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6章 足りないのは我慢なのか適性なのか
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「おはよう、ハンクさん。今日の朝食は何かな?」
「おう、シオンか。戻って来たんだな。今朝はピタパンサンドだ。三人分で良いのか?」
「うん、お願い。あと俺が留守の間、ジェイデンはどうだった?」
久しぶりのハンクさんに挨拶をして、朝食の出来上がりを待つ時間にジェイデンの様子を教えてもらう。
「オーナーか。まあ、最初は寂しそうにしてただけだったんだがなぁ…。」
どうやら俺に弁当を持たせて、笑顔で送り出してくれた後は随分と萎れていたらしい。
護衛依頼で訪れた町で他の依頼を受けることも、ニコルたちが堅実なパーティであること知っているが、ふとした瞬間に肩を落としていたという。
そんななかでも俺が帰って来たときのメニューをハンクさんと相談したり、フェイトに依頼して保温機能付きのフードキャリーを準備してくれていたそうだ。
とても嬉しいが、ジェイデンの尽くす妻っぷりがすごい。
そして一昨日、時間を作ってハンターギルドへ出かけて行ったときには機嫌良さそうだった。
だがギルドから帰って来てからはどう見ても普通じゃなかった。
その物証が俺の目の前にある。
「コレを見れば分かるだろ?いつもどおり仕事しようとしてたが、どう見ても辛そうでな…。何かを耐えるようにしてて、その度にオーナーの手の中で食器が砕けてカトラリーはこうなった。
メルヴィンさんが見かねて自宅に連れ帰ってくれたが、何があったんだ?無事に帰って来たが、オーナーがあんなになるなんてお前絡みだろ?」
俺の顔と見事にひしゃげた数本のカトラリーを見つめながらハンクさんが聞いてきたので、化物と遭遇したことと、農家さんからのお土産があることを説明した。
「あー、そりゃあ仕方ない。いきなり化物討伐になるとか、お前もツイてんだかツイてないんだか分からんな。まあ無事で何よりだ。
ホレ、できたぞ。今日のスープはオーナーの指定で、お前が好きそうなオニオングラタンスープだ。朝から贅沢だな?」
「すごくいい匂い…。ありがとう、ハンクさん。」
「俺は仕事だから礼はオーナーに、な。」
「うん。」
フードキャリーを受け取って、ひしゃげたカトラリーを《リペア》してからアレナド邸に戻った。
「お待たせ、戻ったよ。」
ノッカーを使ってから玄関扉を開けてアレナド邸に入ると、ジェイデンが「おかえりなさい」と言ってからお茶を注いでくれた。
ちなみにメルヴィンは一足先にお茶を味わいながら「おう、おかえり」と言ってくれる。
アレナド邸で夜を過ごした朝は、俺が朝食をもらいに行き、その間にジェイデンが飲み物を準備しくれて、メルヴィンと二人で俺を待っていてくれるのがルーティンになりつつある。
他人からすれば「だから何だ」というような小さなことかもしれない。
だけど、俺にとってはこういう何気ない日常こそが尊いことだと思える。
欲をぶつけ合う相手はいても、愛し、愛される相手はいなかった。
相思相愛の両親を見て、いつかは俺も…と願ってはいたが、元の世界では叶わなかった。
そんな俺の手の届くところにメルヴィンとジェイデンがいてくれる。
それが何よりも嬉しかった。
「ね、ジェイデン。俺のためにメニューを考えてくれていたんだって?おかげで好きなものが食べられる。ありがとう。」
「あっ、料理長ですね。内緒にしてとは言わなかったけれど、旦那様に明かすことではありませんのに…。」
ぷくっと膨れたジェイデンが可愛い。
「良いじゃあねえか、ハンクのおかげで朝から美味いモンが食えるんだし。」
