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6章 足りないのは我慢なのか適性なのか
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「ジェイデン、帰ったぞ。ほれ、お前さんも。」
「ただいま、ジェイデン。」
玄関扉を開けたメルヴィンに促されアレナド邸に入ると、リビングのソファにジェイデンの背中が見えた。
メルヴィンと俺の声には気付くと、立ち上がって迎えてくれる。
「おかえりなさい、メルヴィン………旦那様。二人ともお疲れでしょう?夕食にしますか?それともすぐに休まれますか?」
何だろう……。
すごく頑張って普通っぽくしてるけど、絶対に無理してるよな。
目の下は血行が悪そうな色になってるし、ぷるんとしているはずの唇はひび割れてしまっている。
「オレはメシ食ったら寝る。さすがに疲れた。」
「お腹空いてるし、俺も夕食かな。でも、何よりおかえりのキスが欲しい。今日もしてくれないか、ジェイデン…。」
「えっ!?はっ、はい、喜んで!……では改めて。おかえりなさい、旦那様……ちゅ。ご無事で何よりです。」
「ん…ちゅぅ、……ちゅぷ…はぁ、ぴちゃ…ちゅう。……待っててくれてありがとう、ジェイデン。」
「だんなさま、きすがっ…ふ、ふかい…です。」
キスがしたいのは嘘じゃないけど確認もしたかったからな。
やっぱり唇が乾燥してるだけじゃなかった。
舌を絡めると良く分かるが、唾液の量も少ない。
脱水までは行かなくとも水分が足りてないみたいだ。
「許してジェイデン。ずっと会いたかったから我慢できなかった。」
「そんな、許すなんて。わたしは旦那様のものですから、これくらいのことで謝罪など必要ありませんのに。」
「ありがとう、ジェイデン。……なあ、メルヴィン。あんたはキスしてくれないのか?ギルドではしなかったから、帰ったらしてくれるんだと思ってたんだけど。」
「そっ、そうか?…………ちゅ。おかえりシオン。良く頑張ったな。」
「ただいま、メルヴィン。メルヴィンもお疲れ様…ちゅう。」
はぁ…、やっぱりキスをしてもらうと帰って来た実感が湧く。
ほっとするし、待っててくれるひとが居るってすごく嬉しい。
しかもそれが愛するメルヴィンとジェイデンだなんて、俺は果報者だ。
「さあ、二人ともお疲れですし、食事にしましょうか。メルヴィンがチーズを削ってくれたらすぐにいただけますよ。」
フードキャリーから湯気が立つ料理を取り出しながら教えてくれたので、自分とメルヴィンを《クリーン》してから食器を並べていく。
ちなみにメルヴィンはサラダにチーズを削りながらかけている。
すっかりチーズ係に定着してしまったようだ。
メルヴィンの「今日の糧に感謝を」という祈りで食事がはじまった。
今日の料理も美味しい。
二人の顔を見ながらだと更に美味しい。
数日離れていただけなのに、心底そう思える。
「にしても良いタイミングで飯を準備したもんだなあ、ジェイデン。」
「そう言ってもらえると嬉しいですね。本当はできたてを食べてもらえたらもっと良かったのだけれど…。」
「あ?さっきキャリーから並べたばっかじゃねえか。」
「ええ、でも料理自体は少し前に作った物なのです。フェイト君にお願いしてキャリーに保温を付与してもらったのですよ。あなたたちがお腹を空かせて帰ってきたら、すぐに食欲を満たしてもらえるように。
実際に食べてみて、風味が悪くなっていなくて良かったです。」
血色が良くない顔でそんなことを言われると、いつも以上に健気さを感じるし、儚さも加わって抱きしめたくなってしまう。
今はご飯中だからもうしばらく我慢だ。
「ほう、そりゃあ便利なモン作ったな。」
「そうですね。でも温かさを保つ分、料理が早く傷みます。長時間の使用には向いていないのが残念です。それがクリアできれば旦那様に温かいお弁当を持って行ってもらえるのに…。」
ん?
