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男性恐怖症の治し方
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その日も私は、発注書を確認しながら人形のパーツをつくっていた。
恋人人形は手が大切だ。指の関節のひとつひとつ、曲げるときの角度、持ち主を口説くときに持ち主の頬をささくれで引っかかぬよう、爪先が刺さらないよう、細心の注意を払ってやすりがけし、油脂を染み込ませていく。最終的には手袋を嵌めさせて人形らしい冷たいつくりにならぬよう心がけるものの、途中で執事人形に自律稼働を弄り直す場合もあるから、手先がある程度器用でないといけない。
それらに気を配りながらひとつひとつを丁寧に仕上げている中、扉が開く音に気付いて、カウンター越しに覗き込んだ。
「いらっしゃいませ」
「すみ、ませ……ん。人形の注文は……できま、すか?」
「はい、できますよ。ただいまひと月ばかりお時間をいただきますが、それでよろしいでしょうか?」
「ひ……と、月。ですか……」
なぜかお客様は、心底ほっとした顔をしていた。
王立学校に通っているのだろう。王立学校の制服を着て、さらさらのアッシュブラウンの髪をハーフアップにまとめた彼女は、目が溶けそうなほどに垂れ目の人であった。
ずいぶんと大人しそうな人だなあ。箱入りが過ぎるご令嬢の対応は何度もしたことがあるものの、人見知りが激しい人が、いくら流行りとはいえども人形を買い求めにうちにやってくるなんて思ってもみず、戸惑いながらも私は紙を取り出した。
「こちらに、ご希望の人形を書いてくださいませ。そちらを元にスケッチを描きますから、そのスケッチを元に人形を制作致します」
「は、はい……」
この間の重なりまくった発注ペースを思えば、今は並行してもひと月で完成するスケジュールはゆるゆるのほうだ。
私は指先のパーツを磨きながら発注書が書かれるのを待っていたら、やがて「書けました……」と出された。
発注者のお名前はヘンリエッタ・オルムステッド様。オルムステッド商店は王都でも布問屋として有名なところだけれど、そこのご令嬢かな。だとしたら未婚恋愛禁止条例は関係ない人だな。
そう思いながら発注書の文面を読んでいって、目が点になった。
「『男性恐怖症を克服できる人形』……ですか?」
「は、はい……」
ヘンリエッタ様は、それはそれは縮こまりながら頷いた。
彼女に人形作成のためにカウンセリングをしてみると、それはそれは深刻な問題だった。
「私は……昔から男性が怖くて……一度誘拐されたことがあり、縛られて怒鳴り声を聞き続けたせいで……男性の低い声を聞くと……恐怖で身が竦んで動けなくなってしまうんです……」
「まあ……それは、魔法医に通いましたか?」
「魔法医には通いました。何度も想い出になるようにとハーブティーを処方され、安眠魔法もかけていただきましたが……それでもなかなか治りません」
幼少期のトラウマのせいで、男性恐怖症。それもかなり重度な。魔法医で駄目だったら、人形師の私じゃますます対処できないんじゃ。
私は一応尋ねてみる。
「それで、この『男性恐怖症を克服できる人形』の具体的なものは?」
「あ……あのう……男装している女性、は、平気なんです……男装劇団の華やかさは、見ていて目がくらみます」
「まあ……」
男装劇団は王都で最近流行り出した劇団だ。劇団員は女性オンリーであり、男性役も当然ながら女性であり、その男装した女優のファンも一定数ついている。女性が男装をするなんてと、一時期は物議を醸し出したものの、素晴らしい歌唱力とダンス、なによりも男優では醸し出すことのできない華やかさで、結局は女性ファンが押し通したことにより、不問と見なされて現代に至る。
つまりは男装女子系の人形ならば、ヘンリエッタ様も怖くはないと……。うん? でもそれじゃあ、全然男性恐怖症治らないんじゃ。
