163 / 170
6章 足りないのは我慢なのか適性なのか
20
しおりを挟む
煉瓦ブロックで試行錯誤しているとオグデン伯爵を宙に浮かせて運んだことを思い出した。
ロバートさんも針や布地を浮かせていたし、俺も…とやってみるとブロックを浮かせることはできた。
だがコレじゃなかった…。
俺のイメージで言うと《フロート》と《グラビティ》の違いか?
何より浮いていたらメルヴィンが自発的に動けない。
魔法はイメージが大事だと言われた。
《フロート》だと、何を、どこに、どのように浮かべるか、目で見て決められるから分かりやすいが、《グラビティ》はそうじゃないから難しいのだろうか?
俺の上で頑張るメルヴィンを鑑賞するためなら妥協せずに頑張れるが、上手く制御できるようになるまでの代替案も考えなくては。
うんうん唸っていると久しぶりに「昼飯奢りに来たぞ」とラースがやって来た。
なんだかんだ律儀な男だ。
わざわざ誘ってくれたので、ラースおすすめの食堂で昼食をとる。
ジェイデンのレストランよりも雑多な感じで、下町の大衆食堂みたいだ。
ラースの顔見知りもチラホラいるようで声をかけてくる人もいる。
真っ黒な髪はあまり見ないので皆んな俺の顔を覗いていくが、その度に「今晩どうだ?」と誘われた。
アレナド兄弟と一緒だとそんなことを言ってくるやつはいないから、ナンパされるのは久しぶりだ。
ラースという連れがいるのに俺を誘うのはどうなんだ…とも思ったが、俺とラースの距離が恋人のそれじゃないから仕方ない。
そんなラースだが、「こいつはあのアレナド兄弟とデキてるから諦めろ」と言って、俺の代わりに誘いを断ってくれた。
やはり律儀…いや、いい男だ。
ちなみに料理は生野菜が少なくて芋が多かったが、ボリュームがあって美味しかった。
グリルチキン、ポークソテー、ビーフステーキ、大きなソーセージが盛り合わせてあったメインの皿は、ある意味見事だった。
俺が太いソーセージを口に含んだときの周囲の反応は察してくれ。
しかし油でツヤツヤになった唇って何であんなにエロく見えるんだろうな…。
それよりも大事なことがある。
ラースは大工だし分かるだろうか。
いや、この間まで風呂に入ったことなかったしどうだろう…。
そんなことを考えながもら聞いてみた。
「なあラース、バスタブっていくらくらいするか知ってるか?」
そう、重力魔法以外で身体を軽くするなら浮力が働く水中でヤればいい。
簡易ジャグジーやビニールプールは、二人分の体重がかかったらきっとひっくり返ってしまう。
縁だって所詮はビニール…、掴まれば歪んで水が漏れる。
掴むのはメルヴィンだし、どう考えても破けるだろう。
だから重力魔法習得までの繋ぎにバスタブが欲しい。
自分で作れば良いかもしれないが、物は作れても俺にはセンスが足りない。
メルヴィンと俺が二人で入れてある程度動ける、しかも水の溢れ難いバスタブなんて作れない。
入浴できる鉄道車両が走る国の出身者として情けないが、猫足バスタブなんて見た事ないし…。
というか、相当な大きさになるだろうし、猫足では重量を支えられないかも。
「バスタブっつてもピンキリだから、ある程度条件を教えてくれ。」
「大きさは大柄な成人男性が二人で入れて余裕があるくらい、材質は陶器がいいかな?」
金属は頑丈だけど、すぐに冷めるし。
ああ…でも保温機能を付与すれば関係ないか。
「成人男性二人って、お前……。」
ナニをするためのバスタブか気付いたのだろう、ラースがジト目で見てくるが気にしない。
「はあぁ…、まあいいだろう。一般的な物は大銀貨3枚(30万円)くらいだが、特注品となると値段は跳ね上がるからな。大銀貨8枚は覚悟しろ。」
「ってことは、もっとかかるかもしれないのか。繋ぎにそこまでかけるのは勿体ないな……。ありがとう、ラース。参考になった。
それよりもバスタブの値段なんて良く知ってるな。この国では馴染みのない物なんだろう?」
「ああ、それな。この前お前と風呂に入ったとき、その良さを体感したから調べたんだ。いつか俺も自宅に風呂が欲しくなってな。」
「そうか。俺も風呂好きの仲間が増えて嬉しい。簡易ジャグジーで良ければ使うか?タダだと気になるなら対価にまたメシを奢ってくれればいい。」
メルヴィンとジェイデンとの風呂も良いが、ラースやフェイトのような友人との風呂も楽しかった。
風呂に入りたいと言ってくれたらジェイデンの許可をもらって宿の中庭に用意するが、ラースは遠慮しそうだ。
「いや、お前の申し出は嬉しいし、本心では欲しい。だがお前と違って俺は大量の水を確保するのが難しいからな。今回は気持ちだけ受け取るぜ。」
「分かった。水問題解消の目処が立ったら言ってくれ。」
「ありがとな、シオン。」
その後も少し雑談をしたが、前回会ったときに渡したローションの感想は聞けなかった。
ラースが言わないことは俺も聞かないことにした。
別れ際、隠しきれない切なさや寂しさが滲む表情でラースは仕事に向かっていった。
そんな顔をするくらいなら、俺に声をかけてきたやつらに「俺もこいつを狙ってるから手を出すな」くらい言ってくれても良いのに。
ラースにはラースの考えがある。
そう思いながら『エンジェルスマイル』に戻った。
ロバートさんも針や布地を浮かせていたし、俺も…とやってみるとブロックを浮かせることはできた。
だがコレじゃなかった…。
俺のイメージで言うと《フロート》と《グラビティ》の違いか?
