上 下
153 / 170
6章 足りないのは我慢なのか適性なのか

13

しおりを挟む
「おはよう、ハンクさん。今日の朝食は何かな?」

「おう、シオンか。戻って来たんだな。今朝はピタパンサンドだ。三人分で良いのか?」

「うん、お願い。あと俺が留守の間、ジェイデンはどうだった?」

久しぶりのハンクさんに挨拶をして、朝食の出来上がりを待つ時間にジェイデンの様子を教えてもらう。

「オーナーか。まあ、最初は寂しそうにしてただけだったんだがなぁ…。」

どうやら俺に弁当を持たせて、笑顔で送り出してくれた後は随分と萎れていたらしい。
護衛依頼で訪れた町で他の依頼を受けることも、ニコルたちが堅実なパーティであること知っているが、ふとした瞬間に肩を落としていたという。

そんななかでも俺が帰って来たときのメニューをハンクさんと相談したり、フェイトに依頼して保温機能付きのフードキャリーを準備してくれていたそうだ。

とても嬉しいが、ジェイデンの尽くす妻っぷりがすごい。

そして一昨日、時間を作ってハンターギルドへ出かけて行ったときには機嫌良さそうだった。
だがギルドから帰って来てからはどう見ても普通じゃなかった。
その物証が俺の目の前にある。

「コレを見れば分かるだろ?いつもどおり仕事しようとしてたが、どう見ても辛そうでな…。何かを耐えるようにしてて、その度にオーナーの手の中で食器が砕けてカトラリーはこうなった。
メルヴィンさんが見かねて自宅に連れ帰ってくれたが、何があったんだ?無事に帰って来たが、オーナーがあんなになるなんてお前絡みだろ?」

俺の顔と見事にひしゃげた数本のカトラリーを見つめながらハンクさんが聞いてきたので、化物と遭遇したことと、農家さんからのお土産があることを説明した。

「あー、そりゃあ仕方ない。いきなり化物討伐になるとか、お前もツイてんだかツイてないんだか分からんな。まあ無事で何よりだ。
ホレ、できたぞ。今日のスープはオーナーの指定で、お前が好きそうなオニオングラタンスープだ。朝から贅沢だな?」

「すごくいい匂い…。ありがとう、ハンクさん。」

「俺は仕事だから礼はオーナーに、な。」

「うん。」

フードキャリーを受け取って、ひしゃげたカトラリーを《リペア》してからアレナド邸に戻った。





「お待たせ、戻ったよ。」

ノッカーを使ってから玄関扉を開けてアレナド邸に入ると、ジェイデンが「おかえりなさい」と言ってからお茶を注いでくれた。
ちなみにメルヴィンは一足先にお茶を味わいながら「おう、おかえり」と言ってくれる。

アレナド邸で夜を過ごした朝は、俺が朝食をもらいに行き、その間にジェイデンが飲み物を準備しくれて、メルヴィンと二人で俺を待っていてくれるのがルーティンになりつつある。

他人からすれば「だから何だ」というような小さなことかもしれない。
だけど、俺にとってはこういう何気ない日常こそが尊いことだと思える。

欲をぶつけ合う相手はいても、愛し、愛される相手はいなかった。
相思相愛の両親を見て、いつかは俺も…と願ってはいたが、元の世界では叶わなかった。

そんな俺の手の届くところにメルヴィンとジェイデンがいてくれる。
それが何よりも嬉しかった。

「ね、ジェイデン。俺のためにメニューを考えてくれていたんだって?おかげで好きなものが食べられる。ありがとう。」

「あっ、料理長ですね。内緒にしてとは言わなかったけれど、旦那様に明かすことではありませんのに…。」

ぷくっと膨れたジェイデンが可愛い。

「良いじゃあねえか、ハンクのおかげで朝から美味いモンが食えるんだし。」

くくっと笑ったメルヴィンもご機嫌でフードキャリーを覗きこんでいる。

「メルヴィンもオニオングラタンスープは好きか?」

「おう、焼けたチーズが美味いよな。しかもピタパンの具まで豪勢だな。」

確かに晩ごはんでもいけそうなカルビみたいな肉がみっちり入っているし、ハムのカットも分厚い。
もちろん野菜もたっぷりだ。

朝からガッツリだが、こちらに来てからはぺろりと完食できるようになったから問題ない。

「ふふ、旦那様に喜んでもらえて嬉しいです。でも一つだけ、今日のスープのチーズにはメルヴィンが関わっていないことが残念です。」

「ジェイデン!いい加減チーズでオレをイジるのは止めろ。お前だってオレが野営メシなら作れるって知ってるだろうが。」

「ええ、もちろんです。でも旦那様は食べたことがありませんよね。どんなに簡単なことでもメルヴィンが手伝ってくれたなら、旦那様が喜んでくれますよ?」

「ぐっ!」

「都合が良いときだけで構いませんから、サラダにドレッシングをかけたり、スープをかき混ぜたりしてくださいね。」

「わかった、わかった。オレの負けだ。チーズだけじゃなくて手を出して問題ないところはできるだけやるよ。他ならぬ我らが旦那サマのためだからな。」

やれやれって言い方だけどどこか嬉しそうなメルヴィンと、一仕事終えたって感じのジェイデン。

「二人とも大好きだ。」

「おっ、おう。」
「旦那様…。」

地位も名誉も持っているのに、どうして二人ともこんなに可愛いのか…。

頬を染めたメルヴィンとジェイデンを愛でながら、美味しくて量も大満足な朝食をたいらげた。

その後は呼び出されているハンターギルドに行く。
討伐した化物関連で何やらあるらしい。
しかも今日はジェイデンも一緒だ。

メルヴィンと手を繋ぎ、ジェイデンとは腕を組んで、少し浮かれながらギルドに向かった。





✽✽✽✽✽

更新を待ってくださった皆さま、ありがとうございます。
本日は1話です。
できたら明日、もう1話更新したいと思っていますのでよろしくお願いします。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

【完結】別れ……ますよね?

