ダメな方の異世界召喚された俺は、それでも風呂と伴侶を愛してる

おりく

文字の大きさ
上 下
146 / 170
6章 足りないのは我慢なのか適性なのか

06

しおりを挟む
宴会の後はニコルたちと交代で不寝番をして、何事もなく朝を迎えることができた。

ほっとしながら朝食をいただいたが、美味しいのに何かが足りない…。
発想を変えて何が欲しいのか考えると、ジェイデンお手製のフリッターを昨日で食べ終わったことに思い至った。
どんなに美味しい食事でも、ジェイデンの愛情がたっぷり入った手料理には敵わないらしい。

はやくジェイデンにも会いたいな…と思いながら日課の鍛錬をしていると、ハンターらしき人影が近づいてきた。

挨拶を交わした後はニコルが代表して引き継ぎをしてくれるので、アルシェとラーナと俺で撤収作業だ。
いくつかの不躾な視線を感じるが、全て無視する。
そんなことよりもジェイデンに会いたいから片付けの方が優先だ。

作業を終わらせて農家さんや従業員さんに別れの挨拶をすると、またしてもいろいろと貰ってしまった。
アレナド兄弟と俺へのお祝いだと言われたらありがたく頂戴するしかない。
嬉しそうな食いしん坊アルシェを見て、ニコルとラーナもいい笑顔だ。

しかしいくらなんでも貰い過ぎなのでお返しをした。
王都で人気の果実酒は農家さんが自前で漬けているそうなので、割っても美味しい焼酎を選んだ。
気の良い人たちだったので喜んでもらえると嬉しい。

ご近所さんたちに手を振りながら馬車乗り場に向かい、王都行きの乗り合い馬車を確認すると席はいっぱいだった。
屋根の上に乗って良いと言われて驚いたが、ありがたく乗せてもらった。

高い所に座ることになってかなり揺れたが、その分視界が開けて楽しめた。
ニコル曰く「ハンターを屋根の上に乗せると危険が回避できて乗客にも喜ばれる」そうだ。

道中では魔獣化した猪と熊の乱闘を発見したが、襲ってくる様子はなかったので、魔法でこちらの気配を隠してやり過ごした。

その他は探知魔法と魔力の衝撃波で対処できるものだったので、馬車は順調に進んで日が暮れる頃に王都に到着した。

馬車を降りてギルドに向かい、報告をしてニコルたちと別れた。
受付でメルヴィンはどこに居るか尋ねると執務中とのこと。
先に宿に帰ろうか迷ったが、待つことにした。

ゆっくりお茶を飲みながら食堂で時間を潰しているとメルヴィンがやってきた。

「お疲れさん。今回はよく無事で帰ってきてくれた。」

俺の頭をわしわし撫でながら褒めてくれる。

「うん。でもメルヴィンこそ疲れた顔してる。そっちの方が心配だ。何か厄介事か?」

「いや、厄介っちゃあ厄介だが悪い話じゃあねえよ。ジェイデンも待ちくたびれてるだろうし、帰りながら教えてやる。」

どちらからともなく手を繋いでギルドを出るとメルヴィンが話し始めた。

「簡単に言うとだな、昨日のことを本部に報告を上げたんだが、それを聞いた他のギルマス連中が単独で化物を狩れるルーキーに興味津々でな。業務外の手紙とか文書のやり取りにウンザリしてたんだ。」

それって俺のせいじゃないか。

「なんか、ごめん。要らない仕事増やしたみたいで。」

「お前さんが謝ることじゃあねえよ。それに良いことでもあるからな。」

「どういうことだ?」

「分からねえか?お前さんの名前が売れて実力が知れ渡れば、ランクを上げやすくなる。ついでにイチャモンつけてくるヤツも潰せるしな。
今回の話を聞いて、王国内の他の街のギルマスからはさっさとBランクに昇格させてくれって声が上がったんだ。お前さんにも高ランクハンターが足りねえって言っただろ?地方は王都ここよりもハンター不足が深刻だからな。
それに本部からはお前さんの昇格の要件を緩和すると通達が来た。討伐の実力は分かったから、採集と護衛の依頼を何回か達成したらBランクにしろってな。」

「一応聞くけど、不正じゃないんだよな?」

メルヴィンの口から不正はできないと言われているけど、念のため、だ。

「そうだ。お前さんの実力に合ったランクに引き上げろって通達だからな。」

「だったら嬉しい!メルヴィンとジェイデンとの婚姻に一歩近付くってことだもんな。」

まだまだ目標のSランクには遠いけど、ここのところ自信を無くしかけたり、励ましてもらったりしていて少し不安定だったから余計に嬉しく感じてしまう。

「ランクが上がることより、オレらと一緒になることを喜ばれるとはなあ…。嬉しいが、こう…ムズムズするな。」

「俺にとって本当に大切なのはランクじゃないからな。励まして支えてくれてありがとう、メルヴィン。愛してる。」

「俺もだ、シオン。だが今夜はジェイデンの側にいてやってくれねえか?」

「それは構わないけど、何かあったのか?それにメルヴィンはどうするんだ?」

「オレは昨日もお前さんの顔を見てるし、いろいろあって疲れたからゆっくり寝てえ。
ジェイデンもお前さんが無事だって知ってはいるんだが、心ここにあらずって感じでなあ…。伝言を聞いて少し落ち着いたんだが、危なっかしいから家に居ろって言ってあるんだ。」

「分かった。話しをしてみるよ。」

ジェイデンが俺を想ってくれるのは嬉しい。
でも俺が化物と遭遇する度にそんなふうになっていたら身が持たないだろう。
大切な人には自分のことも大切にしてもらわないと。

「そうしてくれ。現場の森の探索も自分が行くって言って聞かなくてな。宥めるのに骨が折れたぜ。」

あっ!
もしかして農場で挨拶したハンターたちの不躾な視線はジェイデンのせいだったのだろうか…。
まあそれはいいか、今さらだし。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い

柔道部

むちむちボディ
BL
とある高校の柔道部で起こる秘め事について書いてみます。

被虐趣味のオメガはドSなアルファ様にいじめられたい。

かとらり。
BL
 セシリオ・ド・ジューンはこの国で一番尊いとされる公爵家の末っ子だ。  オメガなのもあり、蝶よ花よと育てられ、何不自由なく育ったセシリオには悩みがあった。  それは……重度の被虐趣味だ。  虐げられたい、手ひどく抱かれたい…そう思うのに、自分の身分が高いのといつのまにかついてしまった高潔なイメージのせいで、被虐心を満たすことができない。  だれか、だれか僕を虐げてくれるドSはいないの…?  そう悩んでいたある日、セシリオは学舎の隅で見つけてしまった。  ご主人様と呼ぶべき、最高のドSを…

隣の親父

むちむちボディ
BL
隣に住んでいる中年親父との出来事です。

○○に求婚されたおっさん、逃げる・・

相沢京
BL
小さな町でギルドに所属していた30過ぎのおっさんのオレに王都のギルマスから招集命令が下される。 といっても、何か罪を犯したからとかではなくてオレに会いたい人がいるらしい。そいつは事情があって王都から出れないとか、特に何の用事もなかったオレは承諾して王都へと向かうのだった。 しかし、そこに待ち受けていたのは―――・・

淫愛家族

箕田 はる
BL
婿養子として篠山家で生活している睦紀は、結婚一年目にして妻との不仲を悩んでいた。 事あるごとに身の丈に合わない結婚かもしれないと考える睦紀だったが、以前から親交があった義父の俊政と義兄の春馬とは良好な関係を築いていた。 二人から向けられる優しさは心地よく、迷惑をかけたくないという思いから、睦紀は妻と向き合うことを決意する。 だが、同僚から渡された風俗店のカードを返し忘れてしまったことで、正しい三人の関係性が次第に壊れていく――

弟が生まれて両親に売られたけど、売られた先で溺愛されました

にがり
BL
貴族の家に生まれたが、弟が生まれたことによって両親に売られた少年が、自分を溺愛している人と出会う話です

処理中です...