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黄金の夜明け編
会議は踊る
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新入生や生徒会執行部が、ボロボロになりながらも魔力増量の訓練を受けている中。
五貴人たちは革命組織と打ち合わせをしていた。
意外なことに、今回の迎撃の指揮をカウスに一任すると言ったのはアイオーンからであった。当然ながら、オシリスは顔をしかめた。
「どういう了見だ? ひと月前の一件、忘れた訳ではないだろう」
新入生たちを巻き込んでの、五貴人居住区への侵入蹂躙。
怪我人多数。そのあとの処理。おまけに駆け落ちに退学者まで出した首謀者は、どう考えても危険人物としか思えなかったが。
アイオーンは「まあ、オシリスはそう言うだろうね」と、相変わらず天使にしか見えない顔で、悪魔のようなひどいことを言う。
「あれだけの人数を手玉に取って、そもそもアルカナカードでの戦い方すら知らない新入生たちをわずか数ヶ月で戦えるように育てて、引き継ぎを済ませた上で仕掛けてきたのは、もう見事としか言えないからねえ」
「……防衛のほうが、攻勢よりも人手も力もいるだろうが」
どれだけ優れた指揮者であったとしても、攻めるよりも守るほうがよっぽど難しい。
五貴人居住区を攻め落とせたからと言って、今回は学園アルカナの敷地全体が戦場になる可能性だってあるのに、それで防衛戦の指揮を執れるかどうかは、オシリスにとっても未知数であった。
それをアイオーンは笑う。
「戦場の指揮官とね、政治家は必ずしも意見は一致しないと思うよ? だから僕はこうやって指揮官の話を聞きながら、戦いやすいように状況を整えている訳で」
「あーもう。貴様は言ったら聞かないから」
とうとう投げ出したオシリスに「ほっほっほ」と笑い声が上がる。ヨハネが愛用のポットで紅茶を淹れていたのだ。
「まあまあまあ、いいじゃありませんか。昨日の敵は今日の友。素晴らしい舞台だと思いますよぉ」
「貴様も、なんでもかんでも舞台に例えてくれるな。気が散る」
「あぁん、残念。人生は舞台。生きることは演じることだと言うのに……ああ、ちなみに各教会には既に指示を出しておきましたから、あとは迎撃タイミングを聖夜祭に合わせれば完了ですよぉ」
ヨハネは与太話をしながらも、自身の仕事はきちんとしている。
この舞台を愛する神官長は、奇妙奇天烈ながらも、本分は弁えているのだ。
その言動に、オシリスは思いっきり舌打ちをしたが、その場で流されてしまった。
一方、ひとりで静かに校内の見取り図を眺めているカウスに、デネボラは怪訝な顔をしていた。
「どうしたんだい? いつもよりも長考してるじゃないか」
「……今回は、魔力リソースが前回の襲撃より期待できそうもねえからな」
「……アセルスを期待できないと?」
「今回、エリクシールの補給は来ねえ。あいつには別件を処理してもらわなければならないからな」
エリクシールは万能薬であり、本来ならば貴族以外が買える値段ではない。それを平気で無償で周りに譲渡している【節制】なんて滅多におらず、大概【節制】のアルカナを持っている人間は大富豪として君臨している。
革命組織がほぼただでエリクシールを得ているのは、ひとえにアセルスの良心的な性格の賜物であるが、別件のためにはどうしても彼女を外さねばならなかった。
アセルスが外れなければいけない案件がわからないまま、デネボラは首を捻ってカウスと共に見取り図に視線を落とす。
「アルカナ使いは、一対一で戦うな。大勢対一で戦え……だとしたらどうしてもグループ編成をした上での迎撃になり、あんたはできる限りの安全圏にいてもらわないといけなくなるけど……」
「デネボラ。聖夜祭ではどうしても貴様に無理を強いなければならないが」
「なに言ってんだい、あんたも」
デネボラはいつもの通りにけざやかに笑った。
年不相応の色香を纏っていても、彼女の笑みの鮮やかさを見たら、誰もが彼女の魅力は色香にはないということがわかる。
「いつものことじゃないか、あんたの無茶振りも」
そのきっぱりと笑って言い切れる肝の据わった態度。
そうでなければカウスの隣に居続けることはできず、いずれは彼に置き去りにされていただろう。彼に自分を撥ねる許可を与えている彼女らしい言動であった。
彼女のその返答に、カウスは眉間を揉み込んだ。
「……そうだったな」
そう言ってニヤリと笑う。
「じゃあ、いつも通り無茶振りさせてもらおうか」
「いいよ。来な」
そうふたりで相変わらずの圧縮された会話を繰り返す中。
アルはユダの隣で、トートアルカナの解析をしていた。
「……途中までは同じアルカナじゃが……性質だけでなく、名義まで変わるものかや?」