ちょっと待てよ。
「ね、二人ともマジックバッグとか持ってるだろ?それじゃあ用は足りないのか?」
「旦那様がおっしゃるとおりマジックバッグは所有していますが…どういうことでしょうか?」
「マジックバッグに収納したら時間の経過とかなくならないのかな…と思って。」
「そういうことでしたか。それなら時空間魔法ですね。あまり使える人はいないと聞きますが、魔力で亜空間を作り出すので時間の干渉を受けないものもあるとか。」
「ああ、それに時間停止機能が付いたマジックバッグは作れる奴がほとんどいねえからな。魔道具師の能力不足ってんじゃなくて、レシピが出回ってないんだと。だからマジックバッグ自体が高級品なんだ。
オレらも現役時代は時間停止機能が付いたヤツが欲しかったから、少しの間は探しもした。その時は見つからなくて手に入らなかったな。」
「そうなのか。でも俺は空間収納が使えるから、ジェイデンが持たせてくれた弁当はできたてのまま美味しく食べさせてもらったよ。」
ジェイデンお手製の愛妻フリッターは、二人に会えない日の活力の源になってくれたからな。
「マジか…。お前さん、時空間魔法と浄化魔法が使えることはなるべく知られねえようにな。理由は…まあ、分かるだろ?」
うん…、いろいろと面倒くさいことになるんだな?
「じゃあ俺のマジックバッグが時間停止してるのも秘密にした方が良いかな?」
「そうだなあ…。ジェイデン、お前はどう思う?」
「そうですね…。旦那様がお嫌でなければわたしたちの伝手で手に入れた…なんてどうでしょうか?やっかみは受けるでしょうが、盗もうとする輩は現れにくいと思います。
何より堂々と使用できますよ?」
それでも「現れにくい」なんだな…。
「それが無難か。Bランクになるのはほぼ決まってるし、単独で化物を狩れるんだ、短期間でAランクにも昇格できるだろう。そうなりゃあ絡んで来るハンターも減る。それまでの辛抱だな。」
「じゃあ、申し訳ないけど二人の名前を貸してもらうことにするよ。」
「本人が許可してんだから気にするこたあねえよ。」
「ええ、旦那様に健やかでいてもらえるなら、それが何よりです。」
メルヴィン、ジェイデン、俺を思ってくれてありがとう。
ちなみに今日の晩ごはんで一番美味しいと思ったのはラビオリだった。
✽✽✽✽✽
本日は1話のみの更新です。
間に合わなかった分は、明日更新できるように頑張ります。
「ただいま、ジェイデン。」
玄関扉を開けたメルヴィンに促されアレナド邸に入ると、リビングのソファにジェイデンの背中が見えた。
メルヴィンと俺の声には気付くと、立ち上がって迎えてくれる。
「おかえりなさい、メルヴィン………旦那様。二人ともお疲れでしょう?夕食にしますか?それともすぐに休まれますか?」
何だろう……。
すごく頑張って普通っぽくしてるけど、絶対に無理してるよな。
目の下は血行が悪そうな色になってるし、ぷるんとしているはずの唇はひび割れてしまっている。
「オレはメシ食ったら寝る。さすがに疲れた。」
「お腹空いてるし、俺も夕食かな。でも、何よりおかえりのキスが欲しい。今日もしてくれないか、ジェイデン…。」
「えっ!?はっ、はい、喜んで!……では改めて。おかえりなさい、旦那様……ちゅ。ご無事で何よりです。」
「ん…ちゅぅ、……ちゅぷ…はぁ、ぴちゃ…ちゅう。……待っててくれてありがとう、ジェイデン。」
「だんなさま、きすがっ…ふ、ふかい…です。」
キスがしたいのは嘘じゃないけど確認もしたかったからな。
やっぱり唇が乾燥してるだけじゃなかった。
舌を絡めると良く分かるが、唾液の量も少ない。
脱水までは行かなくとも水分が足りてないみたいだ。
「許してジェイデン。ずっと会いたかったから我慢できなかった。」
「そんな、許すなんて。わたしは旦那様のものですから、これくらいのことで謝罪など必要ありませんのに。」
「ありがとう、ジェイデン。……なあ、メルヴィン。あんたはキスしてくれないのか?ギルドではしなかったから、帰ったらしてくれるんだと思ってたんだけど。」
「そっ、そうか?…………ちゅ。おかえりシオン。良く頑張ったな。」
「ただいま、メルヴィン。メルヴィンもお疲れ様…ちゅう。」
はぁ…、やっぱりキスをしてもらうと帰って来た実感が湧く。
