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6章 足りないのは我慢なのか適性なのか
25 〜胃袋を掴みたい! ジェイデン
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「どうしたんだ、オーナー。そんならしくないミスなんかして。」
料理長の言葉が耳に痛いです。
「ごめんなさい、……その、シオンのことを考えていたの。これ、どうにかできるかしら?」
「じゃあ仕方ないか。ふむ、オーナーの捏ねた挽き肉は肉団子にしよう。ってことでやり直しだな。」
おずおずと差し出した挽き肉は料理長の手によって団子状になっていきます。
今度こそ旦那様の妄想をしないように注意しながら挽き肉を捏ねていきます。
しかし旦那様のための料理中に、旦那様のことを考えないようにするのは思いの外難しいです。
どうしても旦那様のことを考えてしまいます。
四苦八苦していると料理長の視線を感じました。
「どうしたの?何かいけないことをしてしまったかしら?」
「いやな、そうやってるとオーナーも俺らと変わらないなと思ってな。」
それはわたしが凡夫だと気付いたということでしょうか?
もともとわたしには特に秀でた才能はありません。
騎士を目指していたときも、ハンターになってからも、相応の努力はしてきましたが。
「俺は…俺たちは嬉しいんだよ。シオンがオーナーとメルヴィンさんに惚れてくれて。恋に浮かれる二人が見られて。それだって一人だけ紫だし、特別なんだろ?」
挽き肉の油で艶々な指で紫のグラジオラスを指されると顔に熱が集まります。
「何て言って渡されたんだ?」
「………シオンが贈る紫は特別だって。花言葉は情熱的な恋、だって。」
「そりゃあ良かったな。オーナー、俺ら従業員は大なり小なりオーナーに恩がある。だけどな、そんなの関係無しにオーナーには幸せになってもらいたいって思ってるんだ。皆んなあんたって人のことが好きだからな…。」
最後は顔を背けて小さな声で言われたけれど、しっかり聞こえました。
旦那様のおっしゃったとおりでした。
アンジェラでも愛されているって。
すごくすごく嬉しいです。
「あっ!オーナー、肉に手ぇ突っ込んだまま止まってると手の熱で油が融けてパサパサになるぞ!」
滲みかけた涙も引っ込むツッコミです。
こんなときでも的確な注意をしてくれる料理長に感謝しながらタネを四つに別けて、それぞれに軟骨、大葉、蓮根、チーズを加えて混ぜて成形していきます。
料理長はすでに肉団子を油で揚げはじめていて、とてもいい匂いがしてきました。
「料理長…あの、ありがとう。」
何に対してだとは聞かず、ただ頷いてくれた料理長に感謝しつつ、無事に料理を完成させました。
出来上がった挽き肉料理を試食しているとフェイトくんがやって来ました。
時計を見ればそれなりに時間が経っています。
彼は早めの夕食でしょうか。
「わぁ、いい匂いですね~。お腹空いちゃいます。」
「ねえフェイトちゃん、よかったら試食してくれない?感想を聞かせてほしいの。」
「喜んで!さっそくいただきますね!」
もぐもぐとつくねを頬張るフェイトくんがリスのようで可愛いらしい。
彼は平均的な身長ながら、手足が長くスラリとしていて、優しく整った容貌をしています。
旦那様と出会う前なら羨ましくて、こんなに穏やかな心で見守ることはできなかったことでしょう。
「どの味付けも美味しいです!少し冷めているけどその分味が馴染んでいますね。この茶色いタレはお醤油ですか?甘じょっぱくて、パンよりもパオとかふかふかに蒸した主食が食べたくなっちゃいました。新メニューですか?」
