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6章 足りないのは我慢なのか適性なのか
26 〜この先のために メルヴィン
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ギルドでの仕事を終えて、夕暮れの街並みを家に向かって歩くオレの足取りは重い。
なぜならあいつが居ないから。
しかも今日は遅くなるか、帰って来ねえときた。
出勤するときも、帰宅するときも、あいつが隣に居ないとスースーする。
あいつの体温を覚えちまった身体が寒い。
「温めてやる」とか言った自分が恥ずかしい。
ぬくぬくと温めてもらっていたのはオレの方だった。
メシだってそうだ。
朝は特別なことがなけりゃあジェイデンと。
昼はギルドの食堂。
夜はジェイデンが不規則だから自宅で一人で食うことが多かった。
なのにあいつとジェイデンと三人で食卓を囲んでからは一人のメシが味気無い。
エンジェルスマイルが見えてくると、自然とオレの足は自宅じゃなく宿の方に向かって進む。
入口のドアを開け、居ないと分かっているのにあいつを探しちまう。
内心で溜め息を吐きつつ視線を巡らせると、ジェイデンとあいつのツレの魔道具師と大工が仲良く集まってワイワイやっていた。
「おかえりなさい、メルヴィン。」
「おかえりなさい、キティさん。」
「お疲れ様です、キティさん。」
「おう、帰ったぞ。あとお前らもメルヴィンて呼んでくれ。キティはもうヤメだ。」
オレに気付いたジェイデンに続いてフェイトとラースからも声がかかった。
ギルドでは誰もオレをキティとは言わねえから、久しぶりにその偽名?を聞いたが、改めて呼ばれるとキツい。
もうキティと呼べとは言わねえと宣言したが、本名を呼ばせる方向に転換しよう。
オレの中の何かが削られる。
「ふふっ、きょろきょろしちゃって。メルヴィン、あなたラースちゃんとおんなじことをするのね。残念だけどシオンはまだ帰ってないわ。」
バチっとラースと目が会うと、バツが悪そうに視線を逸らされた。
こいつもあいつに惚れてるもんな。
会いに来たのに不在ならがっかりするだろうし、あいつの恋人になったオレとジェイデンには気不味い思いも抱いてるかもしれねえしなあ…。
「それより何やってんだ、お前ら。」
「お弁当のおかずの試食をしてもらっているの。メルヴィンも味見して感想を聞かせてちょうだい。」
ジェイデンの言うとおりに端から食べていくがどれも美味い。
「どうかしら?」
「オレは大葉のつくねが好きだな。おろしポン酢で食いてえ。だが照り焼きも捨てがたい。」
「僕はシャリシャリした食感の蓮根のつくねとピリ辛の肉味噌が好きです。」
「俺は腹が膨れるスコッチエッグとチーズのつくね……いや、つくねは全部です。」
「まあ!ラースちゃんは健啖家ねえ!」
確かにつくねは甲乙つけ難い。
それに濃い目の味付けでエールが欲しくなる。
「ジェイデン、冷たいエールをくれ。」
「やっぱり油が多い挽き肉料理はエールが飲みたくなるわよね。ラースちゃんもかなり飲んでいるのよ。」
隣に座っている男の顔を窺っても大して飲んでいないように見える。
顔に出にくいか強いんだろう。
「そうですかね?でも飲ませてくださいよ、アンジェラさん。俺は勇気を振り絞ってここに来てんのにあいつは居ねえし。
俺が入り込む隙間なんか無いって分かってるんです。アンジェラさんとメルヴィンには敵わないことも。でも惚れちまったんです。横恋慕しててすみません。」
「そんなに悲観することないわよ。シオンだってラースちゃんのことは憎からず思っているはずよ。」
「良いんです、アンジェラさん。所詮俺はメルヴィンさんと兄貴キャラで被ってるし…っつーかむしろ下位互換だし、アンジェラさんは美味いメシまで作れるし、二人ほどイイ身体してないし、胸筋も…。フェイトだってあいつといろいろ作ったりして楽しそうにしてんのに…。
俺にできるのはあいつにイジられることくらいなんですよ。」
「………なかなかにキてんな。」
「キてるわね。」
「キてますね。」
酔いが、じゃなくて精神的に。
オレも料理に関してはチーズ削るだけだと思われてるかもしれんが。
