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6章 足りないのは我慢なのか適性なのか
06
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宴会の後はニコルたちと交代で不寝番をして、何事もなく朝を迎えることができた。
ほっとしながら朝食をいただいたが、美味しいのに何かが足りない…。
発想を変えて何が欲しいのか考えると、ジェイデンお手製のフリッターを昨日で食べ終わったことに思い至った。
どんなに美味しい食事でも、ジェイデンの愛情がたっぷり入った手料理には敵わないらしい。
はやくジェイデンにも会いたいな…と思いながら日課の鍛錬をしていると、ハンターらしき人影が近づいてきた。
挨拶を交わした後はニコルが代表して引き継ぎをしてくれるので、アルシェとラーナと俺で撤収作業だ。
いくつかの不躾な視線を感じるが、全て無視する。
そんなことよりもジェイデンに会いたいから片付けの方が優先だ。
作業を終わらせて農家さんや従業員さんに別れの挨拶をすると、またしてもいろいろと貰ってしまった。
アレナド兄弟と俺へのお祝いだと言われたらありがたく頂戴するしかない。
嬉しそうな食いしん坊アルシェを見て、ニコルとラーナもいい笑顔だ。
しかしいくらなんでも貰い過ぎなのでお返しをした。
王都で人気の果実酒は農家さんが自前で漬けているそうなので、割っても美味しい焼酎を選んだ。
気の良い人たちだったので喜んでもらえると嬉しい。
ご近所さんたちに手を振りながら馬車乗り場に向かい、王都行きの乗り合い馬車を確認すると席はいっぱいだった。
屋根の上に乗って良いと言われて驚いたが、ありがたく乗せてもらった。
高い所に座ることになってかなり揺れたが、その分視界が開けて楽しめた。
ニコル曰く「ハンターを屋根の上に乗せると危険が回避できて乗客にも喜ばれる」そうだ。
道中では魔獣化した猪と熊の乱闘を発見したが、襲ってくる様子はなかったので、魔法でこちらの気配を隠してやり過ごした。
その他は探知魔法と魔力の衝撃波で対処できるものだったので、馬車は順調に進んで日が暮れる頃に王都に到着した。
馬車を降りてギルドに向かい、報告をしてニコルたちと別れた。
受付でメルヴィンはどこに居るか尋ねると執務中とのこと。
先に宿に帰ろうか迷ったが、待つことにした。
ゆっくりお茶を飲みながら食堂で時間を潰しているとメルヴィンがやってきた。
「お疲れさん。今回はよく無事で帰ってきてくれた。」
俺の頭をわしわし撫でながら褒めてくれる。
「うん。でもメルヴィンこそ疲れた顔してる。そっちの方が心配だ。何か厄介事か?」
「いや、厄介っちゃあ厄介だが悪い話じゃあねえよ。ジェイデンも待ちくたびれてるだろうし、帰りながら教えてやる。」
どちらからともなく手を繋いでギルドを出るとメルヴィンが話し始めた。
「簡単に言うとだな、昨日のことを本部に報告を上げたんだが、それを聞いた他のギルマス連中が単独で化物を狩れるルーキーに興味津々でな。業務外の手紙とか文書のやり取りにウンザリしてたんだ。」
それって俺のせいじゃないか。
「なんか、ごめん。要らない仕事増やしたみたいで。」
「お前さんが謝ることじゃあねえよ。それに良いことでもあるからな。」
「どういうことだ?」
「分からねえか?お前さんの名前が売れて実力が知れ渡れば、ランクを上げやすくなる。ついでにイチャモンつけてくるヤツも潰せるしな。
今回の話を聞いて、王国内の他の街のギルマスからはさっさとBランクに昇格させてくれって声が上がったんだ。お前さんにも高ランクハンターが足りねえって言っただろ?地方は王都よりもハンター不足が深刻だからな。
それに本部からはお前さんの昇格の要件を緩和すると通達が来た。討伐の実力は分かったから、採集と護衛の依頼を何回か達成したらBランクにしろってな。」
「一応聞くけど、不正じゃないんだよな?」
メルヴィンの口から不正はできないと言われているけど、念のため、だ。
「そうだ。お前さんの実力に合ったランクに引き上げろって通達だからな。」
「だったら嬉しい!メルヴィンとジェイデンとの婚姻に一歩近付くってことだもんな。」
まだまだ目標のSランクには遠いけど、ここのところ自信を無くしかけたり、励ましてもらったりしていて少し不安定だったから余計に嬉しく感じてしまう。
「ランクが上がることより、オレらと一緒になることを喜ばれるとはなあ…。嬉しいが、こう…ムズムズするな。」
「俺にとって本当に大切なのはランクじゃないからな。励まして支えてくれてありがとう、メルヴィン。愛してる。」
「俺もだ、シオン。だが今夜はジェイデンの側にいてやってくれねえか?」
「それは構わないけど、何かあったのか?それにメルヴィンはどうするんだ?」
「オレは昨日もお前さんの顔を見てるし、いろいろあって疲れたからゆっくり寝てえ。
ジェイデンもお前さんが無事だって知ってはいるんだが、心ここにあらずって感じでなあ…。伝言を聞いて少し落ち着いたんだが、危なっかしいから家に居ろって言ってあるんだ。」
「分かった。話しをしてみるよ。」
ジェイデンが俺を想ってくれるのは嬉しい。
でも俺が化物と遭遇する度にそんなふうになっていたら身が持たないだろう。
大切な人には自分のことも大切にしてもらわないと。
「そうしてくれ。現場の森の探索も自分が行くって言って聞かなくてな。宥めるのに骨が折れたぜ。」
あっ!