「パオか。なら角煮も良いな…。じゃあ醤油を追加で仕入れないと」という料理長の呟きを聞きつつフェイトくんの質問に答えます。
「ふふ、シオンのお弁当に入れるおかずの試作なのよ。だから冷めても美味しいっていう感想は嬉しいわ。」
「わあ、お二人はまだまだアツアツですね。でもシオンさんは時間停止のマジックバッグを持ってますよね。それでもお弁当は冷めることが前提なんですか?」
「そのシオンのマジックバッグに入れるまでに冷めちゃうのよね。料理を作る度にマジックバッグを借りるわけにはいかないし。」
「あの、アンジェラさん…ちょっと良いですか?」
遠慮がちに近寄って、フェイトくんはこっそりととんでもないことをわたしの耳元で囁きました。
「時間停止のマジックバッグ、シオンさんが作れますよ。素材があれば、多分僕も。」
ポカンとしたわたしに追い討ちをかけるように説明されます。
「シオンさんのマジックバッグって、何もない次元にアクセスして魔力で満たした空間を作って収納しているんですよ。元が何も存在しないから時間の経過もなくて、収納した物の時間が停止しているんじゃないかと予想しています。
既存の物は見たこと無いのですが、おそらく魔力で空間を拡げているから時間を停止させるのが難しいと思うんです。それに時間を停止させるための魔力を補充しなければ普通のマジックバッグになるんじゃないかなって。」
「えっと、それってかなりの発見なんじゃ……。」
「そうなんですよ。なのでレシピ登録もシオンさんに相談してからにしようと考えてます。最低でもシオンさんがAランクになった後ですね。」
「とんでもないわね、あなたたち。ねえフェイトちゃん、危なくなりそうになったら迷わずわたしの名前を出してちょうだいね。あなたに何かあったらシオンが悲しむわ。きっとメルヴィンも同じことを言うと思うの。」
旦那様の友人である以上に、わたしにとっては旦那様をエンジェルスマイルに導いてくれた恩人です。
そのフェイトくんをわたしの名前で守れるなら安いものでしょう。
「アンジェラさん…。ありがとうございます。いざというときはシオンさんのためにもお名前をお借りしますね。その代わり僕にできることでお返しさせてください。」
「ええ、そのときはよろしくね。」
そんな約束をしていると入口のドアが開き、ラースくんがやって来ました。
フェイトくんを見つけて、隣に座る間も周囲を見回しています。
十中八九、旦那様を探しているのでしょうが、残念ながら旦那様は不在です。
ラースくんにそれを伝えると、何でもないように装っていますが寂しそうです。
彼もなんと難儀な人でしょうか、萎れていく姿を見ていると可哀想になってきます。
「ラースちゃん、良かったあなたも試食してくれない?感想聞かせてくれたらお酒も飲み放題よ。もちろんフェイトちゃんもね。」
つくねを食べてお酒を飲んで元気になって帰ってくださいね。
料理長の言葉が耳に痛いです。
「ごめんなさい、……その、シオンのことを考えていたの。これ、どうにかできるかしら?」
「じゃあ仕方ないか。ふむ、オーナーの捏ねた挽き肉は肉団子にしよう。ってことでやり直しだな。」
おずおずと差し出した挽き肉は料理長の手によって団子状になっていきます。
今度こそ旦那様の妄想をしないように注意しながら挽き肉を捏ねていきます。
しかし旦那様のための料理中に、旦那様のことを考えないようにするのは思いの外難しいです。
どうしても旦那様のことを考えてしまいます。
四苦八苦していると料理長の視線を感じました。
「どうしたの?何かいけないことをしてしまったかしら?」
「いやな、そうやってるとオーナーも俺らと変わらないなと思ってな。」
それはわたしが凡夫だと気付いたということでしょうか?
