事の際には八百比丘尼の体で人助けをする。
旅の道連れを伴い、彼女は戦国時代を生きていく。
和風ファンタジー。
カクヨム、エブリスタにて先行掲載中です。
裏吉原あやかし語り
石田空
キャラ文芸
「堀の向こうには裏吉原があり、そこでは苦界の苦しみはないよ」
吉原に売られ、顔の火傷が原因で年季が明けるまで下働きとしてこき使われている音羽は、火事の日、遊女たちの噂になっている裏吉原に行けると信じて、堀に飛び込んだ。
そこで待っていたのは、人間のいない裏吉原。ここを出るためにはどのみち徳を積まないと出られないというあやかしだけの街だった。
「極楽浄土にそんな簡単に行けたら苦労はしないさね。あたしたちができるのは、ひとの苦しみを分かつことだけさ」
自称魔女の柊野に拾われた音羽は、裏吉原のひとびとの悩みを分かつ手伝いをはじめることになる。
*カクヨム、エブリスタ、pixivにも掲載しております。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【完結】愛も信頼も壊れて消えた
miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」
王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。
無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。
だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。
婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。
私は彼の事が好きだった。
優しい人だと思っていた。
だけど───。
彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。
ちゅちゅん すずめのお宿
石田空
キャラ文芸
ある日カラスに突き回されていたすずめを助けた奥菜は、仕事のスランプで旅行しようとしていたところ、助けたすずめにお礼を言われる。
「助けていただいたすずめです。よろしかったらしばらくの間、滞在しませんか?」
それは現世と幽世の間につくられたすずめのお宿、幸福湯だった。
店主のすずめのあおじに上客としてもてなされることとなったものの……この宿にやってくる客、問題児しかいなくないか?
幸福湯にやってくる問題児にトラブル、ただ泊っているだけなのに巻き込まれる奥菜は、がなりながらもそれらに対処していく。
サイトより転載になります。

ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる