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6章 足りないのは我慢なのか適性なのか
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「すまんが、誰か人を貸してくれないか?ギルドに手紙を届けてもらいたい。」
メルヴィンに頼まれて請け負った農家さんが、フラフラしながら人集りの方へ戻って行く。
「さてシオン。お前さん、馬には乗れるか?」
「乗ったことはあるけど、それだけだ。常歩ならできるかな…。」
藍羽の家に馬はいなかったが、乗馬体験ならしたことがある。
祖父の時代には飼育していたそうで、馬房の跡は残っていたが。
「そうか。普通の馬なら手綱や足で指示をするが、ネロは賢いから簡単な言葉なら聞き取ってくれる。変なことを言わなけりゃあ心配いらねえよ。」
「てことはネロは初心者向き?」
「指示を出すだけならな。普通の初心者は遊ばれて背中に乗せてももらえんだろう。それに乗れてもアルシェみたいな目にあうぞ。
さあ、そろそろ行くか。」
「うん。」
返事をしたところで「わぁっ!」という歓声が聞こえてきた。
農家さんが俺とアレナド兄弟のことを伝えたのだろう。
明るいトーンの声なので、概ね好意的に受けとめられているようだ。
タンデムなら俺が前だろう…と先にネロの背に乗る。
「あんなに騒ぐようなことかよ。」
むず痒そうな表情でメルヴィンもネロに乗った。
「良いじゃないか、喜んでくれてるみたいだし。サービスしておこうかな………ちゅう。」
後ろ手にメルヴィンの顔を引き寄せてキスをすると、一層大きな声が上がる。
メルヴィンはすごく格好良いし身体も大きいから、馬上でのキスも絵になるんじゃないかな?
でもネロには迷惑だっただろうから後でちゃんと謝ろう。
背中にメルヴィンの体温を感じながら森を進むと、徐々に身体の強張りが解けていく。
どうやら初めての化物との遭遇でかなり緊張していたらしい。
そんな俺をメルヴィンが心配そうにのぞき込んでくる。
「慣れない乗馬で疲れてねえか?大丈夫か?」
「ん、大丈夫。メルヴィンと一緒だから要らない力が抜けた感じ。ネロも頼もしいし。」
「当然!」といった様子で耳をぴるぴるさせたネロは本当に大きい。
サラブレッドみたいな体格ではなく、馬車を引く重種の馬のような逞しさだ。
しかも足もとはふさふさしている。
確かシャイヤーだったか?
そんな大型の馬をさらに大きくしたような見た目だ。
メルヴィンと俺、合わせて180~190キロを背中に乗せているのに余裕で進んでくれる。
化物ですら簡単に蹴散らせそうな馬力と迫力を備えていそうだ。
「褒められたな、ネロ。このままあんまり揺れねえように頼む。」
また耳をぴるぴるさせて返事をしてくれた。
すごく大きくて格好良いのにその仕草は可愛い。
メルヴィンが無邪気に育っていたら、ネロみたいに悪戯好きになっていただろうか。
「どうした、シオン。えらく楽しそうじゃねえか。」
「いや、メルヴィンとネロ、少し似てるなと思っていただけだ。」
「は?」
「ヒンっ?」
衝撃を受けているが、リアクションもお揃いだ。
ネロは足まで止まってしまった。
「どこらへんがだよ!オレはこんなにワガママじゃねえぞ!」
「いや、メルヴィンもネロも格好良いのに可愛いから。」
褒められたことが分かるのか、ネロは機嫌良く歩みを再開してくれた。
メルヴィンは何とも言えない顔になってしまったが、照れ隠しだから大丈夫だろう。
森の見回りでは引っかかる反応が二つあった。
一つは化物に殺められた猿の遺体だった。
こちらはメルヴィンが魔道具で瘴気を吸い取り、清めて対処した。
残りの場所には傷付いた狸がいたので俺の出番だ。
魔法で浄化と治癒をするとメルヴィンに驚かれた。
「お前さん《浄化》まで…。もうなんでもアリだな。」
その声には半分くらい呆れが混じっていたが気にしない。
できることが増えるのは良いことだ、きっと!