もともとわたしには特に秀でた才能はありません。
騎士を目指していたときも、ハンターになってからも、相応の努力はしてきましたが。
「俺は…俺たちは嬉しいんだよ。シオンがオーナーとメルヴィンさんに惚れてくれて。恋に浮かれる二人が見られて。それだって一人だけ紫だし、特別なんだろ?」
挽き肉の油で艶々な指で紫のグラジオラスを指されると顔に熱が集まります。
「何て言って渡されたんだ?」
「………シオンが贈る紫は特別だって。花言葉は情熱的な恋、だって。」
「そりゃあ良かったな。オーナー、俺ら従業員は大なり小なりオーナーに恩がある。だけどな、そんなの関係無しにオーナーには幸せになってもらいたいって思ってるんだ。皆んなあんたって人のことが好きだからな…。」
最後は顔を背けて小さな声で言われたけれど、しっかり聞こえました。
旦那様のおっしゃったとおりでした。
アンジェラでも愛されているって。
すごくすごく嬉しいです。
「あっ!オーナー、肉に手ぇ突っ込んだまま止まってると手の熱で油が融けてパサパサになるぞ!」
滲みかけた涙も引っ込むツッコミです。
こんなときでも的確な注意をしてくれる料理長に感謝しながらタネを四つに別けて、それぞれに軟骨、大葉、蓮根、チーズを加えて混ぜて成形していきます。
料理長はすでに肉団子を油で揚げはじめていて、とてもいい匂いがしてきました。
「料理長…あの、ありがとう。」
何に対してだとは聞かず、ただ頷いてくれた料理長に感謝しつつ、無事に料理を完成させました。
出来上がった挽き肉料理を試食しているとフェイトくんがやって来ました。
時計を見ればそれなりに時間が経っています。
彼は早めの夕食でしょうか。
「わぁ、いい匂いですね~。お腹空いちゃいます。」
「ねえフェイトちゃん、よかったら試食してくれない?感想を聞かせてほしいの。」
「喜んで!さっそくいただきますね!」
もぐもぐとつくねを頬張るフェイトくんがリスのようで可愛いらしい。
彼は平均的な身長ながら、手足が長くスラリとしていて、優しく整った容貌をしています。
旦那様と出会う前なら羨ましくて、こんなに穏やかな心で見守ることはできなかったことでしょう。
「どの味付けも美味しいです!少し冷めているけどその分味が馴染んでいますね。この茶色いタレはお醤油ですか?甘じょっぱくて、パンよりもパオとかふかふかに蒸した主食が食べたくなっちゃいました。新メニューですか?」
「パオか。なら角煮も良いな…。じゃあ醤油を追加で仕入れないと」という料理長の呟きを聞きつつフェイトくんの質問に答えます。
「ふふ、シオンのお弁当に入れるおかずの試作なのよ。だから冷めても美味しいっていう感想は嬉しいわ。」
「わあ、お二人はまだまだアツアツですね。でもシオンさんは時間停止のマジックバッグを持ってますよね。それでもお弁当は冷めることが前提なんですか?」
「そのシオンのマジックバッグに入れるまでに冷めちゃうのよね。料理を作る度にマジックバッグを借りるわけにはいかないし。」
「あの、アンジェラさん…ちょっと良いですか?」
遠慮がちに近寄って、フェイトくんはこっそりととんでもないことをわたしの耳元で囁きました。
「時間停止のマジックバッグ、シオンさんが作れますよ。素材があれば、多分僕も。」
ポカンとしたわたしに追い討ちをかけるように説明されます。
「シオンさんのマジックバッグって、何もない次元にアクセスして魔力で満たした空間を作って収納しているんですよ。元が何も存在しないから時間の経過もなくて、収納した物の時間が停止しているんじゃないかと予想しています。
既存の物は見たこと無いのですが、おそらく魔力で空間を拡げているから時間を停止させるのが難しいと思うんです。それに時間を停止させるための魔力を補充しなければ普通のマジックバッグになるんじゃないかなって。」
「えっと、それってかなりの発見なんじゃ……。」
「そうなんですよ。なのでレシピ登録もシオンさんに相談してからにしようと考えてます。最低でもシオンさんがAランクになった後ですね。」
「とんでもないわね、あなたたち。ねえフェイトちゃん、危なくなりそうになったら迷わずわたしの名前を出してちょうだいね。あなたに何かあったらシオンが悲しむわ。きっとメルヴィンも同じことを言うと思うの。」
旦那様の友人である以上に、わたしにとっては旦那様をエンジェルスマイルに導いてくれた恩人です。
そのフェイトくんをわたしの名前で守れるなら安いものでしょう。
「アンジェラさん…。ありがとうございます。いざというときはシオンさんのためにもお名前をお借りしますね。その代わり僕にできることでお返しさせてください。」
「ええ、そのときはよろしくね。」
そんな約束をしていると入口のドアが開き、ラースくんがやって来ました。
フェイトくんを見つけて、隣に座る間も周囲を見回しています。
十中八九、旦那様を探しているのでしょうが、残念ながら旦那様は不在です。
ラースくんにそれを伝えると、何でもないように装っていますが寂しそうです。
彼もなんと難儀な人でしょうか、萎れていく姿を見ていると可哀想になってきます。
「ラースちゃん、良かったあなたも試食してくれない?感想聞かせてくれたらお酒も飲み放題よ。もちろんフェイトちゃんもね。」
つくねを食べてお酒を飲んで元気になって帰ってくださいね。
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