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6章 足りないのは我慢なのか適性なのか
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少し切ない思いをしていると頬に生暖かいものが触れた。
どうやら魔狼に舐められたらしい。
狼、しかも魔狼に舐めてもらえるなんて、元の世界では体験できることじゃない。
貴重な経験に感動して、沈みそうになっていた気持ちが浮上してくる。
そのまま調子に乗って魔狼のマズルに自分の鼻先で触れてみたが、イヤだったのか微妙な空気を発して前足で顔を洗われてしまった。
せっかくの機会なので、首から背中をひと撫でさせてもらってから立ち上がると、狼たちも自分たちの領域に帰って行った。
次に会うことがあったら是非とも思う存分もふもふさせていただきたいものだ…。
距離を取って付いてきてくれたラーナと農場に向かいながら、化物から受けた傷がどうなるのか質問してみた。
すると、何とも言い難い答えが返ってきた。
瘴気は少しずつだが自然に散っていくらしい。
しかし瘴気に汚染された傷の治りはとても遅く、魔法での治癒も効果は見込めない。
大きな傷を負うと完治する前に出血や感染症で命を落とすことになるそうだ。
さらには様々な不調に襲われるので、浄化魔法無しでは耐え難い苦痛に苛まれることになる…と。
ただ、メルヴィンやジェイデンクラスの身体強化が使えると、自らの魔力で瘴気の汚染を防ぐことができるらしい。
さすがアレナド兄弟…まさに実力者だ。
農場に戻りニコルと合流して、被害が無いか見回りをしようか相談していると、探知魔法がメルヴィンの魔力を捉えた。
もうすぐメルヴィンが到着すると告げると、地響きが聞こえてきた。
何事かと思っていると、原因はメルヴィンと、メルヴィンが乗ってきたもののようだ。
「全員生きてるかっ!?」
遠目から俺の姿を確認するなりそう叫ばれたので、大きく手を振って無事を知らせる。
全速力で走る馬から飛び降りたメルヴィンにすぐさま抱き上げられた。
「シオンっ!無事なんだな?どこにも怪我なんかしてねえな?」
「ああ、メルヴィン。あんたがこの前教えてくれただろ?俺ならできるって。ちゃんとやり遂げたぞ。」
「そうか…。なら良いんだ…ちゅ。よくやった、ちゅっ…よく無事でいてくれた…ちゅむぅ。さすが俺の男だ…ちゅう。」
随分と心配させてしまったが、「俺の男」と褒められると嬉しさが何かを突き抜けてしまいそうだ。
「ん…ちゅ。どんなことが起こっても、絶対メルヴィンのところに戻るから…ちゅぅ。俺を信じて待ってて…ちゅ。」
「ああ、それは…むちゅ…これっぽっちも疑っちゃあいねえ。だが愛しいお前さんが心配なんだ。それは分かってくれ…ちゅむっ…。」
「うん…。俺も愛してる、メルヴィン…ちゅう。だいすき。ね、もっとシて…。」
「シオン…。」
「ちょっとー!いい加減助けてよギルマスぅー!この子止めてえーっ!」
俺の大好きな熱烈なキスを待っていると、アルシェに半泣きで叫ばれた。
どうやらメルヴィンの後ろに乗っていたらしいが、馬が走り続けているせいで手綱が取れないみたいだ。
ニコルとラーナもおろおろしている。
「くっ!いいトコだったのに…。まあ放っておくワケにもいかねえか。ネロ!こっちに来い!」
ネロと呼ばれた馬はとても賢いようで、速度を落としながらメルヴィンの隣にやって来た。
ということは、アルシェは遊ばれていたのか…?