何より浮いていたらメルヴィンが自発的に動けない。
魔法はイメージが大事だと言われた。
《フロート》だと、何を、どこに、どのように浮かべるか、目で見て決められるから分かりやすいが、《グラビティ》はそうじゃないから難しいのだろうか?
俺の上で頑張るメルヴィンを鑑賞するためなら妥協せずに頑張れるが、上手く制御できるようになるまでの代替案も考えなくては。
うんうん唸っていると久しぶりに「昼飯奢りに来たぞ」とラースがやって来た。
なんだかんだ律儀な男だ。
わざわざ誘ってくれたので、ラースおすすめの食堂で昼食をとる。
ジェイデンのレストランよりも雑多な感じで、下町の大衆食堂みたいだ。
ラースの顔見知りもチラホラいるようで声をかけてくる人もいる。
真っ黒な髪はあまり見ないので皆んな俺の顔を覗いていくが、その度に「今晩どうだ?」と誘われた。
アレナド兄弟と一緒だとそんなことを言ってくるやつはいないから、ナンパされるのは久しぶりだ。
ラースという連れがいるのに俺を誘うのはどうなんだ…とも思ったが、俺とラースの距離が恋人のそれじゃないから仕方ない。
そんなラースだが、「こいつはあのアレナド兄弟とデキてるから諦めろ」と言って、俺の代わりに誘いを断ってくれた。
やはり律儀…いや、いい男だ。
ちなみに料理は生野菜が少なくて芋が多かったが、ボリュームがあって美味しかった。
グリルチキン、ポークソテー、ビーフステーキ、大きなソーセージが盛り合わせてあったメインの皿は、ある意味見事だった。
俺が太いソーセージを口に含んだときの周囲の反応は察してくれ。
しかし油でツヤツヤになった唇って何であんなにエロく見えるんだろうな…。
それよりも大事なことがある。
ラースは大工だし分かるだろうか。
いや、この間まで風呂に入ったことなかったしどうだろう…。
そんなことを考えながもら聞いてみた。
「なあラース、バスタブっていくらくらいするか知ってるか?」
そう、重力魔法以外で身体を軽くするなら浮力が働く水中でヤればいい。
簡易ジャグジーやビニールプールは、二人分の体重がかかったらきっとひっくり返ってしまう。
縁だって所詮はビニール…、掴まれば歪んで水が漏れる。
掴むのはメルヴィンだし、どう考えても破けるだろう。
だから重力魔法習得までの繋ぎにバスタブが欲しい。
自分で作れば良いかもしれないが、物は作れても俺にはセンスが足りない。
メルヴィンと俺が二人で入れてある程度動ける、しかも水の溢れ難いバスタブなんて作れない。
入浴できる鉄道車両が走る国の出身者として情けないが、猫足バスタブなんて見た事ないし…。
というか、相当な大きさになるだろうし、猫足では重量を支えられないかも。
「バスタブっつてもピンキリだから、ある程度条件を教えてくれ。」
「大きさは大柄な成人男性が二人で入れて余裕があるくらい、材質は陶器がいいかな?」
金属は頑丈だけど、すぐに冷めるし。
ああ…でも保温機能を付与すれば関係ないか。
「成人男性二人って、お前……。」
ナニをするためのバスタブか気付いたのだろう、ラースがジト目で見てくるが気にしない。
「はあぁ…、まあいいだろう。一般的な物は大銀貨3枚(30万円)くらいだが、特注品となると値段は跳ね上がるからな。大銀貨8枚は覚悟しろ。」
「ってことは、もっとかかるかもしれないのか。繋ぎにそこまでかけるのは勿体ないな……。ありがとう、ラース。参考になった。
それよりもバスタブの値段なんて良く知ってるな。この国では馴染みのない物なんだろう?」
「ああ、それな。この前お前と風呂に入ったとき、その良さを体感したから調べたんだ。いつか俺も自宅に風呂が欲しくなってな。」
「そうか。俺も風呂好きの仲間が増えて嬉しい。簡易ジャグジーで良ければ使うか?タダだと気になるなら対価にまたメシを奢ってくれればいい。」
メルヴィンとジェイデンとの風呂も良いが、ラースやフェイトのような友人との風呂も楽しかった。
風呂に入りたいと言ってくれたらジェイデンの許可をもらって宿の中庭に用意するが、ラースは遠慮しそうだ。
「いや、お前の申し出は嬉しいし、本心では欲しい。だがお前と違って俺は大量の水を確保するのが難しいからな。今回は気持ちだけ受け取るぜ。」
「分かった。水問題解消の目処が立ったら言ってくれ。」
「ありがとな、シオン。」
その後も少し雑談をしたが、前回会ったときに渡したローションの感想は聞けなかった。
ラースが言わないことは俺も聞かないことにした。
別れ際、隠しきれない切なさや寂しさが滲む表情でラースは仕事に向かっていった。
そんな顔をするくらいなら、俺に声をかけてきたやつらに「俺もこいつを狙ってるから手を出すな」くらい言ってくれても良いのに。
ラースにはラースの考えがある。
そう思いながら『エンジェルスマイル』に戻った。
0
お気に入りに追加
547
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。

ある少年の体調不良について
雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。
BLもしくはブロマンス小説。
体調不良描写があります。

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~
くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】
その攻撃、収納する――――ッ!
【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。
理由は、マジックバッグを手に入れたから。
マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。
これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる