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人魚
十
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荷車がカラカラと鳴る。
数十年も経ったらずいぶんと平和になったと思っていたが、意外とそうでもないらしい。
また大坂で戦がはじまりそうだということで、大坂から離れたほうがよさそうだと、一部の商人たちは拠点を大坂から京に移しはじめている。
百合は荷車を押しながら、移動する人々の護衛をしていた。
「このところは平和だったけど、若い頃は戦も多かったからね。爺様に大坂で店を構えるのはやめておけと言われてたんだけれど、京の店から暖簾分けの際に少々揉めてねえ」
「なるほど、そうでしたか」
「そうだよ。しかしこのところはあまり見なかったんだけど、女性で護衛を勝って出てくれるなんてねえ……」
商人を荷車に乗せつつ、百合は笑った。
「いえ。私にはそれしかできませんから」
「そうかい」
商人は聡明な人だったのだろう。それ以上詮索するようなことは言わず、次に起こるだろう大戦《おおいくさ》でどちらが勝つだろうかという話へと移行した。
百合は相変わらず、絡繰り人形と八百比丘尼の体を行ったり来たりを繰り返していた。数十年経ってもなお、彼女は人魚の肝を探し出すことはできず、人間なのかなんなのかわからないまま生きていた。
小十郎は数年経ったあと、彼は好きになった女ができたため、彼女を追いかけて去っていった。元々目端が利き、機転も利く子な上に、彼には読み書きと算学は教え込んだのだから、どこに行っても働くことはできるだろうと、彼にぽんを渡して見送った。
妖怪退治をし、ときおり現れる八百比丘尼に体を奪われた魂が起こした騒動に首を突っ込みながらも、百合は旅を続けていた。
いつかの尼僧に渡された荷車は、今はすっかりとキシキシと言って引きにくくなってしまったため、どこかで新しく買い換えないといけない。
やがて、ようやっと京が見えてきた。商人は荷車から降りたあと、「ありがとう」と言いながら、百合に依頼のためのお金を渡してくれた。
「助かったよ。戦になる前に脱出することができて。まだ護衛の仕事を続けるのかい?」
「はい……皆が皆、舟で移動できたら早いんでしょうが、そうもいきませんから。陸路で京に避難されていらっしゃる方がいるうちは続けようかと」
「そうかい……気を付けて」
「はい。こちらこそありがとうございました」
百合は丁寧にお礼をしてから「ところで」と商人に尋ねた。
「京で買い物をしてから、大坂に行こうと思っているんですが。この辺りで修繕師はいらっしゃいませんか?」
「修繕師かい?」
「はい、年季が入っていますから、そろそろ荷車を修繕に出そうかと思いまして」
****
百合が商人から教えてもらった場所は、商人たちが定期的に利用している修繕屋が立ち並んでいる場所だった。
桶、酒樽、家屋。小さなものから大きなものまで、生活用品から商人たちご用達の品まで、なんでも直す店が並んでいるようだった。
その店の一軒一軒を尋ね、荷車の修繕の店を尋ねたところで、どこの職人たちも「一番奥の店」と教えてくれ、そこまで向かう。
「すみません。荷車の修繕にうかがいました」
「やあやあ、そちらにどうぞ」
その口調には覚えがあった。
前に見たときとまた姿が変わっているのに、思わず百合は目を細める。
「てっきり江戸に向かったのかと思っていましたけれど」
「いやいや。江戸はたしかに人が多い上に、男ひとりでうろうろしていても比較的誰もなにも言わないけどね。でも年を取らない男がいたら、誰だって怪しむものさ。その点、京はいい。程よい距離感だからね。あれこれと詮索してくる人間が少ない。大坂は距離感が近過ぎるし、但馬や丹波、摂津も似たようなもんさ。距離感が遠くて、仕事さえできれば誰もなにも言わない場所って、意外と少ないんだよ」
「そうですか……お久しぶりです、果心様」
百合がそう挨拶をすると、男はふっと笑った。