私はそう困りながら、何度も何度も人形のデザインを描いては、ヘンリエッタ様に見てもらい、そのたびに首を振られ続けていた。
「もうちょっとこう……ごつごつしてない感じで」
「かしこまりました。こちらは顔が美麗な方のイメージですが」
「これではほぼ女性ですから……」
……これはシリル型人形のラフ画描いたときくらいに修正要請受けたんじゃないかな。私がヘロヘロになりながら、なんとか描き終えたところで、やっとヘンリエッタ様も頷いてくれた。
プラチナブロンドの髪をひとつにまとめた、凜々しい人形だ。たしかに男装女子の人形と言っても支障がないほど、中性的な雰囲気になったと思う。
「それでは……こちらでよろしいでしょうか……」
「は、はい。ありがとうございます。それでは、どうぞよろしくお願いしますね」
そう言って前払い分を支払って、ヘンリエッタ様は帰って行った。私はヘロヘロになったまま、ひとまずはハーブティーで気持ちを落ち着けた。今日はミントをふんだんに入れたミントティーだ。自然と気持ちがすっとする。
私がなんとかヘロヘロしている気持ちを落ち着けていると、聞き慣れたドタドタとした足音がこちらに向かってくるのに気付いた。
「エスター」
「はい、いらっしゃい。シリルさん」
「……具合でも悪いのか。フラフラしているが」
一度この人の前で倒れたことがあるせいか、私がヘロヘロになっているのに、すぐ眉間に皺を寄せて気遣ってくる。それに私はヘラヘラと笑い返した。
「違いますよぉ。カウンセリングに時間がかかっただけですってばぁ」
「カウンセリング? 治療か?」
「人形作成のために、いろいろ聞き出さないといけないことが多いんですよ。絵まででしたらリテイクできますが、作業工程が開始したら、もうリテイクできませんから、いろいろ聞き取りしてからラフ画を描いてオッケーもらわないと、こちらも作業開始できませんから」
「……人形制作って、そこまでしないといけないものだったのか?」
「メイド人形でしたら、家事さえできればそこまでしなくってもよかったんですけどねえ。恋人人形だといろいろあるんですよ。いろいろ」
「いろいろ」
さすがにこれ以上は個人情報になるから、シリルさんにも言えないしなあ。私は残っているミントティーをちらりと見てから、声をかけた。
「そういえば、ミントティーがあるんですよ。一杯いかがですか?」
「いただこう……あと、フラフラしているようだから」
「はい?」
シリルさんは制服の中からなにかをカウンターに取り出した。紙にくるまれているのは、たくさんの手作りヌガーだ。
「うわあ。いっぱい。これどうなさったんですか?」
「見回りをしていたら、菓子屋を構えているご婦人からいただいた。よかったら食べるといい。甘いものは疲れに効く」
「いただきまーす。甘ーい。おいしぃー」
手作りのヌガーはぬちっとしていながらも優しい味わいで、ふたりでミントティーを飲みながら食べていたら、あっという間になくなってしまった。
****
それから数日。
私は人形のパーツをつくりつつ、顔面を仕上げていた。
岩絵の具を溶いて顔色をつくりつつ、影を塗り込んでいく。その中で、プラチナブロンドによく似合うアメジスト色のガラスを嵌め込み、プラチナブロンドの睫毛をあしらっていく。服は男装劇団の男装女優のイメージでつくったスーツに、ツタ模様の刺繍を縫い付け、それを着せることにした。
「たしかにいつもと比べると、顔も綺麗だし、中性的な印象よねえ……」
恋人人形を買いに来るご令嬢たちは、基本的に夢見がちであり、あまりガチガチムチムチしている男らしいとされるような強靱なタイプの人形は買いに来ない……まあ、そんな人が好みの場合は、そもそもとっくの昔に駆け落ち成功しているだろうからなあ。
私はそう思いながら、人形を仕上げていった。そんな中。
「すみません」
久々の男性客に、私は「はあい」と声を上げてカウンターの向こう側を覗き込んだ。
今でもメイド人形を買いに来る人はいるものの、恋人人形の受注が多過ぎるせいでどうしてもたくさんは受け持つことができず、泣く泣く依頼を断ることも多い。でも今は手持ちが空いているから、メイド人形をつくれるんだったら嬉しいなあ。