「俺だけ違うとこに住んでるし…。ぶっちゃけあんたたちが羨ましくて仕方ないんです。俺の方が先にあいつと出会ったのに…。」
「僕の方が先です!」
「しっ!今はダメよフェイトちゃん。」
「いいえ!ここは譲りませんよ。」
フェイトは分からんが、ラースはそこまで酔ってねえと思う。
あいつが好きでどうしようもなくて、誰かに聞いて欲しかったんだろう。
それにしたってアレナド兄弟の恋人に横恋慕したなんてバカ正直なこと、なかなか言えねえぞ。
まあ、言われなくてもバレバレなんだけどな。
モテそうな見た目なのに随分と真っ直ぐな男だ。
「オレはお前が羨ましいけどな。」
「えっ!?どこがですか?」
「歳と体格。同年代の気安さはオレじゃあムリだし、あいつと同じくらいの身長だし、体重だってそんなに重く無いだろ?」
いつだって大人の余裕を見せていたいと思う。
ジイさんになってもキラキラした顔で「メルヴィン格好良い」って言われていたい。
だが10代のガキのようにあいつを求めてもいる。
熱に浮かされながら「俺のメルヴィン」と囁かれると際限なく欲しくなる。
最後は枯れ果てたオレが泣きをいれるんだけどな。
「あの、メルヴィンさん?俺、これでも85キロくらいありますよ?」
「あ゛?オレなんか110キロ以上あるぞ。十分軽いわ。
そのオレがあいつに覆い被さって思いっきり腰振ってみろ。どうなると思う?」
「………ベッドが壊れる?」
「その前にあいつがしんどいだろ!オレだってあいつをひんひん泣かせてえよ。なのに現実は……。はあぁ…情けねえ。」
雄っぱいのためにも減量はできねえし…。
それにあいつを受け入れながらだと、本当にあいつの上で腰を振ることになる。
最初は良いかもしれんがオレの足に力が入らなくなったら好きな男を潰しちまう。
「分かるわ、メルヴィン。それだけじゃなくて、シオンと愛し合っていると段々と何も考えられなくなって、ぎゅうぎゅう抱きしめて傷つけてしまうのよね。わたしも申し訳なく思っているの……。」
「ってことであいつに負担にならないやり方とかねえか?他にもやられて滾ったり燃え立ったこと教えてくれよ。お前なら経験豊富だろ?」
オレらと違ってちゃんとしたセックスしてそうだからな。
オレは突っ込んだ穴の数が多いだけだし、こういうときジェイデンは戦力外だ。
なぜならあいつが居ないから。
しかも今日は遅くなるか、帰って来ねえときた。
出勤するときも、帰宅するときも、あいつが隣に居ないとスースーする。
あいつの体温を覚えちまった身体が寒い。
「温めてやる」とか言った自分が恥ずかしい。
ぬくぬくと温めてもらっていたのはオレの方だった。
メシだってそうだ。
朝は特別なことがなけりゃあジェイデンと。
昼はギルドの食堂。
夜はジェイデンが不規則だから自宅で一人で食うことが多かった。
なのにあいつとジェイデンと三人で食卓を囲んでからは一人のメシが味気無い。
エンジェルスマイルが見えてくると、自然とオレの足は自宅じゃなく宿の方に向かって進む。
入口のドアを開け、居ないと分かっているのにあいつを探しちまう。
内心で溜め息を吐きつつ視線を巡らせると、ジェイデンとあいつのツレの魔道具師と大工が仲良く集まってワイワイやっていた。
「おかえりなさい、メルヴィン。」
「おかえりなさい、キティさん。」
「お疲れ様です、キティさん。」
「おう、帰ったぞ。あとお前らもメルヴィンて呼んでくれ。キティはもうヤメだ。」
オレに気付いたジェイデンに続いてフェイトとラースからも声がかかった。
ギルドでは誰もオレをキティとは言わねえから、久しぶりにその偽名?を聞いたが、改めて呼ばれるとキツい。
もうキティと呼べとは言わねえと宣言したが、本名を呼ばせる方向に転換しよう。
オレの中の何かが削られる。
「ふふっ、きょろきょろしちゃって。メルヴィン、あなたラースちゃんとおんなじことをするのね。残念だけどシオンはまだ帰ってないわ。」
バチっとラースと目が会うと、バツが悪そうに視線を逸らされた。
こいつもあいつに惚れてるもんな。
会いに来たのに不在ならがっかりするだろうし、あいつの恋人になったオレとジェイデンには気不味い思いも抱いてるかもしれねえしなあ…。
「それより何やってんだ、お前ら。」
「お弁当のおかずの試食をしてもらっているの。メルヴィンも味見して感想を聞かせてちょうだい。」