相変わらず彼のことはよくわからない。
酒を飲む絡繰り人形をつくっているのか、絡繰り人形のふりをしている人間なのかすら、今もよくわからない。全てが幻術だとしたら、もう百合では彼のことはなにも把握できない。
槌を振るって修繕していたのは、屋台であった。車で移動できるようつくっている屋台であった。
暖簾のついてないそれをまじまじと眺めていたら、作業はひと段落したのだろう、ようやくこちらに振り返った。そして果心居士は「はて」と首を傾げた。
「お前さん坊主を連れ回していなかったかい?」
「それ、いったい何年前の話だと思っているんですか。今は小十郎はいませんよ。あの子だって成長しますし、他にやりたいことができます……あの子はあの子がいた村から出て生きる術が見つかったらそれでよかったのですから」
「そうかい。それで、お前さんは? まさか人魚の肉をまだ探しているとは言うまいな」
それに百合はクスリと笑った。
彼の中では、未だにからかい交じりに「おひいさん」と呼ばれていた頃と同じなのだろう。
百合は年を取ることはできないが、成熟はしつつある。百合は思い立ったことを口にした。
「一度だけ、人魚の肝だと言われて勧められるままに食べることになったことがありましたが。あれがなんの肝だったのかはわかりませんでしたが、元に戻ることはできませんでした」
「ほう……まさか八百比丘尼の被害者に人魚の肝の偽物を売りつける馬鹿垂れがいるなんて思いもしなかった」
「私だって驚きましたけどね。でもならなくってよかったんだと思います」
「お前さん、人間をやめてからも未練がましく人間に戻りたがっていたのに?」
そう言いながら果心居士に瞳を覗き込まれて、思わず仰け反った。彼は姿形はすぐ変わっても、人の心を覗き込もうとする目だけは変わらなかった。
どう答えたものかと考えながら、百合は口を開いた。
「……数十年生きている今でも、よくわかりません」
「そうかい」
「果心様、結構その手の問題について細かく尋ねるかと思いましたけれど」
「人の気持ちの問題なんて、人それぞれさね。何十年も未練がましく悩むものだって、ひと晩寝て起きたら消え失せるものだってある。皆同じ感覚で解決しろって言えやしないよ。お前さんはどうにも育ちがよかったせいだろうね。周りに物事を決められるのが常だったせいで、自分で考えるのがとんと苦手と見た。ならこちらも答えが出るまで黙って眺める以外にはないだろうさ」
「……お心遣いありがとうございます」
百合は頭を下げつつ、「そうですね……」と果心居士の店を眺めた。彼は基本的になんでもできる。絡繰り人形こそないが、なんでも修繕できるし、修復もできる。ここには見当たらないが、机や椅子を直すのだってきっと上手いだろう。
彼はどこでだって生きていける。どこでだって生きられるということは、どこでだって死に場所を決められるということだ。
百合は一度、生きたまま火刑にかけられたことを思い出した。
「……今は人助けをして生計を立てていますが、いずれは人助けをしながらの旅も難しくなるでしょうね」
「そうだね。江戸で開かれた幕府はなにかと決まり事をつくるのが好きだから、決まり事で仕分けできない者たちは、いずれ淘汰されるだろうさ」
「でも私、まだ死に場所を決められていないんですよ。どこでだって生きられないというのに、どうして死に場所を見つけられるんですか」
「ははは」
百合の絞り出した言葉を、果心居士は笑い飛ばす。それに百合はむっとするが。果心居士の態度が変わることはなかった。
「相変わらずお前さんは、どうしようもないことで迷っているねと思っただけさ。おひいさんだった頃からなにも変わっちゃいない」
「……あなたはどうして、私をずっとおひいさんと呼んでたんですか。あなたと初めて出会った頃だって、私は既におひいさんではありませんでした」
「言っていることや考えていることがふわふわと浮ついていたからね。そんなんは皆おひいさんで充分さ。だが今は、目の前のことで精一杯なほどに、いろんなものを削ぎ落しているからね。生きるために生きている者を、おひいさんなんて呼んじゃいけないさ」
