長髪

熊取 建

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潜入

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 放課後、16時頃。残っている生徒たちも部活の練習に出払ったり帰宅してしまった頃に、千香とゆいなは3階の廊下をゆっくりと往復していた。

「ここは物理室、ここは2年6組…うーん、空き教室とかはないなぁ」

教室のみならず壁の柱も含めて三度か四度は全て見たが、それらしい部屋や扉は見つからなかった。

「そうですね…おや?」

ふと、ゆいなが歩みを止めた。

「どーしたの?」

「この2年6組と階段の間…やけに距離があると思いませんか?」

「んー……言われてみればそんな感じ?」 

「およそ、教室一つ分くらいでしょうか」

と、ゆいなが推測する。

「んー、でもドアも窓も全然ないよ?」

お手上げ、といった様子の千香だが、ゆいなは変わらず教室一つ分くらいの長さの壁に目を凝らしていた。

「……一つだけ残っていました。下窓ですね」

ゆいなが、壁の下の一点を指指した。確かにそこには、教室の一番下の壁に備わっている類の小さな引き戸が見えたのだ。壁の色と全く同じに塗り替えられているが、僅かな凹みで二段に重なった一組の窓だという事が分かる。

「開けてみる?」

「物は試し、ですね」

ゆいなは、窓にゆっくり手をかけて右側へと引いてみた。

「空きました」

「じゃあ……入っちゃお!」

「静かにお願いしますね。先生方に見つかるのはさすがに」

こうして女子高生二人は、匍匐前進をするように空き教室へと忍び込んでいったのだった―
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