くくっと笑ったメルヴィンもご機嫌でフードキャリーを覗きこんでいる。
「メルヴィンもオニオングラタンスープは好きか?」
「おう、焼けたチーズが美味いよな。しかもピタパンの具まで豪勢だな。」
確かに晩ごはんでもいけそうなカルビみたいな肉がみっちり入っているし、ハムのカットも分厚い。
もちろん野菜もたっぷりだ。
朝からガッツリだが、こちらに来てからはぺろりと完食できるようになったから問題ない。
「ふふ、旦那様に喜んでもらえて嬉しいです。でも一つだけ、今日のスープのチーズにはメルヴィンが関わっていないことが残念です。」
「ジェイデン!いい加減チーズでオレをイジるのは止めろ。お前だってオレが野営メシなら作れるって知ってるだろうが。」
「ええ、もちろんです。でも旦那様は食べたことがありませんよね。どんなに簡単なことでもメルヴィンが手伝ってくれたなら、旦那様が喜んでくれますよ?」
「ぐっ!」
「都合が良いときだけで構いませんから、サラダにドレッシングをかけたり、スープをかき混ぜたりしてくださいね。」
「わかった、わかった。オレの負けだ。チーズだけじゃなくて手を出して問題ないところはできるだけやるよ。他ならぬ我らが旦那サマのためだからな。」
やれやれって言い方だけどどこか嬉しそうなメルヴィンと、一仕事終えたって感じのジェイデン。
「二人とも大好きだ。」
「おっ、おう。」
「旦那様…。」
地位も名誉も持っているのに、どうして二人ともこんなに可愛いのか…。
頬を染めたメルヴィンとジェイデンを愛でながら、美味しくて量も大満足な朝食をたいらげた。
その後は呼び出されているハンターギルドに行く。
討伐した化物関連で何やらあるらしい。
しかも今日はジェイデンも一緒だ。
メルヴィンと手を繋ぎ、ジェイデンとは腕を組んで、少し浮かれながらギルドに向かった。
✽✽✽✽✽
更新を待ってくださった皆さま、ありがとうございます。
本日は1話です。
できたら明日、もう1話更新したいと思っていますのでよろしくお願いします。
「おう、シオンか。戻って来たんだな。今朝はピタパンサンドだ。三人分で良いのか?」
「うん、お願い。あと俺が留守の間、ジェイデンはどうだった?」
久しぶりのハンクさんに挨拶をして、朝食の出来上がりを待つ時間にジェイデンの様子を教えてもらう。
「オーナーか。まあ、最初は寂しそうにしてただけだったんだがなぁ…。」
どうやら俺に弁当を持たせて、笑顔で送り出してくれた後は随分と萎れていたらしい。
護衛依頼で訪れた町で他の依頼を受けることも、ニコルたちが堅実なパーティであること知っているが、ふとした瞬間に肩を落としていたという。
そんななかでも俺が帰って来たときのメニューをハンクさんと相談したり、フェイトに依頼して保温機能付きのフードキャリーを準備してくれていたそうだ。
とても嬉しいが、ジェイデンの尽くす妻っぷりがすごい。
そして一昨日、時間を作ってハンターギルドへ出かけて行ったときには機嫌良さそうだった。
だがギルドから帰って来てからはどう見ても普通じゃなかった。
その物証が俺の目の前にある。
「コレを見れば分かるだろ?いつもどおり仕事しようとしてたが、どう見ても辛そうでな…。何かを耐えるようにしてて、その度にオーナーの手の中で食器が砕けてカトラリーはこうなった。
メルヴィンさんが見かねて自宅に連れ帰ってくれたが、何があったんだ?無事に帰って来たが、オーナーがあんなになるなんてお前絡みだろ?」
俺の顔と見事にひしゃげた数本のカトラリーを見つめながらハンクさんが聞いてきたので、化物と遭遇したことと、農家さんからのお土産があることを説明した。
「あー、そりゃあ仕方ない。いきなり化物討伐になるとか、お前もツイてんだかツイてないんだか分からんな。まあ無事で何よりだ。
