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6章 足りないのは我慢なのか適性なのか
03
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「ウルフはあたしが引き受ける!ラーナはエイプを頼んだ!」
「了解。急いで、シオン。」
覚悟を決めた悲壮な面持ちで二人が叫んだ。
弱者を護ろうとする行動は、ハンターとしても人としても誇れることだと思う。
しかしここは譲れない。
「二人ともありがとう。だが化物は俺に任せて避難してくれ。」
「何言ってんだい!あたしらの攻撃なんか通じない相手だよ!あんたはギルマスが来るまで生き残れ!」
「ここには浄化魔法の使い手も魔道具もない。瘴気に当てられたら助からない。だから早く。」
ジリジリと二体の化物が迫って来ても、俺を逃がそうとしてくれる。
本当に素晴らしい講師たちだ。
「俺は大丈夫。信じられないだろうが、メルヴィンは俺なら化物を狩れると思ってる。メルヴィンが言うなら間違いないだろ?」
「それは…。」
「メルヴィン・アレナドを信じてくれ。」
俺はメルヴィンを信じてる。
きっとジェイデンも同じように思ってくれている。
絶対に二人の期待は裏切らない。
「……わかった。でも何かあったときのために、ここにいる。」
「ありがとう、ラーナ。ニコルもいいな?」
「分かった。そのかわりムチャすんじゃないよ!」
化物に接近しながら剣を抜き、身体強化を発動する。
人間が相手じゃないから加減は必要ない。
ひたすら集中して気力と魔力を高めていくと、俺が放電しているかのようにバチバチと音がして小さな光が弾ける。
魔力の波動を感じるのか、化物たちが駆けてくる。
それに合わせてこちらも走りだす。
俺の肉を噛み千切ろうと跳躍する狼の化物の頭部を斬り上げて刎ねる。
その勢いのまま、後ろに隠れて襲いかかろうとしていた猿の化物を袈裟斬りにした。
二体の化物は崩折れて動かなくなった。
それを確認してから自分の身体と剣を見分するが、特に異常はない。
剣には血糊も付いていなかったので鞘に収め、化物に向き直って手を合わせる。
この世界の死生観は知らないが、化物たちの冥福を祈った。
「……ウソだろう?こんなにあっさり化物を倒しちまうなんて。」
「見てたけど信じられない。」
声の主を振り返ると、二人揃って呆然としていた。
「ニコル、ラーナ、メルヴィンを信じて俺に任せてくれてありがとう。」
「いや、礼を言うのはこっちだ。本当に助かったよ。あたしらがあのまま時間稼ぎしてたら無事じゃいられなかった。シオンがここまでの身体強化を使えるとは思ってなかったからびっくりしたけどね。」
「ん、本当に驚いた。でもありがとう。生きてまたアルシェに会える。」
お互いの無事を喜んでいると、キューンという切ない鳴き声が聞こえてきた。
「可愛そうだけど、もうあの子は助からないね…。」
ニコルの視線の先には傷付いて倒れた狼と、その傷を舐めて癒やそうとする他よりも大きな狼がいた。
「あの大きい狼は魔獣だよな?あの子は討伐するのか?」
「いや、討伐依頼も出てないだろうし、襲って来るわけでもないからこのまま様子を見てそっとしておこう。」
よく見ると魔獣の狼も傷だらけだし、口元と傷には黒い靄が見える。
これは放って置いて大丈夫なのだろうか…。
いや、討伐対象でなければ治癒させても許されるだろう。
それに黒い靄に気が付いているのは俺だけだ。
さっきラーナが言っていた浄化魔法が使えれば助けられる。
ゆっくりと倒れた狼に近づいていくが、当然ながら大きな狼に威嚇された。
もしかしたら魔獣になった狼は、元の狼よりも身体能力だけでなく知能も高くなっているかもしれない。