ほっとするし、待っててくれるひとが居るってすごく嬉しい。
しかもそれが愛するメルヴィンとジェイデンだなんて、俺は果報者だ。
「さあ、二人ともお疲れですし、食事にしましょうか。メルヴィンがチーズを削ってくれたらすぐにいただけますよ。」
フードキャリーから湯気が立つ料理を取り出しながら教えてくれたので、自分とメルヴィンを《クリーン》してから食器を並べていく。
ちなみにメルヴィンはサラダにチーズを削りながらかけている。
すっかりチーズ係に定着してしまったようだ。
メルヴィンの「今日の糧に感謝を」という祈りで食事がはじまった。
今日の料理も美味しい。
二人の顔を見ながらだと更に美味しい。
数日離れていただけなのに、心底そう思える。
「にしても良いタイミングで飯を準備したもんだなあ、ジェイデン。」
「そう言ってもらえると嬉しいですね。本当はできたてを食べてもらえたらもっと良かったのだけれど…。」
「あ?さっきキャリーから並べたばっかじゃねえか。」
「ええ、でも料理自体は少し前に作った物なのです。フェイト君にお願いしてキャリーに保温を付与してもらったのですよ。あなたたちがお腹を空かせて帰ってきたら、すぐに食欲を満たしてもらえるように。
実際に食べてみて、風味が悪くなっていなくて良かったです。」
血色が良くない顔でそんなことを言われると、いつも以上に健気さを感じるし、儚さも加わって抱きしめたくなってしまう。
今はご飯中だからもうしばらく我慢だ。
「ほう、そりゃあ便利なモン作ったな。」
「そうですね。でも温かさを保つ分、料理が早く傷みます。長時間の使用には向いていないのが残念です。それがクリアできれば旦那様に温かいお弁当を持って行ってもらえるのに…。」
ん?
ちょっと待てよ。
「ね、二人ともマジックバッグとか持ってるだろ?それじゃあ用は足りないのか?」
「旦那様がおっしゃるとおりマジックバッグは所有していますが…どういうことでしょうか?」
「マジックバッグに収納したら時間の経過とかなくならないのかな…と思って。」
「そういうことでしたか。それなら時空間魔法ですね。あまり使える人はいないと聞きますが、魔力で亜空間を作り出すので時間の干渉を受けないものもあるとか。」
「ああ、それに時間停止機能が付いたマジックバッグは作れる奴がほとんどいねえからな。魔道具師の能力不足ってんじゃなくて、レシピが出回ってないんだと。だからマジックバッグ自体が高級品なんだ。
オレらも現役時代は時間停止機能が付いたヤツが欲しかったから、少しの間は探しもした。その時は見つからなくて手に入らなかったな。」
「そうなのか。でも俺は空間収納が使えるから、ジェイデンが持たせてくれた弁当はできたてのまま美味しく食べさせてもらったよ。」
ジェイデンお手製の愛妻フリッターは、二人に会えない日の活力の源になってくれたからな。
「マジか…。お前さん、時空間魔法と浄化魔法が使えることはなるべく知られねえようにな。理由は…まあ、分かるだろ?」
うん…、いろいろと面倒くさいことになるんだな?
「じゃあ俺のマジックバッグが時間停止してるのも秘密にした方が良いかな?」
「そうだなあ…。ジェイデン、お前はどう思う?」
「そうですね…。旦那様がお嫌でなければわたしたちの伝手で手に入れた…なんてどうでしょうか?やっかみは受けるでしょうが、盗もうとする輩は現れにくいと思います。
何より堂々と使用できますよ?」
それでも「現れにくい」なんだな…。
「それが無難か。Bランクになるのはほぼ決まってるし、単独で化物を狩れるんだ、短期間でAランクにも昇格できるだろう。そうなりゃあ絡んで来るハンターも減る。それまでの辛抱だな。」
「じゃあ、申し訳ないけど二人の名前を貸してもらうことにするよ。」
「本人が許可してんだから気にするこたあねえよ。」
「ええ、旦那様に健やかでいてもらえるなら、それが何よりです。」
メルヴィン、ジェイデン、俺を思ってくれてありがとう。
ちなみに今日の晩ごはんで一番美味しいと思ったのはラビオリだった。
✽✽✽✽✽
本日は1話のみの更新です。
間に合わなかった分は、明日更新できるように頑張ります。
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