ホレ、できたぞ。今日のスープはオーナーの指定で、お前が好きそうなオニオングラタンスープだ。朝から贅沢だな?」
「すごくいい匂い…。ありがとう、ハンクさん。」
「俺は仕事だから礼はオーナーに、な。」
「うん。」
フードキャリーを受け取って、ひしゃげたカトラリーを《リペア》してからアレナド邸に戻った。
「お待たせ、戻ったよ。」
ノッカーを使ってから玄関扉を開けてアレナド邸に入ると、ジェイデンが「おかえりなさい」と言ってからお茶を注いでくれた。
ちなみにメルヴィンは一足先にお茶を味わいながら「おう、おかえり」と言ってくれる。
アレナド邸で夜を過ごした朝は、俺が朝食をもらいに行き、その間にジェイデンが飲み物を準備しくれて、メルヴィンと二人で俺を待っていてくれるのがルーティンになりつつある。
他人からすれば「だから何だ」というような小さなことかもしれない。
だけど、俺にとってはこういう何気ない日常こそが尊いことだと思える。
欲をぶつけ合う相手はいても、愛し、愛される相手はいなかった。
相思相愛の両親を見て、いつかは俺も…と願ってはいたが、元の世界では叶わなかった。
そんな俺の手の届くところにメルヴィンとジェイデンがいてくれる。
それが何よりも嬉しかった。
「ね、ジェイデン。俺のためにメニューを考えてくれていたんだって?おかげで好きなものが食べられる。ありがとう。」
「あっ、料理長ですね。内緒にしてとは言わなかったけれど、旦那様に明かすことではありませんのに…。」
ぷくっと膨れたジェイデンが可愛い。
「良いじゃあねえか、ハンクのおかげで朝から美味いモンが食えるんだし。」
くくっと笑ったメルヴィンもご機嫌でフードキャリーを覗きこんでいる。
「メルヴィンもオニオングラタンスープは好きか?」
「おう、焼けたチーズが美味いよな。しかもピタパンの具まで豪勢だな。」
確かに晩ごはんでもいけそうなカルビみたいな肉がみっちり入っているし、ハムのカットも分厚い。
もちろん野菜もたっぷりだ。
朝からガッツリだが、こちらに来てからはぺろりと完食できるようになったから問題ない。
「ふふ、旦那様に喜んでもらえて嬉しいです。でも一つだけ、今日のスープのチーズにはメルヴィンが関わっていないことが残念です。」
「ジェイデン!いい加減チーズでオレをイジるのは止めろ。お前だってオレが野営メシなら作れるって知ってるだろうが。」
「ええ、もちろんです。でも旦那様は食べたことがありませんよね。どんなに簡単なことでもメルヴィンが手伝ってくれたなら、旦那様が喜んでくれますよ?」
「ぐっ!」
「都合が良いときだけで構いませんから、サラダにドレッシングをかけたり、スープをかき混ぜたりしてくださいね。」
「わかった、わかった。オレの負けだ。チーズだけじゃなくて手を出して問題ないところはできるだけやるよ。他ならぬ我らが旦那サマのためだからな。」
やれやれって言い方だけどどこか嬉しそうなメルヴィンと、一仕事終えたって感じのジェイデン。
「二人とも大好きだ。」
「おっ、おう。」
「旦那様…。」
地位も名誉も持っているのに、どうして二人ともこんなに可愛いのか…。
頬を染めたメルヴィンとジェイデンを愛でながら、美味しくて量も大満足な朝食をたいらげた。
その後は呼び出されているハンターギルドに行く。
討伐した化物関連で何やらあるらしい。
しかも今日はジェイデンも一緒だ。
メルヴィンと手を繋ぎ、ジェイデンとは腕を組んで、少し浮かれながらギルドに向かった。
✽✽✽✽✽
更新を待ってくださった皆さま、ありがとうございます。
本日は1話です。
できたら明日、もう1話更新したいと思っていますのでよろしくお願いします。
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