つのが生えちゃった

はりもぐら

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つのが生えちゃった・1

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今日は成人式だ。外はまだ真っ暗だけど、そろそろ起きて美容院に行かなくてはならない。

私は分厚いカーディガンを羽織ると、一階に降りて行った。

「あら、ちゃんと起きたのね、えらい、えらい」

母さんは、台所で父さんのお弁当を作っている。

「別に普通でしょ」

私は気合が入っていると思われるのが癪で、ついそんな風に言った。

洗面所で顔を洗い、歯を磨いた。ボーっとしたまま髪をとかそうとブラシを入れると、何か違和感を感じた。

「あれ、たんこぶかな?」

夕べはお酒を飲んでないから、どこかで転んだとしても覚えているはずだ。

「おっかしいなー」

頭を撫でてみると、やっぱり膨らんでいる。それも、右と左の両方だ。

「うそっ、なにこれ」

私は髪をかき分けて鏡を覗き込んだ。そこには、たしかに角が生えていた。

「何してんのー、早く朝ごはん食べて美容院行かないと間に合わないわよ!」

母さんが台所で呼んでいる。

だけど、こんなものが生えていては美容院に行けるはずがない。

「や、やっぱ着物はやめて、ワンピースにしよっかなー」

「はあ?何言ってんのあんた。着物はもう借りてあるんだし、美容院だって予約してあるんだよ」

「それは、分かってるけど」

「分かってるんだったら、どうしてワンピース着るなんて馬鹿なこと言いだすんだい?」

「それは・・・」

頭に角が生えているなんて絶体に知られたくない。それが、たとえ母さんでもだ。

「何を朝から大声出してるんだ。目が覚めちゃったじゃないか」

父さんが起きて来た。

「だって、この子ったら、着物着ないで、ワンピースにするなんて言いだすんだもん」

「なんだよ、そんなことか。どっちでもいいじゃないか、着物でもワンピースでも。たいして変わりゃしない」

父さんは頭をボリボリと掻きながら言った。

「ひどい!ひどいよ、父さん」

別に着物が着たくないわけじゃなくて、ただ、角が生えちゃってるから、着れないだけなのに。

「それなら、着物を着たらいいじゃないか」

そう言われてしまうと言葉がない。

「そうよ、そんなに怒るんだったら、めんどくさがらないで大人しく着物着なさい」

「めんどくさがってるわけじゃないもん!」

私は理由が説明できないもどかしさと、本当は着物が着たいという気持ちが押し寄せてきて泣きそうになる。
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