ダメな方の異世界召喚された俺は、それでも風呂と伴侶を愛してる

おりく

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6章 足りないのは我慢なのか適性なのか

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煉瓦ブロックで試行錯誤しているとオグデン伯爵を宙に浮かせて運んだことを思い出した。
ロバートさんも針や布地を浮かせていたし、俺も…とやってみるとブロックを浮かせることはできた。

だがコレじゃなかった…。
俺のイメージで言うと《フロート》と《グラビティ》の違いか?
何より浮いていたらメルヴィンが自発的に動けない。

魔法はイメージが大事だと言われた。
《フロート》だと、何を、どこに、どのように浮かべるか、目で見て決められるから分かりやすいが、《グラビティ》はそうじゃないから難しいのだろうか?
俺の上で頑張るメルヴィンを鑑賞するためなら妥協せずに頑張れるが、上手く制御できるようになるまでの代替案も考えなくては。

うんうん唸っていると久しぶりに「昼飯奢りに来たぞ」とラースがやって来た。
なんだかんだ律儀な男だ。

わざわざ誘ってくれたので、ラースおすすめの食堂で昼食をとる。
ジェイデンのレストランよりも雑多な感じで、下町の大衆食堂みたいだ。

ラースの顔見知りもチラホラいるようで声をかけてくる人もいる。
真っ黒な髪はあまり見ないので皆んな俺の顔を覗いていくが、その度に「今晩どうだ?」と誘われた。
アレナド兄弟と一緒だとそんなことを言ってくるやつはいないから、ナンパされるのは久しぶりだ。
ラースという連れがいるのに俺を誘うのはどうなんだ…とも思ったが、俺とラースの距離が恋人のそれじゃないから仕方ない。

そんなラースだが、「こいつはアレナド兄弟とデキてるから諦めろ」と言って、俺の代わりに誘いを断ってくれた。
やはり律儀…いや、いい男だ。

ちなみに料理は生野菜が少なくて芋が多かったが、ボリュームがあって美味しかった。
グリルチキン、ポークソテー、ビーフステーキ、大きなソーセージが盛り合わせてあったメインの皿は、ある意味見事だった。
俺が太いソーセージを口に含んだときの周囲の反応は察してくれ。
しかし油でツヤツヤになった唇って何であんなにエロく見えるんだろうな…。

それよりも大事なことがある。
ラースは大工だし分かるだろうか。
いや、この間まで風呂に入ったことなかったしどうだろう…。
そんなことを考えながもら聞いてみた。

「なあラース、バスタブっていくらくらいするか知ってるか?」

そう、重力魔法以外で身体を軽くするなら浮力が働く水中でヤればいい。
簡易ジャグジーやビニールプールは、二人分の体重がかかったらきっとひっくり返ってしまう。
縁だって所詮はビニール…、掴まれば歪んで水が漏れる。
掴むのはメルヴィンだし、どう考えても破けるだろう。

だから重力魔法習得までの繋ぎにバスタブが欲しい。

自分で作れば良いかもしれないが、物は作れても俺にはセンスが足りない。
メルヴィンと俺が二人で入れてある程度動ける、しかも水の溢れ難いバスタブなんて作れない。
入浴できる鉄道車両が走る国の出身者として情けないが、猫足バスタブなんて見た事ないし…。
というか、相当な大きさになるだろうし、猫足では重量を支えられないかも。

「バスタブっつてもピンキリだから、ある程度条件を教えてくれ。」

「大きさは大柄な成人男性が二人で入れて余裕があるくらい、材質は陶器がいいかな?」

金属は頑丈だけど、すぐに冷めるし。
ああ…でも保温機能を付与すれば関係ないか。

「成人男性二人って、お前……。」

ナニをするためのバスタブか気付いたのだろう、ラースがジト目で見てくるが気にしない。

「はあぁ…、まあいいだろう。一般的な物は大銀貨3枚(30万円)くらいだが、特注品となると値段は跳ね上がるからな。大銀貨8枚は覚悟しろ。」

「ってことは、もっとかかるかもしれないのか。繋ぎにそこまでかけるのは勿体ないな……。ありがとう、ラース。参考になった。
それよりもバスタブの値段なんて良く知ってるな。この国では馴染みのない物なんだろう?」

「ああ、それな。この前お前と風呂に入ったとき、その良さを体感したから調べたんだ。いつか俺も自宅に風呂が欲しくなってな。」

「そうか。俺も風呂好きの仲間が増えて嬉しい。簡易ジャグジーで良ければ使うか?タダだと気になるなら対価にまたメシを奢ってくれればいい。」

メルヴィンとジェイデンとの風呂も良いが、ラースやフェイトのような友人との風呂も楽しかった。
風呂に入りたいと言ってくれたらジェイデンの許可をもらって宿の中庭に用意するが、ラースは遠慮しそうだ。

「いや、お前の申し出は嬉しいし、本心では欲しい。だがお前と違って俺は大量の水を確保するのが難しいからな。今回は気持ちだけ受け取るぜ。」

「分かった。水問題解消の目処が立ったら言ってくれ。」

「ありがとな、シオン。」

その後も少し雑談をしたが、前回会ったときに渡したローションの感想は聞けなかった。
ラースが言わないことは俺も聞かないことにした。

別れ際、隠しきれない切なさや寂しさが滲む表情かおでラースは仕事に向かっていった。
そんな顔をするくらいなら、俺に声をかけてきたやつらに「俺もこいつを狙ってるから手を出すな」くらい言ってくれても良いのに。

ラースにはラースの考えがある。
そう思いながら『エンジェルスマイル』に戻った。
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