「ええ。今仕様しているアルカナとコンセプトが違いますし、向こうは魔力リソースを小アルカナに依存している上に自力で魔力補給ができます。ほぼ短期決戦で終わらさなければまずいですね」
「戦略は全てカウスに委ねておるが……班分けを違えれば、大変なことになるという訳か」
「ええ」
こうして、出された情報は全て五貴人と革命組織に共有され、それらをオシリスが生徒会執行部に通達する。
【黄金の夜明け団】のメンバーの特定こそまだなものの、どうにかフリーダ・フォルトゥナの講演会の時期変更の掛け合いには成功しつつある。
しかし。迎撃準備、指揮権の譲渡、非戦闘生徒の避難誘導などの準備が整いつつある中、気がかりなことも多い。
メンバーの誰がどのアルカナを取得しているかまで、読めないという点である。
アルカナカードは全て強いカードだが、相性はある。全ての班が全てのアルカナと対峙できる訳ではない。
こればかりは、ギャンブルになってしまうだろう。
****
「あれぇ、いいんですかぁ? 学園アルカナのOG講演会の延長を引き受けてしまって!」
ブルーブロンドをふたつの団子結びにした少女が、金色の瞳をくるくるさせながら、首を傾げる。真っ白な乗馬服に袖を通し、少年のようにも見える少女であった。
「なんでもな、【世界】の屈するところを大々的にニュースにしたいんだとさ。我らのリーダーは」
彼女の問いに答えるのは、金髪の大柄な男である。真っ白な繋ぎを着て、目元はサングラスで覆っている。
少女と青年が並ぶと、体格の差は歴然で、小柄な少女を青年が肩に乗せても物ともしない。青年の答えに、少女は唇をひん曲げる。
「まあいいんですけどね。でも聖夜祭に襲撃って、少々乱暴過ぎやしませんかね?」
「なんだ、学園アルカナの連中が聖夜を祝えず可哀想ってか? 俺ぁあいつらの年頃で祝えたことなんかねえけどな」
「もーう、ラストくんってばすぐそう卑屈で格好付けたこと言いますしぃ。違いますよぉ、あたしたちが聖夜祭を祝えないって言いたいんですよぉ」
「ああ、そっちか。じゃあ我らがリーダーが聖夜祭の意味を塗り替えらるよう、ベストを尽くそうじゃねえか」
そう言って、仰々しく自身のカードフォルダーを取り出し、それにリップ音を立てて口付けを交わした。
「黄金の夜明けのために。なあ、アテュ?」
アテュと呼ばれた少女は、ラストと呼ばれた青年を「えー」と言う顔で見たあと、彼女も乗馬服から自身のカードフォルダーを取り出して、額に押しつけた。
「黄金の夜明けのために」
一見馬鹿馬鹿しくて仰々しい言葉だが、彼らは至って真剣だった。
黄金の夜明け。そのために彼らは戦っていると……そう思っているのだから。
五貴人たちは革命組織と打ち合わせをしていた。
意外なことに、今回の迎撃の指揮をカウスに一任すると言ったのはアイオーンからであった。当然ながら、オシリスは顔をしかめた。
「どういう了見だ? ひと月前の一件、忘れた訳ではないだろう」
新入生たちを巻き込んでの、五貴人居住区への侵入蹂躙。
怪我人多数。そのあとの処理。おまけに駆け落ちに退学者まで出した首謀者は、どう考えても危険人物としか思えなかったが。
アイオーンは「まあ、オシリスはそう言うだろうね」と、相変わらず天使にしか見えない顔で、悪魔のようなひどいことを言う。
「あれだけの人数を手玉に取って、そもそもアルカナカードでの戦い方すら知らない新入生たちをわずか数ヶ月で戦えるように育てて、引き継ぎを済ませた上で仕掛けてきたのは、もう見事としか言えないからねえ」
「……防衛のほうが、攻勢よりも人手も力もいるだろうが」
どれだけ優れた指揮者であったとしても、攻めるよりも守るほうがよっぽど難しい。
五貴人居住区を攻め落とせたからと言って、今回は学園アルカナの敷地全体が戦場になる可能性だってあるのに、それで防衛戦の指揮を執れるかどうかは、オシリスにとっても未知数であった。
それをアイオーンは笑う。
「戦場の指揮官とね、政治家は必ずしも意見は一致しないと思うよ? だから僕はこうやって指揮官の話を聞きながら、戦いやすいように状況を整えている訳で」
「あーもう。貴様は言ったら聞かないから」
とうとう投げ出したオシリスに「ほっほっほ」と笑い声が上がる。ヨハネが愛用のポットで紅茶を淹れていたのだ。
「まあまあまあ、いいじゃありませんか。昨日の敵は今日の友。素晴らしい舞台だと思いますよぉ」
「貴様も、なんでもかんでも舞台に例えてくれるな。気が散る」
「あぁん、残念。人生は舞台。生きることは演じることだと言うのに……ああ、ちなみに各教会には既に指示を出しておきましたから、あとは迎撃タイミングを聖夜祭に合わせれば完了ですよぉ」
ヨハネは与太話をしながらも、自身の仕事はきちんとしている。
この舞台を愛する神官長は、奇妙奇天烈ながらも、本分は弁えているのだ。
その言動に、オシリスは思いっきり舌打ちをしたが、その場で流されてしまった。
