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【本編】
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しおりを挟む俺だって、最初はご丁寧にゆさゆさしながら起こしたさ。
朝ですよ、ご飯ですよ、カバみたいな妖精の再放送始まっちゃいますよ、と。
枕元に張り付いてゆさゆさひそひそ、根気強く優しく起こし続けたとも。
結果再放送に無事間に合った池田は、ご満悦でテレビ見ながら朝飯食ってた。
全部俺のお陰だ。
それなのにこの男は……飯が終わるなりカレンダーに向かい、数を数えながら「正」の字を書き足していったのだ。
しぶとく布団に齧り付いたままでも、ちゃっかり「です」と「ます」の数を数えていたのだ。
めまぐるしい勢いで増えていく「正」の字に、目の前が真っ暗になった。
角生やして俺を睨んでくる兄貴の幻覚まで見えて貧血、背中に脂汗が流れた。
「起きて下さい玖朗さま、って言ったら起きないこともない……」
「一生寝てろ」
尚もぐずる池田に、布団を掴んでいた手から力が抜けた。
悪趣味な黒のカバーに包まれた羽毛布団が、ばさりと音を立てて池田の頭に被さる。
池田は趣味が悪い。
ベッドカバーも黒、シーツも黒、枕カバーも黒、魔王の寝床よろしく、真っ黒けの寝台。
こんなベッドで安眠できる神経が心底理解できない。
しかも、ヨダレの跡の一つもあればまだ可愛げもあるのに、何にもない。
綺麗なお顔の魔王様は、寝相も大変お美しかった。
「……」
さっさと見捨てて出て行こうとしたその腰に、布団の隙間から伸ばされた手が絡んできた。
その手をじっと、じーっと見下ろし溜息。
俺は本当に根気が無い。
そして池田は、その見た目の印象とは裏腹に、子供だ。
構われるために絡んできて、怒ってそっぽを向けば無傷の右腕が絡み付いてくる。
からかう仕草にブチ切れ、シカトを決め込もうにもそれをさせない。
言葉が通じないとなると、身体が近付いてくる。
構われたがりで面白がりで、きっとこういうところが兄貴と合っているんだろうと思う。
半分以上諦めの気分で息を吐き、もう一度声をかけようと口を開いたと同時に――視界がぶれた。
「ッ!」
咄嗟に飛び出しそうになった悲鳴を噛み殺す。
やばい、と頭の中で赤信号。
頭から光の速さで血の気が引いていく。
背中に柔らかな衝撃、悪趣味な真っ黒ベッドがぎしりと軋む。
思わず閉じていた目をそっと開くと、目の前に池田の顔が迫っていた。
「……」
一体どこで鍛えているのか、池田は異様に力が強い。
すらりとしたその手足のどこにそんな力が眠っているのかさっぱり分からないが、片腕で俺をベッドに引っ張り込むくらい朝飯前、顔色一つ変えることはない。
……いや違う、断じて俺が平均より少し小さいからってわけじゃない断じて。
そして魔王だ。
魔王っぽい魔王っぽいとは思っていたが、池田は本当に魔王だった。
じっと見下ろしてくる表情のない灰色の目に、背筋を悪寒が駆け上がる。
「どうも忘れてるようだから……おさらいな?」
「あ、う……」
巧く言葉が出て来ない。
本能が「逆らうな」と訴えてくる。
「池田玖朗は片山涼二の?」
「……や、雇い主です……」
怯えた声でそう答えれば、池田は一つ神妙な顔をして頷いた。
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