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北池袋

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リムジンバスで池袋駅に着いた。しかし、初めて来た所でもあってか、全然、勝手が分からない。

なぜか、JR東口に西武デパートがあって西武池袋線と接続されていて、JR西口に東武デパートがあり、東武鉄道に接続されている。麻琴は理解に苦しんだ。

『ちくしょ~。東京ってこんな所ばっかかよ!諦めて梨沙先輩呼ぼうかな~。』

麻琴は昼なのに辺りが暗い雨の中、地団駄を踏んだ。

当然の報いとしてスニーカーとボトムスの裾が濡れる。

彼はGooglemapに梨沙の住所を打ち込んだ。すぐに、歩き始める。

池袋駅北口のゲートをくぐって赤羽方面に歩くようにナビが指示した。

しばらく真っ直ぐ歩くと北に折れた。右側に風俗店を観ながら、左にあるキャバクラの横を通る。

「こんなに治安の悪そうな所を女の梨沙は歩いているなんて・・・」

この辺りは夜開く街なのだろう。昼前というのに八百屋も肉屋も生花店も開いていない。シャッターが閉まっている。

先を進むと首都高速のガード下を渡る。もう、Googlemapによると少しで梨沙のアパートだ。

また、少し奥に行くと細々とした北池袋のアパート群へとたどり着く。

「スゲー、アパート数だなぁ・・・大松湯、銭湯だ・・・ここだ!この近くだ・・・」

路面に容赦なく雨が打ち付ける。遠くで雷も鳴っている。夕暮れ時でもないのに。

『・・・アハハハハ・・・櫂!・・・ダメだよ・・・』

「ん?・・・梨沙?・・・」

他人の空似かと思った。だが、聴いた感じは間違いなく梨沙の声だった。

「次は~。市ヶ谷~。市ヶ谷~。都営新宿線、地下鉄有楽町線、お乗り替えです。アハハハハ・・・」

と、声の低い男性の声がした。

「ダメだって・・・かい・・・昼間だよっ!夜にっ!そこっ!触らないでっ!乗らないでっ!私は地下鉄じゃないのっ!」

麻琴は声が一番大きくするアパートに走り寄った。

ビニール傘も既に投げ捨ててしまっている。Googlemapも多少ずれているが、目的地を指している。

声はこのアパートの2階からだ。築50年はする物件だ。足をなるべく音を立てないよう忍び足で階上に上がり、声のする方向へと歩いて行く。

心はざわつき、怒りで沸騰していた。あれは、梨沙と誰か知らない男だ。絶対に!

麻琴はショックという感情はなく、ただただ受けられない。場から逃げ出したい感情と、場に留まるべきだという感覚が交差し、胃が気持ち悪くなった。もしかしたら、これが本物のショックという感情なのかも知れないと思った。

最大級のショックというものを経験していない自分を嗤った。

「好きっ!櫂!私、あなたとするの好きだけどっ!今はっ!夜なら、いつでもシたいからっ!ああっ!櫂っ!」

一番奥の部屋から大声がした。歩くときパタパタと足音が鳴ったが、恐らく雨音で掻き消されてしまっただろう。

彼はすかさず近付き、表札を見た。

『R.ICHIGAYA』

とある。梨沙だ。終わった・・・と思ったが、全てを確かめるまでは納得が行かないと感じている自分もいる。

「櫂!脱がさないでっ!私、歯止めが利かないよっ!責任取ってよっ!子供ができちゃう!」

麻琴は気がおかしくなりそうだった。

ーーコツ・・・コツ・・・コツ・・・コツ、市ヶ谷さん。宅配便で~すーーー

呼び鈴はわざと鳴らさず、鼻を摘まんで彼女に自分だと悟られないように話した。

部屋の奥にしばし、静寂が訪れた。何も聞こえない

「は、はーい、ちょっと待って!」

ーーーカタカタと音がして、玄関錠とカギが開けられる音がしたーーー

悔しい・・・麻琴は両奥歯を噛んだ。彼は復讐の鬼になりたいと思った。

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