上 下
131 / 170
5章 風呂とかき氷と甘々の目撃者たち

26

しおりを挟む
「メルヴィンったら。……青春ねぇ。わたしもあなたの事を言えないのだけれど。」

「お前はどうした?」

「シオンに届いたお手紙にヤキモチ焼いちゃったわ。こう…モヤモヤして苦しかったけど、デートに誘ってもらえたから今は幸せよ。ね?」

「うん。雑貨屋さんまでだけどデートしようって。メルヴィンも一緒に行こうな。」

「おう。……オッサンのくせに面倒くさくて悪いな、シオン。」

ジェイデンも同じような事を言っていたな。
本当にこのくらい何てことないのに。

「俺はな、メルヴィン、あんたのその俺限定で余裕をなくすところが可愛くて仕方ない。俺のことで心を乱してくれてうれしい。オッサンとか年の差なんてどうでもいいくらいメルヴィンが好きだよ。それを忘れないでくれ。」

年の差はどうにもならないし、気にするなとも言いにくい。
だけどそれで俺の気持ちが冷めるワケじゃない。

「………………ぉぅ。」

返事はくれたが机に突っ伏して撃沈してしまった。

「さあシオン、食事が冷めてしまうわ!メルヴィンはそっとしておいて、わたしたちは先にいただきましょう。」

「うん。それとさっきのジェイデンも格好良かったよ。従業員のみんなと良い関係を築いているんだって見てて分かったし、やっぱり『アンジェラ』も慕われてて嬉しくなった。」

一瞬だが目を見開いて、次に微笑んだジェイデンの瞳は潤んでいたから、それが雫になって零れないように手を伸ばしてそっと拭った。

ぽつりぽつりと言葉を交わす静かな食事だが心地良い。
さっきカトラリーを磨いていたときもそうだったが、同じ時間を共有するだけでも満たされる。
こういうことも積み重ねて行きたいと思った。




◇◇◇◇◇

「いいかお前ら!料理の追加も酒の追加もアリだ。だが残すのはナシだ!食いきれなかったら持ち帰るなりして食料をムダにすんなよ。分かったか!」

「「「「了解っ!」」」」

復活したメルヴィンとスッキリした顔のハンターたちのやり取りから始まったバイキングは2時間もしないうちに終わった。
大皿に並んだ料理と樽酒を前にして、最初から飛ばして飲食したハンターたちの胃袋が早々に膨れてしまったからだ。

「いやー、あっという間に終わったな。予想以上に楽だったし。」

「そうね…これならもっと早く備品を揃えればよかったわ。」

そんな事を話すハンクさんとジェイデンの横に果実酒を並べていく。
今回は柘榴と桃だ。

「ハンクさん、これみんなで飲んでくれ。」

実験してみると、マジックバッグの中に直接何かを作り出すことはできなかったが、空間収納だと可能だった。
さらに空間収納からマジックバッグへの移動もできた。
ワンクッション置くことになるが、これで物を作るときの偽装が楽になった。
今夜使われた大皿と果実酒はこうやって作った物だ。

「おお!ありがとな。皿も助かったぜ。」

折角作ったから、簡単に壊れないように大皿にはこっそり硬化も付与しておいた。

「本当にね。それでお皿と付与の代金だけど、おいくらかしら?」

「え?」

「あなたが善意でしてくれたことは分かってるのよ?代金も要らないって思ってくれてるのでしょうけど、わたしたちは商売をしているのだから、こういうことはキッチリしたいの。お願いよ。」

こう言われるとジェイデンの申し出を断るのは難しいし、お願いされたら仕方ない。

「………分かった。でも申し訳ないが俺はこういう物の相場を知らないから値付けができない。ジェイデンに任せても良いかな?」

俺には皿の相場も付与の相場も分からないが、ジェイデンは貴族だったからある程度知っているかもしれない。
俺の感覚だと皿は大きいから5千円くらいで、付与は1万円、合計1万5千円ってトコだけど。
何より適当な金額を言ったらバレたときに怒られそうだ。

「それなら心配いらないわ。フェイトちゃんに教えてもらえばいいのよ。」

「すぐそこにその道のプロが居たな。じゃあフェイトが付けた値段の……そうだな………半額くらいで頼む。俺の善意でしたと言ってくれたし、それなら値引きしても良いだろ?」