私はわくわくしながらカウンター越しを見上げて、はて。と思ってしまった。
身長は私と同じくらいの人が立っている。長い黒髪をひとつにまとめているその人は身長は高くない上に、肩幅もなく、もしかしなくってもこの人男装劇団に憧れた女性かしら。と思った。顔が小さい上に華奢で、睫毛もものすごく長いために、女性と言われたほうが納得がいくのだ。
私が思わず凝視してしまったのに気付いたのか、その人は慌てた。
「すみません、人形の衣装だけ用意してもらうことって、できないでしょうか?」
「はい?」
そりゃ一応人形師だし、人形のために着せてあげる新しい服だって用意しているものの。初のお客様が人形の服だけ買いに来た例は今までない。
「一応服だけお売りすることもできますが、基本的にうちで人形をお買い求めくださったお客様用ですから、初めてのお客様の場合は、サイズ測定からしなければならないんですが。着せたい人形のサイズはわかりますか?」
「……じ、自分の」
「はい」
「……自分の婚約者のために、怖がらないように、人形の服を着たいんです」
その人の言い出した言葉はひどく突拍子もなく思えるものの。最近その手のお客さんは多い。恋人人形にのめり込み過ぎた婚約者の感心を取り戻すために七転八倒する男性が、うちに怒鳴り込みに来たり、逆に泣きながら相談に来たりはよくあるんだ。
多分だけれど、この人も婚約者を人形に取られた人じゃないかなと思う。
元々の未婚恋愛禁止条例だって、婚約者同士の関係を見直せというものだから、この人みたいな態度は概ね正しい。ただ、婚約者が怖がらないように人形の服を着たいというのだけは、よくわからないのだけれど。
「込み入った事情でしょうか……一応お聞きしますが」
「お願いします!」
なんだか訳ありみたいだな。最近そういうお客様ばっかり来るけれど、うちの店にいらん噂でも流れてるのかしら。
そう思いながらも、私は麦湯を出してあげて、ひとまず話を聞き出すこととした。
恋人人形は手が大切だ。指の関節のひとつひとつ、曲げるときの角度、持ち主を口説くときに持ち主の頬をささくれで引っかかぬよう、爪先が刺さらないよう、細心の注意を払ってやすりがけし、油脂を染み込ませていく。最終的には手袋を嵌めさせて人形らしい冷たいつくりにならぬよう心がけるものの、途中で執事人形に自律稼働を弄り直す場合もあるから、手先がある程度器用でないといけない。
それらに気を配りながらひとつひとつを丁寧に仕上げている中、扉が開く音に気付いて、カウンター越しに覗き込んだ。
「いらっしゃいませ」
「すみ、ませ……ん。人形の注文は……できま、すか?」
「はい、できますよ。ただいまひと月ばかりお時間をいただきますが、それでよろしいでしょうか?」
「ひ……と、月。ですか……」
なぜかお客様は、心底ほっとした顔をしていた。
王立学校に通っているのだろう。王立学校の制服を着て、さらさらのアッシュブラウンの髪をハーフアップにまとめた彼女は、目が溶けそうなほどに垂れ目の人であった。
ずいぶんと大人しそうな人だなあ。箱入りが過ぎるご令嬢の対応は何度もしたことがあるものの、人見知りが激しい人が、いくら流行りとはいえども人形を買い求めにうちにやってくるなんて思ってもみず、戸惑いながらも私は紙を取り出した。
「こちらに、ご希望の人形を書いてくださいませ。そちらを元にスケッチを描きますから、そのスケッチを元に人形を制作致します」
「は、はい……」
この間の重なりまくった発注ペースを思えば、今は並行してもひと月で完成するスケジュールはゆるゆるのほうだ。
私は指先のパーツを磨きながら発注書が書かれるのを待っていたら、やがて「書けました……」と出された。
発注者のお名前はヘンリエッタ・オルムステッド様。オルムステッド商店は王都でも布問屋として有名なところだけれど、そこのご令嬢かな。だとしたら未婚恋愛禁止条例は関係ない人だな。