ジェイデンの言うとおりに端から食べていくがどれも美味い。
「どうかしら?」
「オレは大葉のつくねが好きだな。おろしポン酢で食いてえ。だが照り焼きも捨てがたい。」
「僕はシャリシャリした食感の蓮根のつくねとピリ辛の肉味噌が好きです。」
「俺は腹が膨れるスコッチエッグとチーズのつくね……いや、つくねは全部です。」
「まあ!ラースちゃんは健啖家ねえ!」
確かにつくねは甲乙つけ難い。
それに濃い目の味付けでエールが欲しくなる。
「ジェイデン、冷たいエールをくれ。」
「やっぱり油が多い挽き肉料理はエールが飲みたくなるわよね。ラースちゃんもかなり飲んでいるのよ。」
隣に座っている男の顔を窺っても大して飲んでいないように見える。
顔に出にくいか強いんだろう。
「そうですかね?でも飲ませてくださいよ、アンジェラさん。俺は勇気を振り絞ってここに来てんのにあいつは居ねえし。
俺が入り込む隙間なんか無いって分かってるんです。アンジェラさんとメルヴィンには敵わないことも。でも惚れちまったんです。横恋慕しててすみません。」
「そんなに悲観することないわよ。シオンだってラースちゃんのことは憎からず思っているはずよ。」
「良いんです、アンジェラさん。所詮俺はメルヴィンさんと兄貴キャラで被ってるし…っつーかむしろ下位互換だし、アンジェラさんは美味いメシまで作れるし、二人ほどイイ身体してないし、胸筋も…。フェイトだってあいつといろいろ作ったりして楽しそうにしてんのに…。
俺にできるのはあいつにイジられることくらいなんですよ。」
「………なかなかにキてんな。」
「キてるわね。」
「キてますね。」
酔いが、じゃなくて精神的に。
オレも料理に関してはチーズ削るだけだと思われてるかもしれんが。
「俺だけ違うとこに住んでるし…。ぶっちゃけあんたたちが羨ましくて仕方ないんです。俺の方が先にあいつと出会ったのに…。」
「僕の方が先です!」
「しっ!今はダメよフェイトちゃん。」
「いいえ!ここは譲りませんよ。」
フェイトは分からんが、ラースはそこまで酔ってねえと思う。
あいつが好きでどうしようもなくて、誰かに聞いて欲しかったんだろう。
それにしたってアレナド兄弟の恋人に横恋慕したなんてバカ正直なこと、なかなか言えねえぞ。
まあ、言われなくてもバレバレなんだけどな。
モテそうな見た目なのに随分と真っ直ぐな男だ。
「オレはお前が羨ましいけどな。」
「えっ!?どこがですか?」
「歳と体格。同年代の気安さはオレじゃあムリだし、あいつと同じくらいの身長だし、体重だってそんなに重く無いだろ?」
いつだって大人の余裕を見せていたいと思う。
ジイさんになってもキラキラした顔で「メルヴィン格好良い」って言われていたい。
だが10代のガキのようにあいつを求めてもいる。
熱に浮かされながら「俺のメルヴィン」と囁かれると際限なく欲しくなる。
最後は枯れ果てたオレが泣きをいれるんだけどな。
「あの、メルヴィンさん?俺、これでも85キロくらいありますよ?」
「あ゛?オレなんか110キロ以上あるぞ。十分軽いわ。
そのオレがあいつに覆い被さって思いっきり腰振ってみろ。どうなると思う?」
「………ベッドが壊れる?」
「その前にあいつがしんどいだろ!オレだってあいつをひんひん泣かせてえよ。なのに現実は……。はあぁ…情けねえ。」
雄っぱいのためにも減量はできねえし…。
それにあいつを受け入れながらだと、本当にあいつの上で腰を振ることになる。
最初は良いかもしれんがオレの足に力が入らなくなったら好きな男を潰しちまう。
「分かるわ、メルヴィン。それだけじゃなくて、シオンと愛し合っていると段々と何も考えられなくなって、ぎゅうぎゅう抱きしめて傷つけてしまうのよね。わたしも申し訳なく思っているの……。」
「ってことであいつに負担にならないやり方とかねえか?他にもやられて滾ったり燃え立ったこと教えてくれよ。お前なら経験豊富だろ?」
オレらと違ってちゃんとしたセックスしてそうだからな。
オレは突っ込んだ穴の数が多いだけだし、こういうときジェイデンは戦力外だ。
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