大学寮の偽夫婦~住居のために偽装結婚はじめました~

石田空

文字の大きさ
17 / 27
偽夫婦、肝試しを行います

6話

しおりを挟む
 朝になって朝ご飯を出したあと、食堂に来た子たちに説明する。一部の猫の怖い子や匂いが原因で猫に近付いたらまずい子は部屋に入ってもらい、大掃除よろしく寮のあちこちを探す。
 意外なことに、朝から舘向さんも出てきて、一緒に探してくれた。
 琴吹さんは匂いが原因で申し訳なさそうに部屋に戻る。

「すみません……猫探すのを手伝えなくって……その替わり実家住みの子たちに、黒猫を引き取ってくれる子がいないか、アプリのグループで探してみますね」
「あー、ありがとう。こっちも猫探してくるから」

 素子さんは猫たちを入れるケージを買いに、早川さんと一緒にホームセンターに出かけて行ったから、俺たちはわいわいと寮を探す。
 昼間は暑くて見つからないんだから、日陰だろうと、今は空き部屋になっている部屋や、空気口を中心に探す。でもなかなか見つからない上に、どんどん日が昇ってきて暑くなってくる。
 あの毛並みだったら、余計に日差しの下に出たら暑いだろうに。
 俺は台に乗って天井を開けて、その中に首を突っ込んだとき。キラーンと光るものを見つけて、思わず仰け反って台から落ちそうになる。でも、これは昨日も見たものだ。

「猫、見つけたー……!」

 俺がどうにか天井に入り込んで、猫を抱えようとするものの、猫は「シャーッ」と鳴いて威嚇し、全然捕まってくれない。でも俺も猫をどうすりゃいいのかわかんないしな。

「誰か、猫が平気で触れる子いるー? 俺だと逃げ回って全然捕まえられない」
「あー、じゃあ私いいですかー?」

 舘向さんがマイペースに手を挙げた。肝試しではいつもワンピースだったというのに、今日はTシャツにスラックスと比較的身軽な格好だ。俺が台を降りて舘向さんに譲ると、彼女はするすると天井に入り込むと、いつものパンを千切ったような声をかける。

「さあ、いらっしゃーい。大丈夫大丈夫、怖くないからぁー」

 間延びした声を上げる。すると「ミャア」と甘えたな声が聞こえてきた。俺には威嚇しかしなかったのに、これが猫好きと動物音痴の違いか。舘向さんはひょいと天井から顔を出すと、子猫を抱えた手を差し出してきた。

「はい、管理人さん。まずは一匹。あと四匹いるから」
「そ、そんなにいたんだっ!?」

 俺が慌てて抱えるものの、抱え方が悪いのか、猫はビローンと伸びる上に嫌がって抵抗してくる。でも逃がす訳にもいかずに「誰かぁー!」と悲鳴を上げたら、手伝ってくれた子たちが来てくれた。

「ああ、無茶苦茶真っ黒! 目は金色だし可愛いー!」
「うちだと猫が怖い子もいるから難しいだろうしねえ……」

 俺が抱えると思いっきり抵抗していた猫も、慣れている子たちが抱えると、甘えたようにゴロゴロと言うんだから、猫ってかなり関わる人間を選んでいるんだなと、変に感動してしまう。
 そんなこんなで、次々と舘向さんが猫を天井裏から降ろしていく中、「ただいまー」と素子さんと早川さんが帰ってきた。猫がにゃごにゃごと言っているのを見た瞬間、早川さんは目を蕩けさせた。
 まさかこの猫たちがさんざん幽霊騒動で周りを怖がらせていたなんて、この光景だけだと察することすらできないだろう。
 天井裏から降りてきた舘向さんは、少しだけ埃で顔を真っ黒にさせていた。

「それじゃあ、この子たちどうしましょうか?」
「まずは病院に連れて行って、そのあとに里親探しですかねえ」

 素子さんはそれぞれの猫を検分し、「どの子もよくこの季節に生きてられたってくらいに元気いっぱいですね」と微笑んだ。
 皆でそれぞれカンパしてもらったお金で、素子さんは舘向さんと一緒に動物病院に出かけたところで、部屋にずっといた琴吹さんがひょっこりと顔を出した。