そう思いながら発注書の文面を読んでいって、目が点になった。
「『男性恐怖症を克服できる人形』……ですか?」
「は、はい……」
ヘンリエッタ様は、それはそれは縮こまりながら頷いた。
彼女に人形作成のためにカウンセリングをしてみると、それはそれは深刻な問題だった。
「私は……昔から男性が怖くて……一度誘拐されたことがあり、縛られて怒鳴り声を聞き続けたせいで……男性の低い声を聞くと……恐怖で身が竦んで動けなくなってしまうんです……」
「まあ……それは、魔法医に通いましたか?」
「魔法医には通いました。何度も想い出になるようにとハーブティーを処方され、安眠魔法もかけていただきましたが……それでもなかなか治りません」
幼少期のトラウマのせいで、男性恐怖症。それもかなり重度な。魔法医で駄目だったら、人形師の私じゃますます対処できないんじゃ。
私は一応尋ねてみる。
「それで、この『男性恐怖症を克服できる人形』の具体的なものは?」
「あ……あのう……男装している女性、は、平気なんです……男装劇団の華やかさは、見ていて目がくらみます」
「まあ……」
男装劇団は王都で最近流行り出した劇団だ。劇団員は女性オンリーであり、男性役も当然ながら女性であり、その男装した女優のファンも一定数ついている。女性が男装をするなんてと、一時期は物議を醸し出したものの、素晴らしい歌唱力とダンス、なによりも男優では醸し出すことのできない華やかさで、結局は女性ファンが押し通したことにより、不問と見なされて現代に至る。
つまりは男装女子系の人形ならば、ヘンリエッタ様も怖くはないと……。うん? でもそれじゃあ、全然男性恐怖症治らないんじゃ。
私はそう困りながら、何度も何度も人形のデザインを描いては、ヘンリエッタ様に見てもらい、そのたびに首を振られ続けていた。
「もうちょっとこう……ごつごつしてない感じで」
「かしこまりました。こちらは顔が美麗な方のイメージですが」
「これではほぼ女性ですから……」
……これはシリル型人形のラフ画描いたときくらいに修正要請受けたんじゃないかな。私がヘロヘロになりながら、なんとか描き終えたところで、やっとヘンリエッタ様も頷いてくれた。
プラチナブロンドの髪をひとつにまとめた、凜々しい人形だ。たしかに男装女子の人形と言っても支障がないほど、中性的な雰囲気になったと思う。
「それでは……こちらでよろしいでしょうか……」
「は、はい。ありがとうございます。それでは、どうぞよろしくお願いしますね」
そう言って前払い分を支払って、ヘンリエッタ様は帰って行った。私はヘロヘロになったまま、ひとまずはハーブティーで気持ちを落ち着けた。今日はミントをふんだんに入れたミントティーだ。自然と気持ちがすっとする。
私がなんとかヘロヘロしている気持ちを落ち着けていると、聞き慣れたドタドタとした足音がこちらに向かってくるのに気付いた。
「エスター」
「はい、いらっしゃい。シリルさん」
「……具合でも悪いのか。フラフラしているが」
一度この人の前で倒れたことがあるせいか、私がヘロヘロになっているのに、すぐ眉間に皺を寄せて気遣ってくる。それに私はヘラヘラと笑い返した。
「違いますよぉ。カウンセリングに時間がかかっただけですってばぁ」
「カウンセリング? 治療か?」
「人形作成のために、いろいろ聞き出さないといけないことが多いんですよ。絵まででしたらリテイクできますが、作業工程が開始したら、もうリテイクできませんから、いろいろ聞き取りしてからラフ画を描いてオッケーもらわないと、こちらも作業開始できませんから」
「……人形制作って、そこまでしないといけないものだったのか?」
「メイド人形でしたら、家事さえできればそこまでしなくってもよかったんですけどねえ。恋人人形だといろいろあるんですよ。いろいろ」
「いろいろ」
さすがにこれ以上は個人情報になるから、シリルさんにも言えないしなあ。私は残っているミントティーをちらりと見てから、声をかけた。
「そういえば、ミントティーがあるんですよ。一杯いかがですか?」
