ダメな方の異世界召喚された俺は、それでも風呂と伴侶を愛してる

おりく

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5章 風呂とかき氷と甘々の目撃者たち

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「おかえり、メルヴィン。何ていうか…萎れてるけど大丈夫か?」

「おう、ただいま…ちゅー。」

それでもキスはしてくれるらしい。

「おかえりなさい。どうしたの?」

「あー…このリストに載ってる奴らな、オレの奢りの客なんだ。これから来るんだがどうにかなるか?」

ジェイデンにリストを渡しながらメルヴィンがため息を吐く。

「20人くらいなら酒場の半分を予約席にしたら大丈夫よ。それで良いかしら?」

「ああ、急で悪いが頼む。迷惑をかけるスタッフには今度何か差し入れするか。」

「分かったわ。料理長!聞こえてたかしら?みんな準備してちょうだいね。今日は忙しくなりそうだし、交代で早めに賄いを食べましょう。良いわね?」

「「「はい!」」」

ジェイデンの号令で従業員たちが一斉に動き出す。
そんな中ハンクさんから声がかかった。

「オーナー!三人の夕食はあと10分もあればできるぞ。」

「ありがとう、こっちで頂くわ。それでメルヴィン、どうしてそんなに奢ることになったの?」

「それな……。」

そう言って俺がギルドを出た後のことを教えてくれた。
………俺のせいでもあるのか。
「アレナド兄弟のもの」になって、ナンパ目的で声をかけられることがなかったせいか、あのときは自分の容姿の破壊力をすっかり忘れていた。
何か負担を軽減できる案を出さなければ!

「そうなの…じゃあ仕方ないわ。これから娼館でスッキリしたお客さんがたくさん来るのね。溜まって苛ついてるお客さんよりずっと良いわ。」

身も蓋もない言い方が飲食店のオーナーって感じだ。
ジェイデンもこういうことを言うのか…と少し意外だが。

「半分くらいしか来ねえと思ったらあいつら全員参加だ。ちったあ遠慮しろってんだ。」

「ここの料理は美味いから仕方ない。なあジェイデン、バイキングとかビュッフェ形式にして、盛り付けと給仕の手間を省けないかな?」

「うーん…それだとお料理が冷めてしまうのよね…。なるべく温かい物を食べてもらいたいわ。それにバイキングは想定していないから、大きなお皿やトングなんかも足りないの。」

「それは俺が何とかするよ。………こういうのはどう?」

端に金の模様が入った白い楕円の大皿をサッと作って、マジックバッグから取り出すフリをする。
いちいち偽装するのも面倒だし、マジックバッグや空間収納の中に直接作れないものか。

「これに保温を付与をしたらどうかな?もちろん付与は俺がする。半分は俺のせいだし。」

「俺のせいって…。ここは飲食店なのだからお客さんがたくさん来てくれるのはありがたい事なのよ。もっと忙しい日もあるし。でも折角だからシオンの厚意に甘えるわね。」

「オーナーの言う通りだぞシオン。このくらいよくある事だし、気になるならまた果実酒でも差し入れてくれ。それにそういう皿があればそんなに手間は増えねえし、次に大勢の客を迎えることがあっても今までよりずっと楽に対応できる。」

俺たちの夕食を運んできてくれたハンクさんが慰めてくれた。

「ちなみに皿は何枚くらい必要かな?」

「今日は15枚もあれば足りるだろうが、今後を考えると30枚くらいあると助かる。」

「分かった、すぐに用意するから。」

ついでにマジックバッグの中に大皿を作れないか試そう。

「すぐにって……お前のマジックバッグの中身が謎過ぎる…。だが一気に付与なんかして大丈夫か?皿はメシが終わってからで間に合うし、ムリはすんなよ。」

「うん。差し入れの果実酒だけど何が良いかな?」

「んー……昨日と違うのにしてくれ。いろいろ飲みたい。」

「分かった、楽しみにしててくれ。」

昨日はりんごと梅だったからそれ以外か。

「おう、冷めないうちに食えよ。」

厨房に戻るハンクさんの背中を見送るとメルヴィンが微妙な表情をしていた。

「お前さん、いつの間にハンクと仲良くなったんだ?」

「ん?昨日かな。それがどうかしたか?」

「………何となくだ、気にすんな。」

はっきりしない物言いはメルヴィンらしくなくて余計に気になる。

「料理長にヤキモチ?彼なら大丈夫よ。あなただって分かってるでしょう?」

「なっ!んなワケ「ないの?」……………ある………かもしれん。」

「ふふっ、素直が一番よ、メルヴィン。」

メルヴィンがハンクさんにヤキモチなんて意外だ。
妬かれるような話しもしてないし、理由が分からない。

「ハンクさんは俺たちのことを応援するって約束してくれたんだ。」

今朝のハンクさんとの会話の内容を教えると、メルヴィンは両手で顔を覆ってしまった。

「自分の度量の狭さが嫌になるな。」

「何でそんなふうに思ったの?」

ジェイデンのツッコミは俺も気になることだ。

「だってハンクもイイ身体してるじゃねえか。デカいフライパン振ってる前腕が格好良いとか言い出しそうじゃねえ?それに良く気が付くし………オレより若えし。」

俺の惚れる基準は筋肉じゃないぞ、メルヴィン!
羨ましいとは思うけども。

「確かにハンクさんの前腕は格好良いと思う。重たいフードキャリーもひょいっと持ってるし。」

「ほら見ろ!」

「だからって惚れてない。メルヴィンは俺を何だと思ってるんだ。確かに逞しい人には憧れるし、あんたの身体はどこもかしこも格好良いから好きだけど、中身だって愛してる。まだわからないのか?」

「お前さんの気持ちは疑ってねえ。…………疑ってねえのに不安になるんだ。恋ってのはこんなにも心が揺れるもんなのかよ…知らなかったぜ。」

耳まで真っ赤にして言うことがそれか!
どこまで可愛いんだ、メルヴィン。
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