もしかして農場で挨拶したハンターたちの不躾な視線はジェイデンのせいだったのだろうか…。
まあそれはいいか、今さらだし。
ほっとしながら朝食をいただいたが、美味しいのに何かが足りない…。
発想を変えて何が欲しいのか考えると、ジェイデンお手製のフリッターを昨日で食べ終わったことに思い至った。
どんなに美味しい食事でも、ジェイデンの愛情がたっぷり入った手料理には敵わないらしい。
はやくジェイデンにも会いたいな…と思いながら日課の鍛錬をしていると、ハンターらしき人影が近づいてきた。
挨拶を交わした後はニコルが代表して引き継ぎをしてくれるので、アルシェとラーナと俺で撤収作業だ。
いくつかの不躾な視線を感じるが、全て無視する。
そんなことよりもジェイデンに会いたいから片付けの方が優先だ。
作業を終わらせて農家さんや従業員さんに別れの挨拶をすると、またしてもいろいろと貰ってしまった。
アレナド兄弟と俺へのお祝いだと言われたらありがたく頂戴するしかない。
嬉しそうな食いしん坊アルシェを見て、ニコルとラーナもいい笑顔だ。
しかしいくらなんでも貰い過ぎなのでお返しをした。
王都で人気の果実酒は農家さんが自前で漬けているそうなので、割っても美味しい焼酎を選んだ。
気の良い人たちだったので喜んでもらえると嬉しい。
ご近所さんたちに手を振りながら馬車乗り場に向かい、王都行きの乗り合い馬車を確認すると席はいっぱいだった。
屋根の上に乗って良いと言われて驚いたが、ありがたく乗せてもらった。
高い所に座ることになってかなり揺れたが、その分視界が開けて楽しめた。
ニコル曰く「ハンターを屋根の上に乗せると危険が回避できて乗客にも喜ばれる」そうだ。
道中では魔獣化した猪と熊の乱闘を発見したが、襲ってくる様子はなかったので、魔法でこちらの気配を隠してやり過ごした。
その他は探知魔法と魔力の衝撃波で対処できるものだったので、馬車は順調に進んで日が暮れる頃に王都に到着した。
馬車を降りてギルドに向かい、報告をしてニコルたちと別れた。
受付でメルヴィンはどこに居るか尋ねると執務中とのこと。
先に宿に帰ろうか迷ったが、待つことにした。
ゆっくりお茶を飲みながら食堂で時間を潰しているとメルヴィンがやってきた。
「お疲れさん。今回はよく無事で帰ってきてくれた。」
俺の頭をわしわし撫でながら褒めてくれる。
「うん。でもメルヴィンこそ疲れた顔してる。そっちの方が心配だ。何か厄介事か?」
「いや、厄介っちゃあ厄介だが悪い話じゃあねえよ。ジェイデンも待ちくたびれてるだろうし、帰りながら教えてやる。」
どちらからともなく手を繋いでギルドを出るとメルヴィンが話し始めた。
「簡単に言うとだな、昨日のことを本部に報告を上げたんだが、それを聞いた他のギルマス連中が単独で化物を狩れるルーキーに興味津々でな。業務外の手紙とか文書のやり取りにウンザリしてたんだ。」
それって俺のせいじゃないか。
「なんか、ごめん。要らない仕事増やしたみたいで。」
「お前さんが謝ることじゃあねえよ。それに良いことでもあるからな。」
「どういうことだ?」
「分からねえか?お前さんの名前が売れて実力が知れ渡れば、ランクを上げやすくなる。ついでにイチャモンつけてくるヤツも潰せるしな。
今回の話を聞いて、王国内の他の街のギルマスからはさっさとBランクに昇格させてくれって声が上がったんだ。お前さんにも高ランクハンターが足りねえって言っただろ?地方は王都よりもハンター不足が深刻だからな。
それに本部からはお前さんの昇格の要件を緩和すると通達が来た。討伐の実力は分かったから、採集と護衛の依頼を何回か達成したらBランクにしろってな。」
「一応聞くけど、不正じゃないんだよな?」
メルヴィンの口から不正はできないと言われているけど、念のため、だ。
「そうだ。お前さんの実力に合ったランクに引き上げろって通達だからな。」
「だったら嬉しい!メルヴィンとジェイデンとの婚姻に一歩近付くってことだもんな。」
まだまだ目標のSランクには遠いけど、ここのところ自信を無くしかけたり、励ましてもらったりしていて少し不安定だったから余計に嬉しく感じてしまう。
「ランクが上がることより、オレらと一緒になることを喜ばれるとはなあ…。嬉しいが、こう…ムズムズするな。」
「俺にとって本当に大切なのはランクじゃないからな。励まして支えてくれてありがとう、メルヴィン。愛してる。」
「俺もだ、シオン。だが今夜はジェイデンの側にいてやってくれねえか?」
「それは構わないけど、何かあったのか?それにメルヴィンはどうするんだ?」
「オレは昨日もお前さんの顔を見てるし、いろいろあって疲れたからゆっくり寝てえ。
ジェイデンもお前さんが無事だって知ってはいるんだが、心ここにあらずって感じでなあ…。伝言を聞いて少し落ち着いたんだが、危なっかしいから家に居ろって言ってあるんだ。」
「分かった。話しをしてみるよ。」
ジェイデンが俺を想ってくれるのは嬉しい。
でも俺が化物と遭遇する度にそんなふうになっていたら身が持たないだろう。
大切な人には自分のことも大切にしてもらわないと。
「そうしてくれ。現場の森の探索も自分が行くって言って聞かなくてな。宥めるのに骨が折れたぜ。」
あっ!
もしかして農場で挨拶したハンターたちの不躾な視線はジェイデンのせいだったのだろうか…。
まあそれはいいか、今さらだし。
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