「いただこう……あと、フラフラしているようだから」
「はい?」
シリルさんは制服の中からなにかをカウンターに取り出した。紙にくるまれているのは、たくさんの手作りヌガーだ。
「うわあ。いっぱい。これどうなさったんですか?」
「見回りをしていたら、菓子屋を構えているご婦人からいただいた。よかったら食べるといい。甘いものは疲れに効く」
「いただきまーす。甘ーい。おいしぃー」
手作りのヌガーはぬちっとしていながらも優しい味わいで、ふたりでミントティーを飲みながら食べていたら、あっという間になくなってしまった。
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それから数日。
私は人形のパーツをつくりつつ、顔面を仕上げていた。
岩絵の具を溶いて顔色をつくりつつ、影を塗り込んでいく。その中で、プラチナブロンドによく似合うアメジスト色のガラスを嵌め込み、プラチナブロンドの睫毛をあしらっていく。服は男装劇団の男装女優のイメージでつくったスーツに、ツタ模様の刺繍を縫い付け、それを着せることにした。
「たしかにいつもと比べると、顔も綺麗だし、中性的な印象よねえ……」
恋人人形を買いに来るご令嬢たちは、基本的に夢見がちであり、あまりガチガチムチムチしている男らしいとされるような強靱なタイプの人形は買いに来ない……まあ、そんな人が好みの場合は、そもそもとっくの昔に駆け落ち成功しているだろうからなあ。
私はそう思いながら、人形を仕上げていった。そんな中。
「すみません」
久々の男性客に、私は「はあい」と声を上げてカウンターの向こう側を覗き込んだ。
今でもメイド人形を買いに来る人はいるものの、恋人人形の受注が多過ぎるせいでどうしてもたくさんは受け持つことができず、泣く泣く依頼を断ることも多い。でも今は手持ちが空いているから、メイド人形をつくれるんだったら嬉しいなあ。
私はわくわくしながらカウンター越しを見上げて、はて。と思ってしまった。
身長は私と同じくらいの人が立っている。長い黒髪をひとつにまとめているその人は身長は高くない上に、肩幅もなく、もしかしなくってもこの人男装劇団に憧れた女性かしら。と思った。顔が小さい上に華奢で、睫毛もものすごく長いために、女性と言われたほうが納得がいくのだ。
私が思わず凝視してしまったのに気付いたのか、その人は慌てた。
「すみません、人形の衣装だけ用意してもらうことって、できないでしょうか?」
「はい?」
そりゃ一応人形師だし、人形のために着せてあげる新しい服だって用意しているものの。初のお客様が人形の服だけ買いに来た例は今までない。
「一応服だけお売りすることもできますが、基本的にうちで人形をお買い求めくださったお客様用ですから、初めてのお客様の場合は、サイズ測定からしなければならないんですが。着せたい人形のサイズはわかりますか?」
「……じ、自分の」
「はい」
「……自分の婚約者のために、怖がらないように、人形の服を着たいんです」
その人の言い出した言葉はひどく突拍子もなく思えるものの。最近その手のお客さんは多い。恋人人形にのめり込み過ぎた婚約者の感心を取り戻すために七転八倒する男性が、うちに怒鳴り込みに来たり、逆に泣きながら相談に来たりはよくあるんだ。
多分だけれど、この人も婚約者を人形に取られた人じゃないかなと思う。
元々の未婚恋愛禁止条例だって、婚約者同士の関係を見直せというものだから、この人みたいな態度は概ね正しい。ただ、婚約者が怖がらないように人形の服を着たいというのだけは、よくわからないのだけれど。
「込み入った事情でしょうか……一応お聞きしますが」
「お願いします!」
なんだか訳ありみたいだな。最近そういうお客様ばっかり来るけれど、うちの店にいらん噂でも流れてるのかしら。
そう思いながらも、私は麦湯を出してあげて、ひとまず話を聞き出すこととした。
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