シルバニアダンディー

はりもぐら

文字の大きさ
上 下
2 / 2

シルバニアダンディー・2

しおりを挟む
「なにこれ、父さん、これ違うよ」

私は天国から地獄へと一気に突き落とされた。

なぜなら、ドールハウスの中にいたのは小さくて可愛い動物ではなく、小さなおじさんだったからだ。

その日はショックのあまり二度とそのドールハウスに触れることは出来なかったけれど、ドールハウスという存在はやはり小学生の私にとっては魅力的だった。

だから、くやしいけれど二、三日後にはそのドールハウスを開いて中の小さなおじさんたちを取り出し、ちまちまと遊ぶようになっていた。

もちろん顔がおじさんだから、動物の人形のような可愛さはない。

だけど、一人一人顔が違うため、ごっこ遊びはちゃんと成立するし毎日遊んでいれば自然と愛着が湧いてくる。

そんなわけで、このドールハウスはすっかり私のお気に入りになり、本家の商品名をまねてシルバニアダンディーと名付けた。

ただし、いくら私のお気に入りになろうとも、友達には見せたことも話したこともない。私一人の秘密のおもちゃだったのだ。

しかし、その秘密が長い時を経てアキ子にバレてしまった。

「だけど、これよくできてるわねー」

アキ子は私の動揺には気づかないようで、すっかりおじさんドールハウスに夢中になっている。

「やだ、みんな顔が違うんだね、へぇー」

アキ子はいかにも感心した様子で、熱心におじさんの人形を手に取っている。

「もう、いいでしょ。ほら、片付けよう」

私がドールハウスを部屋の隅っこに押しやろうとするとアキ子が真剣な表情で私のことを見た。

「ねえ、ゆき子、このドールハウス私にちょうだい」

「ええっ?なんで、本気で言ってるの」

そう言ったものの、アキ子が冗談でそんなことを言うとは思えない。

しかし、その瞬間私の中に何かが芽生えた。

「やだ、あげない」

「え、だってこれ捨てるんでしょ」

「いや、やっぱ気が変わったから捨てない」

「はあ、なんでよ。さっきまでそんなこと言ってなかったのに」

「いいでしょ別に、私のなんだから」

二人の間に流れる空気がすっかりおかしなものになってしまった。

「なーんてね、冗談冗談!」

アキ子が笑ったので、私も無理やり笑った。

だけど私は見逃さなかった。

アキ子の眉がピクピクけいれんしているのを。

ごめんねアキ子。

やっぱり私はこのシルバニアダンディーとは一生離れられないよ。
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。


処理中です...