「私、そこまで浮ついては……あの頃は、人魚の肉を必死に探していましたし」
「でも今はそうじゃないと」
百合が思わず唇を噛んで黙り込んでしまうと、果心居士はようやっと屋台を完成させてから、百合のほうに向きなおった。
「さて、お前さんの修繕だが」
「あ、はい。荷車を修繕してほしいんです。何十年も使い込んで、すっかりとがたが付いてしまいましたから」
「それは……お前さん、もうちょっと早く修繕に出しなさい。壊れたら危ないだろう。これはお前さんの寝床でもあるんだから」
そう言いながら、果心居士は荷車を撫でた。
「……荷車ってもんはね。修繕を施して、車輪を入れ換えようが、板を張り替えようが、全て荷車だろう? 全ての部品を入れ換えたって、結局は荷車のままなのさ」
「えっと……」
「八百比丘尼に流されようが、逆らおうが、お前さんに降りかかった不幸はお前さんのもんだ。お前さんが人間に戻りたいと願おうが、諦めようが、やっぱりお前さんに変わりはしまいさ。あんまり悩むのはやめとくがいいよ」
その言葉に、少しだけ百合は目を見開いてから、微笑んだ。
「それは、あなたが人間とか人形とかどっちでもよく、見た目がどれだけ変わろうがあなたでしかないからですか?」
「そうかもしれんね。さて、何日で修理しようか」
「それでは……」
百合はしばしの間、自分の同士との会話に胸を弾ませたのだった。
****
終わらないと思っていた戦国の乱世も、ようやっと終わりを迎えようとしている。
その中で、人魚の肉を食らった女に体を奪われ、なりたいと願ったこともない不老不死の体に入れられてしまった、滅多にない悲劇を手に入れてしまった百合。
変わらないものなんてなにもない。今一緒にいる人とだって、いずれ別れはやってくる。
どうやって生きよう、どうやって死のう。
狭いようで広いこの日ノ本で、もう自分を不幸とも思っていない女は、今日も荷車を引いて旅を続けている。
さて、次はどこに向かおうか。
風の吹くまま、気の向くまま。
<了>
数十年も経ったらずいぶんと平和になったと思っていたが、意外とそうでもないらしい。
また大坂で戦がはじまりそうだということで、大坂から離れたほうがよさそうだと、一部の商人たちは拠点を大坂から京に移しはじめている。
百合は荷車を押しながら、移動する人々の護衛をしていた。
「このところは平和だったけど、若い頃は戦も多かったからね。爺様に大坂で店を構えるのはやめておけと言われてたんだけれど、京の店から暖簾分けの際に少々揉めてねえ」
「なるほど、そうでしたか」
「そうだよ。しかしこのところはあまり見なかったんだけど、女性で護衛を勝って出てくれるなんてねえ……」
商人を荷車に乗せつつ、百合は笑った。
「いえ。私にはそれしかできませんから」
「そうかい」
商人は聡明な人だったのだろう。それ以上詮索するようなことは言わず、次に起こるだろう大戦《おおいくさ》でどちらが勝つだろうかという話へと移行した。
百合は相変わらず、絡繰り人形と八百比丘尼の体を行ったり来たりを繰り返していた。数十年経ってもなお、彼女は人魚の肝を探し出すことはできず、人間なのかなんなのかわからないまま生きていた。
小十郎は数年経ったあと、彼は好きになった女ができたため、彼女を追いかけて去っていった。元々目端が利き、機転も利く子な上に、彼には読み書きと算学は教え込んだのだから、どこに行っても働くことはできるだろうと、彼にぽんを渡して見送った。
妖怪退治をし、ときおり現れる八百比丘尼に体を奪われた魂が起こした騒動に首を突っ込みながらも、百合は旅を続けていた。
いつかの尼僧に渡された荷車は、今はすっかりとキシキシと言って引きにくくなってしまったため、どこかで新しく買い換えないといけない。
やがて、ようやっと京が見えてきた。商人は荷車から降りたあと、「ありがとう」と言いながら、百合に依頼のためのお金を渡してくれた。