「シオン、コイツはギルドで飼育しているビーストホースのネロだ。ネロ、こっちはシオンだ。仲良くしてくれよ。」
「よろしく、ネロ。メルヴィンを連れて来てくれてありがとう。」
礼を言うと「ヒンっ!」と嘶いて返事をしてくれた。
「なあ、メルヴィン、ビーストホースってどんな馬なんだ?」
「ん?お前さん知らなかったのか。ビーストホースってのは魔獣化した馬やその血を引く馬の中でも、人と生きてるやつのことを言うんだ。ネロは魔獣だから気位が高くてなあ…。乗り手を選ぶから、ほとんどはアルシェみたいに遊ばれるんだ。」
やっぱり…。
そのアルシェはニコルとラーナの無事を喜んで涙を流している。
感動のシーンのはずだが、どことなく締まらないのはネロのせいか…。
「さあ、シオン。事の顛末を教えてくれ。」
メルヴィンに説明していくと、森への同行を求められた。
「今はもう嫌な気配はしないってことだが、街の近くの見回りに付いてきてくれ。明日には森の深部まで探索させるハンターを寄こすが、念のためお前さんの魔法で索敵してほしい。疲れてるだろうがもうひと頑張りしてくれないか。」
「もちろん、行くよ。メルヴィンの顔を見てたら疲れなんて感じないし。」
「ありがとうよ。ギルドに手紙を書いたら出発だ。ネロに乗ってな。」
そう言って腰のマジックバッグからペンと紙を取り出して書き付けていく。
その間ネロを撫でさせてもらっていたが、農家さんから質問を受けた。
ただでさえ化物が出て騒ぎになったのに、王都から元Sランクハンターメルヴィン・アレナドがやって来た。
近所の皆さんが国の英雄メルヴィンをひと目見ようと農場に集まってしまったらしい。
その人たちの疑問を代表して聞きに来た農家さんが可哀想になってくる。
だって緊張で身体中がガタガタ震えているんだ。
「なあ、兄さん。あんたの王都にいる将来を約束した恋人ってのは、もしかしなくてもメルヴィン・アレナドさんかい?」
「そうだ。なあ、メルヴィン?」
「んー?そうだなあ。だがオレだけじゃあねえぞ。」
「えっと、それはどういう…?」
メルヴィンに話しかけられて、増々緊張しながらも頑張って聞き返す農家さんを思わず応援してしまう。
「ジェイデンもだからな。」
「はっ!?」
農家さんが何を言われたか分からないって顔になってしまった。
「だから、オレとオレの弟のジェイデンの恋人なんだ、シオンは。手ぇ出すなよ?」
「はっ、はい!」
ニヤリと男の色気たっぷりに笑いながらメルヴィンに言われて、真っ赤に茹で上がり直立不動になってしまった農家さんが少しだけ可哀想になってきた……。
✽✽✽✽✽
本日も2話同時にアップしていますので、お気をつけください。
どうやら魔狼に舐められたらしい。
狼、しかも魔狼に舐めてもらえるなんて、元の世界では体験できることじゃない。
貴重な経験に感動して、沈みそうになっていた気持ちが浮上してくる。
そのまま調子に乗って魔狼のマズルに自分の鼻先で触れてみたが、イヤだったのか微妙な空気を発して前足で顔を洗われてしまった。
せっかくの機会なので、首から背中をひと撫でさせてもらってから立ち上がると、狼たちも自分たちの領域に帰って行った。
次に会うことがあったら是非とも思う存分もふもふさせていただきたいものだ…。
距離を取って付いてきてくれたラーナと農場に向かいながら、化物から受けた傷がどうなるのか質問してみた。
すると、何とも言い難い答えが返ってきた。
瘴気は少しずつだが自然に散っていくらしい。
しかし瘴気に汚染された傷の治りはとても遅く、魔法での治癒も効果は見込めない。
大きな傷を負うと完治する前に出血や感染症で命を落とすことになるそうだ。
さらには様々な不調に襲われるので、浄化魔法無しでは耐え難い苦痛に苛まれることになる…と。
ただ、メルヴィンやジェイデンクラスの身体強化が使えると、自らの魔力で瘴気の汚染を防ぐことができるらしい。
さすがアレナド兄弟…まさに実力者だ。
農場に戻りニコルと合流して、被害が無いか見回りをしようか相談していると、探知魔法がメルヴィンの魔力を捉えた。
もうすぐメルヴィンが到着すると告げると、地響きが聞こえてきた。
何事かと思っていると、原因はメルヴィンと、メルヴィンが乗ってきたもののようだ。
「全員生きてるかっ!?」