「あのう、アプリで里親を募集したら、実家住みの子で猫好きの子が何人か立候補してくれたんだけれど。それで里親探しは問題ないでしょうか?」
「おお、もう見つかったんだ。もっと時間かかるかと思ってたけど」
「ついこの間に家にいた子が亡くなったばかりでペットロス症候群になっている子とか、もう一匹猫を飼いたい子とか、結構いますから。でも自分が猫と一緒にいるのはちょっとまずいと思うんで、どうしましょう?」
「んー……琴吹さんの共通の友達いないかな? その子に猫たちを預けられたらいいけど」
「だとしたら、奈乃香ですかねえ……」

 そういえば琴吹さんと舘向さんは友達だっけか。でも友達の友達は友達って、今時小学生でも信じないだろうし、大丈夫かな。
 俺が「んー……」と顔を引っ掻いていたら、「大丈夫だと思いますよ?」と早川さんが口を挟んできた。

「舘向さん、結構顔が広いですから。ホラーが好きなだけで、それを強制しませんし」
「なるほど?」

 だから今まで寮に籠もって夜生活送っていても、寮生から誰も苦情が来なかったのかなと思った。こうして、琴吹さんが当たってくれた里親に、明日にでも舘向さんが引き渡しに行くことになったんだ。
 まさか、数日皆を怖がらせていた幽霊騒動が、たった一日でスピード解決するなんて、思いもしなかった。

   ****

 次の日、出かける舘向さんは、頭には大きな帽子に、更に日傘を携え、猫の入った籠を下げた。ワンピースに日除けのカーディガン、サンダルといういで立ちは涼し気だけれど、アスファルトの照り返しが暴力的だから、大丈夫かと心配になる。

「重くない? 持っていこうか?」

 聞いてみたら、舘向さんに「大丈夫ですよ」と笑われた。

「久しぶりに炎天下歩きますし、軽いスポーツだと思って出かけてきます。どっちみち後期までに夜生活を治さないといけませんし。この子たちも、いい人に会えるといいんですけどねえ」

 マイペースにそう言って「行ってきます」と出かけて行った。
 そんなもんかな。
 振り返ると朝の玄関の掃除を終え、青陽館の出入り口に水を撒いている素子さんと目が合った。もうもうと立ち込める巻きあがった湯気に、果たして本当に気温を下げてくれているのか疑問だ。朝でこれじゃ、昼にやっても効果はなさそうだ。

「なんだか、この数日の幽霊騒動、解決してみたら拍子抜けでしたねえ。平和なのはいいことですけど」
「そうですねえ。まあ本当になにもなくってよかったじゃないですか。猫もいい飼い主に会えるといいですね」
「まあ、そうなんですけど。あと今回は舘向さんもですが、素子さんが大活躍だったじゃないですか。俺、動物は全然触れないんで、ふたりがいなかったら全然駄目でしたよ」

 そう褒めたら、素子さんが八の字眉にして微笑んだ。
 普段から自分の意見をはっきりと言う人ではないけれど、ここまであからさまに困った顔をするのは珍しい。
 俺、なんか素子さんに悪いことを言ったか?

「ええっと……俺、なんか駄目なこと言ったでしょうか……?」

 おずおずと聞くと、素子さんは我に返ったような顔をして、笑みをつくり直す。

「いえ、なんでもないです。ただ、ここにずっといたら、いずれ保健所に連絡をしないといけないかもしれませんでしたから。それを避けられてよかったです」
「あー……そうですね」
「今日のお昼ご飯どうしましょうか。今日もかなり暑いですもんねえ」

 そう言って素子さんは空を仰いだ。今日ももうもうと入道雲が立ち込めているから、どこかでゲリラ豪雨が来るかもしれない。
 俺は素子さんの下手くそ過ぎる話題転換に乗りながら、夏の定番料理を考える。どれもこれも簡単という割には暑くて、一分一秒でも火の近くから離れたい人間からしてみれば暑くて仕方がないラインナップだ。
 少し考えて、「ああ、そうだ」と言った。

「俺が炒飯つくりましょうか。そろそろ高菜の漬物片付けたほうがいいでしょうし」
「ああ。いいですね。お願いして大丈夫ですか?」
「もちろん」

 既にふたつの季節を一緒に過ごしてきたけれど、俺は素子さんのことをなにも知らない。それを聞いていいのかどうかも、未だにわからないけれど。
 ただ、ここで俺たちの関係に名前を付けてしまったら、別れが惜しくなる気がして、結局はなにも聞けずにいた。
 俺たちの関係は、あくまで期間限定のものだから。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件

こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

処理中です...