言葉が通じなかったときのために、声に魔力を乗せて俺の気持ちを伝えてみる。
「今ならこの子を助けられるかもしれない。傷つけたりしないからそっちに行っても良いか?」
目を逸らさずに訴えかけると、視線は厳しいままだが唸るのはやめてくれた。
倒れた狼の側で膝をつき、《ヒール》をかけたが傷は治らなかった。
まるで黒い靄が邪魔をしているようだ。
早く苦しみから解放してやりたくて治癒を優先させたけれど、瘴気を祓う方が先みたいだ。
黒い靄が晴れるように、瘴気が祓われるように。
そう願って魔法を発動する。
「《浄化》」
どうやら上手くいったようだ。
黒い靄は霧散している。
続けて《ヒール》をかけると、倒れた狼の鼓動と呼吸が力強くなった。
次に魔獣の狼…もう魔狼でいいだろう、にも同じように魔法をかける。
いきなり魔法をかけたせいで魔狼には毛を逆立てられたが、何をされたか理解すると元に戻った。
「ごめん」と謝ると、「仕方ないな」というように鼻を鳴らされてしまった。
まだふらついているが、倒れていた狼が立ち上がると魔狼が森へと歩いて行く。
助けられて良かった…と、ほっとしていると魔狼の歩みが止まった。
俺をじっと見て少し進んでは止まり、また俺を見つめてくる。
付いて来いってこと……だよな?
ニコルに視線を送ると肯いてくれたので、魔狼の後ろに続く。
彼女はここに残り、ラーナが離れて付いてきてくれるようだ。
しばらく歩くと同じように傷付いた狼と猿がいた。
なるほど、魔狼は俺にこの子たちも治療させようとしているらしい。
傷を負っている狼に、魔狼が鼻先をくっつけた後でこちらを見た。
静かに近寄って膝をつき、瘴気を浄化してから傷を癒やすと、魔狼は猿たちを見ていた。
猿たちは手負の仲間たちのペースに合わせてか、ゆっくりと離れて行く。
一昨日、農場から追い払った猿たちだろうから、俺から逃げるのは当たり前だ。
それでも…できることなら瘴気だけでも祓ってやりたかった。
「了解。急いで、シオン。」
覚悟を決めた悲壮な面持ちで二人が叫んだ。
弱者を護ろうとする行動は、ハンターとしても人としても誇れることだと思う。
しかしここは譲れない。
「二人ともありがとう。だが化物は俺に任せて避難してくれ。」
「何言ってんだい!あたしらの攻撃なんか通じない相手だよ!あんたはギルマスが来るまで生き残れ!」
「ここには浄化魔法の使い手も魔道具もない。瘴気に当てられたら助からない。だから早く。」
ジリジリと二体の化物が迫って来ても、俺を逃がそうとしてくれる。
本当に素晴らしい講師たちだ。
「俺は大丈夫。信じられないだろうが、メルヴィンは俺なら化物を狩れると思ってる。メルヴィンが言うなら間違いないだろ?」
「それは…。」
「メルヴィン・アレナドを信じてくれ。」
俺はメルヴィンを信じてる。
きっとジェイデンも同じように思ってくれている。
絶対に二人の期待は裏切らない。
「……わかった。でも何かあったときのために、ここにいる。」
「ありがとう、ラーナ。ニコルもいいな?」
「分かった。そのかわりムチャすんじゃないよ!」
化物に接近しながら剣を抜き、身体強化を発動する。
人間が相手じゃないから加減は必要ない。
ひたすら集中して気力と魔力を高めていくと、俺が放電しているかのようにバチバチと音がして小さな光が弾ける。
魔力の波動を感じるのか、化物たちが駆けてくる。
それに合わせてこちらも走りだす。
俺の肉を噛み千切ろうと跳躍する狼の化物の頭部を斬り上げて刎ねる。
その勢いのまま、後ろに隠れて襲いかかろうとしていた猿の化物を袈裟斬りにした。
二体の化物は崩折れて動かなくなった。
それを確認してから自分の身体と剣を見分するが、特に異常はない。