「助かったよ。戦になる前に脱出することができて。まだ護衛の仕事を続けるのかい?」
「はい……皆が皆、舟で移動できたら早いんでしょうが、そうもいきませんから。陸路で京に避難されていらっしゃる方がいるうちは続けようかと」
「そうかい……気を付けて」
「はい。こちらこそありがとうございました」
百合は丁寧にお礼をしてから「ところで」と商人に尋ねた。
「京で買い物をしてから、大坂に行こうと思っているんですが。この辺りで修繕師はいらっしゃいませんか?」
「修繕師かい?」
「はい、年季が入っていますから、そろそろ荷車を修繕に出そうかと思いまして」
****
百合が商人から教えてもらった場所は、商人たちが定期的に利用している修繕屋が立ち並んでいる場所だった。
桶、酒樽、家屋。小さなものから大きなものまで、生活用品から商人たちご用達の品まで、なんでも直す店が並んでいるようだった。
その店の一軒一軒を尋ね、荷車の修繕の店を尋ねたところで、どこの職人たちも「一番奥の店」と教えてくれ、そこまで向かう。
「すみません。荷車の修繕にうかがいました」
「やあやあ、そちらにどうぞ」
その口調には覚えがあった。
前に見たときとまた姿が変わっているのに、思わず百合は目を細める。
「てっきり江戸に向かったのかと思っていましたけれど」
「いやいや。江戸はたしかに人が多い上に、男ひとりでうろうろしていても比較的誰もなにも言わないけどね。でも年を取らない男がいたら、誰だって怪しむものさ。その点、京はいい。程よい距離感だからね。あれこれと詮索してくる人間が少ない。大坂は距離感が近過ぎるし、但馬や丹波、摂津も似たようなもんさ。距離感が遠くて、仕事さえできれば誰もなにも言わない場所って、意外と少ないんだよ」
「そうですか……お久しぶりです、果心様」
百合がそう挨拶をすると、男はふっと笑った。
相変わらず彼のことはよくわからない。
酒を飲む絡繰り人形をつくっているのか、絡繰り人形のふりをしている人間なのかすら、今もよくわからない。全てが幻術だとしたら、もう百合では彼のことはなにも把握できない。
槌を振るって修繕していたのは、屋台であった。車で移動できるようつくっている屋台であった。
暖簾のついてないそれをまじまじと眺めていたら、作業はひと段落したのだろう、ようやくこちらに振り返った。そして果心居士は「はて」と首を傾げた。
「お前さん坊主を連れ回していなかったかい?」
「それ、いったい何年前の話だと思っているんですか。今は小十郎はいませんよ。あの子だって成長しますし、他にやりたいことができます……あの子はあの子がいた村から出て生きる術が見つかったらそれでよかったのですから」
「そうかい。それで、お前さんは? まさか人魚の肉をまだ探しているとは言うまいな」
それに百合はクスリと笑った。
彼の中では、未だにからかい交じりに「おひいさん」と呼ばれていた頃と同じなのだろう。
百合は年を取ることはできないが、成熟はしつつある。百合は思い立ったことを口にした。
「一度だけ、人魚の肝だと言われて勧められるままに食べることになったことがありましたが。あれがなんの肝だったのかはわかりませんでしたが、元に戻ることはできませんでした」
「ほう……まさか八百比丘尼の被害者に人魚の肝の偽物を売りつける馬鹿垂れがいるなんて思いもしなかった」
「私だって驚きましたけどね。でもならなくってよかったんだと思います」
「お前さん、人間をやめてからも未練がましく人間に戻りたがっていたのに?」
そう言いながら果心居士に瞳を覗き込まれて、思わず仰け反った。彼は姿形はすぐ変わっても、人の心を覗き込もうとする目だけは変わらなかった。
どう答えたものかと考えながら、百合は口を開いた。
「……数十年生きている今でも、よくわかりません」
「そうかい」
「果心様、結構その手の問題について細かく尋ねるかと思いましたけれど」