325号室の住人
BL
☆全3話、完結済 僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。 ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

愛され末っ子

西条ネア
BL
本サイトでの感想欄は感想のみでお願いします。全ての感想に返答します。 リクエストはTwitter(@NeaSaijou)にて受付中です。また、小説のストーリーに関するアンケートもTwitterにて行います。 (お知らせは本編で行います。) ******** 上園琉架(うえぞの るか)四男 理斗の双子の弟 虚弱 前髪は後々左に流し始めます。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い赤みたいなのアースアイ 後々髪の毛を肩口くらいまで伸ばしてゆるく結びます。アレルギー多め。その他の設定は各話で出てきます! 上園理斗(うえぞの りと)三男 琉架の双子の兄 琉架が心配 琉架第一&大好き 前髪は後々右に流します。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い緑みたいなアースアイ 髪型はずっと短いままです。 琉架の元気もお母さんのお腹の中で取っちゃった、、、 上園静矢 (うえぞの せいや)長男 普通にサラッとイケメン。なんでもできちゃうマン。でも弟(特に琉架)絡むと残念。弟達溺愛。深い青色の瞳。髪の毛の色はご想像にお任せします。 上園竜葵(うえぞの りゅうき)次男 ツンデレみたいな、考えと行動が一致しないマン。でも弟達大好きで奮闘して玉砕する。弟達傷つけられたら、、、 深い青色の瞳。兄貴(静矢)と一個差 ケンカ強い でも勉強できる。料理は壊滅的 上園理玖斗(うえぞの りくと)父 息子達大好き 藍羅(あいら・妻)も愛してる 家族傷つけるやつ許さんマジ 琉架の身体が弱すぎて心配 深い緑の瞳。普通にイケメン 上園藍羅(うえぞの あいら) 母 子供達、夫大好き 母は強し、の具現化版 美人さん 息子達(特に琉架)傷つけるやつ許さんマジ。 てか普通に上園家の皆さんは顔面偏差値馬鹿高いです。 (特に琉架)の部分は家族の中で順列ができているわけではなく、特に琉架になる場面が多いという意味です。 琉架の従者 遼(はる)琉架の10歳上 理斗の従者 蘭(らん)理斗の10歳上 その他の従者は後々出します。 虚弱体質な末っ子・琉架が家族からの寵愛、溺愛を受ける物語です。 前半、BL要素少なめです。 この作品は作者の前作と違い毎日更新(予定)です。 できないな、と悟ったらこの文は消します。 ※琉架はある一定の時期から体の成長(精神も若干)がなくなる設定です。詳しくはその時に補足します。 皆様にとって最高の作品になりますように。 ※作者の近況状況欄は要チェックです! 西条ネア

転生したら幼女でした!? 神様~、聞いてないよ~!

饕餮
ファンタジー
  書籍化決定!   2024/08/中旬ごろの出荷となります!   Web版と書籍版では一部の設定を追加しました! 今井 優希(いまい ゆき)、享年三十五歳。暴走車から母子をかばって轢かれ、あえなく死亡。 救った母親は数年後に人類にとってとても役立つ発明をし、その子がさらにそれを発展させる、人類にとって宝になる人物たちだった。彼らを助けた功績で生き返らせるか異世界に転生させてくれるという女神。 一旦このまま成仏したいと願うものの女神から誘いを受け、その女神が管理する異世界へ転生することに。 そして女神からその世界で生き残るための魔法をもらい、その世界に降り立つ。 だが。 「ようじらなんて、きいてにゃいでしゅよーーー!」 森の中に虚しく響く優希の声に、誰も答える者はいない。 ステラと名前を変え、女神から遣わされた魔物であるティーガー(虎)に気に入られて護られ、冒険者に気に入られ、辿り着いた村の人々に見守られながらもいろいろとやらかす話である。 ★主人公は口が悪いです。 ★不定期更新です。 ★ツギクル、カクヨムでも投稿を始めました。

主人公の兄になったなんて知らない

さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を レインは知らない自分が神に愛されている事を 表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346

王太子が護衛に組み敷かれるのは日常

ミクリ21 (新)
BL
王太子が護衛に抱かれる話。

兄たちが弟を可愛がりすぎです

クロユキ
BL
俺が風邪で寝ていた目が覚めたら異世界!? メイド、王子って、俺も王子!? おっと、俺の自己紹介忘れてた!俺の、名前は坂田春人高校二年、別世界にウィル王子の身体に入っていたんだ!兄王子に振り回されて、俺大丈夫か?! 涙脆く可愛い系に弱い春人の兄王子達に振り回され護衛騎士に迫って慌てていっもハラハラドキドキたまにはバカな事を言ったりとしている主人公春人の話を楽しんでくれたら嬉しいです。 1日の話しが長い物語です。 誤字脱字には気をつけてはいますが、余り気にしないよ~と言う方がいましたら嬉しいです。

処理中です...