剣には血糊も付いていなかったので鞘に収め、化物に向き直って手を合わせる。
この世界の死生観は知らないが、化物たちの冥福を祈った。
「……ウソだろう?こんなにあっさり化物を倒しちまうなんて。」
「見てたけど信じられない。」
声の主を振り返ると、二人揃って呆然としていた。
「ニコル、ラーナ、メルヴィンを信じて俺に任せてくれてありがとう。」
「いや、礼を言うのはこっちだ。本当に助かったよ。あたしらがあのまま時間稼ぎしてたら無事じゃいられなかった。シオンがここまでの身体強化を使えるとは思ってなかったからびっくりしたけどね。」
「ん、本当に驚いた。でもありがとう。生きてまたアルシェに会える。」
お互いの無事を喜んでいると、キューンという切ない鳴き声が聞こえてきた。
「可愛そうだけど、もうあの子は助からないね…。」
ニコルの視線の先には傷付いて倒れた狼と、その傷を舐めて癒やそうとする他よりも大きな狼がいた。
「あの大きい狼は魔獣だよな?あの子は討伐するのか?」
「いや、討伐依頼も出てないだろうし、襲って来るわけでもないからこのまま様子を見てそっとしておこう。」
よく見ると魔獣の狼も傷だらけだし、口元と傷には黒い靄が見える。
これは放って置いて大丈夫なのだろうか…。
いや、討伐対象でなければ治癒させても許されるだろう。
それに黒い靄に気が付いているのは俺だけだ。
さっきラーナが言っていた浄化魔法が使えれば助けられる。
ゆっくりと倒れた狼に近づいていくが、当然ながら大きな狼に威嚇された。
もしかしたら魔獣になった狼は、元の狼よりも身体能力だけでなく知能も高くなっているかもしれない。
言葉が通じなかったときのために、声に魔力を乗せて俺の気持ちを伝えてみる。
「今ならこの子を助けられるかもしれない。傷つけたりしないからそっちに行っても良いか?」
目を逸らさずに訴えかけると、視線は厳しいままだが唸るのはやめてくれた。
倒れた狼の側で膝をつき、《ヒール》をかけたが傷は治らなかった。
まるで黒い靄が邪魔をしているようだ。
早く苦しみから解放してやりたくて治癒を優先させたけれど、瘴気を祓う方が先みたいだ。
黒い靄が晴れるように、瘴気が祓われるように。
そう願って魔法を発動する。
「《浄化》」
どうやら上手くいったようだ。
黒い靄は霧散している。
続けて《ヒール》をかけると、倒れた狼の鼓動と呼吸が力強くなった。
次に魔獣の狼…もう魔狼でいいだろう、にも同じように魔法をかける。
いきなり魔法をかけたせいで魔狼には毛を逆立てられたが、何をされたか理解すると元に戻った。
「ごめん」と謝ると、「仕方ないな」というように鼻を鳴らされてしまった。
まだふらついているが、倒れていた狼が立ち上がると魔狼が森へと歩いて行く。
助けられて良かった…と、ほっとしていると魔狼の歩みが止まった。
俺をじっと見て少し進んでは止まり、また俺を見つめてくる。
付いて来いってこと……だよな?
ニコルに視線を送ると肯いてくれたので、魔狼の後ろに続く。
彼女はここに残り、ラーナが離れて付いてきてくれるようだ。
しばらく歩くと同じように傷付いた狼と猿がいた。
なるほど、魔狼は俺にこの子たちも治療させようとしているらしい。
傷を負っている狼に、魔狼が鼻先をくっつけた後でこちらを見た。
静かに近寄って膝をつき、瘴気を浄化してから傷を癒やすと、魔狼は猿たちを見ていた。
猿たちは手負の仲間たちのペースに合わせてか、ゆっくりと離れて行く。
一昨日、農場から追い払った猿たちだろうから、俺から逃げるのは当たり前だ。
それでも…できることなら瘴気だけでも祓ってやりたかった。
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