「人の気持ちの問題なんて、人それぞれさね。何十年も未練がましく悩むものだって、ひと晩寝て起きたら消え失せるものだってある。皆同じ感覚で解決しろって言えやしないよ。お前さんはどうにも育ちがよかったせいだろうね。周りに物事を決められるのが常だったせいで、自分で考えるのがとんと苦手と見た。ならこちらも答えが出るまで黙って眺める以外にはないだろうさ」
「……お心遣いありがとうございます」
百合は頭を下げつつ、「そうですね……」と果心居士の店を眺めた。彼は基本的になんでもできる。絡繰り人形こそないが、なんでも修繕できるし、修復もできる。ここには見当たらないが、机や椅子を直すのだってきっと上手いだろう。
彼はどこでだって生きていける。どこでだって生きられるということは、どこでだって死に場所を決められるということだ。
百合は一度、生きたまま火刑にかけられたことを思い出した。
「……今は人助けをして生計を立てていますが、いずれは人助けをしながらの旅も難しくなるでしょうね」
「そうだね。江戸で開かれた幕府はなにかと決まり事をつくるのが好きだから、決まり事で仕分けできない者たちは、いずれ淘汰されるだろうさ」
「でも私、まだ死に場所を決められていないんですよ。どこでだって生きられないというのに、どうして死に場所を見つけられるんですか」
「ははは」
百合の絞り出した言葉を、果心居士は笑い飛ばす。それに百合はむっとするが。果心居士の態度が変わることはなかった。
「相変わらずお前さんは、どうしようもないことで迷っているねと思っただけさ。おひいさんだった頃からなにも変わっちゃいない」
「……あなたはどうして、私をずっとおひいさんと呼んでたんですか。あなたと初めて出会った頃だって、私は既におひいさんではありませんでした」
「言っていることや考えていることがふわふわと浮ついていたからね。そんなんは皆おひいさんで充分さ。だが今は、目の前のことで精一杯なほどに、いろんなものを削ぎ落しているからね。生きるために生きている者を、おひいさんなんて呼んじゃいけないさ」
「私、そこまで浮ついては……あの頃は、人魚の肉を必死に探していましたし」
「でも今はそうじゃないと」
百合が思わず唇を噛んで黙り込んでしまうと、果心居士はようやっと屋台を完成させてから、百合のほうに向きなおった。
「さて、お前さんの修繕だが」
「あ、はい。荷車を修繕してほしいんです。何十年も使い込んで、すっかりとがたが付いてしまいましたから」
「それは……お前さん、もうちょっと早く修繕に出しなさい。壊れたら危ないだろう。これはお前さんの寝床でもあるんだから」
そう言いながら、果心居士は荷車を撫でた。
「……荷車ってもんはね。修繕を施して、車輪を入れ換えようが、板を張り替えようが、全て荷車だろう? 全ての部品を入れ換えたって、結局は荷車のままなのさ」
「えっと……」
「八百比丘尼に流されようが、逆らおうが、お前さんに降りかかった不幸はお前さんのもんだ。お前さんが人間に戻りたいと願おうが、諦めようが、やっぱりお前さんに変わりはしまいさ。あんまり悩むのはやめとくがいいよ」
その言葉に、少しだけ百合は目を見開いてから、微笑んだ。
「それは、あなたが人間とか人形とかどっちでもよく、見た目がどれだけ変わろうがあなたでしかないからですか?」
「そうかもしれんね。さて、何日で修理しようか」
「それでは……」
百合はしばしの間、自分の同士との会話に胸を弾ませたのだった。
****
終わらないと思っていた戦国の乱世も、ようやっと終わりを迎えようとしている。
その中で、人魚の肉を食らった女に体を奪われ、なりたいと願ったこともない不老不死の体に入れられてしまった、滅多にない悲劇を手に入れてしまった百合。
変わらないものなんてなにもない。今一緒にいる人とだって、いずれ別れはやってくる。
どうやって生きよう、どうやって死のう。
狭いようで広いこの日ノ本で、もう自分を不幸とも思っていない女は、今日も荷車を引いて旅を続けている。
さて、次はどこに向かおうか。
風の吹くまま、気の向くまま。
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