農場に戻ると化物の死体を回収したメルヴィンが、農家さんとニコルたちを呼んで必要なことを告げていく。
農家さんには森の浅い場所には危険はなかったことを。
ニコルたちには森の調査をするハンターが到着するまで引き続き農場周辺の警戒をして欲しい、と。
彼女たちが了承したので俺も明日まで農場の警備だ。
3日も会えなかったメルヴィンと別れるのは辛いと呟くと熱烈なキスをくれた。
しかも俺の大好きな「顔寄越せ」という台詞付きで。
見上げたメルヴィンの瞳は俺に抱かれたいと訴えていた。
堪らなくなって、その場で犯し尽くしたくなったけど必死で我慢した。
王都に戻るメルヴィンにはジェイデンへの伝言をお願いした。
きっと心配してくれているから、俺の無事と「愛してる」を伝えたかった。
心の籠もった手料理への感謝は帰ってから顔を見て言いたい。
名残惜しそうなメルヴィンとネロを見送ると、農場の食堂に招かれた。
化物から農地を守った礼に豪勢な夕食を用意してくれたそうだ。
新鮮な食材を使って作られた料理も良いが、久しぶりに飲んだ牛乳が美味かった。
さすがに酒は控えたが、農家さん、農場の従業員さん、ご近所さんが集まると、もはや宴会だ。
呑んでないのに酔っ払いのようなテンションのオッサンに、アレナド兄弟との馴れ初めを聞かれたので問題ない範囲で教えると、なぜか大量の農産品を貰ってしまった。
皆さん拉致されてこの国に来た俺に同情してくれて、アレナド兄弟と出会ったのは運命だ!とご婦人方も大興奮でいろいろとくれた。
帰ったらハンクさんに調理してもらって美味しくいただきます。
メルヴィンに頼まれて請け負った農家さんが、フラフラしながら人集りの方へ戻って行く。
「さてシオン。お前さん、馬には乗れるか?」
「乗ったことはあるけど、それだけだ。常歩ならできるかな…。」
藍羽の家に馬はいなかったが、乗馬体験ならしたことがある。
祖父の時代には飼育していたそうで、馬房の跡は残っていたが。
「そうか。普通の馬なら手綱や足で指示をするが、ネロは賢いから簡単な言葉なら聞き取ってくれる。変なことを言わなけりゃあ心配いらねえよ。」
「てことはネロは初心者向き?」
「指示を出すだけならな。普通の初心者は遊ばれて背中に乗せてももらえんだろう。それに乗れてもアルシェみたいな目にあうぞ。
さあ、そろそろ行くか。」
「うん。」
返事をしたところで「わぁっ!」という歓声が聞こえてきた。
農家さんが俺とアレナド兄弟のことを伝えたのだろう。
明るいトーンの声なので、概ね好意的に受けとめられているようだ。
タンデムなら俺が前だろう…と先にネロの背に乗る。
「あんなに騒ぐようなことかよ。」
むず痒そうな表情でメルヴィンもネロに乗った。
「良いじゃないか、喜んでくれてるみたいだし。サービスしておこうかな………ちゅう。」
後ろ手にメルヴィンの顔を引き寄せてキスをすると、一層大きな声が上がる。
メルヴィンはすごく格好良いし身体も大きいから、馬上でのキスも絵になるんじゃないかな?
でもネロには迷惑だっただろうから後でちゃんと謝ろう。
背中にメルヴィンの体温を感じながら森を進むと、徐々に身体の強張りが解けていく。
どうやら初めての化物との遭遇でかなり緊張していたらしい。
そんな俺をメルヴィンが心配そうにのぞき込んでくる。
「慣れない乗馬で疲れてねえか?大丈夫か?」
「ん、大丈夫。メルヴィンと一緒だから要らない力が抜けた感じ。ネロも頼もしいし。」
「当然!」といった様子で耳をぴるぴるさせたネロは本当に大きい。
サラブレッドみたいな体格ではなく、馬車を引く重種の馬のような逞しさだ。
しかも足もとはふさふさしている。
確かシャイヤーだったか?
そんな大型の馬をさらに大きくしたような見た目だ。
メルヴィンと俺、合わせて180~190キロを背中に乗せているのに余裕で進んでくれる。
化物ですら簡単に蹴散らせそうな馬力と迫力を備えていそうだ。
「褒められたな、ネロ。このままあんまり揺れねえように頼む。」
また耳をぴるぴるさせて返事をしてくれた。
すごく大きくて格好良いのにその仕草は可愛い。
メルヴィンが無邪気に育っていたら、ネロみたいに悪戯好きになっていただろうか。
「どうした、シオン。えらく楽しそうじゃねえか。」
「いや、メルヴィンとネロ、少し似てるなと思っていただけだ。」
「は?」
「ヒンっ?」
衝撃を受けているが、リアクションもお揃いだ。
ネロは足まで止まってしまった。
「どこらへんがだよ!オレはこんなにワガママじゃねえぞ!」
「いや、メルヴィンもネロも格好良いのに可愛いから。」
褒められたことが分かるのか、ネロは機嫌良く歩みを再開してくれた。
メルヴィンは何とも言えない顔になってしまったが、照れ隠しだから大丈夫だろう。
森の見回りでは引っかかる反応が二つあった。
一つは化物に殺められた猿の遺体だった。
こちらはメルヴィンが魔道具で瘴気を吸い取り、清めて対処した。
残りの場所には傷付いた狸がいたので俺の出番だ。
魔法で浄化と治癒をするとメルヴィンに驚かれた。
「お前さん《浄化》まで…。もうなんでもアリだな。」
その声には半分くらい呆れが混じっていたが気にしない。
できることが増えるのは良いことだ、きっと!
農場に戻ると化物の死体を回収したメルヴィンが、農家さんとニコルたちを呼んで必要なことを告げていく。
農家さんには森の浅い場所には危険はなかったことを。
ニコルたちには森の調査をするハンターが到着するまで引き続き農場周辺の警戒をして欲しい、と。
彼女たちが了承したので俺も明日まで農場の警備だ。
3日も会えなかったメルヴィンと別れるのは辛いと呟くと熱烈なキスをくれた。
しかも俺の大好きな「顔寄越せ」という台詞付きで。
見上げたメルヴィンの瞳は俺に抱かれたいと訴えていた。
堪らなくなって、その場で犯し尽くしたくなったけど必死で我慢した。
王都に戻るメルヴィンにはジェイデンへの伝言をお願いした。
きっと心配してくれているから、俺の無事と「愛してる」を伝えたかった。
心の籠もった手料理への感謝は帰ってから顔を見て言いたい。
名残惜しそうなメルヴィンとネロを見送ると、農場の食堂に招かれた。
化物から農地を守った礼に豪勢な夕食を用意してくれたそうだ。
新鮮な食材を使って作られた料理も良いが、久しぶりに飲んだ牛乳が美味かった。
さすがに酒は控えたが、農家さん、農場の従業員さん、ご近所さんが集まると、もはや宴会だ。
呑んでないのに酔っ払いのようなテンションのオッサンに、アレナド兄弟との馴れ初めを聞かれたので問題ない範囲で教えると、なぜか大量の農産品を貰ってしまった。
皆さん拉致されてこの国に来た俺に同情してくれて、アレナド兄弟と出会ったのは運命だ!とご婦人方も大興奮でいろいろとくれた。
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