「シオンたら…。分かったわ、その代わり何か欲しい物とかおねだりしてちょうだいね。」

「うーん、……じゃあまたジェイデンの手料理が食べたい。メルヴィンもチーズ削ってくれるかな…。」

「ええ、きっと気合を入れてやってくれるわ!」

ジェイデンの手料理にご機嫌になっていると、メルヴィンが少し拗ねたように口を挟んでくる。

「一応言っとくが、オレだってチーズ削るだけじゃなくて野営メシくらいなら作れるぞ。」

「えっ!?この前は「チーズ削っただけ」って言ってたから料理はできないのかと思ってた。」

「ふふっ。お野菜を切るのも意外と上手だし、できあがったスープなんかは素朴な味だけど美味しいのよね…。ただ、家で食べるには量が多いのが玉にキズなの。」

料理できるだけじゃなくて美味いのか!
メルヴィンの作ったスープも是非とも食べてみたい。
量が多いってことは漢メシって感じなのだろうか?

「そこは大目に見てくれ。なんたって野営メシだからな。」

「じゃあ今度何かのご褒美に作ってくれるか?」

「そのくらい構わねえよ。ただ、もし失敗しても残さず全部食えよ。」

「もちろん!俺のために作ってくれるなんて嬉しいし、すごく楽しみだ!二人ともありがとう。」

ジェイデンの手料理は確定だし、メルヴィンの野営メシを食べられるように頑張ろう。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

【完結】別れ……ますよね?

325号室の住人
BL
☆全3話、完結済 僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。 ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

愛され末っ子

西条ネア
BL
本サイトでの感想欄は感想のみでお願いします。全ての感想に返答します。 リクエストはTwitter(@NeaSaijou)にて受付中です。また、小説のストーリーに関するアンケートもTwitterにて行います。 (お知らせは本編で行います。) ******** 上園琉架(うえぞの るか)四男 理斗の双子の弟 虚弱 前髪は後々左に流し始めます。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い赤みたいなのアースアイ 後々髪の毛を肩口くらいまで伸ばしてゆるく結びます。アレルギー多め。その他の設定は各話で出てきます! 上園理斗(うえぞの りと)三男 琉架の双子の兄 琉架が心配 琉架第一&大好き 前髪は後々右に流します。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い緑みたいなアースアイ 髪型はずっと短いままです。 琉架の元気もお母さんのお腹の中で取っちゃった、、、 上園静矢 (うえぞの せいや)長男 普通にサラッとイケメン。なんでもできちゃうマン。でも弟(特に琉架)絡むと残念。弟達溺愛。深い青色の瞳。髪の毛の色はご想像にお任せします。 上園竜葵(うえぞの りゅうき)次男 ツンデレみたいな、考えと行動が一致しないマン。でも弟達大好きで奮闘して玉砕する。弟達傷つけられたら、、、 深い青色の瞳。兄貴(静矢)と一個差 ケンカ強い でも勉強できる。料理は壊滅的 上園理玖斗(うえぞの りくと)父 息子達大好き 藍羅(あいら・妻)も愛してる 家族傷つけるやつ許さんマジ 琉架の身体が弱すぎて心配 深い緑の瞳。普通にイケメン 上園藍羅(うえぞの あいら) 母 子供達、夫大好き 母は強し、の具現化版 美人さん 息子達(特に琉架)傷つけるやつ許さんマジ。 てか普通に上園家の皆さんは顔面偏差値馬鹿高いです。 (特に琉架)の部分は家族の中で順列ができているわけではなく、特に琉架になる場面が多いという意味です。 琉架の従者 遼(はる)琉架の10歳上 理斗の従者 蘭(らん)理斗の10歳上 その他の従者は後々出します。 虚弱体質な末っ子・琉架が家族からの寵愛、溺愛を受ける物語です。 前半、BL要素少なめです。 この作品は作者の前作と違い毎日更新(予定)です。 できないな、と悟ったらこの文は消します。 ※琉架はある一定の時期から体の成長(精神も若干)がなくなる設定です。詳しくはその時に補足します。 皆様にとって最高の作品になりますように。 ※作者の近況状況欄は要チェックです! 西条ネア

主人公の兄になったなんて知らない

さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を レインは知らない自分が神に愛されている事を 表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

処理中です...