一方、ひとりで静かに校内の見取り図を眺めているカウスに、デネボラは怪訝な顔をしていた。
「どうしたんだい? いつもよりも長考してるじゃないか」
「……今回は、魔力リソースが前回の襲撃より期待できそうもねえからな」
「……アセルスを期待できないと?」
「今回、エリクシールの補給は来ねえ。あいつには別件を処理してもらわなければならないからな」
エリクシールは万能薬であり、本来ならば貴族以外が買える値段ではない。それを平気で無償で周りに譲渡している【節制】なんて滅多におらず、大概【節制】のアルカナを持っている人間は大富豪として君臨している。
革命組織がほぼただでエリクシールを得ているのは、ひとえにアセルスの良心的な性格の賜物であるが、別件のためにはどうしても彼女を外さねばならなかった。
アセルスが外れなければいけない案件がわからないまま、デネボラは首を捻ってカウスと共に見取り図に視線を落とす。
「アルカナ使いは、一対一で戦うな。大勢対一で戦え……だとしたらどうしてもグループ編成をした上での迎撃になり、あんたはできる限りの安全圏にいてもらわないといけなくなるけど……」
「デネボラ。聖夜祭ではどうしても貴様に無理を強いなければならないが」
「なに言ってんだい、あんたも」
デネボラはいつもの通りにけざやかに笑った。
年不相応の色香を纏っていても、彼女の笑みの鮮やかさを見たら、誰もが彼女の魅力は色香にはないということがわかる。
「いつものことじゃないか、あんたの無茶振りも」
そのきっぱりと笑って言い切れる肝の据わった態度。
そうでなければカウスの隣に居続けることはできず、いずれは彼に置き去りにされていただろう。彼に自分を撥ねる許可を与えている彼女らしい言動であった。
彼女のその返答に、カウスは眉間を揉み込んだ。
「……そうだったな」
そう言ってニヤリと笑う。
「じゃあ、いつも通り無茶振りさせてもらおうか」
「いいよ。来な」
そうふたりで相変わらずの圧縮された会話を繰り返す中。
アルはユダの隣で、トートアルカナの解析をしていた。
「……途中までは同じアルカナじゃが……性質だけでなく、名義まで変わるものかや?」
「ええ。今仕様しているアルカナとコンセプトが違いますし、向こうは魔力リソースを小アルカナに依存している上に自力で魔力補給ができます。ほぼ短期決戦で終わらさなければまずいですね」
「戦略は全てカウスに委ねておるが……班分けを違えれば、大変なことになるという訳か」
「ええ」
こうして、出された情報は全て五貴人と革命組織に共有され、それらをオシリスが生徒会執行部に通達する。
【黄金の夜明け団】のメンバーの特定こそまだなものの、どうにかフリーダ・フォルトゥナの講演会の時期変更の掛け合いには成功しつつある。
しかし。迎撃準備、指揮権の譲渡、非戦闘生徒の避難誘導などの準備が整いつつある中、気がかりなことも多い。
メンバーの誰がどのアルカナを取得しているかまで、読めないという点である。
アルカナカードは全て強いカードだが、相性はある。全ての班が全てのアルカナと対峙できる訳ではない。
こればかりは、ギャンブルになってしまうだろう。
****
「あれぇ、いいんですかぁ? 学園アルカナのOG講演会の延長を引き受けてしまって!」
ブルーブロンドをふたつの団子結びにした少女が、金色の瞳をくるくるさせながら、首を傾げる。真っ白な乗馬服に袖を通し、少年のようにも見える少女であった。
「なんでもな、【世界】の屈するところを大々的にニュースにしたいんだとさ。我らのリーダーは」
彼女の問いに答えるのは、金髪の大柄な男である。真っ白な繋ぎを着て、目元はサングラスで覆っている。
少女と青年が並ぶと、体格の差は歴然で、小柄な少女を青年が肩に乗せても物ともしない。青年の答えに、少女は唇をひん曲げる。
「まあいいんですけどね。でも聖夜祭に襲撃って、少々乱暴過ぎやしませんかね?」
「なんだ、学園アルカナの連中が聖夜を祝えず可哀想ってか? 俺ぁあいつらの年頃で祝えたことなんかねえけどな」
「もーう、ラストくんってばすぐそう卑屈で格好付けたこと言いますしぃ。違いますよぉ、あたしたちが聖夜祭を祝えないって言いたいんですよぉ」
「ああ、そっちか。じゃあ我らがリーダーが聖夜祭の意味を塗り替えらるよう、ベストを尽くそうじゃねえか」
そう言って、仰々しく自身のカードフォルダーを取り出し、それにリップ音を立てて口付けを交わした。
「黄金の夜明けのために。なあ、アテュ?」
アテュと呼ばれた少女は、ラストと呼ばれた青年を「えー」と言う顔で見たあと、彼女も乗馬服から自身のカードフォルダーを取り出して、額に押しつけた。
「黄金の夜明けのために」
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