遠目から俺の姿を確認するなりそう叫ばれたので、大きく手を振って無事を知らせる。
全速力で走る馬から飛び降りたメルヴィンにすぐさま抱き上げられた。
「シオンっ!無事なんだな?どこにも怪我なんかしてねえな?」
「ああ、メルヴィン。あんたがこの前教えてくれただろ?俺ならできるって。ちゃんとやり遂げたぞ。」
「そうか…。なら良いんだ…ちゅ。よくやった、ちゅっ…よく無事でいてくれた…ちゅむぅ。さすが俺の男だ…ちゅう。」
随分と心配させてしまったが、「俺の男」と褒められると嬉しさが何かを突き抜けてしまいそうだ。
「ん…ちゅ。どんなことが起こっても、絶対メルヴィンのところに戻るから…ちゅぅ。俺を信じて待ってて…ちゅ。」
「ああ、それは…むちゅ…これっぽっちも疑っちゃあいねえ。だが愛しいお前さんが心配なんだ。それは分かってくれ…ちゅむっ…。」
「うん…。俺も愛してる、メルヴィン…ちゅう。だいすき。ね、もっとシて…。」
「シオン…。」
「ちょっとー!いい加減助けてよギルマスぅー!この子止めてえーっ!」
俺の大好きな熱烈なキスを待っていると、アルシェに半泣きで叫ばれた。
どうやらメルヴィンの後ろに乗っていたらしいが、馬が走り続けているせいで手綱が取れないみたいだ。
ニコルとラーナもおろおろしている。
「くっ!いいトコだったのに…。まあ放っておくワケにもいかねえか。ネロ!こっちに来い!」
ネロと呼ばれた馬はとても賢いようで、速度を落としながらメルヴィンの隣にやって来た。
ということは、アルシェは遊ばれていたのか…?
「シオン、コイツはギルドで飼育しているビーストホースのネロだ。ネロ、こっちはシオンだ。仲良くしてくれよ。」
「よろしく、ネロ。メルヴィンを連れて来てくれてありがとう。」
礼を言うと「ヒンっ!」と嘶いて返事をしてくれた。
「なあ、メルヴィン、ビーストホースってどんな馬なんだ?」
「ん?お前さん知らなかったのか。ビーストホースってのは魔獣化した馬やその血を引く馬の中でも、人と生きてるやつのことを言うんだ。ネロは魔獣だから気位が高くてなあ…。乗り手を選ぶから、ほとんどはアルシェみたいに遊ばれるんだ。」
やっぱり…。
そのアルシェはニコルとラーナの無事を喜んで涙を流している。
感動のシーンのはずだが、どことなく締まらないのはネロのせいか…。
「さあ、シオン。事の顛末を教えてくれ。」
メルヴィンに説明していくと、森への同行を求められた。
「今はもう嫌な気配はしないってことだが、街の近くの見回りに付いてきてくれ。明日には森の深部まで探索させるハンターを寄こすが、念のためお前さんの魔法で索敵してほしい。疲れてるだろうがもうひと頑張りしてくれないか。」
「もちろん、行くよ。メルヴィンの顔を見てたら疲れなんて感じないし。」
「ありがとうよ。ギルドに手紙を書いたら出発だ。ネロに乗ってな。」
そう言って腰のマジックバッグからペンと紙を取り出して書き付けていく。
その間ネロを撫でさせてもらっていたが、農家さんから質問を受けた。
ただでさえ化物が出て騒ぎになったのに、王都から元Sランクハンターメルヴィン・アレナドがやって来た。
近所の皆さんが国の英雄メルヴィンをひと目見ようと農場に集まってしまったらしい。
その人たちの疑問を代表して聞きに来た農家さんが可哀想になってくる。
だって緊張で身体中がガタガタ震えているんだ。
「なあ、兄さん。あんたの王都にいる将来を約束した恋人ってのは、もしかしなくてもメルヴィン・アレナドさんかい?」
「そうだ。なあ、メルヴィン?」
「んー?そうだなあ。だがオレだけじゃあねえぞ。」
「えっと、それはどういう…?」
メルヴィンに話しかけられて、増々緊張しながらも頑張って聞き返す農家さんを思わず応援してしまう。
「ジェイデンもだからな。」
「はっ!?」
農家さんが何を言われたか分からないって顔になってしまった。
「だから、オレとオレの弟のジェイデンの恋人なんだ、シオンは。手ぇ出すなよ?」
「はっ、はい!」
ニヤリと男の色気たっぷりに笑いながらメルヴィンに言われて、真っ赤に茹で上がり直立不動になってしまった農家さんが少しだけ可哀想になってきた……。
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